2013年06月30日

共生する病(18)人助け

共生する病(18)人助け

 ラーキットに犯され、女の味を知った僕はもう歯止めがきかなかった。

 ラーキットを何時間も犯し満足した僕は、翌日には欲望がはるかに膨れ上がっていた。

 その日も森の中で敵に遭遇しなかった。だから僕はまた女を抱いた。

 プリズマ。彼女は僕が誘惑に負け、ミリカを裏切ることを楽しみにしていた。結局、ラーキットが僕を犯したせいでプリズマの思い通りにはならなかったが、僕が自分の意志でプリズマに手を出したとき、彼女はにやにやしながら拒まなかった。

 そのあとの旅では、敵と遭遇せずけがの治癒をする必要が無い日は、僕は必ず二人を抱いた。

 ラーキットの細くひきしまった身体も、プリズマのふくよかでやわらかい身体も大好きだった。二人は僕が求めれば喜んで応じた。約束通り拒むことはなかったし、二人も僕と同じく快楽を欲しがった。

 僕は触手を身体に根付かせ操る。それで男自身と共に二人を犯した。うねる触手に全身の穴を奥まで犯されかきまわされる快感に二人は夢中になった。

 僕とラーキットは恋人になった。プリズマは愛人でいいですと笑っていた。

 もちろんこの旅の間だけだ。単なる利害関係。身体だけの恋人。お互いそれは承知している。僕はミリカの元へ帰るときは、ラーキットとは別れる。

 殺す。ラーキットもプリズマも殺す。僕にとってミリカは何より大事で、女の身体に溺れてもそれはゆるがなかった。むしろその気持ちはより大きく強くなっていった。

 僕を犯してミリカを裏切らせたラーキットは許せないし、プリズマがミリカに僕らの関係まで洗いざらい言って彼女の反応を見るのが楽しみだと言っているのも許せない。そうする前に口を封じてやる。

 ラーキットとプリズマは他の目的を全て果たしたら、最後には互いを殺し合うと言っている。その生き残った方を僕が殺す。

 手負いなら何とかなる。返り討ちにしてやる。もちろん二人はそれをわかっていて楽しんでいる。僕に殺されるのを楽しみにしていると何度も言う。

 どうせ出来ないと侮辱している。笑い物にして蔑んでいる。許せない。僕は強くなって、二人に絶対後悔させてやる。

 病の治療法を見つけ、二人を殺したら、僕を拒んだミリカを快楽の虜にしてやる。二度と僕に逆らったり拒んだり出来ないように調教してやる。

 症状を進行させた僕はもう生殖能力を失っている。僕は女を妊娠させられない。精子がその能力を失ってしまっているのだ。

 だからミリカを孕ませられない。子供が欲しかったけれどそれはあきらめよう。代わりにいくらでも、妊娠を気にせずミリカを抱けるのだ。

 早くミリカを抱きたい。犯したい。あの華奢な身体。小さな胸。たまらない。豊満なラーキットやプリズマの身体は最高に気持ちいいが、やはり下品だ。僕はその虜になりながら二人の身体を軽蔑していた。

 こんな下品なものが気持ちいいのが憎たらしい。抱かずにはいられないのが忌々しい。僕は二人を抱く度その快楽に溺れながら、憎しみを増していった。

 旅を続け、僕は触手による戦闘技術を磨いていった。必要に応じて症状も進行させた。ラーキットとプリズマは目的を果たすため僕に強くなってもらいたい。だからいずれ二人を殺すと言っている僕をそれでも鍛えた。

 多くはひどい方法で。わざと危険に晒して死に物狂いになるように。何とか切り抜けるように。その度僕の二人に対する憎しみは増大し、その鬱憤を晴らすために二人を激しく犯した。

 信頼なんていらない。信用出来ない。利害関係は何よりも強固で唯一信頼出来るものだ。

 利用するためには相手を裏切れない。裏切るより利用する方が得だと思わせなければならない。相手にとって価値のある存在であり続けるよう精進しなくてはならない。

 自分を高め、何をかなぐり捨てても食らいつく。僕は二人に裏切られ殺されないよう必死だった。二人の役に立つ、利用価値のある道具であろうと努力した。

 二人には多くの目的があり、僕はそれに付き合う旅を続けた。もちろん倒した敵を解剖し、病の研究も進め、自分の症状を進行させたり新たな敵に対する手段を考えたりする役に立てた。

 残念ながら病の治療法は見つからない。不可逆的に症状を進行させることしか出来ない。病は宿主の望みに従い症状を進行させるが、一度発症した症状を元に戻すことは出来なかった。

 それが出来るのは特別な病だけだ。ほとんどの人間が感染している病には逆戻りし人間に戻す機能が備わっていない。セラキストのように、特別な病を持つ者を解剖し解析しないとやはり病の治療法は見つけられないようだった。

 グラーガ。ソートリア。特別な病を持つ者は残り二人だけ。ラーキットたちの復讐の相手もその二人だけ。

 その二人を殺したら、ラーキットとプリズマは殺し合う。その前に二人は他の目的を果たすべく旅を続け、僕はそれに同行した。

 二人はしたい事がたくさんあると言っていた。行きたい場所に行き、見たい物を見た。美しい物、うわさにしか聞いたことの無い物、世界を旅していろいろ目にした。壮大な景色に感動した。心が洗われた。

 症状を進行させ化け物になった僕たちには、圧倒的な自然の脅威を見てちっぽけな人間であることを自覚し直すことが大切だった。二人が世界各地のそういった景観を見て回りたがった気持ちがよくわかった。

 意外なことに、二人の目的には人助けが含まれていた。それも数多く。今まで生きて世話になった人たちを尋ねて力になった。感謝とお礼をして回った。

 この時代は無力な人間にはとても生き辛く、かといって症状を進行させて化け物になりたくはない人たちが大勢いた。そういう人たちの代わりに、症状を進行させ化け物となった二人は、僕も巻き添えにして多くの人を助けた。

 とても邪悪で歪んでいて、目的のためならいくらでも人を殺す事をいとわない二人が、どうしてわざわざ世界を旅してまで人助けをしに行くのかを尋ねたことがある。

「馬鹿かお前。俺たちは別に殺人鬼じゃねえ。敵ならともかくそうでない人間を殺す趣味はねえよ。巻き添えになるのはかわいそうだが俺たちの目的の方が大事だ。だから殺す。でも必要ない限り殺さない」

「セクタ様。私たちはとても悪い人間です。でもいい人間でもあるのですよ。くす。信じられませんか。信じなくてもいいのですよ。ただいい事をすると気分がいいでしょう。人を助けて笑顔にすると、それを見て気持ちよくなれるでしょう。危険を冒してでも得る価値のある快楽ではありませんか。邪悪な人間だからといって、いい事をして気持ちよくなれないわけでもないし、それをしたくないわけでもないのですよ」

「そういう事だ。俺たちはただ、気持ちいい事をして楽しんでいるだけだ。人助けは楽しくて気持ちいい。やりたくてたまらない。なら我慢する必要なんてないだろ?」

 わかる気がする。

 人を助けるのは気持ちがいいものだ。自分が必要とされ、それに応える力がある。しない理由がない。してはいけないわけではない。二人はただ自分がより幸せになるために、したい事をしているだけだ。

 相手のためではなく自分のためにする善行。それは偽善と呼ばれる。でも偽善をして気持ちよくなり、偽善をされて幸せになる。偽善の何がいけないのだ。どうして偽物だと蔑み、それをしない必要があるのか。

