2015年07月12日

原作利用権終了のお知らせ

原作利用権終了のお知らせ

 いつも当ブログをご覧いただきありがとうございます。

 この度、これまで提供する作品につけていた「原作利用権」を終了する事になりましたのでお知らせいたします。

 世の中には絵、写真、音楽、効果音など作品作りの素材が有料無料でたくさん提供されています。しかし作品作りの元となる原作の提供はほとんど無いようなので、小説という形で作品として楽しめながら他のメディアの原作としても利用出来る原作利用権付作品の提供を行ってきました。

 しかし現在の所ブログのアクセス数やダウンロードサイトで販売している作品のダウンロード数などを見ても、原作の提供どころかそもそも多くの人に見てもらう事が出来ていません。

 数年続けてきて、これ以上同じ事をしていても駄目だという結論に達しました。

 やはり小説を書く以上、多くの人に読んでもらいたい、楽しんでもらいたいという気持ちが一番です。自分のブログに作品を掲載していても、そのブログ自体をあまり見てもらえていない状態のまま続けるよりは、多くの人に作品を見てもらう新しい努力をしなければなりません。

 そこで当初は予定していませんでしたが、現在はブログに掲載している小説のいくつかを小説賞に投稿しています。今の所全部落選ばかりでまだまだ道のりは長そうですが、やはり小説は出版されない事には読んでもらえないようなので諦めずに執筆と投稿を続けたいと思います。

 小説賞に応募した作品がもしも賞を取って出版される場合は、出版権その他の権利が出版社に移ります。そのため、落選している今現在は関係無いのですが一応公開作品に付随している原作利用権を終了する事にしました。

 ただ、ダウンロード販売サイトで販売している作品については、それらを小説賞への投稿に使う予定は無い事、作品数が多く修正差し替え作業が膨大である事、そして内容自体の変更が無いのに作品差し替えをしても原作利用権を利用されていない現状では意味が無い事から、特に作品の修正差し替えは行いません。

 世の中に手軽に利用可能な原作を提供するという試みは失敗に終わりましたが、代わりに数年間小説を書き続けてきて、自分の作品を出版してもらう事で多くの人に読んでもらうという新しい目標が出来ました。

 またいずれ考えや気持ち、活動などが変化するかもしれませんが、失敗や変化を恐れずこれからも精進したいと思います。見守っていてくだされば幸いです。


2015年7月12日 二角レンチ

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2015年05月29日

ドルイド少女ワンカナ(66)祝福

ドルイド少女ワンカナ(66)祝福

 アキハイトたちが魔王を討ち倒した。世界中に散り人間を殺し食らい暴れていた、神レベルの魔物の群は魔王の命令が解けて、思い思いに自分の元いた住処を目指して好き勝手に移動を始めた。

 人間をたらふく食らって満腹の魔物たちは、その移動の間ずっと人間に見向きもしなかった。だから魔術師たちも魔物を攻撃せずにやり過ごした。

 魔物が去り脅威は去った。魔物の軍勢が散った事で魔王が倒された事を知った人々は、生き残った事以上に人類の勝利を祝いパラディンたちの偉業を称えた。

 すぐに魔術師たちの救出隊が編成され出動した。魔術により大きく抉れた決戦の地は見るも無惨だった。あちこちに大量の肉片や血が落ちて凄まじい光景だった。殺されたドラゴンの首だけではない。わずかに人間の肉片も残っている。ブレスで跡形も無く死んだ者も多く、ドラゴンの牙で食い殺された者はわずかに落ちた腕などの切れ端を残すのみ。五体満足な死体はまったく無かった。

 生きていたのはわずかに三人。パラディンのアキハイト、そのパーティのドルイドのワンカナ。そしてパラディンのバンドールのパーティにいたメイジのレイズだけだった。

 他に生存者は発見出来ず、まともな死体すら見つからなかった。生死不明だがアキハイトたちの報告では魔王に殺されており、いくら待っても帰ってはこなかった。やがてその生存は諦められた。

 救出隊の魔術師たちに治癒魔術をかけられたアキハイトたちは、傷は癒えたが限界以上の魔術を行使したせいかしばらく動けなかった。彼らが回復するまで数日を待って、英雄たちの勝利を祝う祝典が開催された。

