2014年01月30日

見えざる掌(26)命賭け

見えざる掌(26)命賭け

「おや、ゾナス君。もう泣いてあげないのかい。ホロビッツ君がかわいそうじゃないか」

 クランクランの問にゾナスはむすっとしたまま答える。

「このままにしてはおけない。埋葬するために連れ帰る」

 ゾナスがホロビッツの遺体を抱えたまま車に向かうので、イヒャルテがあわてる。

「ちょっとちょっと。ゾナス。死体はすぐに腐敗を始める。臭いんだよ。車に積むなんてやめてよ。埋葬ならここにすればいいだろ」

「ちゃんとした場所で、墓を建ててやりたい」

「はあ? この裏社会で墓なんて建てる奴はいないよ。死体はゴミだ。さっさと回収して始末するのが日常茶飯事だ。知ってる? 死体は病気を広めないよう火葬しているって言われているけど、本当は家畜の餌にしているんだ。肉を燃やす燃料がもったいないからね。量を減らして餌代も浮く。一石二鳥さ。人間の死体を食わせて家畜を太らせそれを僕らが食べる。食物連鎖だよ。きれいな循環の輪だ。裏社会は効率的で素晴らしいね。死体を活用せずただ大事にして火葬する表社会とはえらい違いだ」

 ゾナスはイヒャルテを無視して車に乗り込む。

「ちょっとゾナス! 待てよ。仕事の依頼を聞かないと。そもそもそのために来たんだろ」

「お前が聞いておけ。俺はホロビッツを埋葬してから戻ってくる」

「町まで何時間かかると思っているんだよ。往復だと半日も待たされるじゃないか。夜になっちゃう。僕ひとりぼっちでここにいるの嫌だよ」

 イヒャルテの叫びも空しく、ゾナスは車を発進させた。

「ちょ……冗談だろ。ひどいやゾナス。ああ。こんなひどい事が出来るなんて信じられない。裏社会の風上にも置けないよ」

 イヒャルテは去っていく車を眺めながらひざをついてがっくりうなだれる。

「はっはっは。イヒャルテ君。嫌われちゃったねえ」

「ゾナスって馬鹿だから、冗談と嘘の区別もつかないんだ」

「冗談と本気じゃないのかい」

「嘘か冗談のどっちかに決まっているじゃないか。僕だってホロビッツが死んで悲しいよ。愛のために生きるなんて僕には出来ない。だからうらやましいし高潔だと尊敬出来る。美しいラブストーリーだった。拍手喝采だよ。いろいろひどい事言ったけど、あんなの本気なわけないじゃないか」

「おやそうなのかい。私と同じで本気だと思ったけど」

「よしてよ。僕はクランクランみたいにひどい奴じゃない。ゾナスと同じで人情に厚いんだ」

「あははは。そいつは最高に面白い冗談だね」

「冗談じゃないよ」

「じゃあ嘘だね。冗談か嘘か、どっちかなんだろう? まさか本気じゃないよね」

 イヒャルテは神妙な顔をしていたが、やがてぱっと顔を輝かせる。

「ちぇっ。クランクランはゾナスと違ってひっかからないからつまんないや」

「そいつはすまないね。私は冗談や嘘は好きだよ。面白くて笑えるからね。でも本気は嫌いだ。あんなに苦くて笑えない物は無い。あんな不味い物を口に出来るなんて信じられない。君が本当は人情に厚いなんて、本気だったら許さないよ」

「まさか。クランクランは僕がゾナスみたいに誰かのために泣いてあげられると思う?」

 クランクランはじっとイヒャルテを見つめる。

「……思えないね。多くの人間に会い取引するから人を見る目は確かなつもりだ。君は嘘と本気の区別がつかない。でも人情なんか一欠片も無い事はわかる。君はそういう、酔っていい気分になれる感情では動かない。君が動くとすればもっと大事で絶対的で、感情とはほど遠い目的のためだ」

「ふふふ。教えないよ。大丈夫だよクランクラン。僕は君の支配下だ。首輪をつけている限り君に反逆の意志すら持てない」

 イヒャルテは自分の首にかかる白くまばゆい首輪を手で見せつける。

「そうだね。君は私に似ている。危険な人物だ。しかし非常に役に立つ。能力も、賢さも、狡さもね。君を捕らえて支配出来て本当によかったよ。その首輪は絶対だ。どんな能力でも破壊出来ないし外せない。そして反逆出来ない」

「うん。だから僕が何をしようが怖くない。まさかこうして捕らえて無力にしておいて、まだ僕を怖がっているなんてないよね」

「まさか。強者は怯えない。怯えるのは自分が弱いと考える弱者だけさ。強者なら弱者がいくらかかってこようが怖くない。勝てるからね。私は強者だ。だから君がやたら私たちの能力とかを知りたがるのにも怯えない。君たちが役に立つほど私たちの情報を教える。それが最高の餌であり、餌が美味しいほど君もゾナス君もよく働いてくれる」