 偽善に善の心は必要ない。邪悪な人間でも、善を行い自分も他人も幸せにする事が出来るんだ。

 目的を果たしたい。だから巻き添えになる人は容赦なく殺すし悪いとも思わない。でも罪の意識を感じないわけではない。償いたくないわけではない。

 自分たちが殺す分だけ、他の人を救うことで免罪としている。二人はとても邪悪だが、免罪で己の心を救わなければ潰れるぐらい、良心も持ち合わせた人間なんだ。

 化け物ではない。心まで醜い化け物にならないように、二人は自分が人間でいられるように、人を助けることで自分を救っているのだ。

 二人は長い年月を生きている。世界を旅し、懐かしい旧友たちを探して会いに行き、再会を喜んだ。

 病は老化を若返らせ、宿主をいつまでも生きながらえさせる。ラーキットたちは昔老けていた人たちが、今は若々しい姿になっている事を大げさに笑った。

 温かい。二人の邪悪で化け物な面ばかりを見ていた僕は、二人がとても心の温かい、普通の人間である事が驚きながらもうれしかった。

 世界を旅し、ラーキットとプリズマの目的を果たしていった。危険で死にかけた事も何度もある。二人も何度死にかけたことか。

 互いが互いを助け合い、何とか生き抜いた。目的を果たすためには誰が欠けても困る。だから命がけで互いを助けた。信頼などより利害関係の方がはるかに強く、信頼出来る。

 長い旅だ。もう二年になる。二人は多くの目的を果たし終え、情報を集めて最後の目的にようやく到達した。

 それは僕の目的でもある。グラーガとソートリア。二人の特別な、症状の可逆な病を解剖し、解析する。ミリカの宝石病を治癒して救うために。

 ラーキットたちの宿敵。最も憎んでいる復讐の対象。その二人の女と今、僕らは対峙していた。

posted by 二角レンチ at 15:08| 共生する病 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月29日

魔術師の深層(23)対峙

魔術師の深層(23)対峙

 俺は屋敷の中を飛行中、天井に隠れて不意打ちしてきたグールの爪を背中に突き立てられ、全身が麻痺した。

 しかしローラは俺の背にいる敵を見て、グールではなくベラルドだと叫んだ。

 どういうことだ。わけがわからない。俺は背中を強く刺されそのまま地面に叩きつけられる。

「げぼっ」

 麻痺しているから受け身も取れない。屋敷の廊下をごろごろと転がり、仰向けになって止まる。

 空中に浮かびたたずむ男の姿を見る。これがベラルド。その姿は異様だった。

 身体に、干からびた肉をまとっている。両手には大きく鋭い爪が光る。グールの爪だ。

 まるでグールの皮を洋服に仕立てて着ているように、首から下が干からびた肉の服に包まれていた。包帯を乱暴に巻いたようで、爪のついたグローブを両手につけていた。

「これで全部か? 三人。魔術師のチームなら三人か四人がせいぜいだ。まだいるとしても問題ない」

 ベラルドはぎろりとローラをにらむ。ローラも負けじとにらみ返す。

「あんた、それ何なの」

「これか? これはグールをまとっているのだ。アンデッドがそれぞれ死体の素養に応じて特殊能力を持つのは知っているだろう。こいつは服に変質し、誰かにまとわれる特質を持つ」

 そんなものまであるのか。想定外だ。ただのグールなら俺たちに対応出来る速度だった。しかし熟練の魔術師の速度と戦闘技能であの爪はまずい。

 俺たちは奴を全身細切れにして殺すか、頭を吹っ飛ばして動けなくしないといけない。それに対して奴はかすり傷一つで俺たちを無力化出来る。しかも相手の方が戦闘経験が豊富で強い。圧倒的に不利だった。

「ヘンメルをどうしたのよ」

 ローラはベラルドをにらんで剣を構える。何とか時間を引き延ばしながら、頭の中で必死に対抗策を考えている。

「さっきの女か。くくっ。どうしたと思う?」

 まさか。殺したのか。

「その爪で無力化しただけでしょ。ヘンメルは簡単に倒されるほどやわじゃないわ。私たちが突入するまでに殺すほどの暇は無かった。無力化しておいて私たちを急いで待ち伏せたんでしょ」

 ベラルドはくっくと笑う。

「まあ、そうだな。しかし理由が違う。久しぶりの魔術師の女だぞ? 楽しむ前に殺すわけないだろうが」

 ぎくりとする。このくそ野郎。ヘンメルは処女だぞ。お前なんかの慰み者にしてたまるか。

 ちくしょう。奴に何か言いたくても何も言えない。口が動かない。麻痺毒はこんなにも強いのか。ローラに解毒してもらえないと動けない。

 ベラルドはローラを見ながら舌なめずりする。

「チームならそれなりに親密なのだろう。この男の前で犯してやる。麻痺毒で動けない人形みたいな女を抱くのはただの女を抱くより楽しいんだぞ。どんな乱暴にしてもがっくんがっくんおもちゃみたいに。笑えるぜ」

 何て奴だ。魔術師は相手の嫌がることを絶対にしない。でもこいつの口振りは、今までに何人も女を無理矢理犯してきたことがわかるものだった。

 許せない。こんな卑劣な犯罪者が同じ魔術師だなんて。なのに俺は動けない。奴に怒りをぶつけることが出来ない。

「この卑怯者。女の敵。許さないわよ。絶対に断罪してやる」

「ははは。こいよ女。お前俺にかなうと思っているのか? さっきのヘンメルとかいう女といいこの男といい弱い奴ばかりだ。貴様等まだ就職年齢一年未満だな? 時期からいって新入りか。俺は犯罪年齢一年を越えているんだぞ。就職年齢も一年あった。合わせて二年以上も生き延びているんだ。お前等が束になってもかなわないのに、一人で勝てるわけないだろうが」

 たしかに奴の言う通り、俺たちと奴には実戦経験の差がありすぎる。しかし本来三対一ならこの不利は覆せたはずなのに。

 作戦ミスだろうか? そんなことはない。どんな作戦にも利点と欠点がある。大事なのは状況に応じて判断することだ。人間みたいに後悔ばかりして目の前の問題から逃げているわけにはいかない。

 ローラは剣を構えたままあざ笑う。

「はっ。犯罪年齢一年以上って言っても、単に討伐が後回しにされただけでしょ。墓荒らしで死体を盗むしかしないからあまり害は無い。もっと危険な犯罪者たちの討伐が優先された結果一年も生き延びただけでしょうが」

 ベラルドが顔をしかめる。

「馬鹿が。数度の討伐を生き抜いた俺を愚弄するか。楽には死なせんぞ。たっぷり犯して屈辱を与えてからじっくり殺してやる。魔術師は細切れにして殺すからアンデッドには出来ない。殺したあとは楽しめないのが難点だな」

「ごたくはいいわ。この見かけ倒しが。ロードの魔術は主の強さが配下に反映される。あんたのアンデッドは弱かったわよ。もう一体も残っていないわ」

「何?」

 ベラルドが明らかに動揺する。

「そんなことはあり得ない。貴様等は何とかアンデッドたちをかいくぐってここへたどり着けたに過ぎないはずだ」

「なら呼んでみなさいよ。ロードは支配している配下を召集出来るんでしょ。一体でも来てくれるか試してみなさいよ」

 ベラルドは挑発に乗るかどうか迷った風だったが結局乗ってきた。召集しないのはまるで配下のアンデッドが全部倒されたことを確認するのを恐れているようで嫌だったのだろう。ローラをにらみながらぶつぶつつぶやく。

