2013年07月31日

牢獄館のお嬢様(7)散髪戦闘

牢獄館のお嬢様(7)散髪戦闘

 マリーコートは両手のハサミをチョキチョキさせながら、ゆっくり軽快に踊っている。

 ポニーテールがふりふり揺れて、とてもかわいらしい。かわいい服。細身で長身の美人だからかわいい系の恰好は似合っていないが、それでも美しいのだからすごい。

 まあ世界の七美女の一人である私には遠く及ばないが。なぜかうらやましいと思ってしまうから不思議だ。

 本当に楽しそうに踊るなあ。見ていて飽きない。

 でもこうしてはいられない。早く散髪を終えてこの部屋を出ないといけない。

 私はマリーコートにしずしずとお上品に近づいていく。

「マリーコート。お楽しみのところ申し訳ないですけれど、髪を切ってくださらない?」

「はいー。シズカお嬢様のお望みならー」

 マリーコートは両手のハサミを揃えて私の目の前に突き出す。

「髪以外は切らないでお願いしますね」

「了解ですー」

「お嬢様らしい、素敵な髪型にお願いしますね」

「了解ですー」

 軽い。軽すぎる。まるで信用出来ない。

 やはりビルピオーネの言う通り、私が上手くかわしながら切られるしかないようだ。

 大丈夫だ。やれる。さっき飛び退いたときのスピード。私はこの館で最も強いお嬢様だ。だからルールにより誰よりも強く早い。

 自信を持って冷静に対処すれば上手くいく。いや、やらなければならない。

 私は覚悟を決め、マリーコートに背を向ける。

「それじゃあお願いしますわ」

「了解ですー」

 マリーコートはハサミを両手で掲げてにっこり笑う。

 私は一面だけある巨大な鏡を向き、マリーコートに背を向ける。

 こうして鏡を見ていれば、後ろの髪を切られる間もマリーコートの動きが見える。

 マリーコートはチョキチョキと、軽快に両手のハサミで髪を切る。切られた髪はすいすい飛んで、遠くにあるゴミ箱に吸い込まれていく。

「へえ。便利ですわね」

「そうでしょー。お嬢様をお汚しになったりしませんよー。うふふ」

「おほほほ」

「うふふふふ」

「おーっほっほっほ」

「うーっふっふ、ふ!」

 マリーコートが突然、ハサミを閉じて私の後頭部めがけて突いてきた。

「うおおおおっ」

 私は警戒していたから、何とか反応出来る。とっさに横に飛ぶ。

 向こうからビルピオーネが突進してくるのが見える。私を助けに来るのではない。またうおおおなどとはしたない声を上げて避けたから、おしおきのビンタをしにくるのだ。

「うおおお……おおおーっほっほっほ!」

 私は指を揃えてぴんと反らし、口元に添えて高らかに笑う。

 ビルピオーネがぴたりと止まる。彼女は私がお嬢様らしからぬ振る舞いをするとビンタで躾る。しかし逆に言えば、お嬢様らしく振る舞う限りそれは出来ない。

 きっとルールで縛られているのだ。私を躾るときだけ手を出せる。それ以外はお嬢様に手を上げることが出来ないのだ。

 ギコギコと、鋸のような歯ぎしりがここまで響いてくる。ビルピオーネがビンタ出来ず、くやしがっておられる。

 私はニヤリと笑う。しかしすぐに笑顔がひきつる。

 鏡に映る私の背後に、マリーコートが迫っていた。

「シズカお嬢様ったら、散髪中に動いちゃ駄目ですよー」

 ボッと凄まじい音を立てて、マリーコートがハサミを振るう。

 仰け反って避ける。私の髪が切断される。切られた髪ははらはらと宙を舞い、するっと飛んで遠くのゴミ箱に呑み込まれていく。

 ゴオンゴオンと、まるで巨大なハンマーでも振るうような轟音を立てて、マリーコートは両手のハサミで私に切りかかってくる。

 私はそれを必死で避ける。徐々に髪が切り刻まれていく。どんどん髪が短くなってくる。

「あはー。お嬢様。散髪がお上手ー」

 あんた美容師でしょうが。そっちが上手じゃないといけないのに、切るしか能が無いってどういうことだ。

 ただかわすだけではいけない。上手く髪を切らせ、しかも切りすぎても変な髪型になってもいけない。何て難易度の高いルールなのだ。

 マリーコートのハサミの連打は凄まじい。しかし館のお嬢様というルールに縛られた今の私はその圧倒的なスピードを見切り、しかもかわすだけの敏捷さも兼ね備えている。

 この調子なら。慣れてきたおかげもあり、私は髪型を整えるべく上手く首を振りながらハサミをぎりぎりで避け、髪を切らせる。

 マリーコートはにこにこしている。

「ちっ」

 え?

 今、舌打ちした?

 マリーコートは思い切り私の足を蹴り飛ばした。

 なっ。

 美容師が客の足を蹴るなんて。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。驚いている場合じゃない。

 何て奴だ。両手のハサミで頭周りに意識を集中させ、注意がお留守になった足を蹴るなんて。

 マリーコートの蹴りはとても強く、私は両足を蹴り飛ばされ空中でぐるっと回転した。

 そこへマリーコートの両手のハサミが迫る。刃を閉じて、明らかに突き刺そうとしている。

 それ散髪じゃないでしょおおおおおお。

 彼女はじゃれているだけだ。お友達になったお嬢様を切って刺して遊ぶのが好きな子なのだ。

 今この瞬間、彼女は世界の七友達になりたくない子にランクインした。

 そんなことを考えている場合じゃない。かわさないと。

「ぐおおおおっ」

 私がうなってハサミを避けようとすると、またビルピオーネの殺気が感じられた。

 やばい。お嬢様らしく言い直さないと。さっきと同じように、笑ってごまかすことにする。

「ぐおお……ごーっほっほっほ」

 しまったああああああ。

 これじゃゴリラだあああああああ。

「はしたないいいいいいい!」

 ビルピオーネの金切り声が鳴り響く。それは心なしかうれしそうだった。

 ゴキゴキと骨が折れる音がする。いや違う。ビルピオーネが腕の関節を増やしている音だ。

 関節を増やして伸ばした腕が飛んでくる。私のほほを平手でぶつと、そのまま向こうへ吹き飛ばす。

 ぎゃあああああ。

 私は受け身を取れず、床を猛烈な勢いで転がった。

 さっきまで私のいた場所では、マリーコートの両手のハサミが空しく宙を突いていた。

「なーにー。ビルピオーネ。邪魔しないでよー。お嬢様と遊んでいるのにー」

「邪魔などしていません。これは躾です。お嬢様を立派なお嬢様に調教……躾るのが私の趣味……役目でございます」

 ビルピオーネ。その言い間違いはわざとだろう。私を調教するのが趣味だと私に言い聞かせているのだろう。

 主を調教するのが趣味のメイドなんて、この世にいてはいけない。それが私のメイドだなんて世界の七世紀末だ。つまり世も末だということだ。

 マリーコートはハサミを構える。

「邪魔するならあんたから先に散髪しちゃうよー?」

 おお。いいぞいいぞ。やれやれ。二人で潰し合ってまた漁夫の利ばんざーいだ。

「邪魔などしません。存分にお戯れください」

 ゴキゴキと、ビルピオーネは関節を減らして腕を縮めた。

 あれ。上手くいかないぞ。

「そーおー? じゃあお嬢様ー。あと少しですからじっとしててくださいねー」

 マリーコートはまた両手のハサミを振りながらくるくる踊り、私に近づいてくる。

 ちくしょう。あと少し。もう少し切ればお嬢様らしい愛くるしいショートヘアが完成する。

 マリーコートは足癖も悪い。さっきは本当に虚を突かれた。やばかった。でももう警戒出来る。

 もしかして、ビルピオーネは躾にかこつけて私をピンチから救ってくれたのだろうか。

 まさかな。私にビンタを食らわしたメイドは、無表情なくせにぐっと拳を握ってガッツポーズをしているではないか。

 私が見ると、彼女ははっとして拳を下ろし、あさっての方向を眺めた。

 くそ。あいつごまかすときはいつもこれだな。逆にごまかしているのが丸わかりだぞ。推理は苦手だが推理力だけなら世界の七探偵に入る私にばれていないとでも思っているのか。馬鹿メイドめ。

 私はお嬢様らしく、長いスカートの左右をつまんでついっと上げる。

「マリーコート。あなたと遊ぶのは楽しかったわ。でも私は行かねばなりませんの。これでおしまいにさせてもらいますわ」

「えー。そんなー。もっと遊んでくださいよー」

 マリーコートはにこにこしながらゆっくり踊り、間合いに入った途端急激に襲いかかってきた。

 落ち着け。見える。あとは上手くかわすだけ。

 私はお嬢様だ。ただかわすだけではない。優雅に踊るようにかわすのだ。

 ひらりひらりと舞う。そして紙一重で髪を一枝ずつ切らせる。

「なー?」

 マリーコートがあっけに取られる。

 ふふん。私だって学習しているのだ。

 ルールが構築されている。ルールは公平。必ず勝ち目があるようになっている。勝てないルールは構築出来ない。

 なら攻略のヒントだってあるはずだ。マリーコートはさっきから踊っていた。それがヒントだ。ただかわすだけでは攻略出来ない。私がお嬢様らしく振る舞い、使用人に主と認めさせなければならない。

 つまり私は、ただかわすのではなく、お嬢様らしく上品に舞い踊りながら髪を切らせるべきなのだ。華麗に舞うほど髪が華麗に刈られ、より美しさを増していく。

 それがお嬢様。踊るほど、切られるほどに舞う、美しい白鳥!

 マリーコートは、攻略のルールを暴かれ解かれたことに呆然としていた。しかしやがて、満面の笑顔で楽しそうに笑った。

「あはー。負けた負けた。お嬢様はやっぱりお嬢様だー」

 マリーコートは実に楽しそうに、さっきよりも凄まじい勢いでハサミを繰り出してくる。

 しかしそれは、私の肉を切ろうとはしていない。私が彼女の踊りに合わせ、彼女は私の踊りに合わせる。二人の踊りがぴったり合うと、おのずとハサミの入る角度も位置も決まる。そこが一番美しく髪を切られるポイントなのだ。

 何のことは無い。マリーコートの踊りに合わせ、一緒に踊ればよかったのだ。無理に避けながら切られたところで素敵な髪型になどなりはしない。ばさばさ無茶苦茶になるのが見えていた。だからビルピオーネは、それでは駄目だとビンタで茶々を入れたのだ。

 あれで目が覚めた。気付いた。やっぱりビルピオーネは、最後にはちゃんと私を手助けしてくれたのだ。

 ビルピオーネへの信頼が芽生えた。そしてマリーコートに友情が芽生えた。私は彼女と一緒に楽しく踊り笑い合った。疲れきり、ダンスが終了すると、私はすっかり素敵な短い髪のかわいらしいお嬢様に変身していた。