「よくわかっているね。僕クランクラン好きだなあ。やっぱり同類がいいね。ゾナスもこっち側に来られたらいいのに」

「だからゾナス君の心と誇りを汚して踏みにじるんだろう。自分と同じ、狡く汚く救えない邪悪な人間になって欲しいんだ」

「うん。僕はずっとパートナーが欲しかった。ゾナスならきっと、僕と一緒に歩いていけるようになれるよ」

「向こうはそう思ってないだろうけどね。わからないなあ。あれはどうしようもない小物だよ。実に浅い。大物の深みを熟成出来る器じゃない。君と並んで歩けるほど成長出来るとはとても思えないけどね」

「ギャンブルが好きなんだ。ゾナスは勝率は低いけど大当たりすれば化けるよきっと」

「はっはっは。それは見物だね。ぜひこれからも君たちを見物させてもらうよ。面白い人間を鑑賞するのが私の一番の楽しみだ。料理すると言った方が正確かもね。ホロビッツ君はまあまあおいしい料理だった。ごちそうさま。ところでイヒャルテ君。ゾナス君は町まで往復してずいぶん時間がかかる。八時間ぐらいは大丈夫だろう。一緒に食事をしても時間があり余るね」

 イヒャルテがぱっと顔を輝かせる。

「え、それって」

 クランクランは、実に淫靡に口を歪ませて笑う。

「任務については食事しながら話してあげよう。君は男の子だからね。我慢して禁欲させるにも限度がある。ずっとおあずけになっていたご褒美をあげるよ」

 クランクランが欲情した目でじっとりとイヒャルテの顔から股間までを眺める。舌なめずりしてごちそうを我慢出来ず涎を垂らす。

「本当に? やったあ。僕ずっと我慢していたからずいぶん溜まっているんだ。もうすっごいよ」

「君が満足するまでなぶってあげるよ。足で踏まれたいんだったよね。じっくりと、存分に、セックスなんかはるかに超える快楽というものを教えてあげるよ」

「やったやった。全員に踏まれたいんだ。君のお姫様を全員呼んでよ。僕会いたいな」

「駄目駄目。情報は小出しに。でないと餌が無くなっちゃうだろう。君はまだレントーゲとゲーラングしか引きずり出せていない。だから私とあの二人だけが今日の相手だ。ホロビッツ君を捨て駒にして試験を受けさせ、ゲーラングを引き出したのは見事だったよ。でもせいぜい一人だけだね。まだまだ足りない」

「ちぇっ。八人全員と戦えとか塔を何階まで昇れるか挑んでみろとかそういう試験だと思ったのに」

「あの塔は男子禁制だ。男なら攻め込まないと中へは入れないよ」

「ゾナスがいつか攻め込んでくれるさ。今日のあれでずいぶん僕と君を敵視したみたいだし」

「笑えるよね。あれで殺気を隠しているつもりかねえ。ま、せいぜい気付いてない振りをしてあげるさ。君も協力しなよイヒャルテ君」

「もちろん。命令するまでもないよ。僕は能力を暴くのが大好きなんだ。危険で最高の遊びさ。クランクランと塔とお姫様。全部暴いて解いてあげる」

「それだけかい? 私を殺したいんじゃないのかい?」

「どうして? 僕は人生を楽しみたいだけだよ。生きるのは楽しむだめだ。うんと楽しいとびきりの人生を送るために生きている。僕の事調べてわかっているだろう。僕は君を知らなかったし殺す理由も無い。ただおとなしく飼われているつもりはないよ。僕は自由が好きなのに、首輪で支配なんてしてくれちゃってさ。ムカつくよね。反逆出来ない僕に出来る精一杯の抵抗は、君の謎を全部暴いてやる事だけだ」

「だからゾナス君を利用していると?」

「そういう事。一緒にいて楽しいしね。ああいう堅物で遊ぶと退屈しない。面白いおもちゃだ。ゾナスのように人情に厚くて感情で動く奴はとても扱いやすい。能力も強くて僕との相性もばっちりだ。あれ以上の手駒はいないね。僕は彼を使って君を暴く。人生は楽しくなくちゃね。最高に面白いゲームでありギャンブルだ」

「もちろん命を賭ける」

「そう。命を賭けたギャンブルが一番面白い。君は全てを暴かれたくないなら僕を殺せばいい。僕は君の手中であり支配下に置かれている」

「ははは。それは出来ないよ。主が直接殺そうとすれば首輪の支配は消失する。その事もすでに知っているんだろう」

「まあね。でも配下同士を殺し合わせる事は出来る。支配されていても自分の命を優先出来るから本気で抵抗出来る。君のお姫様は八人もいる。みんな強い。僕を殺そうと思えば簡単に殺せるだろう」

「そうやって全員を引きずり出して暴くと? 君の能力で上手く立ち回れば逃げる事は可能だ。その手には乗らない。君は殺さないよ。君は私とよく似ている。命がけのギャンブルが大好きだ。それ無くして生きるのは空しくつまらない。生きている意味が無い。そして負けるつもりもない。勝つか負けるかぎりぎりの勝負を凌いで勝つのが最高にスリルがあり勝利の喜びに満たされる」