 十秒が過ぎ、一分が過ぎた。遅い。屋敷の外にいるグールなどは十秒かからずここまで来られるはずなのに。

 ベラルドの顔が驚愕に変わる。

「馬鹿な。アンデッドは強い。数も十分いた。貴様等どうやって」

 動揺の隙をついてローラが突撃する。

「うおっ」

 ベラルドの反応が一瞬遅れた。一刹那の攻防を学んだ俺たちに、一瞬でも後れを取ればそれは致命的だぜ。

「やあああ!」

 気合いと共にローラが剣を振る。相手は反撃出来ない。ここは全力の一撃を振るっても大丈夫な場面だ。

 ベラルドの腕が飛ぶ。ローラは危険な爪を両手とも無力化したかったようだがベラルドも戦闘慣れしている。動揺してもとっさにかわし、両腕を飛ばされるのは避けたようだ。

「ぐおおお」

 ローラは追撃しない。今のは動揺の隙をつけただけ。もう一撃と欲張ればあの麻痺毒の爪に削られ返り討ちにされるところだっただろう。

 飛び退くベラルドを尻目にローラは反転し、俺の元へ飛んでくる。

「キュア」

 ローラの手が俺に触れる。その手が光る。注入型の魔術の一種。魔力による異常状態を回復出来る。

 普通魔術師は攻撃か、自分に利する魔術しか使えない。他人の益になる魔術はごくわずかだ。魔力による状態異常は基本的に本人では解除出来ない。だから魔術師は他人の状態異常だけを回復出来る魔術を得るに至ったのだろう。

 一人で完璧な魔術師はいない。魔術師が幼い頃から惹かれ合いチームを組むのは、互いに補完し合って初めて一つの完全体になれるからだ。

 俺は麻痺が解けてすぐに動けるようになる。背中の傷は痛むがローラが会話で時間を稼いでいる間に大分治癒出来た。

「ありがとうよ。ローラ。お前ならきっと助けてくれると信じていたぜ」

「お礼はあとでいいわ。先にこいつを倒すわよ。今召集をかけても一体もアンデッドが来なかった。こいつ以外の敵を恐れる必要はないわ」

 なるほど。動揺を誘うためだけでなく、他のアンデッドが残っていないかを確認するためでもあったのか。

 なんて頼もしいんだ。頭がよく回る。今のローラは強い。ヘンメルが捕らわれた危機でも冷静に作戦を立てられる。動揺しまくり頭パニクりまくりの俺とはえらい違いだ。

 すごい。格好いい。素敵。抱かれたい。

 あれ。俺今何か変な気持ちになったぞ。なんというか、乙女が頼もしい人に恋するような。

「ボサッとしない!」

 ローラは残った片腕の爪で襲ってきたベラルドの攻撃を盾で受け止める。

「ああ。いくぞローラ」

 俺も剣と盾を出す。戦闘開始だ。この卑劣な犯罪者を断罪する。そしてヘンメルを救い出すんだ。

posted by 二角レンチ at 13:44| 魔術師の深層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月28日

共生する病(17)裏切り

共生する病(17)裏切り

 ラーキットは首だけの姿で痛みをこらえながらも舌打ちした。

「ちっ。生きているもんなあ。殺す手間が省けたかと喜んだのによお」

「くす。私は死にませんよ。あなたを殺して生き延びるのは私の方です。でもまあ、こうして全員無事生き延びたわけですし。今しばらくはまた利用し利用される仲良しでいましょうよ」

 プリズマはボロボロの姿で、いつものように不敵にほほえんだ。

 僕たちは森の中にいた。セラキストを砲撃して騒ぎの発端となったことが殺気だった町の住民にばれるとまずい。彼らがセラキストの死体を蹂躙している間に僕たちはとっとと町を出て森に来ていた。

 もちろんまだ傷が癒えていない。森の中で敵に遭遇するとやばい。でも町の中にいる方がもっとやばい。

 町の人間たちは報復する相手に飢えている。巨獣を仕留めただけでは足りない。巨獣から人間の姿に戻ったセラキストの死体を徹底的に踏みにじり損壊した。

 それでもおさまらない。僕たちが騒ぎの発端だと知れればきっとそれを理由にリンチされる。ボロボロの僕たちでは大勢の兵器病の人間にはかなわない。逃げるしかなかった。

 おかげでセラキストの身体を解剖出来なかった。彼女の病の秘密を解明出来なかった。

 肝心の目的が果たせなくて、僕はくやしかった。

 症状を進行させて巨獣と化してもまた元の人間に戻ることが出来る。この病は症状を進行させるだけで逆戻りすることは出来ないはずなのに。プリズマたちが言うように、セラキストの病は特別だった。

 僕たちの病とは何かが違う。セラキストの身体を僕の触手で解剖して解析すれば、宝石病になったミリカの症状を戻す方法がわかったかもしれなかったのに。

「今日はここで休みましょう。私が起きて警戒しておきます。二人は休んで傷を治してください」

「そんな。プリズマだってボロボロじゃないか」

 巨獣から振り落とされたプリズマは、頭をかばって地面に激しく打ちつけられた。車輪でも防ぎきれない衝撃で、全身の骨が折れ肉が抉れていた。

「もう大分治癒しています。大丈夫です。敵がいたら数キロ先から殺気を知覚出来ますから。まずはセクタ様が休んで、治癒を進めてください。戦闘になったら一番軽傷なあなたが頼りなのですから」

「う、わ、わかったよ」

 触手で移動出来るとはいっても、片足を切断した僕はある意味重傷だった。脚を生やすには時間がかかる。プリズマは言わないが、珍しく僕を気遣ってくれているのだと思う。

 仕方がない。何も無いことを祈りながら、僕は寝ることにした。

 治癒は安静にしている方が進む。寝ているならもっとだ。症状を進行させた僕の治癒力は昔よりも強い。早く治すことに専念するんだ。

 僕はプリズマに任せて熟睡した。幸い森にいる敵は襲ってこず、僕たちは全員が全快するまで休むことが出来た。

 僕が目覚めたとき、妙な違和感があった。

 すごく熱い。何だこれ。蕩ろける。

 激しい戦闘だった。命がけだった。僕自身が戦ったのは初めてだった。

 だから僕は心身の消耗が激しく、一番長く寝てしまっていた。

 熱い。身体の一部が熱い。股間が熱い。何だこれ。初めての感覚。初めての快感。

「うわ!」

 急激にこみ上げた。そして放出した。

「おお。出てる出てる。お、セクタ。目が覚めたか」

「ラーキット?」

 僕はまだ夢うつつだ。ぼんやりと、今まで味わったことの無い凄い快感にまみれた股間を見る。

 繋がっていた。

 僕の男が、ラーキットの女に埋没していた。

「え? あうっ!」

 ラーキットが腰を揺すると、再び猛烈な快感が襲ってきた。

「ちょ、ちょっと、何しているの。何でこんな」

「決まっているだろ。お前を恋人にするためだ。俺は欲しいものは全部手に入れる。お前の意志なんて関係ねえ。筆下ろししてやったんだぜ。身体の関係だ。もう恋人だ。恋人に心なんか必要ねえんだ。身体さえ繋がればもう恋人さ」

「そんな。ひどいよ。僕にはミリカがいる。彼女だけが僕の恋人だ。裏切れない。なのにこんな、無理矢理」

「へへへ。そうさ無理矢理さ。愛するミリカには正直に話せばいいぜ。寝ている間に女にレイプされたってな。自分は悪くない。他の女と寝たけどミリカだけを愛しているってな」

「そんなのないよ。ひどい。ミリカが傷つく。裏切りだと感じてしまう」

「裏切り裏切られる。どっちも快感だぜえ。味わえよ。教えてやるよ。裏切りの味を知れって言っただろう。お前はもう俺たちと一蓮托生だ。どこまでも深く繋がってもらうぜ。離さねえ。お前は本当いい男だぜ」