 鏡を見てうっとりする。そしてマリーコートに振り向きほほえみかける。

「素敵な髪型ですわ。ありがとうマリーコート。あなたは最高の美容師ですわ」

 マリーコートはにーっと笑う。愛嬌があってすごく彼女に似合っていた。

「ありがとーございますー。お嬢様も最高のお客様でした。またいつでもご用命くださいねー」

「ええ。またね」

 私は手をひらひら振って、彼女と別れる。彼女はハサミを持った両手をぶんぶん振って、私が扉をくぐるまで見送ってくれた。

「さすがですお嬢様。マリーコートにきちんと髪を切られる者などそうはおりません。みんなマリーコートではなく他の者に頼んで髪を切りますのに」

「え、そうなのですの?」

 何だそりゃあ。他にも切れる者がいるなら私はとんだ苦労損じゃないか。

 いや、損ではないか。マリーコートと仲良くなった。一緒に踊ってすごく楽しかった。いい汗かいた。

「ふう。たくさん踊って汗をかいてしまいましたわ」

「そうですか。なら次は湯浴みにしましょう。浴室へご案内いたします」

 そうしようそうしよう。すぐに回復するこの館では、汗はとうに引いていた。でもお風呂でさっぱりしたい気持ちは残っていた。

 私はわくわくしながらビルピオーネの後をついて廊下を歩く。もちろんお風呂でさえも使用人との戦いの場であることなどすっかり忘れてしまっていた。

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2013年07月30日

魔人と超能力者(8)ブレット

魔人と超能力者(8)ブレット

 真っ暗な地下深く。広大な空間は、ゲージが開いた事で抉られた空洞だ。そこに魔人の魔力によると思われるが、飛行出来ないはずの人間たちはぷかぷか浮かび、同じように漂う二人の魔人と対峙する。

 ヒエラルキは魔人に殺される恐怖でがたがた震えている。クラストラはその身体を抱きしめてあげる事しか出来なかった。

 ヘンジエイドはその姿を見て、長い髪を手ですくい、清流がせせらぐようになびかせた。

「怖くて戦えない? なら少しだけ時間をあげる。それでも戦えないなら仕方ない。ただ潰すわ」

「わ、私、何で、ただ、ネフェシスの事、好きな、だけで」

「告白したでしょ。私が彼を誘惑しているのに引き留めようとしたでしょ。あれが手出しでなくて何なのよ。あのどさくさで、彼の心を自分に振り向かせようとした。いやらしい。泥棒猫が」

 今全員の眼前で、裸で交わったのは誰だろうか。どちらがよりいやらしいのか。それを言ってもどうしようもない。

「先にここを出るわ。それまでに戦えるよう落ち着いておきなさい」

 ヘンジエイドが腕を広げる。それを交差させると、再び闇よりも暗い漆黒が広がり、ゲートが開く。

「元の場所に戻るのですか?」

 エンブリッツの問いに、イゾアデイルが答える。

「違う。ゲートは亜空間にある入り口と出口だ。それらは対になっていて、亜空間に点在している。これには一つの特徴がある。複数のゲートが同じ場所に重なっているのだ。別の出口と繋がった入り口がここには複数存在している。その一つを選んで開いた。元の場所とは別の場所に出る」

「こんな暗い穴蔵で死にたくないでしょ? もっと見晴らしのいい所で殺してあげる。安心して。他の人間はいないから。巻き込む心配もなければみじめな姿を見られる心配も無い。恥ずかしがらずにみっともなく泣き叫んでもいいわよお?」

 ヘンジエイドがげらげら笑う。三人はおとなしく従うしかない。ゲートを通らないならこの地下深くに閉じこめられて出られないのだから。

 ゲートを通って出た場所は、砂漠だった。遠くには岩山などがあるが、辺り一面なめらかな砂漠だった。

 雲の無い夜空に月がとても明るく映える。二人の魔人は身体も髪も真っ白で、月と同じくらい美しく輝いていた。

 二人はゲートを消すと、すうっと降り立つ。エンブリッツはそれを見て疑問を尋ねる。

「あなたたちは飛行出来ないのですか?」

「そうだ。その点はお前等人間と同じだな。さっきの空間で浮遊していたのは、あそこがゲートの存在する特異点だからだ。ゲートを開く力のある者が存在すれば、それを触媒にそこには浮力が発生する。お前等程度の力ではゲートを通る事は出来ても触媒とはなり得ない。力があれば知覚出来るというのは触媒として作用し何らかの現象が発生するという事だ」

 イゾアデイルの説明に、エンブリッツはうなずき咀嚼する。

「見渡す限りの砂漠、満天の星空! とっても素敵。とってもロマンチック。死ぬにはいい場所でしょ? 美しく死ぬかみっともなく死ぬかはあんた次第。女なんだから最後まで美しくいたいでしょう。同じ男に恋した女同士ですもの。尊重してあげる。ぷぷぷ」

 ヘンジエイドは胸と腰にわずかな布をまとって踊っている。黄金色の砂、明るい蒼の空、そして白銀の女王。とても幻想的で、息を呑むほど美しかった。

 ヒエラルキとて強者であり、今まで何度も死の覚悟で敵に挑み勝利してきた。魔人のようにどうやってもかなわない敵と戦うのは初めてだが、それでもわずかな時間で勇気を取り戻した。

 怯えた目が怒りに燃える。怒りは判断を狂わせるが、恐怖を吹き飛ばす劇薬となる。今はそれにすがりつかないと戦えない。ヒエラルキは目の前で愛するネフェシスと交わり見せつけた女への嫉妬と憎しみをかき立て続ける。

「ヒエラルキ……」

 抱きしめ気遣っていてくれたクラストラの腕を、ヒエラルキは払いのける。

「あの」

「一緒に戦ってくれる?」

「え?」

 ヒエラルキはにーっと笑う。

「一緒に戦ってくれるよね? 私たち親友だもの。キクリコがビリーボアに蹂躙されたとき、私たちだけはいつでも一緒に助け合おうねって誓ったわよね」

「それは、でも、あの」

「何?」

「あいつに、ヘンジエイドに、戦いを挑まれたのはヒエラルキだから、私がそこに茶々を入れるわけにはいかないと言うか」

 ヒエラルキは思い切り腕を振りかぶってクラストラのほほを叩く。クラストラは避けようと思えば避けられたがそうしなかった。

 ヒエラルキは笑いながら荒い息を吐き、涙をだらだらこぼした。

「あなたはいつもそう。本当に助けて欲しい時に助けてくれない。イゾアデイルにウェッジを打ち込んだ時に続いてまた私を見殺しにするのね。私はあなたがビリーボアに襲われた時助けに行ったのに。最低。軽蔑するわクラストラ。これが親友? 笑わせないで。私を利用したエンブリッツは許せない。私を脅かしたビリーボアは死んでも許せていない。でもあなたはその二人よりもっと許せない。私を裏切り恨まれ死に追いやった事を少しでも気にしている? してよ。して苦しめ。最低女。大っ嫌い」

 クラストラは何も言えない。言う資格が無い。ここまで言われてもまだ彼女を助けるつもりがこれっぽっちも無い自分の醜さに心底あきれる。頬の痛みより心の痛みに耐えきれなくて涙がこぼれる。止まらない。

 ヒエラルキは立ち上がる。彼女は本当はわかっている。一緒に戦ったところで二人とも死ぬだけだ。逆の立場ならやはり、何を言われても一緒に戦おうとはしない。親友でもだ。いや、親友だからこそ、相手だけでも生き残って欲しいと願う。

 ヒエラルキは怒りを動力としないともう戦えない。だから怒りを最大限に燃やすために憎まれののしられ涙までこぼしてくれたクラストラに、心の中では感謝していた。

 ヘンジエイドは何も言わず陽気に優雅に踊り続ける。自分より強く、確実な死に立ち向かう勇気は心の強さだ。心も身体も力も強い者が強者であり強さだ。真摯に強さを追い求める魔人は、人間の心の強さをあざけり笑う事はしない。

 ヒエラルキは誰も見た事の無い鬼の形相をしていた。いつもはいざとなったらチームが助けてくれると甘えた心があった。もうそれは無い。期待出来ないししてはいけない。今死ぬのは自分だけだ。残り二人となった仲間のためにやれるだけの事はやらねばならない。

「いい顔になったわね。心が強い。さっき殺さなくてよかったわ。楽しめそう」

「人間は力も強い。油断するなよヘンジエイド」

「わかっているわイゾアデイル。ネフェシス先生の情報を何度見ても信じられないけれど事実だもの。あんたがビリーボアの攻撃で傷つき血を流すなんて。人間が、魔人に血を流させる。それって殺す事も出来るって事じゃない。面白いわ」

 破壊力では桁外れのビリーボアのコンプレスでも潰せなかったのだ。ヒエラルキの破壊力で殺せるわけがない。しかしヘンジエイドはヒエラルキの心の強さに敬意を表し、決して侮る事はしなかった。

「ヒエラルキ」

 エンブリッツが声をかけようとする。

「黙っていてエンブリッツ。私の命は私の物よ。最後くらい、あんたに利用されずに自分で使うわ」

 エンブリッツは確かに、どうせ死ぬならとヒエラルキに試させたい超能力があった。それを見透かされ、言葉を引っ込める。

「いえ……戦い死に赴く勇気ある部下に、戦友に、最後の激励をしたかっただけです。死ぬななんて気休めは言いません。ただ全力で戦いなさい。あなたは今まで遠慮しすぎました。最後くらい、思い切り自分を解放しなさい」

「そう。ありがとう」

「こちらこそ。今まであなたはよく頑張ってくれました。お礼を言います。あなたは本当に強く、立派で、私の誇りです」

 忌々しいエンブリッツに言葉だけそんな事を言われてもうれしくも何ともない。しかしまったくの嘘でも無いだろう。少しは認められたという事か。おかげでほんの少しだけ、さっきまでより力がわいてくる気がした。

「ヒエラルキ。頑張って。私、見ているから」

 クラストラは涙でかすれた声で激励する。ヒエラルキは振り向かず、手を振って応えた。

 ヒエラルキとヘンジエイドが対峙する。

「私が勝ったらネフェシスを返してもらうわ」

「私はイゾアデイルみたいにわざと攻撃を食らうなんて真似しないわよ。女同士、男を賭けて本気の勝負よ」

 もう言葉は必要ない。二人は後退し、距離を取る。見守る二人の人間と一人の魔人はさらに離れて邪魔をしないようにする。

 ヒエラルキは駆ける。砂の足場だろうが関係ない。ジャンプの超能力は砂を蹴り飛ばし爆発させながら高速跳躍を可能とする。

 ヘンジエイドの魔力による跳躍も同じような物なのか。砂煙が舞い、それは二人が駆け抜ける突風により瞬時に吹き飛ばされる。

 わずかな時間に追いつき離れ攻撃の機会をうかがっていた二人がついに交差する。

 ヒエラルキの手刀がヘンジエイドの拳と激突する。衝撃が二人を襲うがどちらも引かない。さらに連撃を繰り返し、両の拳と手刀が何度も衝突を繰り返す。

「へえ、強いわね。硬い。砕くつもりで殴っているのに砕けないなんて」

「ブレードの超能力で硬質化してあるわ。どうしたの。防ぐだけで精一杯かしら?」

「魔人は加速し続ける。際限が無い。知っているでしょ。このまま打ち合っていればいずれ私の速度があんたの速度を上回るわ」

「その前に、その頭を叩き割るわ」

 今の時点ではわずかにヒエラルキの方が早い。超能力で強化された身体の限界を超えて振り絞る。今までにないほど集中しているヒエラルキの目に魔人の隙が見える。

 誘い? いや違う。躊躇無く打ち込む。

 ヘンジエイドの頭にヒエラルキの手刀が当たる。額を割り、血が吹き出す。

「ぐっが」

 今までに無い集中、怒り。今までのヒエラルキとは違う。命を賭け既に捨てている。愛するネフェシスは自分を選んではくれなかった。それでも彼を助けるためなら恋する女は命を燃やし、自分に眠る力を全て引き出せる。

「馬鹿な。血だと? 防ぎきれなかったのか」

 イゾアデイルは自分の頭の傷をなでて驚く。ビリーボアのコンプレスは暴発ぎりぎりまで時間をかけて力を高めた物だ。たしかにそれほどまでの破壊力ではないにせよ、あんな速度で繰り出すブレードの超能力が、魔人の防御力を超えたダメージを発生させるなんて。

 ビリーボアの強さを認めて以来、人間を侮ったりはしていなかった。しかしこれは。感情は判断を狂わせるとして抑制しているイゾアデイルにとって、怒りや愛などの感情を爆発させて力を引き出すヒエラルキは驚嘆に値する。

(感情は戦いに不要だと、有害だと、考えていた俺が間違っていたのか?)