 現在世界一の大国であるヨードル国。アキハイトたちはその城のバルコニーで、城下に集まる世界中の重鎮やその外に群がる多くの人々の祝福を受け、手を振って応えていた。

「パラディン様ばんざーい! アキハイト様ばんざーい!」

「ワンカナ様ばんざーい! レイズ様ばんざーい!」

「ありがとう、世界を救ってくれてー!」

「あなたたちのおかげで世界は、みんな救われました。本当に、ありがとうございましたあああああっ」

 魔物の軍勢に襲われ世界中の人々の大半が殺された。魔物は鋭い嗅覚でどこに隠れている人間でも見つけ出し、魔王の命令に従い腹が膨れようとも食い殺し続けた。

 もう人間たちはかつての半分もいない。正確にはわかっていないがおそらく四分の一ほどしか生き残っていないと推測された。

 それでも残った人々は感謝した。大事な人たちを救ってくれなかった恨みではなく、自分たちだけでも助けてくれた事に心底感謝した。パラディンたちがもっと頑張ってくれれば被害はもっと少なかったのにとののしる輩はごく少数だった。

 いつもむすっとしているアキハイトも笑顔で手を振っている。とてもさわやかな笑顔だ。城下に群がる若い女たちが美しい顔立ちの彼に見とれきゃーきゃー騒いでいる。

 ワンカナはそれを聞いても動じない。今はもうアキハイトと相思相愛。好きだとはっきり言ってもらえた。もう恋人だ。

 でも、それも今日で終わり。今日アキハイトはこの大国の姫ウルマを授かる。ワンカナとはお別れだ。

(アキハイトは任せろとか言っていたけど、どうしようもないもんね。いいんだ。アキハイトが幸せになってくれればそれでいいもん)

 ワンカナは半ば諦め半ばすねていた。初恋は実らないってベイドが意地悪で言っていたけど本当だったとワンカナは思った。

(いいもん。アキハイトよりいい男を見つけて幸せになるもん。アキハイトの馬鹿。僕の事なんか忘れてお姫様と幸せになっちゃえばいいんだ)

 アキハイトはまだ二十代で、若く格好いい。他のパラディンは熟練していて年上だったので三十代はおろか四十代までいた。結婚するならアキハイトだ。ワンカナたちの後ろで控えている若く美しい王女ウルマはうっとりと頬を赤らめアキハイトを見つめていた。

 国王に促され、アキハイトが城のバルコニーの前に出る。世界を救った英雄として勇者の称号とメダル、そして姫を授かる儀式が始まる。まずはアキハイトが集まる観衆に演説をする。

 アキハイトは声を張り上げる。左右に控える魔術師の魔術によりその声は遠くまで届く。はるか向こうまで町を埋め尽くすほど大勢いる人々全員に届いた。

「俺たちは魔王を討ち滅ぼした。それは生き残った俺たち三人だけの力ではない。勇敢に戦い散った他のパラディンとそのパーティ、仲間全員の犠牲の上に成し遂げた勝利だ。俺たち三人だけではない。亡くなった仲間たちみんなを称えてくれ」

 人々は歓声を上げ、次々と戦い亡くなった魔術師たちの名前を叫ぶ。

 その称える声が終わるのを待ち、アキハイトは言葉を続ける。

「みんなありがとう。俺たちを、亡くなった仲間たちを称えてくれて。俺たちも、天国のみんなも喜んでいる」

 アキハイトは天を仰いで胸の前に拳を添え、目を瞑りしんみりとする。みんなもそれに倣って目を瞑り、亡くなった英雄たちに黙祷を捧げた。

「さて」

 アキハイトが目を開け口を開く。みんなも目を開いてアキハイトに注目する。

「魔王を倒すという偉業を果たしたパラディンの中から一人が、勇者の称号を授かり歴代の勇者に名を連ねる。勇者の称号とメダルを授かり、それと共に世界一の大国の姫を授かる」

 バルコニーの後ろで聞いているウルマ姫が顔を真っ赤にしてもじもじする。格好良く強い世界一の魔術師アキハイトは夫として申し分ない。国のため自由な恋を許されていないウルマは、パラディン五人の肖像画を見て以来ずっと、不謹慎だがアキハイトだけが生き残ればいいと願い恋をしていた。その願いがかなってとてもうれしそうだった。

「この式典にこれほど大勢集まってくれてありがとう。感謝に絶えない。俺はパラディンとしてその努めを果たさねばならない。みんなの期待に応えねばならない」

 やっぱりそうじゃないか。アキハイトの馬鹿。ワンカナは心のどこかでアキハイトがこの義務を放棄してくれると期待していた。でもアキハイトはパラディンだ。与えられた義務を自分勝手に放棄する事などあり得ない。