 ラーキットは顔を赤らめ薄く汗をかいている。丸裸だ。腰を揺する度に大きな乳房がゆっさゆっさと揺れている。舌なめずりをする彼女は異様に色っぽかった。

 僕も全裸で汗を吹いていた。二人とも裸で、みだらにまぐわっていた。

 ラーキットは僕の両手首を押さえつけ、顔を寄せて笑う。

「昨日お前のおかげであの憎いセラキストをようやく倒せた。今まで何度苦渋を味わったか。お前には感謝してもしきれねえ。これはお礼だぜ。遠慮するんじゃねえよ」

「駄目だよ。僕にはミリカが。あああ!」

 僕はミリカを裏切ってしまったことや、レイプされていることがひどく悲しかった。辛かった。だから泣いた。

 しかし気持ちよすぎた。何度もラーキットとプリズマが裸で愛し合うところを見るよう強要された。そのたび交ざらないなら一人で慰めることを強要された。僕はミリカのために耐えていたけれど、何度も誘惑に負けそうになった。僕はラーキットとこうなりたかったんだ。

 うれしい。快感。裏切り浮気し他の女とする。初めての体験。こんなにも気持ちいいなんて知らなかった。知っていたらきっと、自分で慰めて我慢なんてしなかった。出来なかった。

 ラーキットと愛し合っているのが幸せだった。今この瞬間は、何もさせてくれないミリカより、ラーキットの方が愛おしかった。

 僕が求めたのに、拒絶し何もさせてくれなかったミリカが悪い。その怒りが僕を後押しした。

「ラーキット!」

 僕はラーキットのお尻を両手で抱えて下から突き上げた。何度も激しく腰を振り、そして達した。

「うあああ、ああああう」

 女の中で果てる快感は凄まじかった。二回目なのにまるで衰えない快感。蕩ろける。幸せすぎる。女を抱くってこんなにいいものだったのか。こんな快楽がこの世に存在したなんて。

「お、のってきたな。童貞卒業。坊やは卒業だな。俺も気持ちよくしてくれよ。レイプされてむかついているだろ? 俺にも仕返ししてくれ」

 言われなくても。僕はもう我慢出来なかった。初めての女は気持ちよすぎた。女の中は凄すぎた。二回出してもまだまったく萎えない。性欲が衰えない。それどころかもっと欲情する。僕は身を起こし、ラーキットを押し倒して激しく犯した。

「はあ、はあ、いいぜセクタ。汗だくで必死になっている男ってすごく格好いい。惚れるぜ。好きだぞセクタ。お前といつまでも一緒にいたい」

「ふざけるなよラーキット。よくも僕にミリカを裏切らせやがって。もう顔向け出来ないじゃないか。許さない。これぐらいじゃあ足りない。まだまだ犯し足りない」

「お前の気が済むまで犯していいんだぜ。今日だけじゃない。これからずっとだ。童貞を無理矢理奪われ愛する女を裏切らせられたんだ。そりゃあむかつくよな。ちょっとやそっと犯しただけじゃ恨みが晴れないよな。だからたくさん犯すってか。学者様は言い訳が上手いな。けけけ」

 僕はまた果てる。まるで尽きない。どうしたんだ僕は。異常だ。

 女を犯している。蹂躙している。愛する人を裏切っている。その背徳感がたまらない。

 これが裏切りの味。甘すぎる。おいしすぎる。狂おしすぎる。こんなの味わうのをやめられるわけがない。裏切りは黒い蜜の味。禁断の果実だった。

 僕はラーキットを四つん這いにさせ、後ろから貫く。豊満な胸を両手でわしづかみ、握り潰そうとする。

「はあ、はあ、いいぜ。痛いくらいがいいんだ。うわ、童貞の、くせに、初めてで、女を、んあ、はあああああああ!」

 ラーキットが仰け反る。けいれんする。ひどく締め付けてくる。僕はあっけなく搾り取られた。

「うっぐ、女が絶頂するときって、こんなに、んああああ、気持ちよすぎるよラーキット」

「お前こそ、はあ、童貞のくせに女をイかせるなんて生意気だぜ。今度はお返ししてやる」

「僕が恨みを晴らしているんだよ。君はおとなしくしていろよ」

「やなこった。こんな楽しいことは他にねえ。くそ。本気で好きだぜセクタ。自分でもおかしいと思う。お前の触手がセクシーだからかな。なあ、あれ出してくれよ。あれで俺の穴という穴を犯してくれ」

「そんな。そんなの変態だよ」

「お互い化け物なんだぜ。変態ぐらいがちょうどいいさ。お前だって俺をもっとひどく犯したいだろ。でないと鬱憤が晴れねえだろ」

 想像する。そしてごくりと唾を飲む。僕の醜い触手をラーキットのいやらしい穴にずぶずぶめり込ませ、手足に絡みつかせ無理矢理股を開かせて……

 僕はもうまともな思考が出来なかった。女は気持ちよすぎた。初めてで強烈すぎた。欲望に、本能に任せて僕は触手を吐き出し、全身に根付かせた。

「お、お、すげえ。触手プレイなんて初めてだぜ。どんなだろうな。楽しみすぎる」

 ラーキットの異常に欲情したみだらな表情を見ると、もう理性では抑えられなかった。人間ならしないし出来ない触手による責め。いくら激しく痛くしても喜びもっと欲しがるラーキットのせいで、僕はどんどんエスカレートした。

 僕は夢中すぎて気付かなかった。少し離れたところで僕がラーキットを触手で犯すところを、プリズマは暗い笑みを浮かべながらただじっと見つめ続けていた。

posted by 二角レンチ at 12:34| 共生する病 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月27日

魔術師の深層(22)グール

魔術師の深層(22)グール

 俺たちは森の木々の間を飛行の魔術で疾走する。

「スケルトンとゾンビは全部集めて一網打尽にしたわ。あとは数体のグールと目標のベラルドだけ」

 ヘンメルに対しローラが答える。

「アンデッドの魔術は術者であるロードを倒せば解除される。それが支配系、ロードの魔術の性質。だからグールとの戦闘はなるべく避けて、ベラルドを倒すことを優先する」

 俺もうなずく。

「わかった。よし。俺に続け」

 ローラの飛翔は最速だ。俺より前に出る。

「チームのリーダーは私よ。いい加減それやめろって言っているでしょ」

 ちくしょう。さっきは戦いに見とれて出遅れた。ヘンメルとローラのおかげで助かった。だからここは大人しく引き下がるしかない。

「ヘンメル。サーチでベラルドを捕捉して。これからは敵を殺すまでは絶対解除しないこと。いいわね」

「わかっているわ」

 先日の任務では、敵を殺す前に油断しサーチの捕捉を解除してしまった。ヘンメルもその失態をよくわかっている。

 魔術師は失敗からきっちり学んで次に活かす。人間みたいに失敗を言い訳でごまかして反省しないことも、糧にしないこともあり得ない。

「サーチ!」

 おお、気合い入っているな。ヘンメルの両手から音もなく輝く半透明の鎖が数本飛び出す。地面に突き刺さりそのまま溶けるように流れ沈んでいく。

 ヘンメルのサーチは鎖だ。顔や名前などを認識している敵を広範囲に探せる。

「捕捉しました。距離ニキロ。こっちです」

 仕事モードのヘンメルは口調は固いが格好いい。やばい。ローラだけでなくヘンメルも好きだと認めてから、どんどんヘンメルが魅力的に思えてくる。かわいい顔がきりっとしているのっていじましくていいよな。