 イゾアデイルは自分の信念を揺さぶられて動揺した。

「ぐう、やるわね、肉体を傷つける選択をしなければ気絶していたわ。すごい力ね。でも私は殺せない」

 手刀が命中し、動きが一瞬止まる。攻撃を当てた後の隙はダメージを与えるために必要な間だ。無くす事は出来ない。ヘンジエイドは額を割られて出来た隙をついて、ヒエラルキの腹を拳で貫く。

「ごっ」

 衝撃で遅れながらも爆散する。腹の肉も骨も粉微塵に飛び散り、ヒエラルキの胴が切断された。

「ヒエラルキ!」

 あまりに無惨な光景に、クラストラは目を逸らす。

「見なさいクラストラ。私たちの仲間はまだ戦っています。最後まで目を逸らしてはいけません」

「え?」

 エンブリッツに言われて、クラストラは涙で霞む目でヒエラルキを見る。

 死の形相。執念で歪んでいる。ヒエラルキは腹を吹き飛ばされ血が逆流し血管が破裂している。脳も心臓ももう機能していないはずだが執念だけで生にしがみついていた。

「魔人の肉体は強い。魔力の防御も強い。しかし傷を負わせてそこに攻撃を打ち込めば、肉体の防御は失われている」

 血を吐くヒエラルキは手刀を解き、親指をヘンジエイドの額の傷口にめり込ませてしがみついた。

 腹を吹き飛ばしたのだ。もう反撃など出来ないと思っていたヘンジエイドの一瞬の油断が命取りだった。

 指先から力の弾丸を撃ち出す。ブレットの超能力だ。一定時間跳弾し続ける特性を持つ。ひびの入った頭蓋を砕き、弾丸が頭の中で頭蓋骨に反射し、跳弾を繰り返す。

「お、げああああああああ!」

 ヘンジエイドがヒエラルキの腕を掴んでぶん投げる。ヒエラルキの腕が折れる。吹っ飛んでくるヒエラルキをクラストラは跳躍して抱き止める。

「ヒエラルキいいいい」

 イゾアデイルは狼狽する。

「まさかこんな。跳弾だと? 撃ち抜くだけでは殺傷力が弱い。しかし頭蓋の中で跳ねさせれば脳を滅茶苦茶に破壊出来る。くそ。肉体の強靱さを逆手に取ったか」

 魔人が超能力の破壊力を防げるのは、肉体と魔力の両方で防御しているからだ。傷口に攻撃を打ち込むと肉体の防御が弱く、体内にまで攻撃が到達する。

 しかしひびの入った部位以外の頭蓋は強靱で貫通出来ない。だから弾丸は内部で跳ね回り、破壊出来る脳を貫き続ける。

 ダメージにより魔力の防御がどんどん衰える。跳弾を殺せない。このままでは脳が破壊され尽くして死んでしまう。

「くそ」

 決闘に割って入るなど許されない。しかし仲間を見殺しには出来ない。イゾアデイルは拳に魔力を込めて、のたうち回るヘンジエイドの頭に叩き込む。

 ぐちゃりと、ヘンジエイドの頭が半壊する。中で跳ね回っていた超能力の弾丸がその割れた傷口から突き抜け飛び去る。

「生きているか、ヘンジエイド。ヘンジエイド」

「ぶぐ、うー……」

 脳が滅茶苦茶だ。イゾアデイルは傷口を上にして、脳がこれ以上こぼれないようにして砂漠に彼女を横たえる。

 胴を吹き飛ばされ、腕も折られた無惨なヒエラルキを、クラストラは恐れる事なく抱きしめた。

「ヒエラルキ、ヒエラルキいいいい」

「あい、つ、は?」

「死んだわ。あなたが殺したの。あなたの勝利よ」

 ヘンジエイドはまだ死んでいない。しかし脳を滅茶苦茶にしたのだ。もう死ぬだろう。

「そう。ネフェシス、は?」

 ヒエラルキは動けない。もう目も見えていないようだ。折れていない腕をぶるぶる上げようとするその手をクラストラはやさしく握った。

「帰ってきたわ。あなたのおかげで彼は助かったのよ」

 ヒエラルキだってそれが気休めの嘘だとわかっている。でも言葉で聞きたかった。自分が愛する人を助けられたのだとほめてもらいたかった。

「よ、か……」

 もう何も言えなかった。今まで生きていたのが不思議だったのだ。安堵したヒエラルキは、苦痛ではなく安らぎの中で死を迎えられた。

「ヒエラルキいいいい。わあああああああ」

 クラストラは涙を滝のように流しながら、冷たくなっていく親友の亡骸を抱きしめた。

 その肩を、エンブリッツがぐいっと引っ張る。

「何よエンブリッツ。離して」

「捨て置きなさい。離脱します」

「え?」

 エンブリッツはクラストラの腕から荒々しくヒエラルキの亡骸をむしり取ると、ゴミのように放り投げた。

「何してんのよ!」

 エンブリッツはクラストラの口を手で塞ぎ、力を流入させる。

 ケイジ? まさか。

 ヒエラルキの死に打ちのめされていたクラストラは、まさかエンブリッツに攻撃されるとは思ってもおらず、対応出来ずにまともに食らってしまった。

 ケイジの超能力は対象を狭い檻に閉じ込める。物理的に檻が形成されるわけではない。しかし対象は干渉不能の檻に閉じこめられたように自由を奪われ、内部から超能力をはじめとした外部への干渉を出来なくさせられる。

 狭い檻の中で暴れるように手足を振るうクラストラを抱えると、エンブリッツは砂を巻き上げ跳躍する。

「離して。何でこんな。ヒエラルキが。彼女を弔わないと」

「そんな場合ではありません。今のイゾアデイルの行動を見ると、奴らは脳を完全に破壊されると死に至ります。しかし脳が損壊してもまだ死にません。ヘンジエイドはあれでは助からないと思いますが、あそこまで脳を破壊されてもまだイゾアデイルは彼女が助かるかもしれないと考えています。今しかありません。今逃げないと、気を取り直したイゾアデイルに私たちは殺されます」

「そんなの、関係無い。私も戦う。あいつらはヒエラルキの仇よ。殺してやるわ」

「だからです。ヒエラルキの死を無駄にしてはいけません。奴らの突破口を命がけで暴いてくれたのです。あの戦術が有効なら、私たち人間でもはるかに勝る魔人を殺せる。今戦っても怒りに燃えたイゾアデイルに瞬殺されるだけです。彼がヘンジエイドにだけ気を取られこちらを忘れている今だけが、離脱出来るチャンスなのです」

 クラストラはヒエラルキの壮絶な死とその勇気に報いるため、自分が死のうが戦いたかった。しかしそれは一時の感情だ。気の迷い。冷静ではない。今戦えば確実に殺される。

 今の力ではまだかなわない。もうあんな一瞬の油断すら許してもらえない。力をつけて、油断につけ込むのではなく隙を生み出せるまで強くならなければならない。でないとヒエラルキやビリーボアの仇を討てない。

 エンブリッツは確かに彼らを利用した。いつでも駒として捨てる非情さを持つ。しかし彼とて人間なのだ。ともに過ごし笑いあった仲間をそれなりに大事に思っていた。情を抱いていた。その死を悲しみ、復讐したい気持ちはあるのだ。

 魔人共は絶対殺す。全員殺す。そのためには勝てるように、殺せるようにならなくてはならない。今無駄死にするわけにはいかない。エンブリッツはクラストラを抱え、どこまでも早く遠く逃げ続けた。

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2013年07月29日

牢獄館のお嬢様(6)美容師

牢獄館のお嬢様(6)美容師

 オーブンで黒こげになったキラハットは、案の定すぐ復活し、無傷の姿に戻った。

「ふっ。シズカお嬢様。その知識と実力に感服致しました。まさかルールにより料理人しか扱えない調理家電をいとも容易く操りになられるとは。お嬢様は実にお強いのですね」

 キラハットが私に跪き、手を取ってうやうやしく手の甲にキスをする。

 きゃーきゃーきゃーきゃー。

 キラハットはやはり恰好いい。女だとわかってもやっぱり一目惚れの効果は薄れない。ドキドキする。こんな事されたら舞い上がってしまう。踊り出したいところだが、ビルピオーネにはしたないとぶたれてしまうからそれは出来ない。

「これからも、料理に精をお出しなさい。あなたの料理はとてもおいしかったですよ」

「はい。ありがたき幸せ……!」

 キラハットは目を輝かせ、ほほを赤らめさわやかな笑顔で私を見つめてくる。

 本当の尊敬、敬愛、愛情のまなざし。私のことを大好きだと言うのは偽りではない。

 ああ。もう女でもいい。

 このまま抱かれたい。抱いて抱いて、抱きしめてええええ。

 ビルピオーネが咳払いする。

「シズカお嬢様。そろそろおいとましませんと。弟君をカレントお嬢様の毒牙からお救いになられるのではないのですか」

 そうだった。急がないと。淫乱カレントは私に化けて入れ替わって、いきなり弟をお風呂に誘うような奴だ。もたもたしていると我が貪欲なる弟の童貞を奪ってしまいかねない。

 マコト。お姉ちゃんが必ず助けてあげるからね。お姉ちゃんを差し置いて大人の階段昇るなんて絶対許さないからね。

 私は名残惜しいけれど、キラハットを残して厨房を後にした。

「シズカお嬢様。俺はいつでもお嬢様のお側にいますからね」

 そう言って切ない表情をするキラハットに振り返り、私はうなずいて手を振った。

 ああ。私の恋が終わった。

 泣きそうだ。まあキラハットは女だから、恋してもどうしようもない。

 運命ってなんて残酷なの。これが恋。私もようやく、世界の七悲劇のヒロインの仲間入りを果たしたのだ。

 いつかはそうなると覚悟していたが、やはり世界は私が悲劇のヒロインになるのを放ってはおかなかったか。

 扉を出て、また無限に続く廊下に出る。端は暗くて見えない。闇の中にはどこまでも、燭台の明かりが点々と続いている。

「お嬢様、次はいかが致しましょう」

「私が使用人たちに会って、お嬢様として振る舞いその部屋のルールを破っていかないといけないのでしたわね」

「左様でございます。最後に旦那様と奥様にお目通り願います。本当は真っ先に挨拶をするところなのですが、お嬢様はまだまだか弱い。お強くおなりなさいませ。旦那様と奥様にお会いになられる事が出来るほどに」

 うーん。親に会うのが一番手強く難しいって、お嬢様は大変だなあ。うちの両親なら毎朝のほほんと会えるのに。

「全部の扉をくぐる必要は無いのよね。外出に必要なだけお嬢様ポイント? を獲得すればいいのですわよね」

「お嬢様ポイントですか。まあそうですね。そう言う方がシズカお嬢様にはわかりやすいかと」

 他にどう言えばいいのだ。お嬢様らしく振る舞い使用人たちに認められうんぬん言うと長いしわかりにくいだろうが。

「キラハットは何点ぐらいだったのかしら」

「使用人は役職により格が違います。当然、格が高いほどより難しいルールに縛られております。ですからキラハットは点で言えばかなり上の方かと」

 料理人はかなり格が高いようだ。だから高得点らしい。しかしはっきり言って、あんなのは謎でも何でもない。ルールを破るというのは簡単そうだ。こいつらが勝手に難しいと言っているだけだ。