「そうそう。クランクランは僕の期待した通りの人だった。最高のギャンブルを楽しめるプレーヤーだ。そういう人を探していたんだ。上手く巡り会えてよかった。僕のやり口は知っているだろう」

「ああ。私は手広く能力者の事を調べているからね。君は命がけのギャンブルを楽しむためにその相手として強力なプレーヤーになり得る相手を探していた」

「僕の望む手強い敵なら、きっと僕が目の前に現れたらその挑戦を受けると思っていたよ」

「捕獲される危険を冒してまでかい? 私が君に興味を示さず政府に引き渡していたら君は終わっていたんだよ」

「でも興味を引かれた。僕は君のような人間にとって実に魅力的だからね。自信はあったよ。君は面白い人間を探していたし、僕もそうだ。互いに相手で遊んで楽しむ。リスクが高いほど面白く、それを乗り越える強さを持っていると自負している。まあもし政府に引き渡されていたとしても、僕はやっぱり捕らえられ無力化された圧倒的に不利な状況のゲームを楽しめる。政府相手にね。僕は命の危険の無いギャンブルじゃ燃えないんだ。首輪や手錠をかけられ支配されているぐらいで調度いい」

「ははははは。見くびられたものだね。君は最高のペットだよ。実に私を楽しませてくれる。君をやり込め負かせるのが楽しみでたまらない」

「そんな日は永遠に来ないけどね。それより僕の方がたまらないよ。早くご褒美ちょうだい。僕もうこんなに」

 イヒャルテは大きく盛り上がる股間を突き出しおねだりする。

「そうだったね。ずいぶん我慢させたからたっぷり溜まっているだろうね。全部出してすっきりさせてあげるよ。女の膣より気持ちいい、処女三人による足責めだ。テクは膣より気持ちいい。きっと変態な君を満足させてあげるよ。今まで味わった事の無い快楽を約束しよう」

「おかしいなあ。僕が変態だって誰にも秘密にしていたのに。どうしてわかっちゃったの?」

「ははは。君は嘘も冗談もどっちも面白いね」

 レントーゲとゲーラングは塔の門からとても大きなベッドを運び出して来ていた。それを地面に置く。

「さあ。服を脱いで仰向けになりたまえ。じっくりと時間をかけて悶絶させてあげるよ。私は痛いのは趣味じゃないんだ。地面に寝かせるなんてひどい事はしない」

「地面に寝かせる以上にひどい事するんでしょ?」

「そういうのが大好きなんだろう? 並の刺激じゃ物足りないジャンキーは大変だね」

「君もそうだろクランクラン」

「そうさ。命がけのギャンブル。そしてひどくて痛くて気持ちよくてもどかしい、セックス以上の変態プレイ」

「セックスした事ない処女のくせに、どうしてセックス以上ってわかるのさ」

「私がかわいがってあげた相手がみんな口を揃えてそう言うからだよ。嘘じゃなく本気でね。私はセックスを知らないが、それでも私のお姫様たちとするプレイは全部、セックス以上の気持ちよさだと確信出来るね」

「僕が判定してあげるよ。僕セックスたくさんしているからね。これでも快楽にはうるさいよ?」

「これはこれは。どれ、そんな君を満足させてあげよう……」

 クランクランとレントーゲ、そしてゲーラングが靴を脱いでベッドへ上がる。イヒャルテは三人の生脚を見てひどく興奮し、服を急いで脱ぎ捨てると裸でベッドへダイブした。

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2014年01月28日

見えざる掌(25)芯

見えざる掌(25)芯

 ゲーラングの放った小さな玉による散弾で、ホロビッツの頭は完全に吹き飛ばされた。

 首から上が無くなったホロビッツの身体は後ろへ大きく飛んで、そしてどさりと地面に落ちる。

「うおっ。すごい」

 イヒャルテが感激する。

「見た見た? ゾナス。すごいね。パンって吹き飛んだ。顔が穴だらけになったかと思えば、次の瞬間弾丸に弾かれた肉とか骨とかが破裂した風船みたいに吹っ飛んだ。いやあ、すごい光景だ。決定的瞬間だったね。もしかして瞬きしちゃった? 駄目だなあゾナス。最高の瞬間を見逃しちゃあ」

 ゾナスは呆然としていた。しかしやがてはっと気を取り直す。

「ほ、ホロビッツ! ホロビッツううううう」

 ゾナスはうろたえながらホロビッツに駆け寄る。

 すでに死んでいる。首の無い死体はホロビッツだった面影が無い、異質な物だった。

 ゾナスはホロビッツの身体を抱え上げる。その身体はびくびくけいれんし、首の傷口から血をびゅっびゅと噴き出していた。

「おい、クランクラン。ホロビッツを助けてくれ。まだ間に合う。レントーゲに治癒させろおおおおおおお」

 クランクランは笑い出す。

「おいおいゾナス君。即死は他者治癒能力でも救えないよ。首が丸ごと吹き飛んだんだ。生きているように見えるのは肉体の反射運動にしか過ぎないよ」

「死んでねえよ。まだ助かるんだ。こんなに温かくて動いている」

「はっはっは。死体に他者治癒能力は効かないよ。レントーゲ。ゲーラングを治療して。私のかわいいお姫様に、いつまでも頭が半分だけなんてみっともない格好をさせているわけにはいかないからね」