 でも俺の一番はローラだよ。それは天地がひっくり返ってもひっくり返らないよ。だから安心していていいよローラ。

 ヘンメルはベラルドを捕捉し撃ち込んだ一本の鎖を残して他を巻き取り腕に納める。その一本の示す方向に向かって俺たちは飛翔する。

「目標は動いていません」

「サーチの鎖を撃ち込んだのを気付いているのに動かない。迎え撃つ気ね。グールを展開して待ち構えているわよ。警戒して」

「ラジャー」

 俺たちはソードとシールドの魔術で武装する。剣と盾。一番使いやすく万能だ。グールがどんな強さなのかわからないから、とりあえず対応力を重視する武装だ。

 スケルトンもゾンビも想像とは違った。強すぎた。もしスケルトンをぶつけず直接ゾンビと戦っていたら、やはり敗北していただろう。少ないならともかく数が多すぎて対処不能だった。

 それより強いグールに対抗出来るのだろうか。いや、奴らは数が少ない。相性の問題もある。きっとなんとかなる。なんとかする。

 魔術師は強敵と戦い学ぶ。強い敵にびびるのではなく教えを請うつもりで挑むのだ。授業料は自分の命。もちろん勝てば支払わなくて済む。

 それにグールは何とかいなせばいい。強すぎるなら倒さなくてもいい。ベラルドを倒すことが最優先だ。

 木々の向こうに大きな屋敷が見える。木で作った屋敷。たぶんアンデッドたちに造らせたのだろう。素人の仕事に見える。その回りにうごめく人影が数体いる。

「あれがグールか」

 スコープの魔術により視認出来るなら離れていてもはっきり見える。干からびた肉が骨に張り付いたガリガリの亡者。グール。爪と牙に麻痺毒を持ち、食らえば麻痺をエンチャントされる。

 自然の毒なら魔術師は治癒出来るが、魔力による毒は解毒、キュアの魔術を使わないと解除出来ない。だからもし一人で麻痺毒を食らうと動けなく、解除も出来ないから無抵抗で殺されてしまう。

 もし三人とも麻痺させられたらおしまいだ。俺たちは散開し、まとめてやられないようにする。

「私とブラッドでグールの相手をする。ヘンメルはそのまま屋敷へ突入。ベラルドを目指して。でも戦わなくていい。私たちもすぐに続く。他に何か手を打ってくるかもしれない。それを阻止しておいて」

「ラジャー」

 ヘンメルが少し下がる。俺とローラが前に立ち、道を切り開く。

「おおおおおお!」

 グールたちに立ち向かう。なんて恐ろしい形相だ。これは怖い。スケルトンやゾンビはまだかわいげがあるくらいだ。上級のアンデッドだけはある迫力だ。

 グールは両手の爪を振り回す。早い。しかしスケルトンほどではない。何とか対応出来る程度だ。

 シールドで受け止め受け流す。飛びかかってきたグールはそのまま俺の横を飛び、木に着地するとそのまま横っ飛びでまた向かってくる。

「うおおお、おおおお」

 グールの数は少ない。しかし俺にもローラにも三、四体くらいがひっきりなしに飛びかかってくる。あの爪や牙を受けるわけにはいかない。自然と防戦一方になり、なかなか攻撃出来ない。

 ヘンメルは加勢しようかどうか一瞬迷ったようだが、指示通り屋敷に突入する。もし敵が何らかの大魔術を準備していたらやっかいだ。それをさせないために早く対峙しないといけない。

 グールたちの猛攻。木々を飛び跳ね四方八方から襲ってくる速度と力はかなりの物だ。手こずる。

「ぎゃばっ」

 濁った悲鳴が聞こえる。グールの声だ。

 ローラがホーリーのエンチャントをかけた剣でグールを斬り、一体倒した。

「あははっ。まずは一体。 あらブラッドどうしたのお? まだ一体も倒せていないじゃない」

 くそ。この間決闘でさんざん倒したのを根に持っているな。

「うるせえ。負けるか。見ていろ」

 俺はより集中する。一瞬よりも少ない一刹那の隙を生み出すために剣と盾を上手く使い、グール共を攻め立てる。

「ホーリー!」

 剣にエンチャントする。白くまばゆい聖なる光に包まれた剣で、口を開いて牙をむき出しにして襲ってきたグールを真っ二つにする。グールは悲鳴を上げながらぼろぼろと砕け散り消滅する。

「へえ、やるじゃない」

「そっちもな」

 ぞくぞくする。楽しい。うれしい。

 あのローラと肩を並べて戦えている。

 ちょっと前までの俺ならローラにまるでかなわなかった。しかし今は違う。同じレベルで戦える戦友になれたんだ。

 ローラが一体倒せば負けじと俺も一体倒す。グールの数が減るほどより戦いやすくなる。気付けばグールは残り一体だけになっていた。

「私は四体。私の勝ちね」

「俺が四体、お前は三体だろ」

「数も数えられないの? これだから馬鹿は」

「お前こそ数え間違いだろ。認めろよ」

 俺たちは笑いながらののしり合う。口喧嘩すら楽しい。ローラと対等で、一緒に戦える。幸せだ。

 ああ。俺は愛するローラにもう引け目を感じる必要は無い。強くなった。そしてこれからも、一緒にどんどん強くなる。

「こいつを倒した方が勝ちってことでどうだ」

「いいわね。乗った」

 俺たちは高速で向かう。一体のグールに二人でかかれば負けるわけがない。爪を振りかざし襲ってくるグールを俺たちは同時に叩き斬る。

「いっけない。振り切ってすぐヘンメルを追うはずだったのに全部倒しちゃった」

「しょうがねえだろ。こいつら振り切るほどの隙は無かったんだから。倒すしかなかった」

「それにしても、たしかに強かったけどこれが最強のアンデッドなの? スケルトンより弱くない?」

「俺たちが強くなったんだろ。スケルトンとの戦いとか、スケルトンとゾンビの集合した巨人を倒したからな」

 魔術師は自分より強い敵と戦い学び強くなる。人間とは学習能力が違う。小さい頃から訓練で、そういう能力を鍛えてきた。

 スケルトンより遅いグールは剣と盾で十分対応出来る速度だった。隙を生み出しホーリーの一撃を食らわせる。それで倒せる相手だった。

「今ならもう、スケルトンでも倒せる気がするぜ」

「そうね。自信も実力の内。形はどうあれ私たちはスケルトンもゾンビもグールも倒した。その分だけ強くなっている。そう自負する分だけより強くなれるわ」

「そうか。そうだな」

 俺たちは意気揚々と屋敷に突入する。ローラはデバイスの魔術でヘンメルに通信する。

「ヘンメル。屋敷に突入したわ。そっちはどう?」

 返事が無い。

「ヘンメル? 応答して、ヘンメル」

 何だ。やばいぞ。俺もデバイスの魔術でヘンメルに呼びかける。

「ヘンメル。俺だ。ブラッドだ。聞こえていたら返事しろ」

 返事が無い。ローラと顔を見合わせる。

「やばいぞ。どういうことだ。先に突入させたのはまずかったか」

「そんなことはないわ。ヘンメルはちゃんと、相手の足止めぐらいなら出来る。やられるようなうかつな行動はしないわ」

「罠でも張られていたんじゃないのか」

「考えにくいわね。これだけ周囲を多数のアンデッドに守らせていた。あれだけ強いアンデッドたちだもの。その防御に絶対の自信を誇っていたはずよ。ちまちました罠なんか張るとは思えない」

「それはロードの傾向なだけだろ。ロードは自分の支配した者たちに絶対の自信を持つ。驕る。頼る。他に頼るのは自信が無い証拠。そんなみっともない真似はしない。あくまで一般論だ。例外もいる」