「高得点の使用人に会うほど、お嬢様ポイントが貯まってすぐに外へ出られるわけですわね」

「左様でございます。お嬢様はとても賢くてあらせられます」

「そう……ですわね」

 また「そうかな、えへへ」と私が言ってビルピオーネにはしたないとぶたれるのを阻止した。

 ビルピオーネは、構えていた平手をぴたりと止めて、あさっての方向を向きながらさりげなく手を下ろす。

 ふふふ。何度も同じ手をくってたまるか。

 やっぱりビルピオーネは、私をぶつのが趣味なのだ。わざと私がはしたない行いをするのを誘っているふしがある。仕える主であるお嬢様をぶつのは使用人として無上の快感なのだろう。

 ギコギコと、鋸のように歯切りして悔しがるビルピオーネを、私はにんまり見つめた。

「じゃあ次も高得点の使用人をお願いしますわ」

「よろしいのですか。高い役職につく使用人ほど難解なルールに縛られ、攻略は難しくなります。何度でも挑めますが、一度挑めばそれは必ず攻略しなければなりません。放棄は出来ないのです。後回しにすると難易度が上がり、より攻略が難しくなります」

「大丈夫ですわ。なにせ私はお嬢様ですもの。さっき華麗に汗一つかかずにキラハットを倒したのをご覧になったでしょう」

 ビルピオーネはうなずく。また私をきらきらした尊敬の目で見つめてくる。

 うーん。気持ちいいいいいいい。

 憎たらしいビルピオーネが私を尊敬している。これだ。これがお嬢様の優越感だ。

 まあさっきほとんど戦ったのはビルピオーネだが。きっとあの調子で今後もサポートしてくれる。

 楽勝楽勝。私はこいつらが難しいと言いながら、その実ルールに縛られ難しいと思わされているだけの簡単な謎を解けば済むのだ。

 どうやらお嬢様である私には、ルールの謎を解く事に関してルールで理解不能にされることはないらしい。

 きっと、ルールで役職に絶対的な階級を設けるために、下位の者は上位の者のルールを解けないようになっているのだ。

 ビルピオーネはメイドで、キラハットは料理人だ。二人の口振りでは、メイドはかなり格が下の役職らしい。

 戦うのはビルピオーネ。謎を解くのは私。それが戦い方。さっき学ばせてもらった。

 楽勝じゃないか。世界最高の頭脳を誇る私に解けない謎なんかない。普段はクイズの一つも解けない、謎解きだけは苦手というかわいい欠点の持ち主である私も、この館ではどの謎も楽勝で解けるのだ。こいつらが謎だと言っているだけで、謎でも何でもないのだから。

「シズカお嬢様。本当に、格の高い使用人にだけ会われるのですね」

「そうですわ。早く案内してちょうだい」

「わかりました。では以後そのように致します。あとで泣き言などお嬢様らしくない振る舞いは許しませんよ」

 ビルピオーネは格が低いメイドだから、そのような格下は相手しないと言う私に少なからず不満があるようだ。

「わかっていますわ。だって私はお嬢様ですもの。おーっほっほっほ」

 ああ。お嬢様って気分がいいなあ。無敵になった気分だ。元々世界最強絶対無敵傍若無人感無量の私がそれを初めて実感した。

「では格の高い使用人の部屋のみご案内致します。次は、そうですね。外へ行かれるのですから、髪をお切りになられるのがよろしいかと」

「髪?」

 私は自分の髪をなでる。

 首までのさらさらヘア。どんな細い絹の糸よりも細くなめらかで美しい。きっとつゆにつけてそうめんのようにすすると絹のようなのどごし。

 そういえば、そろそろ切ろうと思っていたところだ。キラハットはとても短く男らしい髪型が美しい顔を引き立てていた。あれほどではないにせよ、ばっさり短くしてイメージチェンジをしたかったところだ。今年こそ訪れるであろう夏のアバンチュールに向けて。

「いいですわね。短くして髪型を変えようと思っていたところですわ」

「では、美容師の部屋へご案内します」

 ビルピオーネはしずしず歩く。私はそれについていく。

 どうでもいいが、長くまっすぐな廊下を毎回奥へ進む。引き返したりしないのだろうか。

 無限回廊って言っていたな。もしかして、ルールにより始点と終点が繋がっていて、ぐるぐる回っているのかもしれない。

 どの扉も同じ。見分けのつかない扉が壁にずらっと並んでいる。

 またビルピオーネは、区別の付かない扉の一つの前で足を止める。メイドにしか見えない目印でもあるのだろうか。

「こちらでございます」

 ビルピオーネは扉を開ける。奥様の部屋と違い、ノックはしないでいきなり入る。

「マリーコート。お嬢様をお連れしました。髪を切ってくださいますか」

 その部屋は、美容室らしいといえばらしかった。でもらしくないといえばらしくない。

 巨大な一面の鏡。洗面台だのドライヤーだのハサミだの、いろいろ並んでいる。

 しかしイスがない。道具しかない。

 鏡が無い三方は果てしなく広がり、例によって例のごとく、端は闇に包まれ見えない。どの部屋も広大で、端が見えないらしい。

 後ろで髪を結ったポニーテールの女の子が、両手にハサミを持って踊っていた。

「マリーコート!」

 ビルピオーネが大きな声を出す。マリーコートと呼ばれた女の子はぴたりと止まる。

 そして振り返る。背が高い。すらりとして細い。ここの使用人は皆細くて背が高いのだろうか。

 振り返ると凄い美人だ。踊っている姿はかわいらしかった。ふわふわのスカート。でもどうやら、私より年上で大人の女性らしかった。

 その女性は腕をだらりと下げ、ぼーっと私たちを見ている。

「マリーコート。お嬢様に挨拶しなさい」

 ビルピオーネは痺れを切らして言う。

 マリーコートと呼ばれた女性は、さっきまで軽快にダンスを踊っていたのとうってかわってまるで寝起きみたいにぼけっとしていた。

 ふわふわのかわいい服がちょっと似合っていない。長身で美しい大人の女性。こういう人はさっきのキラハットみたいにきりっとした服の方が似合うのに。

「えー? ビルピオーネ。メイドは嘘言っちゃいけないんだよー? お嬢様なんていないじゃなーい」

「カレントお嬢様はお出かけになられています。こちらはその身代わりにお嬢様を務めるシズカお嬢様でございます」

「ふーん。そーだっけー? そーいえば、そー聞いたような」

 マリーコートはハサミを持った手で頭をかく。ちょっと、危ないよ。

「シズカお嬢様。私はマリーコート。よろしくー」

 マリーコートはしずしずと歩いてきて手を差し出す。あれ。さっきまでハサミを持っていたのに。手品みたいに消えてしまった。

「マリーコート。お嬢様には敬語を使いなさい。礼儀がなっていませんよ」

「えー。いーじゃん。使用人だってお嬢様と気兼ね無くお話したいもの。ねーシズカお嬢様ー?」

 マリーコートは眠そうな目で首をかしげ、私にほほえみかける。

「は、はい。私は別に構いませんけど」

「やったー」

「シズカお嬢様。発言にはお気を付けなさいませ。今のでルールが構築されました。以後使用人は、お嬢様に敬語を使わなくてもよくなってしまいましたよ」

 え? 何で?

 マリーコートだけじゃないの?

 というかルールって、そんな簡単に構築されるものなの?

 今まで失言をしてこなかったわけじゃない。でもいちいちルールとして構築なんてされなかったぞ。

「シズカお嬢様。ルールは二人以上が認めたルールが構築されるのです。一人でいくら言い張っても構築出来ません。部屋の主は、部屋と主の二人でルールを構築しております。ルールは公平。必ず解けるように出来ています。ですから無茶苦茶なルールは構築出来ません」

 そうなのか。気を付けないと。そういえばさっきの戦いで、キラハットとビルピオーネは勝利条件を互いに認め合ったことによりルールを構築していたな。

「シズカお嬢様。握手握手」

 マリーコートが差し出した手を振る。

「あ、は、はい」

 私も手を差し出す。

 その手がビルピオーネにはたかれた。

「痛い。何をなさるのビルピオーネ」

「マリーコートに手を差し出してはいけません。ご覧ください」

「え?」

 見ると、私が握ろうとしたマリーコートの手にはハサミが握られていた。

「嘘。さっきは何も持っていなかったですわ」

 マリーコートはチョキチョキとハサミを開いたり閉じたりする。目を細めてにこにこする。

「あら大変。シズカお嬢様ごめんなさーい。私、ハサミを握るくせがあるのー。ついうっかりー」

 うっかりじゃねえよ。ビルピオーネが私の手をはたいてくれなかったら、指がちょん切られるところだったじゃないか。

「マリーコート。あなた」

「シズカお嬢様ー。私、お嬢様ともう友達ですよねー。カレントお嬢様とも大の仲良しなんですよー。シズカお嬢様とも仲良くなりたいなー」

 そう言うと、マリーコートはいきなり私の顔めがけてハサミを突き出した。

「うおおおっ」

 思い切り後ろへ飛び退く。

「わっ」

 驚く。私は自分でも驚くほど素早く後ろに飛んだ。あっと言う間にマリーコートとはるかに離れる。勢いのあまり足がもつれ、上手く着地出来ずに尻餅をつく。

 その私に、ビルピオーネが飛びかかる。

「ええええええ?」

 ビルピオーネは床に倒れる私に馬乗りになる。そして両手を扇風機のように高速回転させる。

「はしたないはしたないはしたないいいいい!」

 ビルピオーネの往復ビンタはまるで旋風だ。私をぶちながら、ビルピオーネの怒った顔は、あきらかに充実感に満たされていた。

 くそ。さっきビンタを出させなかったことをまだ根に持っていたのか。ここぞとばかりにビンタをしまくる。ビルピオーネめえええええ。主に手を上げるメイドがどこにいる。

 ビルピオーネはふーっと満足げにため息をつくと、ようやく私の上から降りる。私のバスケットボールのように腫れ上がったほほはぷしゅーっと萎む。

「ビルピオーネ? 説明してくださるかしら?」

 私はメイドをぎろりとにらむ。

「うおおおなどとはしたない。お嬢様はもっとお上品にかわさなくてはなりません」

 とっさだったんだぞ。あのままだと鼻を切り落とされていたぞ。必死だったんだぞ。それを追い打ちビンタをかけるなどどういう神経をしているのだ。

 私は遠くで、両手のハサミをチョキチョキしているマリーコートを指さす。

「どうしていきなり、あの美容師は私をハサミで切ろうとするのかしら?」

「マリーコートはお嬢様を切るのが大好きなのです。髪だけではなく、ありとあらゆるところを切りたがっているのです」

 何だと。

 そんなのただの猟奇殺人鬼じゃないか。

「あれが彼女のコミュニケーションなのです。仲良くしたがっている証拠です。どうかシズカお嬢様、仲良くしてあげてください」

 ビルピオーネは私の両手を握り、慈愛のこもった母親のようなまなざしでじっと私を見つめる。

 仲良く出来るか!

 友達を切り刻むコミュニケーションなんか聞いたことねえ!

 お前も何を言っているんだ!

 だあああああ!

 どるあああああ!

 ちくしょう。叫びたい。でもはしたないとぶたれるからそれは出来ない。私の調教はすでに完了している。私はビルピオーネのビンタが饅頭よりも怖い。

「私、切られるのは痛いから嫌ですわ」

「もちろんです。切られないようかわしてください。あの子はじゃれているだけです。身体を切られないようにかわしながら、上手く髪だけ切られて下さい」

 は?