 レントーゲは無表情のままうなずくと、突っ立ったまま活動を停止しているゲーラングのそばに行く。

「おい、そっちじゃねえよ。こっちだろ。頼むから。ホロビッツを助けてくれえええええ」

 ゾナスが泣きながら頼むので、クランクランは大笑いする。

「あはははは。ゾナス君は面白いねえ。君はホロビッツ君に会ってからたった数日。ただの顔見知りだろう。どうしてその死を悲しめるんだい? どうやったら泣けるんだい? 教えてくれないか」

「馬鹿野郎。何言っているんだ。悲しいに決まっているだろ。これから仲間になるはずだった。もう他人じゃない。こいつは好きな女のために必死に戦った。こいつはとてもいい奴だった。死んでいい奴じゃない。その死は悲しいに決まっている」

「うーん。よくわからないな。イヒャルテ君。私にもわかるように説明してくれないか」

 クランクランが大きく腕を振ると、イヒャルテがくっくと笑う。

「ふふ。僕はよくわかるよ。ゾナスはね、人情家なんだ。他人にすぐ感情移入して好きになる。裏社会に生きてきて、まるで表社会にいる人間みたいに人情に厚い」

「おいおい。裏社会でさんざんもまれてそれはあり得ないだろう。そんな甘ちゃんならとっくに殺されている」

「そうだよ。だからゾナスのそれは演技なんだ」

「演技?」

 二人が何を言っているのかわからない。ゾナスは泣いている顔を上げる。

 イヒャルテはそんなゾナスとじっと見つめ合う。そしてくすりと笑うと語った。

「ゾナスはね、人情に厚い人間を演じているんだ。それに酔っていい気分に浸っている。会って間もない他人の死を悲しんで泣けるなんてあり得ないね。裏社会では死は毎日見られるし自分でも殺している。ゾナスはね、まるで表社会の人間みたいに人情を持つ演技をする事で、自分は裏社会に染まっていない、自分は表社会の人間のようにまともだと自分にも周りの人間にもアピールしているんだよ」

 クランクランは頭に手を当て目を瞑る。

「あいたたた。こりゃまいったね。それはつまり、自分は裏社会のイヒャルテ君や、仲介人である私とは違うと主張しているって事かい?」

「うん。ゾナスはね、僕たちに劣等感を抱いている。だからこうして僕たちと自分は違う、自分の方が人間としてまともだとアピールする事で僕たちを馬鹿にしているんだ」

「これはこれは。裏社会の人間なら力で上下を示す物だ。他人を見下し貶める事で弱い自分を持ち上げようとするなんて、表社会の人間しかしない、とても狡くて浅ましい行いじゃないか」

「だから僕たちとは違うんだろ」

「あっはっはっは! こいつはすごい。ホロビッツ君の死を悲しんで泣いている振りして、その死を利用して自分の自尊心を満たしているんだね」

「そうだよ。ゾナスは他人の死を利用して、涙まで流す。こんなにすごい演技を出来る人間は他にいない。何がすごいって自分で自分の演技に騙されている。本気で自分が人情に厚くて人のために泣いてやれる心優しい人間だと騙されているんだ」

「自分で自分を騙すか。弱い人間が現実逃避するためにはよくある事だね」

「あるあるよくあるー」

「あるねあるね」

「あはははは」

「はははははははは」

 ゾナスは呆れて何も言えなかった。

 一体何なんだこいつらは?

 そう。ゾナスとこの二人は違う。ゾナスがいい人間を演じているとか二人を見下しているとかではない。二人は異質なのだ。

 知り合って間もないとはいえ、恋のために命すら賭けるホロビッツの行動は尊敬に値する。裏社会でそれを見習ってはこうして死ぬかもしれない。でも損得でなく、輝くようにまぶしい高潔な生きざまというのは敬い憧れるものだ。

 それを何だこの二人は。わけのわからない理屈をつけてその生き様を否定し、あまつさえゾナスがそれを利用して自分をよく見せようとしているなんてとんだ言いがかりだ。

 怒りを通り越して呆れる。こいつらは理解不能だ。異次元に住む異世界の住人、人間とは違う化け物だ。

 ホロビッツの死を汚して何が楽しい。ゾナスの気持ちを踏みにじって何がおかしい。

 ゾナスは怒りを表さない。怒ってもこの二人を余計に面白がらせるだけだ。しかしこの二人を決して許さない。心の中で二人を敵だとはっきり認識し、そしていつか必ず殺すと誓った。

 本気で殺す。殺すためには殺されてはいけない。警戒されてもいけない。上手く操られ手中に収められていると思わせなければならない。

 憎むべき相手であるイヒャルテがいいお手本だ。イヒャルテの本性なのかそれともクランクランに合わせているだけなのかわからないが、イヒャルテはクランクランに支配されながら彼女に合わせてとことんひどい人間として振る舞っている。