「それは……ん……とにかく今はヘンメルを探そう」

「わかった」

 責任だの失態だのを言い合っていても仕方ない。この緊急事態を何とか打開しないといけない。

 ぞくりと、寒気が襲った。

「危ない!」

 何かわからない。でも嫌な予感、殺気があった。俺は並んで飛翔するローラを突き飛ばす。

「何?」

 突き飛ばされたローラが俺の方を見る。その顔が驚愕に歪む。

 俺の背に鋭い爪が突き立てられた。

 全身に猛烈な痛みが走る。身体が麻痺する。しかし口すら麻痺して叫ぶことも出来ない。

 グールの麻痺毒だ。まさか。まだグールが屋敷にいたのか。隠れて俺たちを不意打ちしたのか。

「ベラルド!」

 ローラが叫んだ。

 何だって? この背に突き立てられた爪は、この麻痺は、グールの物だ。どうしてベラルドなんだ。ローラは一体、俺の背に何を見ているのだろうか。

posted by 二角レンチ at 12:55| 魔術師の深層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月26日

共生する病(16)巨獣病

共生する病(16)巨獣病

 巨獣は理性無く暴れ回っている。動きは単純だ。他の人間たちのように、僕もタイミングを見計らって奴に突進する。

「う、おおお」

 暴れる巨獣の動きに合わせ、一緒に動くようにして身体の表面と併走する。そして触手を伸ばす。先端を吸盤にした触手数本で、奴のぬるりとしたすべすべの体表に張り付く。

「わ、わわわ」

 凄まじい勢いで引っ張られる。触手を縮め、奴の身体にびたっと張り付き振り落とされないようにした。

「奴は転げ回っているんだ。張り付いているだけじゃすぐ潰されるぞ」

「わかっているよ」

 奴は取り付いた人間を潰すために、何度も地面を転げ回っている。だから多くの人間は張り付いたりせず攻撃と離脱を繰り返しているのだ。僕たちみたいに奴の体表に張り付いているのは少数だった。

 僕は触手を伸ばす。先端を吸盤にした触手を伸ばし、奴に張り付けては引っ張って移動する。高速で移動し、でも振り落とされないようにしないといけない。

「うわわわうおおおお」

 奴の巨体が転げる速度は暴風のそれだ。それを上回る速度で移動する。一瞬でも気を抜いて振り落とされたらおしまいだ。一瞬でも遅れて巨体と地面の間に挟まれても死ぬ。

 奴の頭部を目指して疾走する。すごい緊張。恐怖。しかしそのスリルが楽しい。ぞくぞくする。僕は化け物になった。弱い刺激じゃ満足出来ない身体になった。この強烈な刺激に僕は生きる喜びを感じ、口が笑みに歪んでしまう。

「どうだセクタ。危険は、スリルは、命の危機は楽しいだろう」

「うん。そうだね。初めてそれを実感している。その危機を自分の力でねじ伏せ乗り越える達成感がたまらないよ」

「こいつをぶっ殺せば最高に楽しいぜえ。ひひひ。奴の脳の位置は特定出来たか」

「うん。触手で触れて解析した。やはり生物だ。自在に脳の位置を変えるとか身体の一番奥に隠すとかは無理なようだね。頭にあるよ。今向かっている」

「そうか。今までは脳を掘り出すまでにこっちが耐えきれずに吹っ飛ばされた。脳を守って生き延びるのがやっとだった。しかし位置が特定出来ているなら話は別だぜ。振り落とされる前に掘り出して爆破してやる。奴は身体に取り付かれたままだとそれを潰すためどんどん激しく転げるようになる。その前に殺すしかない」

「わかった。あ。あれは」

 僕が向かう途中で、さっき別れたばかりなのにひどく懐かしい気がする姿を見つける。

「プリズマ!」

 彼女は数多くの車輪を身にまとい、それで戦車のキャタピラのようにして巨獣の体表に張り付いていた。

「セクタ様。ラーキット。よかった。ここまでは来られたのですね」

「おいおいプリズマ。セクタを甘く見るんじゃねえよ。こいつは凄いんだぜ。格好いい。俺はすっかり惚れちまったよ。さっき告白したんだ。今は返事待ちさ」

「ちょっとラーキット」

「そうですか。それはよかったですね。ラーキットはすごく上手なんですよ。たっぷり肉欲の沼に溺れてください」

「僕はミリカ以外と付き合ったりしないよ」

「おいおい。こんないい女が口説いているんだぜ。フるなんて男のすることじゃねえだろ」

「そんなことは後にしましょう。セクタ様。セラキストの脳の位置は特定出来ましたか?」

「うん。今向かっている」

「よかった。その途上にいなかったら合流出来ないところでした」

 僕たちは一緒に目的地に向かう。暴れる巨獣に振り落とされないよう、転げる巨体の表面を駆け上りぐるぐると回りながらようやく到達する。

「ここだ。ここが一番脳に近い」

「はい」

 プリズマが車輪を袖からたくさん飛ばす。ぬるんとした巨獣の肉を斬り裂き掘り進む。

「うわっ」

 また巨獣が転がる。表面を伝いながら一端その場を離れる。

「のんびり掘っている時間もないな。大丈夫?」

「任せてください。私の車輪の群れは数キロまでなら情報を伝達し合って操れます。しかし今は、撃ち込んだ車輪に単純な命令をあらかじめ与えておくだけで済みますから。もう一度さっきの場所に行く頃には肉は堀り終わっているはずです」

「次は骨だね。ラーキット。こいつの頭蓋骨は分厚いよ。破壊出来る?」

「もちろん。首から下を切り離す。俺の爆弾は肉体を切り離して爆弾にするのが一番破壊力がある。ったくプリズマの車輪は破壊力が足りねえ。骨が硬いと削れないときたもんだ。世話が焼ける」

「くすくす。あなたの爆弾は単純な破壊だけじゃないですか。私の車輪のようにあれこれ出来ない単純馬鹿の世話は苦労します」

「何だとこら」

「ちょっと。こんなときに喧嘩しないで」

「じゃれ合っているだけですよ。いつものことじゃないですか」

 本当にそうなのか。さっきラーキットが僕に告白したと言ってから、二人はいつもよりギスギスしている気がする。

 単なる嫉妬ではない。二人は利用し利用される関係だ。そして最後には互いの目的のために殺し合う。利用し尽くしたらあとはきっちり始末する。だからラーキットは僕を懐柔しプリズマに対抗するつもりだし、それを言われたプリズマは内心穏やかではいられないのだ。

 どうしてわざわざ言ったんだラーキット。二人の思考がわからない。危険をより楽しむために、あえて敵対心を隠さない。これからも一緒に旅をし死線をくぐり抜けるというのにそんなんでやっていけるのか。

 転げ回る巨獣の体表を移動し地面との間に挟まれないようにしながら、再びさっき掘っていた地点に戻ってくる。

 プリズマの車輪が分厚い肉を掘っていた。ぼっかり空いた大きな穴。飛び散った肉片と流れる血。血の池とはこういうものか。車輪がガリガリと、硬い骨を削ろうと頑張っている。

「よしセクタ。俺の首から下をこの穴に投げ込め」

「うん」

 触手でラーキットの頭だけをつかむ。彼女は腕と胸半分が残っている身体を首から切り離す。

 何だか奇妙な気分だ。ラーキットの首を抱えながら、その身体を穴に投げ込んだ。

「離れろ」

 言われるまでもなく後退する。穴の中で轟音が響き、穴から噴水のように爆煙と血と肉や骨のかけらが噴出する。

 巨獣は凄まじい雄叫びを上げる。反射的に大きく頭を振る。僕は触手で張り付いているが振り落とされそうになる。

「プリズマ!」

 プリズマの車輪がばらばらと舞い散る。プリズマはあまりの激しい動きに耐えきれず、振り落とされた。

 とっさに触手を伸ばす。でも届かない。間に合わない。プリズマははるか遠くへ弾丸のように吹っ飛んでいく。

「プリズマああああああ」

「心配ねえよ。頭だけはなんとかして守るだろうぜ。それでも生きている確率は五分五分だな。これで死んじまったら楽なんだが」

「何言っているんだ。プリズマは大事な仲間だ。目的を果たすために必要なんだろ」

「お前がいればあいつは必要無いかもな。まあ生きていりゃあ利用価値はある。また仲良くお仲間ごっこに加えてやるさ。それよりセクタ。とどめだぜ。奴の頭蓋骨まで破壊した。あとは脳があるんだな? あと爆弾は一発しか生成出来ない。これで本当にとどめをさせるんだな?」