「上手く切られないと丸坊主になりますよ。もちろんお嬢様らしくない髪になられたらもう外へは出られません。恥ずかしい髪型で外を出歩くなどお嬢様には許されません」

「美容師なら、上手に髪を切って下さるのではないのですの?」

「マリーコートは切るしか能の無い美容師です。上手く切られるのはお嬢様の役目でございます。頑張って下さい。髪を切るというのは髪型を変えるというルールでございます。よって切られた髪は元に戻りません。ちょっとでもお嬢様らしからぬ切りすぎをされたなら、もうその時点でおしまいです。また髪が伸びるまでここを出ることはかないません」

「そんな。何度でもやり直し出来るのではなかったのですか」

「身体の傷は治ります。切り刻まれても大丈夫でございます」

「そういうことではありませんわ。髪を切りすぎたらやり直しが出来ないなんてあんまりですわ。ここはやめにします」

「シズカお嬢様は、格の高い使用人しか相手にしないのでしょう。格の低い使用人の相手はなさらないのでしょう。ご自分でおっしゃったのです。もうルールは構築されております。お嬢様が挑むのは、格の高いよりすぐりの使用人だけでございます。泣き言は聞かないと言ったでしょう」

 ああ。わかった。

 ビルピオーネはすねているのだ。

 自分が格の低い役職であるメイドだから、自分まで眼中に無いと言われたみたいで腹を立てたのだ。

 使用人はみんな主であるお嬢様を愛している。だからビルピオーネは、自分が私にとって取るに足りない存在だと言われたと思い込み、傷ついてしまったのだ。

 にしてもこんなやり方。ひどい。やり直しの効かない相手がいるなんて聞いていないぞ。

「ビルピオーネ。あれは、マリーコートは強すぎますわ。危険すぎますわ。怖いですわ。さっきみたいに、また助けてくださいますわよね?」

「お嬢様はこの館の主です。使用人の誰よりもお強い。先ほどもとても俊敏であらせられました。大丈夫です。シズカお嬢様はお一人で戦えますよ。私など、格の低いメイドなどがお嬢様のお邪魔など出来ようはずもございません」

 怒っている。怒っていらっしゃる。

 とりつくしまも無いとはこのことか。

 楽勝だと思っていたのに。肉弾戦は全部ビルピオーネに任せれば済むと思っていたのに。

 こんなのあんまりだ。マリーコートはお嬢様のことが好きだから、ハサミで切ろうとじゃれついてくるだと?

 ハサミで切るしか出来ないから、髪型を上手く整えるのは切られる私が努力しないといけないだと?

 なんじゃそりゃあああ。こんな危険な美容師いるかああああ。

 髪を切るのは美容師。客はただイスに座って寝ていたり雑誌を読んだりするだけ。それが散髪ってものじゃないのか。客が努力しないといけない美容室なんて聞いたことが無い。

 しかしやるしかない。ビルピオーネは怒っていらっしゃる。いきなりこんな無理難問をぶつけてきやがって。しかも一切手助けしないだと。

 ちくしょう。やってやる。泣きたい。でもここでふんばらないと、我がそこそこ大事なる弟の貞操がやばい。

 私は覚悟を決めると、どんよりした気分で立ち上がった。

posted by 二角レンチ at 10:48| 牢獄館のお嬢様 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月28日

魔人と超能力者(7)ゲート

魔人と超能力者(7)ゲート

 魔人は跳躍により疾走する。その後を四人の超能力者が追う。

 挑まない限り攻撃しない。その言葉通り、離れてついていく四人を魔人は無視していた。

 住民は避難しているから誰もいない。しかしもうじき避難区域を出てしまう。この状況はマスコミとネットを通じて拡散しているから、進行方向の住民は避難区域の外でも避難を始めていた。

 魔人は加速し続ければ無限に加速出来る。ヒエラルキのウェッジを心臓に打ち込まれ、身体の動きが制限されているにもかかわらず魔人の速度はとっくに四人の超能力者の限界に達していた。

「これ以上は引き離されるわ」

「かと言って、あいつが速度をゆるめたりおぶってくれたりするわけもないよ」

「どうするのクラストラ」

 いつもならリーダーであるエンブリッツに尋ねるヒエラルキは、クラストラに意見を求める。

「さあ……賢いエンブリッツはどうすればいいと思う?」

 彼らを利用し死なせようとした。ビリーボアの死の片棒を担がせた。もう彼はリーダーではない。対等な一員として意見を求めた。

「振り切られても追跡は出来ます。情報は得られます。奴が通った後を通ればいい。奴が止まれば追いつけます」

 そんな事は他の三人だってわかっている。今までエンブリッツの賢さには及ばないと思っていたが、大して変わりない事を知り、三人はよりエンブリッツに対する失望を増した。

 高速で移動している。避難は間に合わない。逃げまどう人々は建物の上を駆ける魔人の姿を一瞬だけ見て、その流れ星のような白い軌跡に恐怖と畏怖を覚えた。

 追いつけないけど追っている。四人はそう装う事で、実は魔人と停戦している事を悟られないようにしていた。

「おい」

 黙って跳躍し続けていた魔人、イゾアデイルが話しかける。テレパシーの超能力を使える四人は高めた知覚力により、距離が離れていても言葉を聞き伝える事が出来る。

「ゲートを開くぞ。俺についてくるなら一緒に飛び込め。すぐに閉じるぞ」

「ゲート?」

 ネフェシスが尋ねる。

「キクリコ先生が使うテレポートは、亜空間に入り口と出口を作り、ワームホールで繋いで通路とする。亜空間は常に入り口と出口が対で形成される。ゲートは特定の場所にある入り口と出口だ。こんな跳躍で世界中を回るわけがないだろう。ここにあるゲートを開いて俺の仲間のところへ行く」

「亜空間に特定の入り口や出口があるなど観測されていません」

「エンブリッツ。力が弱ければ近づくことも知覚する事も出来ないと言っただろう。観測出来ないのは人間の力が弱いからだ。ゲートはそれを開ける力を持つ者しかその存在を知覚出来ない。テレポートは弱い力だから短距離の穴しか掘れないのだ」

 イゾアデイルが跳躍しながら両手を掲げる。

「ここだ」

 その手を交差するように振るう。するとその眼前に黒い玉が出現する。

 光すら呑み込む闇。それは一瞬で膨張し、果てしなく膨れ上がる。

「うわあっ」

 ネフェシスが叫ぶ。彼らは建物の屋根を粉砕しながら足を踏ん張り停止する。

 膨れ上がった黒い玉はとても巨大でどんどん広がる。膨張の際触れた物をことごとく粉砕し、建物も地面も人も砕いて呑み込んでいく。

「な、何、分解、している?」

 クラストラが砕け散りすり潰されながら呑まれていく物や人を見て怯える。黒い球はどんどん膨張していき、被害を拡大していく。

「開いている間膨張し続けるぞ。ゲートは巨大な物でも通す事が出来るように、閉じるまで膨張する性質を持つ。俺が通ったら閉じるぞ。早く飛び込め」

「でも、これ、潰れ、死」

「力のある者しか触れられないと言っているだろう。お前等がビリーボアのように強いなら砕けない。俺はもう行く。ついて来られないほど弱いならそこで引き返せ」

 エンブリッツはともかく他の三人は逃げ帰れば奴隷刑が待っている。たとて死んでも逃げるわけにはいかない。

「行くしかないでしょう。私は行きます」

「エンブリッツ」

 彼は躊躇無く、何をも砕き呑み込む黒い球に飛び込み姿を消した。

 彼がどうなったのかわからない。でも砕けはしなかったように見えた。だから残りの三人も互いに見合いうなずいて、勇気を出して飛び込んだ。

「くだらんな」

 イゾアデイルは、エンブリッツが率先して飛び込んだのを見てつぶやいた。

 エンブリッツは、自分たちの誰もが強力な超能力者で、程度の差はあれビリーボアに匹敵する事を知っている。イゾアデイルがわざわざ嘘を言って彼らをはめる理由が無い。イゾアデイルが大丈夫だと言うなら大丈夫なのだ。

 だから先に飛び込みその勇気を見せて、すでに失われた自分への敬意をわずかでも取り戻そうとしたのだ。そしてそれは確かにわずかな効果を生んだ。

 本当に力のある者はそんな小賢しい真似をしなくても他者の敬意を得られるものだ。エンブリッツは敬意を勝ち取るために自らが卑小だと叫んでいるようなもので、イゾアデイルからしたらとても滑稽だった。

「キクリコ先生が言う通り、彼は本当にピエロだな。誰の手でもない、自分の手の平の上で踊っている事に気付かないほど馬鹿で何も見えていない」

 イゾアデイルはゲートに飛び込む。そして閉じる。一瞬で閉じた巨大な球は消滅し、あとには無惨に抉り取られた広大な穴がぽっかりと、地面にその傷跡を残していた。

 彼らは同時に、出口のゲートから排出された。ゲートは開く際膨張し、そこを通る力を持たない全てを砕き呑み込む。開いた出口はその周囲を削り取り、消滅させていた。

「あ……」

 ヒエラルキは感嘆する。真っ暗で広大な穴の中に、削られる事無く浮かぶ巨大な水晶の繭。その中に、美しい女性が眠っていた。

「へンジエイド。起きろ」

 イゾアデイルが呼びかけると、透き通り煌めく水晶の繭がするりと溶けて水になり、流れ落ちていった。

「ん……」

 ヘンジエイドと呼ばれた女性が、眠そうに目を開ける。

「寝ぼけた振りはよせ」

「だあーってえ。人間がいるじゃない? 眠りの森の美女って感じで、うふふ。魅力的?」

「くだらんな」

「あなたはもっと楽しまなくちゃ。いつもしかめつら。そんなんじゃ生きててつまらないでしょイゾアデイル」

「神を目指し己を高める。楽しみなど必要無い」

「久しぶりなのに相変わらずねえ」

 ヘンジエイドはとても美しい大人の女性の姿をしている。透き通るような白い肌に、銀に煌めく白い髪はイゾアデイルと同じだ。

 豊満な胸と大きなお尻をわずかな布が隠している。美しくみだらなその姿にネフェシスはぼーっと眺める。

「美しい……」

 ヒエラルキがネフェシスのほほをつねる。

「何だよヒエラルキ」

「あいつは魔人よ。人間の女を見るみたいに欲情しないの」

「よ、欲情なんてそんな」

 ヘンジエイドはネフェシスを見てにんまりする。

「かわいい坊やね。いらっしゃい」

「え?」

「私に見とれていたでしょ。おいで。私の先生にしてあげる」

 イゾアデイルはキクリコを先生と呼び捕えている。生きているそうだが実際にはわからない。

「な、何を、するの」

「んー? イゾアデイル。あんた自分の先生がどうなっているか、こいつらに教えていないの?」

「尊重している」

「あははは。尊重。確かにそうね。そう言える」

 何か不穏な気配だ。キクリコが無事でいるなど信じていなかったが、やはりまともな状態ではないらしい。

「キクリコは生きているって言ってなかった?」

 クラストラが叫ぶ。離れた距離にいるイゾアデイルは彼女を振り返る。

「生きている。丁重にもてなしている。大事な先生だ。おいヘンジエイド。誤解を招く言い方はよせ」

「そうねあははは。ごめんなさい。ちゃんと無事で生きているわよ。そうでないと困るもの。尊重するわ。くくく。いらっしゃい坊や。名前は?」

 ネフェシスは怖じ気付く。ヘンジエイドはにやにやし、ヒエラルキを見て面白そうに目を細める。

「いらっしゃい坊や……」

 ヘンジエイドはわずかに身に着けている布を取り、裸になる。その布はどういう力かそばにふわふわ浮いている。

「ちょっと」

 ヒエラルキは彼女が何をしようとしているのかわかり抗議する。

「何勘違いしているの? 抱きしめるだけよ。怖い事はしないわ。いらっしゃい坊や」

「ネフェシスです……」

 ネフェシスはその美しい裸体に見とれ、顔を赤くしながらふらふらと近づいていく。

「ちょっと待ちなさいネフェシス。行っちゃ駄目。危険よ」

 この場ではなぜか皆浮いている。跳躍は出来ても飛行は出来ないネフェシスがふわふわとヘンジエイドに近づこうとしているので、ヒエラルキはその腕をつかむ。

「離して」

「何なの? 魔人の力で魅了されている?」

「あははは。違うわよ。あんたより私の方が魅力的だから、私を選んだだけの話よ」

 ヒエラルキは顔を真っ赤にする。これでは自分の密かな好意がネフェシスに知られたも同然ではないか。

 幸か不幸か、熱に浮かされたネフェシスはまるで気付いていないようで、ヒエラルキの手を振り払った。

「あ……」

 ヒエラルキは絶望する。言わなきゃ。ここで彼を引き留めないと絶対後悔する。

「ま、待ってネフェシス。お願い、行かないで。あ、あなたの事が、好き、なの。ずっと好きだった。言えなかったけど、でも、本当に、大好きで、いつも一緒にいてうれしくて……」