 みんな勇者の誕生と、大国の姫と勇者の結婚を祝い早くもお祝いの言葉を叫んで盛り上がる。

「だが」

 神妙な顔をしていたアキハイトが、突然いたずらっぽい笑顔を見せた。ワンカナは初めて見るその顔にドキリとした。

「みんなすまない。実は俺はもう、パラディンではないのだ。だからパラディンの義務を果たせないしその資格も無い」

 突然何を言っているのだ。みんな困惑しざわめく。ワンカナもわけがわからず目を丸くする。

 後ろにいて笑顔で演説を聞いていたこのヨードル国の国王が前に出ようとする。しかしそれより早く、その横にいたウルマ姫が駆け出しアキハイトの腕にしがみつく。

「アキハイト様。何をおっしゃられるのですか。あなたは魔王を倒した立派なパラディンです。世界一の英雄、勇者の称号にふさわしい偉業を果たしました。そして、そして、私の夫になるべきお方です」

 アキハイトはにっこり笑いながらウルマ姫の肩に空いている手をかけ、腕にしがみつく彼女をぐいっと引き離す。

「ウルマ姫。申し訳ありません。俺はあなたとは結婚出来ません。パラディンではなくなりました。勇者の称号も、あなたを授かる資格も失う大罪を犯しました」

「そのような事。あなたが為したのは偉業です。あなたに罪などありません」

 アキハイトはウルマをわきに押しやり城下の人々の方を向くと、大声で訴える。

「俺は神に仕えるパラディンにあるまじき不敬を働いた。魔王との戦いの最後の最後、俺は神に一度だけの奇蹟を願った。懇願した。しかし神は奇蹟を授けてはくださらなかった。神は俺を、パラディンを、人間を見放し見捨て死ぬに任せたのだ」

 アキハイトは怒りと共に握りしめた拳を振るう。誰もがその迫力に圧倒され何も言えなかった。

「俺は神が奇蹟を授けてくれないから、自分で奇蹟を起こした。消耗し切った身体でなお強力な魔術を放って魔王にとどめを刺したのだ」

 みんなどよめく。消耗し切ってなお魔術を放つなどあり得ない。魔王にとどめを刺すほどの一撃など、残る力を絞り出しても不可能な、まさに奇蹟だった。

 アキハイトは知らない。神は寛大にして慈悲深い。誰よりも神に仕え奉仕するパラディンの功に報いるだけの慈悲を持ち合わせている。

 パラディン魔術の深淵、神の奇跡。パラディンが神の加護を離れ一人の人間として旅立つ決意をした時、それまでの労に報いて奇跡を授ける。パラディンの力全てと引き換えにただ一度だけ、消耗し切っていようとすでに放った単発式の魔術であろうとどんなパラディン魔術でも行使出来るのだ。

 神は不敬すらお許しになられるほど寛大。アキハイトはそれを知らず、神に対する怒りを込めて続ける。

「神などいない! 神の奇蹟など無い! いるのは人間、そして魔物だ。奇蹟を起こすのは神ではない。人間だ。忘れるな。人間は奇蹟を起こせる。神にすがり祈らなくとも、自分たちの力だけで未来を切り開けるのだ!」

 そんな馬鹿な。何を言っているのだ。アキハイトは魔王との戦いで心が壊れおかしくなってしまったのだ。

 みんなざわめく。さっきまであんなに称えていたアキハイトを非難し責める声がだんだん大きくなる。

 アキハイトはそれを黙らせるほど大きな声を張り上げる。

「黙れ! 神など信じるな。頼るな。すがるな。求めるな。人間は強い。素晴らしい。奇蹟を起こせるほど強いのだ。神ではなく人間を信じろ。自分を信じろ。きっと何とか出来る。辛くとも絶望してもどうしようも無くても、それでも奇蹟を起こして幸せを勝ち取る力が人間には、みんなあるのだ!」

 言っている事は滅茶苦茶だ。特に神やパラディンを崇める人々の動揺や怒り、嘆きは凄まじい。怒る者、なじる者、泣く者、悲しむ者。幸せな式典が一転大混乱の阿鼻叫喚と化す。

「ああっ。アキハイト様。一体どうなされたのですか。き、きっと、魔王との戦いでお疲れなのです。心も疲れ錯乱しておられるのです。大丈夫です。魔術師たちに治療させましょう。身体の傷ではなく心の傷は魔術でも癒せない。それでも私がついています。きっと治します。ですからどうか、お鎮まりください」

「ウルマ姫。申し訳ありません。あなたとは結婚出来ません。俺には好きな人がいるのです。愛する人がいるのです。結婚したいのはただ一人だけ。心に決めた人がいるのです」

「え?」

 アキハイトはウルマを押し退け、笑顔で手を差し伸べる。

「ワンカナ、来い! お前が好きだ。結婚しよう。ずっと一緒だ。一緒に幸せになろう。お前を世界一幸せにする。約束する。だから俺を、世界一幸せにしてくれ」

 ワンカナは呆然とする。とっさに動けない。でも何を言われているのかようやく理解すると、うれしさではちきれそうな笑顔になる。

「うん!」

 もっといろいろ言いたかったけど、言葉に詰まってしまった。涙があふれて前が見えない。でも前に飛び込む。アキハイトはワンカナを抱き止めてくれた。

 そのままお姫様だっこでワンカナを抱き上げると、アキハイトは城の高いバルコニーから飛び降りた。

「アキハイト。うれしい。信じていてよかったよ」

「はははっ。任せろと言っただろう。パラディンだった時は厳格でなければならなかった。でもベイドみたいに気楽で自由に生きる事にずっとあこがれていた。これからは思い切り生きるぞ。したい事をし、我慢なんてやめだ。好きでもない女と結婚なんかするものか。ウルマ姫には悪いが、俺はお前以外と結婚なんてごめんだ」