 しかしそれだけではない。イヒャルテはクランクランに完全な従属はしていないとはっきり示したし、クランクランとお姫様の能力などを知りたがった。

 それは探りだ。隠してこそこそした所でバレるからと開き直り、あからさまに探る事で油断ならない奴だとクランクランに示している。

 完全に服従している振りをしてはいけない。あまりにも疑いようが無い奴では逆に陰で何を企んでいるかわかったものじゃない。

 イヒャルテみたいにちょっとクランクランの支配を不満に思っている所を見せ、適度に反抗して見せる方が相手の警戒も弱まるし、相手もそれを面白がって情報を教えてくれもする。

 イヒャルテから学ぶ。いくらムカつこうがイヒャルテは最高の教師として見習うべきなのだ。

 ゾナスはイヒャルテにはっきり敵意を抱いた事を悟られてはいけない。しかし隠しきれるものではないので、適度に事あるごとにそれを見せ、ちょっと警戒させながらもちょっとの警戒だけで済ませてしまわせなければならない。

 イヒャルテは得意げに自分の思考ややり方をゾナスに語る。いい気にさせて語らせるほど学べる。そしてその学んだ全てでいつか裏切り思い知らせてやるのだ。

 イヒャルテとクランクランは敵だ。利用され尽くせばきっと裏切られる。その寸前まで上手く利用されながらこっちも利用し、最後の最後で出し抜いて殺してしまうのだ。

 それまでせいぜい学ばせてもらう。今までも本気のつもりだったが、今度こそ本気の本気だ。汚い事まで含めて全部学び身につけ成長しなければならない。

 凶悪で最悪。そして圧倒的に強い。イヒャルテとクランクランはどちらも強敵だ。しかしクランクランを殺すにはイヒャルテを上手く利用して一緒に戦わねばならない。

 この二人の思考は異常だ。裏社会で育ってもここまで人間離れした悪意に歪む事などあり得ない。二人は一体今までどうやって生き、誰にどうしてここまで歪められねじ曲げられてしまったのだろうか。

 それは恐らく悲劇なのだろう。しかしどんな事情があろうが関係ない。ホロビッツの仇。この二人は絶対に殺す。

 ホロビッツのためだけではない。その死を悲しみ泣いた自分を否定され、それを悪意の表れだと言われた。この侮辱は許せない。

 ゾナスは誇りを持って生きてきて、それをへし折られた。でもまだ芯までは折れていなかったのだ。ゾナスは決して折れず折らせず譲れない、強い芯がまだ自分にある事をようやく発見し、それを支え貫き全うする決意をした。

 ホロビッツの復讐は理由の一つにしか過ぎない。ゾナスはゾナス自身のために、決して誰にも折らせない芯を守るために戦う。それを汚し折ろうとするイヒャルテとクランクランを上回り殺さねばならないのだ。

 でないと折れる。もう二度と自分の心を折らせない。まだ誇りは残っていたのだ。この最後の誇りを守るために、他の誇りは全て捨てて汚してもいい。

 あんなに忌み嫌い軽蔑していたイヒャルテの外道な行いすら、今のゾナスは受け入れ学び、そして実行出来る。

 真の誇りを守るためには上辺の誇りを守ってはいけないのだ。でないと真の誇りを守りきれない。イヒャルテはそれをわかっているからあそこまで誇りの無い外道な真似が出来たのだ。

 イヒャルテが汚い真似までして守る真の誇りとは何だろうか。どうせくだらない物に決まっている。この頭のおかしい奴がまともな原理で動くわけがない。

 決して教えてくれないだろうし知る必要も無い。真の誇りは決して語らず暴かれず、誰からも隠しきり守りきりそしてそれを支えに突き進むべき物なのだ。

 もう迷わない。ホロビッツの死はきっかけであり理由の一部にしか過ぎない。イヒャルテとクランクランはそれのために殺されるなんて理解出来ないだろう。二人にとって、知り合って間もない、恩も何も無い人間のために復讐する人間が存在するなんて理解の範囲外だ。

 だからこそ騙せる。思考の外にある物は認識出来ない。ゾナスがそれを晒さねば決して暴けはしない。

 ゾナスは復讐を決意し、ホロビッツの遺体を抱いたまま立ち上がった。

posted by 二角レンチ at 19:16| 見えざる掌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月26日

見えざる掌(24)不死身性

見えざる掌(24)不死身性

 弾丸と化した小石が多数迫る。真っ白でウェイトレスのような服を着て眠そうに瞼を半分下げたゲーラングの手に積まれた小石の山が、どんどん減りながら次々と小石の弾丸を撃ち出していく。

