2013年01月23日

イモータルの戦い

イモータルの戦い

 イモータル。定命の者を越えた不死者。人間が神へ至る道。

 神が人間を自分たちに似せて作ったのか。逆だ。人間が神となるから人間と同じ姿を持つのだ。

 人間の中で一番になることで、神となる資格を得る。世界一の偉業を成し遂げ、それを越されないまま死ぬとイモータルとなる。神になる資格を得、神になるために他のイモータルたちと戦うことになる。

 神になるにはイモータルの中で一番にならなければならない。その証明として、他の全てのイモータルを殺さなければならない。

 イモータルは不死者だ。これは死なないという意味ではない。死んでもすぐに生き返ることが出来るという意味だ。真の意味で死なない、殺せないのは神だけだ。

 イモータルは神になる資格を証明するために、他の全てのイモータルを一度殺さなければならない。殺してもすぐ生き返るが、一度殺したならそれ以上殺さなくてもよい。

 イモータルは広大な宇宙にいる。あらゆる次元にいる。物理的な存在ではなく超常的な存在。この世に存在するあらゆる物質、生命、科学はイモータルを観測出来ず触れることも出来ない。超常的でありながらこの世に干渉出来るのは神だけだ。

 地球は新たな神を生み出す苗床だ。人間を増やし、その中から最も優れた世界一の偉業を成し遂げた者をイモータルにし、神々の仲間になれるかどうか競わせる。人間は神の意志により増え、争っている。

 イモータルは全知全能。神によく似ているが、全知全能とはいえ干渉出来るのは同じイモータルだけだ。この世のあらゆる物にも神にも干渉出来ない。

 人間からイモータルになった者はそのときいずれかの場所へ飛ばされる。地球やその太陽系にイモータルはいない。神々の苗床たる地球の周りで戦う無粋を神は許さない。

 イモータルは全知全能。あらゆる事を知り、出来、観測出来る。他の全てのイモータルがどこにいて、何を見、何をして、何を考えているか全てわかる。その膨大な情報を全て処理して的確に行動出来る。

 だから来た。俺がイモータルになった今、最もそばにいたイモータルが俺を殺そうと迫ってくる。

 はるかかなた、人間の科学ではまだ渡航不可能な距離からほんの一瞬でたどり着いた敵のイモータル。

 イモータルに仲間はいない。一人で戦い勝たねば神の資格を得られない。イモータルは神になるために生きている。それ以外の存在理由は無く、それ以外のために行動はしない。

 イモータルは魂の形だ。それは自身の最も完全な状態の形。どんな老齢や欠損で死のうとも、五体満足で若々しく人の身では成し得ないほど鍛え抜かれた頑健な身体。女性ならあり得ないほど美しく妖艶な姿となる。ただし体毛は無い。体毛は人が猿から進化しきれていない証拠だからだ。俺は生前とても貧弱だったが今は筋骨たくましく、理想をはるかに超えた身体をしている。相手のイモータルも同じようにたくましい。

 イモータルに名乗りはいらない。遭遇してすぐ戦闘を開始する。相手の名前どころかあらゆることを全て知っている。人間には成し得ない全てが通じ合った状態。相手の思考もわかるので会話の必要すらない。

 敵が拳を繰り出す。俺はそれを手で払い、蹴りを入れる。相手はそれを腕で受け止め、さらに蹴りを繰り出してくる。

 イモータルの戦いはテニスのラリーに似ている。相手がどこにどんな球を打つのか完璧に知り、完璧に対応出来る。予定調和の攻防。それをえんえん続ける。

 イモータルは全身がエネルギー体だ。血は出ない。敵の攻撃で腕がもがれる。その腕はすぐに消滅し、傷口からすぐに腕が再生される。

 一瞬ではない。無瞬。イモータルの動きはほんの一瞬すらかからない。広大な宇宙の移動でさえわずか一瞬なのだ。腕や足を繰り出す程度の動作はほんの一瞬すら経過しない。時と時の狭間で、人間なら時が止まった世界で戦っていると思うだろう。単に小さな動作に時間がまったくかからないだけだ。激しく拳や蹴りを繰り出し続けるが、まったく時間は経過していない。

 えんえんと、無瞬の攻防を続ける。相手の思考も動作も次の行動すら知り対応出来る全知全能。わからないのは決着だけ。腕がもがれ足をちぎられ腹に穴を開けられてもすぐに再生する。エネルギー体であるイモータルは人の姿と動きをするにすぎない。頭を吹き飛ばされようと全てを知覚し、すぐに再生する。脳や心臓といった急所は存在しない。

 イモータルはわずか一欠片でもあればそこから無瞬で再生出来る。イモータルを殺すには全てを同時に跡形もなく消し飛ばさねばならない。膨大なエネルギーを放出し全てを消滅させるとどめの一撃。それにはほんのわずかな時間がかかる。無瞬で動ける相手に一瞬もかかる遅い攻撃は当たらない。そのわずか一瞬の隙を作り出すためだけに、拳や蹴りによる無瞬の攻防を繰り返す。