「う、うん」

「ならぶちこむぜ。今セラキストは頭蓋骨を爆破された衝撃でけいれんしている。もう一度暴れたら今度こそ振り落とされちまう。プリズマの二の舞だ。決めるぜ。爆弾を投げ込め」

 首だけのラーキットは口をあんぐり開ける。口が裂けるかと思うほどめりめりと、口からカボチャを出す。

「カボチャ爆弾だ。こいつはとびきりの破壊力だぜ。さっきの身体爆弾ほどじゃないがな。最後の一発だ。首しか無いからこれ以上爆弾を生成出来ない。本当に頼むぜ。こいつで殺せなかったらもう手はねえ」

「大丈夫だよ。僕を信じて。奴の脳に到達している。これで殺せるよ」

 僕はラーキットのカボチャ爆弾を、血塗れで煙を噴いている穴の中に放り込む。

「よし。離脱だ。さっきのけいれんがまた来るぞ。今度こそ振り落とされる。逃げろ。急げ。すぐに爆発する」

 僕は触手を駆使して高速で走る。獣の身体から滑り落ち、地面に降り立つ。

 上空で爆音が鳴る。後ろを見るとさっき爆弾を投げ込んだところから爆発と爆煙が舞い散っている。

「ぎえええええええぎゃああああああああ」

 獣が吠える。この世の物とは思えない悪魔の絶叫。そして激しくけいれんした。

「うああああああああ!」

 とっさに飛び退く。しかし脚が奴の身体の下敷きになる。

「ぎゃっ」

「切り離せ! 離脱しろ、急げ」

 ラーキットが叫ぶ。僕は先端をメスにした触手数本で踏み潰された脚を切断する。

「いぎっ、ぎぎぎぎぐぐぐ」

 痛みに耐えながら必死に触手を伸ばす。移動する。逃げる。転げる巨体が迫ってくる。追いつかれないよう触手を必死に手繰り、伸ばしながら飛ぶように逃げる。

「逃げた方向が悪かったな。ほれほれ逃げろ。踏み潰されちまうぞおおおおお」

 ラーキットはこんな状況でも楽しんでいる。自分も今すぐ潰されて死ぬかもしれないというのに。なんて奴だ。

 僕は今、楽しむ余裕が無かった。片足を切断した痛みに歯を食いしばりながら、でも集中を途切らせることは許されない。必死に猛烈な勢いで転がってくる巨獣から逃げ続ける。

「ううううあああああ」

 逃げきれない。

 とっさに反転し、巨獣の身体に取り付くと、急いで駆け上った。

「お、お、やるなセクタ。ははは。いいぞ」

 転がる巨獣を駆け上り、そして向こう側に至って駆け降りる。地面に着地すると勢いがつきすぎて止まれない。僕は地面を激しく転がりながら、通り過ぎてなお転がっていく巨獣を見る。

 町は滅茶苦茶だ。巨獣が転がった跡は地面も建物も木も、そして人も潰れ砕かれひしゃげてしまっていた。

 はるか遠くで、ようやく巨獣が止まる。何キロ転がったんだ。町の外壁まで到達し、それを破壊してようやく止まった。

「はあ、はあ、はあああ」

 僕は全身血塗れだ。転がったせいであちこちをひどく打ちつけて肉が裂けていた。骨もところどころ折れているようだ。何といっても切断した脚が痛い。

 ラーキットは首だけだ。傷口がひどく痛いはずなのに笑っている。

「あはははははは。面白かったなあ。ええセクタ。お前やさしいなあ。あんなに転がったのに俺を抱きかかえてくれてよお。守ってくれたんだな。惚れるぜ。男に守られるってなあ、女冥利に尽きるぜ」

 たしかに、自分が死にそうだったのに僕は無意識にラーキットを抱きかかえ、転がる中でも傷つかないように守った。おかげで僕の腕はぼろぼろだ。肘が砕けている。

 どうしてそこまでしたのだろう。転がる程度ならラーキットは傷ついても大丈夫だ。でも首だけでも美しいラーキットの顔にけがさせたくはなかった。

「動けるか。セクタ。奴を殺せたかな? 確認しに行こう」

「うん」

 僕はもう自分では動けない。触手をよろよろと動かし地面をひきずるようにして移動する。

「急げよ。奴が生きていたらとどめを刺さないといけない」

「わ、わかったよ」

 こき使ってくれるなあ。僕は全身の痛みに歯を食いしばりながら、触手を動かし高速で移動する。

 遠くに見える巨獣はどんどん小さくなっていった。僕たちがたどり着くころにはすっかり人間の姿に戻っていた。

 美しい女だと思う。しかし頭の一部が抉れ、脳は残っていないようだ。手足が一本ずつ損なわれ、腰も半分抉れている。全身傷だらけだ。人間たちに傷つけられた哀れな姿だった。

「ちっ。顔が残っていやがる。忌々しいのに踏みつけることも出来やしねえ。まあいい。見物といこうぜ」

「見物?」

 周りには人間たちが集まっていた。さっき一緒に戦っていた人たちもいる。

「こいつがさっきの巨獣か」

「なんて奴だ。あんな症状は見たことが無い」

「くそ。町を滅茶苦茶にしやがって。外壁まで壊して、外の連中が入ってきたらどうするんだ」

「それよりなにより、大勢殺しやがって。俺の妻は家ごとぺちゃんこだ」

「私の子供を返してよ。この悪魔」

「脳がぶっ飛んでやがる。もう死んじまっているぜこいつ」

「構うものか。殺せ殺せ。もっと殺せ」

 セラキストは脳を爆破されもう死んでいる。それでも住んでいる町を破壊され、家族を、友人を殺された人たちの恨みは尽きない。残った身体を大勢の人間が争うようにして傷つけ蹂躙していった。

 ラーキットは僕の腕の中で、美しいセラキストの顔が踏みつけられ切り刻まれ殴られつばを吐きかけられるのを見て、プリズマみたいに暗い笑顔でにやにやしていた。

posted by 二角レンチ at 12:39| 共生する病 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月25日

魔術師の深層(21)巨人

魔術師の深層(21)巨人

 ばらばらに分解した骨の雪崩がゾンビの群れに突進する。

 ゾンビの群れは大轟声を上げながらそれを迎え撃つ。

 ドスドスと骨がゾンビの肉に突き刺さる。包むようにしてあばらの牙を突き立てる。歯の並んだあごで肉に食いつき汚い汁を飛び散らせる。

 スケルトンが優勢だ。ゾンビは手も足も出ない。どっちが勝っても困るのだがとりあえずスケルトンを応援する。

「おお。すげえな。やっぱりスケルトンの方がゾンビより強いんじゃないか」

 俺の横にいるボーンボーンは骨を紅く染めて照れる。

「いやあ。ははは。そうですよね。やっぱりスケルトンの方が強いですよね。今までは下級だから逆らうなと言われて従っていましたが、やはり拳を振りあげてよかった。あなたには感謝しています。きっかけを作ってくれてありがとうございます」