 多数の弾丸が広範囲にばらまかれる。これではどこに避けても当たる。防ぐには掌能力を使って迎撃するしかない。

 クランクランは横にいるゾナスに話しかける。

「蜂の巣だ。私はこれを見るのが好きでね。ゾナス君の能力も穴を開ける物だからきっと好きだろう?」

「俺は別にそんな悪趣味じゃない。攻撃の結果というだけでその無惨な姿を見るのは好きじゃない」

「またまたあ。本当は好きなくせに。男は穴が大好きだからね。穴は聖域だ。何も入れていない処女が一番美しくて愛おしい」

「お前の趣味には興味ねえよ」

「そうかい」

 クランクランとゾナスが話す間に、小石の弾丸が到達する。ホロビッツは両手で円を描くようにゆったりとした動きでそれを迎え討つ。

 あんなに遅い動きで多数の高速弾丸を防げるのか。誰もがそう思った。しかし不思議な事に、ゆっくりした円を何度も描くたび、ホロビッツの掌に触れた小石はそれを貫く事なく逆に弾き飛ばされていく。

「何だ? どうしてあんなに遅いのにあれだけ多数の弾丸を次々弾けるんだ?」

「あれは……拳法という奴だね。不思議な動きをする体術の一種だ。いろいろ流派があるらしいけど、彼のは円の動きを基礎に据えた流派なのだろうね」

 ゲーラングの掌に積まれた小石は次々撃ち出される。多数の弾丸が全部撃ち出されても、ただの一発もホロボッツを貫く事無くその掌で弾かれた。

 ゲーラングは攻撃が全て防がれてもうろたえる事無くぼーっとしたままだ。

 クランクランがぱちぱちと拍手する。

「すごいね。どうしてそんなに遅い動きなのに高速で多数まかれる弾丸を全部防げたんだい?」

「全部ではありません。私に当たる物だけです。それに円は一番無駄の無い動き。何度も周回する事で、一つ一つの弾丸に掌を当てに行くよりはるかに少ない動きで多数に触れる事が出来ます。遅く見えるのは到達するまでに最短ルートを通るからです。多数の拳や掌を次々繰り出すのは素早い動きに見えますが、あれは無駄が多すぎるから早く動かさないといけないんですよ」

「そう。君は身体能力を生かしてその円の動きをする拳法を特化して鍛えたんだね」

「はい。私の掌能力は反射です。触れた物の軌道を変える。この掌に当たればどんな能力だろうと破壊力があろうと反射し逸らせます」

「それはヘカトポリス君の能力も反射出来るのかな?」

「さあ……試した事はありませんから」

「まあ無理だろうね。彼女の能力はおそらくどんな掌能力をも融解する。相反する能力がぶつかれば、能力の強い方が弱い方を圧倒する。半分眠っているゲーラングの能力は弱い。だから君の掌を貫かず反射された。でも全部覚醒した彼女の弾丸なら反射出来るかわからないよ」

「それは試してみないとわかりませんね」

「私は君の手品や舞いが見たいわけじゃない。ゲーラングを起こしてみなよ。本気の彼女を引きずり出してごらん」

「はい」

 掌で触れた物を弾丸にして飛ばす。その速度や威力を試した。念のため離れた距離で試したが、これならもっと接近しても大丈夫そうだ。

 ホロビッツは互いの能力を比較してリスクが減った事を確認してから、ゲーラングに向かって走り出し接近戦を挑む。

「ふわあ」

 ゲーラングは手を広げて口を覆って大きなあくびをする。

「眠いなあ。もう」

 ゲーラングは足下の石を蹴り上げると手に乗せる。

「小さいのじゃ威力が足りない。大きいほど遅くなるけど威力は増す。それが私の掌能力」

 今度は、石を砕いて小さくする事なくそのまま撃ち出す。さっきの小石より速度が遅い。しかし大きさがまるで違い、とても重そうだ。

「能力がぶつかれば、強い能力が弱い能力を駆逐する。今度は重くて強いよ。どうなるかなあ?」

 ゲーラングはむにゃむにゃとつぶやく。

 飛ばす物が大きいほど速度が鈍る。しかし掌に載る石程度なら十分な速度がある。ホロビッツがかわす事は出来ない速度だ。また掌で迎撃しないといけない。

「掌能力は両手を使う方が威力が増します。その石が重くて威力が高いとしても、一つだけなら両手で受けられます」

 両手を合わせて掌を広げる。大きく口を開け牙をむいた獣のようなホロビッツの手に包まれるようにして、飛来する石の弾丸が受け止められる。

 間髪入れずそれは弾き返される。掌能力による反射で、ゲーラングめがけて撃ち返す。

「私の掌能力は反射。物体の軌道を自在の角度で反射させます。威力も速度も維持したまま減速しません。あなたの弾丸はそのままあなたを撃ちます」

「ほえ?」

 事態がわかっているのかわかっていないのか。首を傾げるゲーラングの頭に反射された石が当たる。

「あえ?」

 その石は大きい分だけ破壊力がある。身体能力が高くて丈夫な能力者とはいえ頭を砕くには十分だ。首を傾げていたので頭が全部吹き飛ばされるのは免れたが、ゲーラングの顔が半分砕け散った。