「ああ。うれしい。アキハイト大好き」

 ワンカナはアキハイトの首に抱きつき頬にキスをした。

「ところでアキハイト。パラディンやめちゃって、魔術は使えるの?」

「あっ」

 もう着地する。高いバルコニーから飛び降りたのだ。下にいた人々はもう離れて逃げてしまっていたが、魔術無しにこの高さから落下したらけがをする。下手をすれば死ぬかもしれない。体術でいなせる高さではない。

「ちょ、ちょ、待って、僕の魔術で」

「もう間に合わん。すまんワンカナ」

 アキハイトはこんな、人の期待を裏切り大ドンデン返しをしてやる企みにわくわくしていた。こんないたずら子供の頃にもした事が無い。子供みたいにはしゃいでわくわくしていたせいで、格好良くワンカナをさらって飛び降りた後の事まで考えていなかった。

 パラディン魔術を使えないアキハイトはちょっと体術が優れているだけのただの一般人だった。

 失敗した。アキハイトは泣きそうになる。やはり慣れないいたずらなど、こんな大一番で生まれて初めてやるものではない。

 もう着地する。ワンカナが魔術でどうにかするのも間に合わない。アキハイトは脚から飛び降りているがよくて骨折。下手すれば死ぬほどの重傷となってしまう。そしてこんな事をしでかした罪は重い。神に唾し国王や姫、大衆を裏切るなど。捕らえられ、おそらく死刑にされてしまう。魔王を倒した功績でもこの罪は許されない。

 それでもワンカナだけは守る。ワンカナに好きだと、結婚したいと言って受けてもらえた。もう十分幸せだ。死んでも悔いは無い。アキハイトはワンカナをぎゅっと抱きしめ最後を覚悟した。

「ソーサラー魔術、綿菓子座布団」

 灰色の霧が素早くアキハイトたちの足下に滑り込み、彼らの下になる。ふわふわの綿菓子みたいなクッションは落下の衝撃を全部吸収し、ワンカナを抱えたアキハイトはその上で跳ねてすたっと地面に降り立った。

 どうでもいいが、この魔術は食べられる。本当に綿菓子みたいな甘い味がする。ただし腹の中で消えるので腹の足しにはならない。

 アキハイトとワンカナは目を丸くする。アキハイトのそんな顔を見てもワンカナも驚きの余り笑う事が出来ない。

「な、何? あっ」

 人混みの向こうに、懐かしい顔がいた。忘れたくても忘れられない。皮肉っぽくにやにやする大男は、手をひらひら振るとさっと人混みに紛れて消えてしまった。

「べ、ベイドだ。アキハイト。ベイドが生きて」

「違う。ベイドではない」

「見間違いじゃないよ。本当に」

「髪が黒でなく灰色だっただろう。今の魔術も黒い霧でなく灰色だった。あれはベイドの姿をしているがベイドではない。彼はもういない。あれは別人だ」

「何言っているの? あれはベイドで……あっ」

 ワンカナもようやく思い至る。

 アソールドだ。人間たちにばれないよう別の姿に変わり隠れて人間として生きるって言っていた。わざわざベイドの姿に化けて、その懐かしい顔を見せ今のピンチを魔術に偽装した魔物の力で救ってくれたのだ。

「あ、あいつったら、もう人前には現れないって言っていたのに」

「俺たちがどうなるか心配してくれていたのだろう。悪意は無い。俺がちゃんと、ウルマ姫でなくワンカナを選んだのを見てもう満足したのだろう。今度こそ本当に人から離れ、一人きりで生きていくのだろうな」