 ネフェシスは告白されているにもかかわらず、まるで聞いていないようにぼーっとヒエラルキを見つめ、そして顔を逸らした。

「待って。お願いだから行かないで。いや、いやいやいやあああ」

 再度しがみつくヒエラルキの腕を、ネフェシスは乱暴に振り払って飛んだ。

「あああああ」

 涙をこぼし叫ぶヒエラルキのそばに、クラストラが飛んできて肩を抱いて支える。

 ネフェシスは顔を赤くしてうっとりしながらヘンジエイドの前に立つ。

「うふふ。あんな女より、私を選んでくれてうれしいわあ」

「だって、あなたは美しすぎて、こんなに惹かれて、その、魅了の、力でも、あるんですか」

「どうかしらねえ。一目惚れって奴じゃないの? 君かわいいわねえ。すごく私好み。私を見るそのとろんとした表情がすごくそそるの。気に入っちゃった」

 ヘンジエイドがネフェシスの服を脱がせる。ヒエラルキは顔を両手で覆って泣く。クラストラは彼女をぎゅっと抱きしめてあげた。

「おいで。抱いてあげる。そのまま入れていいから」

 ヘンジエイドの前で裸になり、とっくに限界まで張りつめていたネフェシスは、他のみんなに見られている事も忘れてヘンジエイドを抱きしめ、腰を動かしすでに濡れているその中へ押し入った。

「え? あ、はあ!」

 ネフェシスが仰け反る。びくびくと揺れる。その顔は明らかに絶頂している。

「何、これ、ん、ぐう」

 ネフェシスがうめく。ヘンジエイドは抱きしめて離さない。

「私の力が流入しているのがわかるでしょう。あんたの精を私に注ぎ込んでもまたわき出す。無限の絶頂。人間が魔人と交わると、最高の快楽が永遠に繰り返されるわ」

「はあ、はあん、んあああ!」

 ネフェシスは狂ったように悶え、涎と涙を垂らしてよがりまくる。ヘンジエイドはそれを強く抱きしめ逃がさない。がくがくけいれんするネフェシスから搾り出し続け、しかし力を注ぎ込む事で精も体力も尽きさせはしない。

「ひ、いいいあ、こんなの、駄目、僕」

「私の先生にしてあげる。この快楽を私がしたいときしたいだけ味わわせてあげる」

「む、無理、これ、気が、狂う」

「大丈夫よお。注いであげている力のおかげで正気を保てる。抑えないのは快楽だけ。気絶せずに絶頂し続ける。女でも耐えられないのにより耐久力の劣る男にはさぞ辛いでしょうねえ。ん」

 ヘンジエイドはネフェシスを抱きしめ足を絡める。頭を押さえ強引にキスをし、そのまま強く絡まりながら自分も絶頂する。

「ふうー、気持ちいいわあ。いつまでも続けたいけどそういうわけにもいかないわ。続きはまた今度ね。私の大事なネフェシス先生。いろいろ教えてね。ご褒美にいろいろしてあげるから」

 ヘンジエイドはもう一度キスをすると、ネフェシスの身体をぱっと消す。

「死……?」

 クラストラが驚くと、愛するネフェシスが他の女と交わる姿を見たくなくて顔を伏せていたヒエラルキが顔を上げる。

「な、何したの。ネフェシスを返して!」

「あらあらお嬢ちゃん。だーめ。ネフェシス先生はもう私の物。彼かわいいくせに凄いのねえ。私の中で力強く何度もびくびく跳ねて。気持ちよかったわあ。最高。今まで抱いた人間の中で一番私のここに合っているわ」

 ヘンジエイドはお腹をなでる。その手つきは実になまめかしい愛撫のようだった。

「ふ、ふざけ、ないで、ネフェシスを、返してよお。彼を殺さないで」

「殺してなんかいないわ。大事な先生だもの。丁重、ぷぷぷ、丁重に扱っているから心配しないで。ああそうそう。一ついい事教えてあげる」

「何?」

「ネフェシス先生の脳を解析して、その情報をコピーしたわ。彼、あんたの事嫌っていたわよヒエラルキ」

 ヒエラルキは青ざめる。

「自分と同じように臆病で、おどおどして、人の顔色をうかがっている。自分の駄目な所だけを写した鏡を見ているようで、見ていてすごく嫌な気分になるんですって」

「嘘よ。そんな。だっていつも、仲良く、楽しく、おしゃべりして、笑って」

「ネフェシス先生はとっても優しいもの。嫌いな人だって優しく接してあげられる。心が広いわあ。ううん。ぞくぞくしちゃう。何から何まで私好み。イゾアデイル。ありがとうね。こんな素敵な人を連れてきてくれるなんて」

「別にお前のためじゃない。こいつらがついてきただけだ」

「不機嫌ねえ。私と子作り出来なくて残念なのかしらあ?」

「仲間をみんな目覚めさせ、人間にたからせない方が先決だ。そんな事をしている暇はない」

「あんたのキクリコ先生ともしないのお?」

「しばらくはおあずけだな」

「ううん。駄目よお。女を待たせちゃあ。待っているんだからあ。抱いてあげなきゃ」

「その内な。今は行くぞ」

「駄目駄目。まだ終わりじゃないわ」

「何?」

「私とネフェシス先生はもう恋人なのよ。フられたとはいえ先生を好きな女がそばにいるなんて耐えられない。邪魔な泥棒猫はきっちり殺しておかなくちゃ。ま、私から彼を盗めるわけはないけどね。じゃれつく猫は見るのも我慢ならない」

 ネフェシスを奪われ悲しみ憤っていたヒエラルキがあっけに取られる。

「は?」

「殺してあげるって言っているのよヒエラルキ。邪魔な虫けらを潰して遊ぶほど幼稚じゃない。でも恋人にちょっかい出そうとする泥棒猫は放ってはおけない。きっちり殺して私の恋人に永遠に近づけないようにしなくちゃ気が済まない」

 ヘンジエイドは飛ぶ。一瞬でヒエラルキの前に立ち、怯えて目を見張る彼女のほほを握るように掴む。

「特別に戦ってあげる。怯えたあんたを今すぐ握り潰すだけじゃ足りないわ。私の彼に手を出そうとした事後悔してから死んでちょうだい」

 ヒエラルキはがくがく震える。どうして。ただネフェシスの事が好きだっただけなのに。まだ殺されないはずだったのに。どうして今すぐ殺される事になってしまったのだ。

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2013年07月27日

牢獄館のお嬢様(5)ルール戦闘

牢獄館のお嬢様(5)ルール戦闘

 コックの白衣を来た細身で長身の女。短い髪でまるで男のような、男装の麗人。すごくきれいな顔したキラハットは、その本性を晒け出してなお惹かれる。

 真剣な顔凄く恰好いい。ドキドキする。女だとわかってもやっぱり、一目惚れの効力はまだまだ切れないようだ。

 対峙するメイドはビルピオーネ。こちらも長身だ。美しいメイドは勇ましく、ボクサーみたいに拳を上げて構えている。

 私は二人から離れて見守る。この広大かつごちゃごちゃした厨房で戦うのか。鍋やフライパンはまだ火にかけたままだ。危なくないのだろうか。

 そういえば、焦げたりしないな。私はフライパンをちらりと見る。

 フライパンはじっとしている。しかしいきなり、一つのフライパンがぽんと跳ね上がる。

「ひっ」

 そのフライパンは、中の食材を華麗に舞い上げひっくり返す。そして食材を受け止め、またじっとする。

 弱火でじっくり焼いている。

 どうやらここの料理は、料理人であるキラハットが手を出さなくても勝手に調理しているようだ。弱火でじっくりの方が焦がすことなく中まで火が通るのでおいしいって何かで読んだな。

 キラハットが私をちらりと見る。

「シズカお嬢様。少しだけ待っていてください。メイドなんて料理に時間はかかりません。ベッドのおつまみにして差し上げますよ」

 さっきは朝食って言っていたくせに。どちらにしてもメイド料理なんて食べたくないってばあ。

「シズカお嬢様。キラハットの毒牙でお嬢様の純潔を散らさせたりはしません。私がお守りいたします」

 ビルピオーネは真剣に、そう言って私を見つめる。

 本当に、彼女も私を愛しているのだろうか。

 ビンタによる躾しか記憶にないくらいはたかれまくった。あれを愛の鞭とか言ったら世界の七我慢大会に出場すれば優勝してしまうはずの私でも怒るぞ。

 キラハットの美しい顔が、凶悪に歪む。

「メイド風情が料理人にかなうと思っているのかあああ!」

 だから意味がわからない。どうやらこの館では、役職がルールにより階級づけられているらしい。何の意味があるんだそれ。

「ふきこぼれろ。お鍋」

 は?

 キラハットがおかしなことを言った途端、周りにいくつもあるぐらぐらと煮立っていたお鍋のふたが飛ぶ。

 噴水のように噴き出した熱湯やらスープやらが、まるで蛇のようにくねりビルピオーネに向かっていく。

「ふっ」

 ビルピオーネはしゅっしゅと軽快に、構えたパンチを繰り出す。すぱんすぱんと湯やスープの奔流を打ち、弾き飛ばしていく。

 えええ。何この戦い。

 なんか凄そうに見えるけど、スープとか茹でていた具材が飛んでいって襲うのってなんか間抜けなんですけどおおお。

「やるな。だが熱いだろう」

 キラハットがにやりと笑う。ビルピオーネは熱で赤くなった拳を構えたままさりげなくふーふーしている。

 熱いだろうじゃねえだろ。

 口元の血をぴっと拭うとかでなく、拳をふーふーするだって?

 まさか二人とも、これが恰好いいとか思ってないだろうな。

「だが拳で刃は防げまい。あ痛、指切っちゃった。包丁」

 キラハットが呪文? を唱えると、厨房のあちこちから包丁が飛んできて、ビルピオーネを襲う。

 ビルピオーネはしゅっしゅと拳を振るう。そして飛んでくる包丁を左右の手で一本ずつ握ると、残りの包丁を手に持った包丁で叩き落としていく。

「その手があったかあ!」

 あったかあじゃねえよ!