 石は勢いを失い地面に落ちる。それに続いてゲーラングも後ろ向きに倒れる。

 脚を上げて倒れ伏す。頭が半分吹き飛んで血を吹いているひどい有様なのに、イヒャルテはまた脚のせいでパンツが見えなかったとぼやいた。

「あ」

 ホロビッツがあわてる。

「す、すみません。クランクランさん。まさかこんなまともに当たるとは思わなくて。殺してしまいました」

 脳が半分吹き飛んだ。能力者なら生きるか死ぬかぎりぎりだが、これは死んだだろう。

 能力者は自己治癒能力があるし、他者治癒能力者であるレントーゲもいる。しかし即死に対してはいかなる治癒能力でも蘇生出来ない。だから脳や心臓は急所で、破壊されたときに即死したらもう助からない。

「はっはっは。いいよいいよ。半分寝ている彼女を倒した。合格だ。うん。ホロビッツ君。君の望み通り君を私の配下にしてイヒャルテ君のチームに入れよう。そして君の望み通り、グンダーニ君を私が政府から買い取りチームに入れてあげよう」

 ホロビッツはクランクランの大事なお姫様を殺してしまった事で機嫌を損ねるのを怖がった。でも許してくれたようなのでほっとした。

「ただね、試験は終わっていないよ。彼女を完全に目覚めさせるのが試験だ。完全覚醒した彼女から生き延びられないといけない。十秒でいいよ。それを凌いで生き延びてごらん」

「え?」

 ホロビッツは意味がわからず困惑する。ゾナスも同じだ。イヒャルテはへらへらしたまま動じない。

「ふうん。やっぱりね」

「おいイヒャルテ。何か知っているのか」

「推測していただけだよ。レントーゲもゲーラングも髪が白いだろう? クランクランと同じだ。髪の白い子を好んで集めたんじゃない。クランクランの能力を受けているから髪が白くなったんだ」

「何だと? クランクランの能力はこの塔の構築じゃないのか」

 ゾナスが腕を振って塔を示す。

「違うんだろうね。あの塔はクランクランのお姫様の内の誰かの能力か、あるいは手錠とかと同じで能力で製造された物体だ。クランクランはお姫様たちを首輪の支配以外の何らかの能力の支配下に置いている」

 クランクランがくっくと笑う。

「いやはや。イヒャルテ君。君は私の味方じゃないのかい? べらべらとよくもまあ私の大事な秘密を暴いてくれるね」

「僕はクランクランの配下だよ。首輪をつけられ絶対服従さ。でも首輪は手錠ほど支配力が強くない。興味のある事は暴けるだけ暴く。それが裏社会で生きてきた僕の生き方だ。それで生き延びてきたからにはそれが正しい。僕は命令されても暴くのをやめないよ。僕はクランクランとゾナスの間の存在だ。どちらの味方でもあり、そうでもないとも言える」

「こいつはまいったね。君を飼い慣らすのは骨が折れそうだ」

「僕も他のお姫様たちみたいに能力で支配しなよ。真っ白の髪は銀色に煌めいてすごくきれいだね。僕もちょうど髪を染めたいと思っていたんだ。毎日同じ色だと飽きるよね」

「それは出来ないんだ。暴いた褒美に教えてあげるよ。私のこの能力は十代の処女にしか通用しない。だから私はそういう子たちを囲うし、二十歳になったら捨てるんだ」

 二十歳になったら捨てる。それを聞いてもレントーゲはまるで動かないし表情を変えない。

「で、この能力は何なんだい。脳を半壊とはいえあれは死んだだろう。なのに死なない。不死身にする能力なのかい」

「まさか。彼女だって脳を全壊したら死ぬよ。でもまあ半壊程度なら死なないかな。他の能力者より丈夫になると思えばいい」

「それだけなわけないでしょ。教えてよ。能力って奴はどれも実に面白い。僕とっても知りたいなあ」

「その内ね。君は本当に面白いねイヒャルテ君。部下は上司に逆らうぐらいが丁度いい。歯ごたえある方が飼い応えがあるんだ。お姫様たちは完全服従だからね。従順すぎる。その点では面白くない」