「何だよ。お礼ぐらい言わせてくれたっていいのに。格好つけて何も言わずに立ち去るなんて。一人ぼっちなんてやっぱり寂しいよ。僕らのパーティに加わればいいのに」

「それ本当ですか?」

 二人ともびっくりして横を向く。たった今、ベイドの姿をしたアソールドが立ち去ったのと反対側のすぐ横に彼が笑顔で立っていた。

「あ、アソ……」

 アソールドが指を一本立てて押し付けワンカナの口を塞ぐ。

「しっ。その名前は言わないでください。ベイドでいいですよ。彼はもういませんが、彼が帰って来たみたいでうれしいでしょう」

 アキハイトのパーティの一人ベイド。しかし彼は魔王との決戦前に魔王が首に襲われラズリと共に戦死したと報じられている。よく似ているが肖像画の髪と色が違う。彼にそっくりの兄弟でもいたのだろうかと人々は騒ぎ出した。

「な、何だよ君。もうどっか行っちゃえよ。君が僕らの仲間をどれだけ殺したか忘れてないよね? 僕らはみんな、君を今でも恨んでいるんだよ」

「つれないですね。さっきはパーティに加えてくれると言ってくれたじゃないですか」

「あ、あれは、言葉の弾みじゃないか。一人きりでずっと生きるなんて寂しすぎるって、ちょっと心配してあげただけじゃないか」

「いーえ。前言撤回なんて許しません。やっぱり一人で生きていてもつまらないじゃないですか。だからあなたたちと一緒のパーティに加えて欲しくて来たんです。いやあ、よかったよかった。こんなに早く仲間に加えてくれるなんて。しつこくいつまでもつきまとうつもりだったのですが手間が省けました。いろいろあったけどお互い水に流して仲良くしましょうね」

「ば、馬鹿な事言うなよ。君なんか大嫌いだ。パーティには入れてあげないんだから」

「うふふ。それならメイジも必要じゃない?」

 ワンカナはびっくりして、アソールドと反対側を振り向いた。

 レイズが立っていた。いつの間に城のバルコニーから降りてきたのか。

「れ、レイズ」

「いいでしょ? パーティにはやっぱりメイジが必要でしょ。私もどこかのパーティに加えてもらわなくちゃならないし。どうせならあなたたちと一緒がいいわ」

「で、でも」

 アキハイトが笑う。

「ふふふっ。いいぞ。ちょうどメイジとソーサラーを募集していた所だ」

「あ、アキハイトお……レイズはいいよ。大歓迎。でもアソ、いやベイドは駄目だよ」

「いいじゃないですかワンカナ。私はあなたたちが大好きです。一緒にいるときっと楽しい、あんなに死闘を繰り広げた仲じゃないですか」

「無理だって。恨んでいる者同士、一緒にいたらきっと我慢出来なくなっちゃうよ」

「その時はまた戦いましょう。思い切り。いやあ、楽しみですよ。今度こそあの樹木の巨人を倒して私が勝ちます」

「ふん。俺も今度こそ貴様にとどめを刺してくれる」

「あららら。怖いですね。でもアキハイト。あなたは今魔術を使えないただの一般人でしょう? どうやって私と戦うんですか?」

「ぐっ……」

「うふふっ。また一から魔術師の修行を積めばいいじゃない。鍛えてあげるわ。アキハイトは何の魔術師がいいの?}

「そうだな」

 四人がのんきに話していると、遠巻きに見ている群衆をかき分け城の衛兵たちがやって来た。

 全員魔術師だ。手を構えたり魔術武装を掲げたりして威嚇してくる。取り囲まれた。

「あらら大変。囲まれちゃったわ」

「どうするのアキハイト」

「俺は魔術を使えんしな。ワンカナをいつまでも抱きしめていたい」

「も、もうアキハイトったら。うれしいけど、そんな場合じゃ」

「ふふふ。任せてくださいよ。パーティに加えてもらうお礼に、私が蹴散らしてあげます」

「僕は認めないったらあ」

「私も腕を振るうわよ。さあかかってらっしゃい。魔王を倒した最強のパーティ、世界最強のメイジ魔術を食らいたいのは誰かしら?」

 衛兵たちはたじろぐ。彼らは強力な魔術師ではあるが、それでもパラディンのパーティは別格過ぎる。とてもではないが戦えるレベルではない。

 みんな恐れ後ずさる。アキハイトはワンカナを抱き上げたまま、その後ろの左右にはアソールドとレイズがついている。

 一行は走る。衛兵も人々も恐れおののき道を開ける。人の群がどんどん割れて、大きな道を開く。

「うふふっ。まるで結婚式のパレードみたい。みんな道の端で祝福してくれているわ」

 レイズの言う通りだった。人々はアキハイトたちを恐れていたが、それは半数程度にしか過ぎない。残りはみんな、アキハイトほどの男前が好きな女に結婚を申し出て連れ去るこのシチュエーションを祝福し、若い女性たちなどきゃーきゃー喜んでいる。