「ありがたついでにちょっと逃がしてくれないかな」

「駄目です。あなたたちは大事な賞品です。勝者は賞品で報いないといけません。私たちはあなたたちごちそうを楽しみに張り切っているのですよ」

 ちくしょう。やっぱり逃がしてくれない。でもあきらめないぞ。

 魔術師は最後の一刹那まで死力を尽くす。捕虜になって食べられるなんて名誉の戦死じゃない。こんなことで死んでたまるか。

 ゾンビたちはスケルトンの骨に貫かれ、動きが止まる。勝負あったな。そう思った。

 しかしゾンビたちは、一斉に笑い始めた。

「はっははは。骨どもが。これがどうした。ほれほれ。倒してみろよ」

 何だ。ダメージを受けていないのか? いや、あんなに全身骨に刺されて平気なわけがない。

 ドロドロと、骨が朽ちていく。溶けていく。何だ。あれはまるで。

「いけない。下がれ!」

 ボーンボーンが命じると、ゾンビに突き刺さった骨たちが飛び出す。空中で渦を巻きながら悲鳴を上げる。

「ゾンビはただ腐っているのではありません。強力な消化力を持ちます。肉が再生しているにもかかわらず自らの消化液で肉を溶かし腐敗させます。その消化腐敗力は凄まじく、骨といえど腐らせてしまうのです。奴らが腐らせられない骨は自分の骨だけです」

 何だと。普通肉は腐っても骨は腐らない。その骨すら腐らすだと。ゾンビが腐っているのは自分の肉を自分で消化し腐敗させているからなのか。

「骨を突き刺せても倒す前に腐らせるってわけか。どうするんだ」

「なら蹴散らすまでです。突風!」

 ボーンボーンが指示すると、空中で渦巻いていた白い骨の舞いが竜のようにうねりながら降下する。圧倒的な暴風となってゾンビたちに襲いかかる。

 ゾンビたちを粉々に砕く。吹き飛ばす。骨を突き刺し留まれば腐敗させられる。しかし突風のように次々骨を当てて肉をちぎり飛ばせば腐敗させられる前に倒せるってわけだ。

 ゾンビが次々と砕け散る。再生すればまた壊す。その繰り返しがえんえん続く。

「なあ、これもうお前たちの勝ちじゃないのか。というか再生するんだから決着はつかないんじゃないのか」

「まだです。来ますよ」

「何が」

 飛び散る腐敗した肉片。しかしそれが渦を巻き、スケルトンたちの突風に負けじと荒れ狂う。

 そして汚らしい肉片の渦が凝集する。全てが集まり一体の巨人となる。

「な、何だあれ」

「ゾンビは合体能力を持ちます。巨大ゾンビ。圧倒的なパワーを持ちます」

 巨大なゾンビが拳を振るう。雪崩のように襲ってくる骨の嵐を左右の拳で打ち落として払う。

「何だ。えらく強いぞ。ゾンビってこんなに強いのか」

 木々をなぎ倒し暴れる巨人に、骨の嵐はまるで壁にぶつかるそよ風のように簡単にいなされる。

「パワーで負けています。こっちも合体です」

「スケルトンはスピードが売りだろ。パワーは肉の重みを持つゾンビにかなわないんじゃないのか」

「骨にはやらねばならぬときがあるのです」

 ボーンボーンが命令すると、骨の嵐が凝集する。骨で作られた巨人となる。白い巨人が汚い色の巨人とがっぷり四つに組み合い力比べをする。

「すげええええ。格好いい。巨人同士の対決だあ。燃えるううううう」

 捕らわれている危機を脱しないといけないのだが、俺は男の子らしくこういうのを見ると血がたぎる。巨大なのが戦うって燃えるよなあ。

「いけ、押せ、やっちまえ」

 俺は拳を振りながら骨の巨人を応援する。

 しかしやはり骨の巨人は、重くパワーにみなぎる肉の巨人に力負けする。ぐいぐいと押され倒れそうだ。

「あああ、ちくしょう。頑張れ」

 俺は声の限り応援する。夢中になる。熱いバトルを観戦するとのめり込む。隣で見ているボーンボーンも声を張り上げる。

 俺もボーンボーンも必死に応援する。その声援を受けてか、骨の巨人がわずかに肉の巨人を押し返す。

「うおおおお、いけるぞ。やれる。そこだ。一気に盛り返せ!」

「やれますよ。骨には肉はありませんが意地があります。肉にあぐらをかくゾンビなんかに負けてたまりますか」

 潰される寸前だった骨の巨人が、肉の巨人を押し返す。再び両者が互角に立ち、両腕で押し合う。

「やったあ。すげえすげえ。あそこから盛り返したぞ」

「いけますよ。そのまま。頑張って。みなさんならやれます。そこから一気に倒してしまってください」

 俺たちの願いが通じたのか、骨の巨人が肉の巨人をじりじりと倒していく。

「すっげえ。本当に倒せそうだ。いけいけいけいけ」

「そこですよそこ。ふんばって。あと少しで倒せますよおおおおおおお」

 熱狂する。骨の巨人は力を振り絞り、白い骨が紅く染まっている。

「いっけえええええええ!」

「ぎゃあああああああああ!」

 ぎゃあああ?

 俺は横で一緒に骨の巨人を応援していたボーンボーンを見る。

 ヘンメルが、いつの間に出したのかソードの魔術で生成した剣でボーンボーンを頭から真っ二つに割っていた。

 その剣は白く光っている。ホーリーのエンチャントだ。アンデッドの再生を封じ一撃で倒す魔術だ。

「ぼさっとしない。いくわよブラッド」

「え? お、おう」

 俺はローラと共に駆ける。ソードの魔術で剣を出す。

「奴らは凝集して一体になっている。今なら一撃で倒せるわ」

「わ、わかった」

 俺とローラは、戦闘に集中して周りが見えていないアンデッドの巨人に剣を振りかざす。ホーリーの魔術で白く光る刃で切りつける。

「ぼぎゃあああああ!」

「ぎょばあああああ!」

 ホーリーの魔術の白い光が巨人の全身に駆け巡りほとばしる。骨の巨人も肉の巨人も粉微塵になり吹っ飛ぶ。

「おお……すげえ……」

 骨も肉も白い光に包まれ飛び散る様はまるで花火だ。壮大な花火を間近で見てその美しさに圧倒される。

「ふう。助かったわね」

 ローラがにっこりほほえみかけてくる。

「あ、ああ。助かった。しかし何だな。何というか、勝った気がしないな」

「勝ったじゃない。魔術師は結果で判断される。過程は問題じゃないわ」

「そ、そうだな。そうだよな」

 ヘンメルがてててと駆けてくる。そして両手を開いて上げる。

「大勝利。ね」

 ヘンメルはにっこり笑う。

 俺だけでなくボーンボーンも骨と肉の巨人対決に夢中になった。あの状況でいきなり隙をついた機転と度胸と冷静さ。さすがだぜヘンメル。

 ローラも手を上げる。俺も手を上げる。三人で輪になり、両手を互いにぱんと合わせる。

「大勝利。やったああああああああ!」

 俺たちは勝った。あんなに強くてかなわないスケルトンや、それすら圧倒するゾンビを倒したんだ。

 俺たちははしゃいだ。大勝利に歓喜した。踊るように飛び跳ね叫んだ。

 だってそうしないとやりきれない。何だこの戦い。まるで勝った気がしない。

 でも魔術師は馬鹿ではない。知恵を駆使して自分より強い敵に勝つ。それが魔術師だ。人間みたいに自分より弱い相手にしか勝てないようでは生き残れない。

 これでいい。これが正しい。何も疑問に思ってはいけない。空しく思ってはいけない。

 実力で相手をねじ伏せたいなら強くならなければならない。弱い負け犬の遠吠えなんざ魔術師はしないんだぜえええええ!

posted by 二角レンチ at 13:58| 魔術師の深層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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