 もしかしてと言うかやはりと言うか、キラハットも馬鹿なのか。この館にいる連中は、頭が悪くないのにどこかおかしい。ずれている。

 聡明で、賢くて、馬鹿でないのは私しかいない。私がしっかりしないと。でも何も出来ないけど。

「今度はこちらの番ですよ」

 飛んでくる包丁を全て叩き落としたビルピオーネは、両手に持った包丁を構える。

 ゴキゴキと、ビルピオーネの腕が音を立ててうごめく。

「えっ」

 その腕が、伸びた。

 ただ伸びたのではない。関節が増えている。関節を増やす度、その分腕も伸びる。

 ビルピオーネの腕は、関節ごとに折れ曲がりねじれた鎖のようにどんどん伸びて、凄い勢いでキラハットに向かっていく。

「うおおおおお!」

 キラハットの胸に、ビルピオーネの持つ包丁が二本とも突き刺さる。そのまま猛烈な勢いでキラハットを吹き飛ばし、料理台を壊すほど叩きつける。

「ぐはっ」

 し……死んだかな。

 胸を包丁で深々と貫かれたのだ。あれで死なないわけがない。

 私はルールにより、死んでもすぐに復活する。多分使用人とかも同じだと思うがどうだろう。

 ビルピオーネは関節を増やして伸ばした腕を、またゴキゴキ音を立ててねじくれさせながら、関節を減らして短く戻す。

 うえええ。気持ち悪いよお。美しいメイドが台無しだ。

 むっくりと、包丁が胸に刺さったままのキラハットが上体を起こす。

「ふう。危ない危ない。こんなこともあろうかと、服の下にまな板を仕込んでおいてよかったぜ」

 何いいいいいいいい。

 とでも言うと思ったかああああああ。

 だから恰好悪いって言っているだろうが。はしたないから口に出しては言ってないけど。

 してやったぜみたいにニヤリと笑うのやめろ。ビルピオーネもくっと悔しがるような顔するんじゃない。

 キラハットが服を引き裂き胸から取り出したまな板は、あきらかに厚みが足りていない。その証拠に、包丁の刃はしっかり貫通していた。でもまな板で防いだおかげでキラハットは無傷らしい。

 そんな馬鹿な。

「シズカお嬢様。これがルールの世界での戦いです。防いだというルールにより、包丁の刃の長さがねじ曲げられ無力化されたのです」

 言っている意味がわからない。いかに頭脳明晰最高知能頭の回転秒速百万回の私といえど、頭のおかしい奴の理屈は理解出来ない。

 それにしても。キラハットに抱きしめられたとき硬くて素敵な胸板だと思ったらまな板だったとは。一字違いは著しい違い。乙女のドキドキを返せこの野郎。

 キラハットの破れた服からは乳首が見えない。おっぱいがあるようには見えない。本当に男じゃないだろうな。そうだったらうれしいけど。

 キラハットはこっちを見てにかっと笑う。その笑顔と歯の輝きにドキッとする。白い歯って恰好いいよね。きらり、だってさ。

 キラハットが破れた服を整えると、服が元通りになった。おお。すごい。ルールで構築されているから服はすぐに戻せるのか。

「メイドのくせにやるな。だがシズカお嬢様は俺のものだ。こんないい女他にはいない」

 自覚してはいたが、他人に言われたのは初めてだ。ドキッとする。やっぱり私が世界一の美女だと言うのは、私の勘違いではなかったのだ。

「カレントお嬢様に言いつけますよ」

「言わないでくれ」

 何言っているんだキラハット。急におろおろするのやめろ。何だその青ざめた面は。さっきのきりっとしたりりしさをもう忘れたのか。

 まさかカレントにも同じことを言っているんじゃないだろうな。この女たらしめええええ。でも素敵いいいい。

 うう。キラハットが女だとわかっても、カレントと寝ていることを知っても、恋心が消えない。なぜだ。一目惚れの呪縛は強すぎるぞ。

「こうしていても埒が明かねえ。俺の必殺料理法で一気にけりをつけてやる」

「そうですか。ならそれを破れば私の勝ちでよろしいですね」

「はっ。いいだろう。これを破ればお前の勝ちにしてやる。無理に決まっているがな」

 うーん。多分だけどビルピオーネは、私にルールを用いた戦い方を教えているんだ。こうして勝ちの条件を相手に認めさせた上でそれを成し遂げれば勝ちになるということなのだ。

 勝利条件は両者が認めたらルールで構築される。逆らえなくなる。きっとそういうことなのだろう。

「いくぜ、ああら焦げちゃったあ、オーブン」

 厨房にあるオーブンがいくつも宙に舞い上がり、飛んで集まってくる。それらは空中で合体し、ロボットに変形するような無駄なギミック満載のモーションをしたあげく結局ただの四角い巨大オーブンと化す。

 巨大なオーブンは扉を開いてビルピオーネに襲いかかる。ビルピオーネは拳の連打でそれを押しとどめる。

 押したり引いたり、両者譲らない。激しい攻防なのに、なんか恰好悪い。二人とも真剣だけど、絵として変だよおおおおお。

 巨大オーブンは飛び跳ね、ビルピオーネに飛びかかる。拳の連打で弾かれ後退しても、再度違う角度から襲ってくる。

 オーブンの開いたふたが、ビルピオーネの死角からその背を打ち据える。

「がはっ」

 がはっじゃねーよ。だから絵的に恰好悪いって言っているだろうが。口に出しては言ってないけど。

 怯んだビルピオーネの頭が、オーブンに呑み込まれる。

「ああ」

 私は悲鳴を上げる。ビルピオーネはまたゴキゴキと骨が折れるような音を立てて腕の関節を増やす。ボキボキに折れ曲がった腕がのたうちながら伸び、キラハットの首をつかむ。

「ぐっ、何を」

 キラハットはそのまま、関節を減らしていく腕に引っ張られ、オーブンに引きずり込まれる。

「うおおおおおお」

 ビルピオーネはキラハットを放り込んだオーブンのふたを閉める。

 キラハットを閉じ込めた巨大オーブンは、下にある調理台やお鍋などを踏み潰しながらずしんと床に落ちる。

 中からくぐもった笑い声がする。

「ははは。俺を閉じ込めたつもりかビルピオーネ。だが甘い。力を失えばこのオーブンは分解され、俺は出られる。力が消えるまでしばらく待てばいい話だ」

「その前に、スイッチを入れてあなたを焼きますよキラハット」

「ほざけ。調理家電は究極の謎。料理人にしか扱えない。メイド風情がスイッチを入れられるものか」

「たしかにメイドにはオーブンのスイッチを入れることは出来ません」

 何だ何だ。ピンチと逆転みたいな緊張感あるやりとりをしているようだが、言っていることがおかしいぞ。

 私はおずおずと口を挟む。

「あの、もしかして、それもルールで縛られているからですの?」

「そうです。シズカお嬢様。お嬢様にはこの謎が解けますか」

 謎と言われても。私は眉をひそめる。

 そのオーブンは、古いタイプの家電にしか見えない。電源スイッチと時間設定のダイヤルしか無い。

 これが究極の謎? ルールに縛られているから、調理家電は料理人以外には難攻不落の謎に見えるということなのか。

 まさかビルピオーネが、この使い方すら見てわからないほど馬鹿なわけではないよな。いくらなんでも。

 私はダイヤルを回して時間を設定すると、電源スイッチを押す。

「ま、まさか、あつ、熱い、ぎ、ぎゃあああああ」

 キラハットが悲鳴を上げる。

 ビルピオーネが目を見開く。

「まさか。お嬢様。お馬鹿だと思っていたのにこの謎を解けるとは。本当は聡明な方だったのですね」

 まさかまさかの真っ盛りかお前ら。そんなに驚く事だろうか。私に馬鹿っぽい要素など粒一つもありはしないのに、ビルピオーネはなぜそんな誤解をしていたのだろうか。

 あれか。天才は馬鹿には理解出来ない。だからビルピオーネから見たら、天才の私は理解出来ず、馬鹿に見えるということか。

「これで、この部屋のルールを破ったことになるのかしら」

「もちろんでございます。その部屋を構築するルールを解明し破る。ルールを構築している部屋の主を倒す事は、構築されたルールを破る事に他なりません」

 そんなものか。私にとっては謎でも何でもなかったが、ビルピオーネは初めて、私を尊敬するきらきらしたまなざしでうっとり眺めている。

 チーン。料理が焼きあがった。オーブンの扉が開き、黒こげに料理されたキラハットがふらりと出てきてばたっと倒れた。

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2013年07月26日

魔人と超能力者(6)提案

魔人と超能力者(6)提案

 ヒエラルキは、さっき魔人のイゾアデイルが言った事について思案した。

「暴力が愛情表現って……ビリーボア、本当にそんな風に考えていたの? じゃあ、私たちに暴力を振るったのも好意の表れだって言うの?」

 クラストラが自分の意見を述べようとした矢先、ネフェシスが叫んだ。

「そんなわけないだろ。あいつの悪意と暴力は凄まじかった。あれが愛情表現だって? そんな風に考える人間がいるわけがない。あのイゾアデイルが嘘をついているか、さもなくば本当にそうキクリコが言っていたなら、それはビリーボアが彼女を奴隷に調教する際に、暴力は愛情だと教え込んだだけだ」

 そうだろうか。ビリーボアが見せたあの表情は、暴力が愛情表現ではないと言われて心底あっけに取られた顔だった。

 でもクラストラは頭を振る。

「そうね。ネフェシスの言う通りだわ。ビリーボアがキクリコを調教するとき、暴力を愛だと教えた。調教されたキクリコはそれを信じた。あるいはキクリコの脳を解析して情報を引き出したというのが本当なら、単にキクリコの記憶を読み取り、イゾアデイルはそれを彼女が言ったと表現しているに過ぎないんだわ」

 イゾアデイルはそれを聞いていたが、何も言わなかった。ビリーボアの強さに対して死という最大の名誉で報いてやった。これ以上彼のために何かを言ってあげる必要は無い。

 イゾアデイルは他の三人を無視する。少しはまともな会話が出来るエンブリッツにだけ話しかける。

「神については何も教えられない。他に聞きたい事は?」

「いろいろありますが、あなたはご自分の事しか答えてくれないのでしょう」

「まあな。強い者は尊敬に値する。それについて知りたいなら自分で対峙し問いただせ。対峙する力のない弱い者には知る権利も触れる権利も無い。お前等人間が神に触れられないのはお前等が神に近づく力すら持たないほど脆弱だからだ」

「人間はオカルトを解明しつつあります。それは人間が進歩し力をつけていっている証拠という事なのですね?」

「そうだな。だからお前等は俺たち魔人を発見し、こうして接触した。ビリーボアは力を見せてくれた。俺たちには及ばないが、触れるだけの力はある」

「ではあなたたちの事についてもっと教えてください」

「質問には答える。質問すら考えつかない馬鹿に答える事など何もない」

「もちろんそうです。ではあなた達はなぜ世界中に散らばっているのですか」

「子供を作るとき以外に寄り添う必要などない。人間が自分の部屋を持つように、俺たちは自分たちの土地を持つ。俺たちは心まで強いのだ。一人で生きていける。寂しいとか寄り添いたいとか思わない」

「ならなぜあなたは、他の仲間を掘り出そうとするのですか」

「言っただろう。仲間が蠅にたかられるのを放ってはおけない。人間どもがたかる前に掘り出し目覚めさせる。久しぶりに子作りもしたいしな」

「寿命は?」

「殺されない限り死なないし老いない。成長し、成熟はするが老ける事はない」

「それは魔力のおかげですか? それとも肉体の特徴ですか」

「どちらでもだ。心、身体、力。三つ全てが強くなければ高みに至れない。人間の心と力の強さはビリーボアが示してくれた。しかし身体はどうしようもなく弱い。俺の手で頭を簡単に潰してしまえた」

 人間がその肉体を強くするには構造その物を作り替え、別種の生物に進化しなければならない。オカルトの解明により、進化を促す手段も見つかるのだろうか。それが出来ないなら魔人に及ぶ事は不可能だと言っている。

「一つ言っておこう。お前等の定義とは異なるが、俺たちが神と呼ぶのは目指すべき頂点たる存在の事だ。不定ではなくとって代わられる事がある。崇めるのではなく追いつき追い越す目標だ。全てより圧倒的に優れた存在。何者も至れないが存在している。それが神なのだ」