「あ、あれ? もっとみんな怒っているかと思ったけど」

「本気では怒っていないさ。心配するな。大事な式典を滅茶苦茶にし、パラディンにあるまじき不敬を働いた。俺たちは大罪人だ。でもみんな本気で俺たちを責めてはいない。俺たちの結婚をこんなに大勢の人々が祝福してくれているぞワンカナ」

「け、結婚」

「今日は俺たちの結婚祝いだ。おおっぴらには出来んが、逃れて落ち着いた場所でささやかな祝言を上げよう。明日までとか待ち切れない。今日結婚式を挙げるぞ」

「あ、アキハイト、僕」

「嫌か?」

 ワンカナは必死に首を左右に振る。

「う、うれしいよアキハイト。でも恥ずかしいよ。下ろして」

「駄目だ。みんな道を開けて俺たちの結婚の門出を祝ってくれているんだぞ。女の子はこういうお姫様だっこに憧れるんだってな。ほら、若い女の子たちなんかみんな、お前をうらやましがっているぞ」

 ワンカナは左右を見る。人々はだんだん笑顔が増え手を振ってくれている。二人の結婚を祝ってくれている。怒っている人も難しい顔で黙ったり、しぶしぶ拍手をしたりしてくれている。

「わあ。みんな、こんな滅茶苦茶した僕らを、それでも祝ってくれているんだ」

「俺は世界一の花嫁を自慢したかったんだ。みんなに見せつけたかった。だからこの時こうする計画を企んでいたんだ」

「計画がずさんだったけどね。着地の事まで考えてよもう」

「はははっ。すまん。格好良くお嫁様を連れ去る事ばかり考えて、その後の事を考えていなかったよ」

「もう。アキハイトらしくないよ」

「それだけ浮かれてしまっていたんだよ。お前と結婚出来てとてもうれしい。はしゃいで羽目を外してしまうってものさ」

 ワンカナはアキハイトの首に手を回してうっとりする。左右に避けて道を開けてくれている大観衆はいつの間にか、彼らを責めるのではなく祝福ムード一色に染まり、花びらを盛大にまいて、走り抜ける彼らの幸せを願っていつまでも歓声を上げ続けた。


(完)

posted by 二角レンチ at 22:38| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月28日

ドルイド少女ワンカナ(65)痛み分け

ドルイド少女ワンカナ(65)痛み分け

 ワンカナは倒れて気絶しているアキハイトに被さり抱きつき泣いた。彼が生きている事を喜んで。そして今一緒に殺される恐怖に怯えて。

 それでもいい。好きな人と一緒に死ねる。本望だ。これ以上の贅沢は許されない。十分幸せな死に方じゃないか。

 ワンカナは殺されるのを泣きながら待った。しかしいつまで経っても殺されない。まだ生きている。いい加減痺れを切らし、ワンカナは顔を上げた。

「魔王。僕らを殺すんでしょ。早くしてよ。せっかく覚悟を決めているのにじらさないで。待てば待つほど怖くなってくる。ひどいよ。僕をさんざん怯えさせてから殺す気なの?」

 魔王はいつものように、薄く儚い笑顔を浮かべていた。しかしそれを崩し満面の、さわやかな笑顔を見せた。

「あはははは。殺しませんよ。ただ死を覚悟して怯えるあなたを見て楽しんでいました。少しくらいやり返してもいいじゃないですか。私を倒したお返しです」

「え?」

 魔王は頭をかきながら、笑ってワンカナの前に腰を下ろす。倒れているアキハイトを挟んで彼女とじっと見つめ合う。

「な、何言っているの。僕らはもう消耗し切って魔術を使えない。限界以上に魔術を行使してもう、気絶しないようふんばっているのが精一杯なんだよ。君はまだまだ健在。気絶していただけの首が二十、いや三十はあったよね。君はまだまだ戦える。僕らはもう戦えない。殺されるだけ。もうひと思いに殺してよ。僕らをこれ以上もてあそばないで」

 魔王は大笑いする。静かに微笑むだけの彼がこんなに大口開けて笑うなんて初めて見た。

「あっははははは。殺しません。私の負けです。あなたたちの勝ちですよ」

「だって」

「私の首は全部倒されました。気絶していただけでも関係無い。私は首を全部倒されたら負けです。そう決めていました。人間にそれが出来るとは思ってもみませんでしたけどね。あなたたちは見事魔王を討ち倒しました。魔王は倒されもういません。もう魔物の群に対する命令は解除しました。魔物の群は私の支配が解け、自分の古巣に帰って行きます。もう腹を十分満たすほど人間を食らった魔物たちは当分人間たちを襲いません。人間の大半はすでに食い殺されましたが、それでも人々の一部は生き残りました。あなたたちが残った人々みんなを救ったのです。おめでとう。ワンカナ」