 時間の経過する間も無い無瞬の攻防を、しかし永遠とも感じられるほど繰り返す。途中何度も身体の一部を潰されちぎられ破壊され、無事だった部位は無い。しかしそんな傷がまったく残らず無瞬で再生されている。

 長い攻防の果てにようやく訪れる決着の時。完璧で最高の一手を交互に繰り出し続けるチェス。無限の選択肢がどんどん減り、ついには終わりが見えてくる。

 決着が見えたとき、どちらが勝ちどちらが負けるかお互いにわかる。それでも最善手を繰り出し続ける。それ以外の悪い一手を繰り出す理由が無い。そこで敗北することに意味は無い。全知全能たるイモータルは戦闘の経験により成長することは無い。すでに完全に高めきった最高の状態なのだ。誇りなどではない。負けるとわかっていても最善手を繰り出すこと以外の行動などありえない。あってはならない。

 俺の拳が奴の頭を吹き飛ばす。俺にとっての最善手。これ以外に無い最高の一撃。そして生まれるほんのわずかな一瞬の隙。数多くの攻防はこのわずかな一瞬を生み出すためだけにあったのだ。

 奴の手がかざされる。頭を吹き飛ばされた奴はその衝撃で吹っ飛びながら俺を捉える。

 拳や蹴りではない。膨大なエネルギーを放出するとどめの一撃。決して苦し紛れに繰り出すことは無い。完璧な最善手。勝利が確定したときにのみ繰り出される。

 俺は奴の放つエネルギーの波を浴びて全てが一欠片も残さず吹き飛ばされる。イモータルになって初めての戦い。初めての敗北。

 瞬時に再生される。でも殺された。イモータルは全てを同時に消滅させられたとき、一度死んで生き返る。それは欠片からの再生とは異なる概念。蘇生だ。

 奴は俺を殺した次の瞬間にはもう、新たな戦いに向かって飛び去っていた。

 俺も次の戦いへ赴く。敗北をかみしめる間も無い。次の敵が迫ってくる。俺もわずか一瞬を使ってその距離を詰める。

 敵ともうじきまみえるその時、俺の身体が唐突に消滅した。

 え?

 全知全能たるイモータルでも驚くことはある。俺は自身の消滅理由を消える前に知る。

 イモータルになるには生きているうちに世界一の偉業を成し遂げる。そして死んだらイモータルになる。そのときも、その後も、その世界一の偉業が維持されている限りイモータルであり続ける。

 ようするに、記録を破られ世界一でなくなるとイモータルの資格を失う。イモータルになっても、後世のだれかがその偉業の記録を破って塗り変えると、イモータルはその資格を失い消滅する。

 だれかが俺の、生前の記録を破ったのだ。だから俺はイモータルの資格を失い消滅する。

 まさか俺以外にあんなことをしている奴がいたのか。信じられない。でも事実だ。

 俺は自分の鼻毛を抜いてはせっせとそれを結わえ続けていた。だれにも一生言えなかった趣味。高価な顕微鏡と特殊なピンセットを使い、抜いた鼻毛を連結し続けた。こういうのは途中でやめるのはもったいなくてふんぎりがつかない。結局一生続けてしまった。

 鼻毛は短くそのままでは結わえにくい。だから俺は鼻毛の両端を縦にちょっと割いて細くし、結びつける技法を編み出した。

 しかし俺の記録を破った奴は、その上をいっていた。なんとそいつは、両端だけを割くのではなく、そのまま縦に二つに分割し、それぞれを結わえたのだ。だから単純計算で言えば、俺の二倍の長さに出来る。

 それは卑怯だろ。一本を二本にするのってありなのですか。神様。

 神の考える偉業は人間の考えるそれとは違う。どんなことであれ、他のだれよりも記録で一番になること。それに使う知恵と工夫と熱意と努力が魂のエネルギーとなり、イモータルたるほどまでに魂が熟成されるのだ。

 神は、鼻毛を二本に分割するのを卑怯ではなく知恵とみなした。こうして俺の、自分の鼻毛連結世界一という偉業は破られ、俺はイモータルたる資格を失った。

 消滅する。ああ。これで俺の人生は、人間としてもイモータルとしても終わる。

 俺は消滅する間際、考えた。いずれ鼻毛を三本に分割するやつ、四本に分割する奴が現れ記録を塗り変えるだろうと。俺は鼻毛の先がたまたま枝毛だったから、先を分割することを思いついた。でもそれ止まり。縦に割くまで発想が至らなかった。

 俺は甘かったのだ。今の自分に満足してしまい、それ以上の工夫を考えもしなかった。世界一になるというのは甘くない。不断の努力が必要なのだ。


(完)

posted by 二角レンチ at 10:44| 短編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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