 エンブリッツは何気ない会話をしている振りをしながら思案する。

 神について教えないと言いながらそれを少しずつ漏らしている。神に敬意を持ち、間違った認識を持つ人間にそれを教えたがっている証拠だ。

 意外に人間臭い神経なのだな。理解不能なかけ離れた思考回路ではない。これなら上手く利用出来るかもしれない。

 少なくとも、この手詰まり状態を打破する突破口を会話から見つけなければならない。

 キクリコが捕らえられ、ビリーボアが殺された。任務だから逃がすわけにはいかない。奴隷刑を免れるためネフェシスたちは死んでも戦わねばならない。

 彼らは大事な手駒だ。これだけ強力な超能力者の駒を再び用意するのは難しい。しかもビリーボアの暴力を利用して既に支配下においている。また一から調教し直すのは骨が折れる。

「魔人の目的は?」

「言っただろう。神を目指しそれを超える。下に構っている暇はない。人間の相手をしている暇は無い。お前たちの相手をしているのはキクリコ先生のためであり、今はビリーボアのためでもある」

「それはありがたい事です。二人は大事な部下でした。犠牲になった価値があったという事ですね」

「俺はキクリコ先生から今の世の中の事を学ぶ。彼女は特別だ。死ではなく、尊重という栄誉を与える」

「まるで神のごとき振る舞いだ。神を目指して真似事ですか」

「強き者が弱き者に価値を認めれば、その価値に見合った施しをするのは当たり前だ。人間はその程度の常識をわきまえず奪うだけ。だから愚かで尊敬に値しないのだ」

「耳に痛いですね。ご忠告感謝致します」

「お前は今のところ、尊敬に値しない。くだらない質問しか思いつかないのか。時間稼ぎならもっと上手くやれ」

 今まで十分上手く人をあざむいてきた。エンブリッツはそれが下手だと言われ内心憤慨したが、こういう時に笑顔を作るのは今までさんざんやってきた事だ。

「いいか。この状況を打開する方策を考えているのだろうが、貴様の貧弱な頭脳ではろくな事が思いつかないだろう。部下を全滅させて自分だけ助かろうという奴だ。どうせそれしか手は無いのだろう」

 エンブリッツはとぼけて首をかしげる。

「何の事でしょう」

「お前は本当に馬鹿で、キクリコ先生は本当に賢い。キクリコ先生はお前の浅い策謀などお見通しだ。お前は利用しているつもりで利用されている哀れなピエロだとキクリコ先生は笑っていた」

 キクリコが、あの馬鹿が、ビリーボアに蹂躙されて心も感情も思考も壊れたあの女が、エンブリッツより賢く彼を利用したなどあり得ない。そうでなくてもキクリコは、昔も今も誰かをピエロだと笑うような女ではない。

「さっきから気になっていたのですが、あなたはキクリコが本当に口にした事ではなく、その思考や気持ちを推測して代弁しているだけですよね?」

「いいや、ちゃんと口にして話した事だ。俺は彼女を尊重している。彼女も俺を尊重している。隠し事は無しだ。本音で会話している」

「脳の情報を解析しただけなのでしょう。人は決して本音で話はしません。自分すら欺いてまで本音を隠します」

「お前はそうやって、人の本音を信用しない。だから誰からも本音を言ってもらえない。自分が相手を見下すから相手から見下されるのだ。打てば響く。与えた物が増幅して返ってくるのが世の理だ。尊重しろ。そうすればお前の望み通り尊重してもらえる」

「魔人は人間より強いから、上から説教ですか」

「やれやれ。お前の詭弁は浅い。だからつつかれると動揺し、そうやって子供みたいにしか言い返せないのだ」

 エンブリッツは笑顔を絶やさない。ここまでやり込められるのは初めてだ。

 いや、そう思い込まされているだけだ。相手だって大した事は言っていない。同レベルの言い争いだ。

 ただ相手は明らかに自分を人間よりはるかに高位の存在だと自負し、それを疑っていない。力で劣るエンブリッツが気圧されているから、言い負かされているように感じるのだ。

「そこで、馬鹿で浅はかなお前に提案してやろう。この状況を打破し、俺を逃がさず部下も失わずに済む方法を」

「そんな方法があるなら、ぜひうかがいたいですね」

 それが出来れば苦労しない。エンブリッツはただ単に、相手に話を合わせていい気にさせるだけのつもりだった。

「お前はさっきから、部下を一人ずつぶつけてきている。意図的にだ。そうして今後も一人ずつ超能力を使わせ一騎打ちをさせる。そうすればリーダーである自分だけが最後に残る。最後の部下をぶつけている隙に一人だけ逃げる。上司と癒着し裏切れない関係にあるお前は逃げ帰っても一人だけ奴隷刑を免れる」

 クラストラたちはぎょっとする。任務に失敗しておめおめ生きて帰れば奴隷刑が待っている。そんな屈辱を受けるよりは死んだ方がはるかにましなほど辛い刑だ。だからエンブリッツも含めて、チームが全滅するまで戦うしかないはずなのだ。

 それを、エンブリッツ一人だけが逃げ帰っても奴隷刑を免れるだって? いざというとき部下を犠牲にして一人だけ逃げるつもりだっただって?

 クラストラも、ヒエラルキも、ネフェシスも怒りが沸騰する。憎しみを全て受け止めていたビリーボアはもういない。ビリーボアという盾を失い、エンブリッツは三人の憎悪を一身に浴びる。

 エンブリッツは笑顔を絶やさずみんなの顔をぐるりと見てからイゾアデイルに向き直る。

「そんなわけないでしょう。私たちの超能力はとても強力です。必殺の攻撃をぶつけようと思えば、一度にかかっては逆に邪魔になります。なにせ超能力は接触により直接打ち込まなければなりませんからね。あなたが相手してくれるので、一人ずつぶつかる形になっただけです」

「お前の言い訳は浅い。さっきビリーボアは全員で俺を襲うつもりだったのに、お前は一騎打ちにすり替えただろう。みんなの憎悪を使ってそれを了承させた。ああやって残りの三人もうまくそそのかして、今後も一人ずつ俺に殺させるつもりだったのだろう。一度にぶつかるなら、自分も俺と戦わねばならないからな」

 そう言われれば、ビリーボアが死ねばいいとみんな思っていた。でも戦うなら一人ずつより全員でかかった方がいい。一人ずつでは確実に全滅する。でも同時にかかれば一人か二人は生き残れるかもしれない。どのみち全滅は免れないが、それでも一騎打ちよりは助かる可能性が高い。

 好戦的で強いビリーボアを失っては、もう全員でかかっても勝ち目は無い。ビリーボアに一騎打ちをさせたのは明らかに失策で、普段のエンブリッツではあり得ない事だった。

 つまりあの時すでに、魔人にかなわないと悟って部下を全員死なせるつもりだったのだ。自分一人だけが逃げ帰るために。

「許せない……」

 ネフェシスは歯ぎしりした。ビリーボアが今でも許せない。死んだぐらいで許せるような被害では無かったのだ。それでもビリーボアを利用し自分達もその死に荷担させたエンブリッツに、自分の事は棚に上げて激しく怒りを覚えた。

 エンブリッツはビリーボアを利用した調教が水の泡と化した事にひどく失望し、それでも気持ちを切り替えた。

「キクリコに何を吹き込まれたかは知りませんが、彼女はビリーボアの悪意から救ってもらえなかった事を恨んでいます。どうしようもなかったけれど、私を憎んで陥れようと嘘をいくらでも並べ立てるでしょう。まあいいです。彼女を救えなかった私への罰として、そのありもしないでっち上げを甘んじて受け入れましょう」

「ふざけないでよエンブリッツ。女が自分より強い男に襲われるのがどれほど怖いか知りもしないくせに。キクリコは実際に被害に遭ったのよ。私が受けた恐怖と苦痛よりはるかに辛かったわ。そんな彼女を侮辱する権利があんたにあるものか」

「クラストラ。この話は後にしましょう。みなさんはもう、私が何を言っても今は聞き入れてもらえないでしょう。後で冷静になってからまた話しましょう。さあ、この話は今は置いておきます。イゾアデイル。あなたがさっき言っていた、私たちがこの状況を打開するための提案とは何ですか」

「そうだったな。お前たちが追ってこないなら俺はお前等を殺さない。殺すだけの価値が無い。しかしお前等は逃げ帰る事が許されない。エンブリッツ以外は何を言おうが奴隷刑だからな」

 エンブリッツはうなずかない。ここでうっかりうなずいたら、自分だけは助かる保証がある事を肯定した事になる。

 もう疑われて信用を失ったが、それでも肯定しない限り三人がエンブリッツを完全に否定する事は出来ないのだ。

「だからお前等は追ってこい。俺はお前等を殺さない。キクリコ先生とビリーボアに免じて、たかる蠅をうっとうしいがまとわりつく事を許してやろう」

 四人ともあっけにとられる。

「つまり、同行しろと?」

「好きにしろ。いつでも殺すために襲ってこい。お前等がビリーボアと同じように心も力も強いなら殺してやってもいい。その価値が無い内は追い払うだけだ。うっとうしいが潰したりはしない」

 イゾアデイルは全員を順にじろりと見つめ、その目に畏怖を叩き込む。

「蠅を叩き潰すのは名誉の死とは違うぞ。ただ追い払うときに弱くて死ぬだけだ。勘違いするなよ。殺してやる価値が無い限り、俺はお前等を殺さない。だが追い払ったときに死んでしまおうが知った事ではない」

 全員うつむいて、その意外な提案について熟考する。

 つまり、現状を打破出来ないが、結論を先延ばしにするという事だ。

 逃げ帰らないから奴隷刑にならなくて済む。挑まない限り殺されない。

 もちろんいつまでも挑まないわけにはいかない。いつかは戦い殺される。しかし今はとにかく命拾いする。今後どうやってこの魔人を殺すか、あるいは捕獲するかを考えればいい。

 それにそうすれば、キクリコを助けられるかもしれない。とっくに彼女の事は諦めていたが、今は彼女を救うためという大義名分が、この命拾いの提案を受け入れるための免罪符なのだ。

「私はそれでいいわ」

「僕も」

「私も」

 クラストラが言うと、ネフェシスとヒエラルキもすぐにうなずく。

「待ってください。魔人の言う事など信用してはなりません。裏があるはずです。もう少し考えてから結論を出さないと」

「エンブリッツ」

 クラストラが代表して言う。

「もうあんたはリーダーじゃないわ。この任務が終了してまだ生き残れたらそのときは、国の機関に属しているからまたあんたをリーダーとして従えと言われれば従う。でもこの任務の間、あんたはもうリーダーじゃない。信用出来ない。私たちを上手く操作して、ビリーボアを死に追いやった。許せない。これからは個々の判断で動かせてもらう。あるいは多数決か。三対一で可決よ。私たちはイゾアデイルを追う。いつか挑むが今は挑まない」

 クラストラをはじめ、ネフェシスもヒエラルキもぎらぎらと怒りに燃えた目でエンブリッツをにらみつける。

 三人だってビリーボアを死に追いやった。一騎打ちを肯定し、ビリーボアを追いつめた。その責任を問うても今は火に油を注ぐだけだ。エンブリッツは何も言わず、ただうなずいた。

「決まりだな。お前等は好きにしろ。俺に訊きたい事があるなら訊けばいい。しかし今しばらくは黙っていろ。俺も疲れた。エンブリッツ。お前の幼稚な言い訳にいちいち付き合うのは疲れる。キクリコ先生とビリーボアに感謝しろ。あの二人がいなければ羽音のうるさい蠅の羽はとっくにむしっている」

 三人は魔人を恐れていたが、その言葉に合わせてくすくす笑い、エンブリッツを馬鹿にした。

 エンブリッツはほほえみをわずかに維持していたが、内心は怒り狂っていた。彼は怒りが人一倍激しく、それは今まできちんと晴らしてきた。

 今回も、自分を笑った三人や、見下した魔人にきっちりやり返し、この怒りを晴らす。その計画を心の中で早くも練り始めた。

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