「な、なんだよそれ。人間を殺した張本人のくせに。お祝いを言うなんて変だよ。魔王のくせに」

「もう魔王は死にました。私の事はただアソールドと呼んでください」

「……アソールド。何なのさ君。僕は騙されないぞ。人間を馬鹿にするためにわざと丁寧な言葉遣いをやめない君の事だ。きっとまた掌をころっと返して僕らを馬鹿にしながら殺すんだ」

「そんな事しませんよ。まあ信用しろと言っても無理でしょうがね。私は人間を恨んでいました。私の愛するヒエン姫を殺す作戦を立案指揮したパラディン、キルヘイムの息子アキハイトにその恨みをぶつけ、あなたたちには特にひどい事をしました」

「まったくだよ。ベイドが魔王が首で、僕らを裏切らせるなんて。あんなの卑劣過ぎるよ」

「はははっ。まったくです。でもあれ以上のひどい裏切りを私は受けたのですよ。おあいこって事で勘弁してくれませんかね」

「僕は許さないよ。魔王を」

「……」

 ワンカナは怒った顔から一転、笑顔を見せた。

「でも、魔王はもう死んじゃったもんね。僕たちが倒して世界を救った。もう殺して恨みを晴らしたし仇も討った。それでおしまい」

 アソールドがぱっと顔を輝かせる。

「そうです。魔王は死にました。それでおしまいです。いやあ、ワンカナが話のわかる人で助かります」

「あははっ。アキハイトだったらこうはいかないよね。気絶していてよかったよ」

「まったくです」

 二人はじっと、何も知らず寝ているアキハイトの顔を優しい目で見つめる。

 アソールドは笑顔をやめ神妙な顔つきになると、深々と頭を下げる。

「ワンカナ。ありがとうございます。あなたたちのおかげで人々は絶滅させられる事なく一部だけでも生き残りました。感謝します」

「何それ。変なの。人間たちを皆殺しにしようとしたのは君じゃないか」

「人間を恨む魔王は、人間全部を殺さねば恨みが晴れないほど強く深く恨んでいました。しかし人間を愛する私は人間を救いたかった。相反し矛盾する気持ち。しかし恨んでも憎んでもなお愛している。私は昔も、今でも、人間を愛し尊敬し幸せになって欲しいと願っています。そのために力を捧げたいと思っています」

「だから、人間を簡単に殺せるのに全面戦争なんて人間にも勝てるチャンスをくれたんだね。まだ首が残っていて僕たちを殺せるにもかかわらず、首が全部倒されたからと負けた事にしてくれるんだね」

「そういう事です。私は人間を全員殺さねば気がすみません。でも人間を一人でも多く救いたい気持ちもまだあるのです。人間を愛し人間として生き英雄として人々を救い続けた。とても幸せな人生でした。やりがいも生き甲斐も喜びも満ちあふれ充実していました。魔物では得られない喜び。幸せ。感動。人間はやはり素晴らしい。私は人間を恨んでなお、まだ人間として生きたいのです」

「もう人間を恨む魔王は死んだ。すっきりした?」

「ええ。私の恨みは諦められない。我慢出来ない。恨みを晴らすか、あるいは恨みを潰されるか。いずれかしかなかった。あなたたちは見事、人間を恨む魔王を倒し私の恨みを潰してくれました。もちろん完全に恨みが晴れる事はありません。しかしもういいのです。私の恨みは決着しました。もうこれ以上恨みで人間をどうこうしようとは思いません。もういいのです」

 恨みは晴らさねば消える事はない。でも恨みに決着をつければ後はくすぶる恨みを我慢出来るようにはなる。魔王アソールドはそうして自分の恨みにケリをつけ、復讐を終えた。

「うん。わかるよ。僕も、僕らも同じ。君がまだ生きている事は許せない。それでも許すよ。飲み込むよ。魔王を倒して恨みも復讐も決着した。仇を討った。そういう事でもういいんだ。くすぶっていてもなおすっきりしている。完全に気が晴れたわけじゃない。いつまでも恨みを引きずり苦しむだろうね。でも我慢するよ。おあいこだもん。君も僕らもこれで終わり。恨んでいてももうその復讐はやり遂げたんだ。そういう事にしないと死ぬまで終われない」

「恨むのはとても苦しい事です。相手よりも自分が苦しい。復讐が良くないとされるのは、誰かを恨んでいる事がとても不幸だからです」

「うん。わかるよ。わかる事にする」

「あはははは。ありがとうございますワンカナ」

「こっちこそお礼を言うよ。ありがとうアソールド。アキハイトを助けてくれて。僕らを見逃してくれて。復讐を終えてくれて。今でも人間を愛してくれて」

「礼には及びません。お互い様です。どちらも悪い。善は無い。決着しないと前へ進めない。でもこれで復讐は終わり。恨みは終わり。ようやく私たちはみんな前へ進めます。恨んで不幸な人生をやめて、幸せを得るために生きる事が出来ます」

「うん……」

 ベイドの事を聞きたかった。でも彼は消失したのだ。殺した首の中にベイドがいたのかいなかったのか。どちらでもしょうがない。

 魔王は死に、彼は人間アソールドとして生きる。もう百首のヒドラではない。首を切り離して魔王が首として独立行動をさせる事はない。

 だからベイドはもう帰ってこない。帰ってこさせてはいけない。それをお願いしてはいけない。ベイドの事ももう、終わった事にしないといけないのだ。

「アソールドはこれからどうするの?」

「私は姿を変えて、人間として生きます。もちろん人間を多く殺した私が今更のうのうと、人間に混じって暮らそうとは思いません。生きているだけで十分です。本来なら死刑でも足りない重罪人ですから」

「そうだね。いい気味」

「あなたは私に遠慮無く、幸せになってくださいね。魔王を倒し世界を救った英雄なのですから」

「言われなくても。いっぱい幸せになるよ。君は不幸を我慢しながら隠れてこそこそ生きるのがいい罰だ。感謝してよね。殺さないでいてあげるからさ」

「あはははは。感謝していますよワンカナ。お礼に私もあなたたちを殺さないでいてあげますよ」

「わあい。うれしいな。おあいこおあいこ」

「おあいこですね。ふふふ」

 二人はまるで親友のように談笑した。互いを恨んでいるけれど、その恨みをわきにおいて楽しく笑い合えた。許し合えた。

 恨んでいてもなお許せるものなのだな。人間は偉大だ。恨んでいる相手すら許して仲良く出来る。神より慈愛に満ちて寛大だ。

 しばらく笑い合っていたが、やがてアソールドがおもむろに立ち上がった。

「さて、私はもう行きます。さようならワンカナ。あなたたちは強かった。みんなとても強かった。強くなり過ぎた今、こんなに全力で戦えた事が幸せです。私の最後の戦いにふさわしい。私はもう二度と人間たちの前に現れません。本来は死んで償う所ですが、どうか私が生きるのを許してくれますか。二度と人間たちに迷惑はかけません。ですが私は人間として再びやり直したい。一人でずっと、愛するヒエンの事を想い続ける人間として生きていたいのです。都合が良すぎるのはわかっています。ですがこのわがままをどうか」

「許す」

 アソールドが言い終える前に、アキハイトの声が答えた。

「アキハイト。起きていたの?」

 ワンカナはびっくりしてアキハイトの顔を見る。彼は目を瞑って寝た振りを続けている。

 ワンカナはアソールドを見上げ、二人は見つめ合いぷっと吹き出した。

「あはははは。アキハイトって本当不器用なんだから」

「それがいいのでしょう?」

「うん。一緒にいて飽きない。アキハイトと一緒にいると楽しいや」

「お幸せに」

「ん……そうだね」

 パラディンで生き残ったのはアキハイトだけだ。彼は魔王を倒した偉業を称えられ、勇者の称号と共に大国の姫を授かる。ワンカナとは結ばれない。

 アソールドはワンカナたち三人に深く頭を下げ、笑顔で手を振る。そして向こうを向くとあっと言う間に消えてしまった。

「アソールドは行っちゃったよアキハイト。もう寝た振りなんかしなくていいよ」

「何の事だ。俺は寝た振りなどしていない。今起きた所だ」

 アキハイトはむくりと身体を起こす。すぐにぐらりと頭を抱える。

「アキハイト。限界を超えて魔術を酷使したんだからまだ寝てなくちゃ」

「お前だってそうだろう。もう寝ろ。ここには敵はいない。しばらくは大丈夫だ」

「でも、何があるかわからない。僕起きて警戒しているからさ」

「いいから」

 アキハイトはワンカナを抱き寄せ、横になって抱きしめる。

「あ、アキハイト」

「ワンカナ。約束しただろう。戦いが終わって生き残ったら俺の気持ちを言わせてくれと」

「う、うん」

 アキハイトはワンカナと抱き合い、間近で見つめ合う。ワンカナは真っ赤になってしまった。

「好きだ。ワンカナ。愛している。お前といるととても楽しい。飽きない。ずっと一緒にいたい。お前と一緒に笑い合う時が一番幸せなんだ」

「アキハイト……うれしい。でも」

 アキハイトは大国の王女と結婚する。それはどうにもならない。

「いいから。俺に任せろ」

「え? どういう」

 ワンカナが尋ねる前に、アキハイトはワンカナにキスをする。ワンカナも今後の心配をやめてうっとりと幸せに浸った。

posted by 二角レンチ at 22:42| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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