 クランクランは頭を半分失って倒れているゲーラングに向かって叫ぶ。

「ゲーラング! このねぼすけ。いつまで寝ているんだい。早く起きなよ。十秒だけ起きる許可をあげる」

 死体としか思えないゲーラングがむくりと上半身を起こす。顔が半分抉れてあと半分しか残っていない。半分眠ったようだった目は大きく見開かれ、顔に血が流れても閉じない。

「殺してもいいですか?」

「いいよ」

 クランクランが許可すると、ゲーラングはすっくと立ち上がる。

 そして突進する。早い。さっきまでの寝ぼけたようなゆっくりした動きではない。

 ホロビッツは動揺している。こんな、死んでいるはずの致命傷を受けて生かし続ける能力なんて聞いた事がない。

 まるでゾンビだ。死体が動いているような違和感が、生物本来の恐怖を呼び起こす。本能の恐怖はいくら鍛えても克服出来ない。だから怯えうろたえる。

 しかしここを凌がねば殺される。ようやくグンダーニを助けられるというのにここで死んではそれがかなえられない。

「うああああ!」

 穏やかなホロビッツには珍しく、必死に叫んで怖い形相で腕を回す。円を描くような独特の動き。拳法の一種でゲーラングより早く相手に掌を打ち込もうとする。

 掌で触れて反射させられれば、突進して来るゲーラングは同じ勢いで吹き飛ばされる。十秒ならそれだけでもう凌ぎきれる。

 ただ一撃を入れれば勝ちだ。ホロビッツは何とかしてゲーラングに掌を当てようとする。

 しかし当たらない。高速の小石の雨を全部受け止めたほど無駄無く当てにいける拳法の動きでも、異常な速度でがんがん身体を振ってかわすゲーラングにはかすりもしない。

「ううっ」

 ホロビッツのあせりがひどくなる。自分の拳法には自信がある。接近戦で全力を出してこうまで当たらないほど身体の動きが早い敵には出会った事が無い。

「すごいね。石を軽々砕くパワーだけでなくスピードまであんなに早いなんて」

「ゲーラングが鍛えた身体能力はパワーだけだよ。怪力が彼女の特技だ。あの速度は身体を力任せに振り回して無理矢理反転させているのさ。ただの能力者ならあんな動きをすれば筋肉が引きちぎれるだろうね」

「ふうん。ヘカトポリスは空中でも手足を大きく振る事で自在に動ける体術が特技だけど、似たようなものか」

「ゲーラングの場合は大地に踏ん張れないと身体を振れない。空中戦では無力だね」

「ははは。二人を戦わせてみたいものだね」

「そうだね。それは見てみたいね。能力者同士の戦いは実に面白い」

 クランクランとイヒャルテがのんきに観戦しているのにゾナスが割り込む。

「おいクランクラン。もう十秒経っただろう。試験はおしまいだ。ホロビッツは生き残ったんだ。ゲーラングを止めろ」

 クランクランはゾナスをじろりと見る。

「ゾナス君。私は十秒だけ起きる許可を与えた。十秒といったらきっかり十秒。彼女たちは時計よりも正確に私の命令に従う。ゲーラングが戦っているという事はまだ十秒経っていないのさ」

 本当だろうか? 異常な速度で激しく動くゲーラングと、一見ゆったりしてその実無駄の無い最短運動である円の動きを繰り返すホロビッツの攻防は動と静が混じり合い時間の流れを幻惑させる。

 ホロビッツは油断しない。それでもそろそろ十秒経つと思えば期待でわずかに緩むものだ。

 対してゲーラングはまったく緩まない。クランクランの能力支配下にある彼女は命令をロボットのように正確に、一瞬の緩みも無く最後まで実行し続ける。

 その差が最後の最後に出たのだろうか。

 ゲーラングはホロビッツの掌を仰け反ってかわす。手を上げた状態だ。その手には何も握られていない。

 ホロビッツはゲーラングの袖を常に警戒していた。掌で触れた物を弾丸にして飛ばす能力だ。当然その長い袖の中には弾丸になる物を仕込んでいると考えられる。

 しかし今ゲーラングの掌は上げられ、袖から何かを滑り落とす事が出来ない。その手は軽く指を曲げているだけで何も握っていないし、袖から何かを出せるわけもない。

 だからホロビッツはその手から目を離した。ほんの一瞬。ゲーラングのもう一方の手や身体の動きに注意し、そのどこかに自分の掌を打ち込む隙を探す方が優先された。

 ホロビッツがわずか一瞬目を離したゲーラングの手は、ぐっと指を曲げた。

 そして。長い爪を掌に押しつけ、そのまま指をぐっと握るようにして、爪をはいだ。

 指からはがれた爪はもう、肉体の一部ではない。ただの爪。ただの物だ。

 指からはがした四枚の爪は、掌に触れている。能力を発動させ、それを弾丸に変える。

 爪が回転し、弾丸のように飛ぶ。この至近距離でしかも一瞬警戒から外した事でもう視界に入らない。

 目の前にありながら死角。意識から離れた事で死角と化した所から予期せぬ弾丸が飛んでくる。ホロビッツがそれに気付く前に、爪の弾丸がホロビッツの顔に刺さる。

「がっ」

 四枚の爪はホロビッツの両目を貫く。薄く小さな爪では破壊力が乏しい。しかし目を潰し視界を奪うには十分だった。

 激痛と共に電灯が消えたように真っ暗になる。いかな能力者とはいえ目潰しを食らった瞬間は何も出来ず、ただ恐怖に怯えるしか出来ない。

 ゲーラングの下げた手の袖からじゃらりと玉が滑り出す。パチンコ玉のようなそれは純白で鈍く光っている。それが多数掌に滑り込む。

 そして撃ち出される。至近距離で視界を奪われひるんだホロビッツはそれに対処出来なかった。

「ホロビッツ!」

 ゾナスの叫びが耳に届くより前に、ホロビッツの頭は散弾銃で撃ち抜かれたように穴だらけになり、次の瞬間には弾丸に巻き込まれ弾き飛ばされた肉と骨が飛び散り、頭は粉々に吹き飛んだ。

posted by 二角レンチ at 10:24| 見えざる掌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月24日

見えざる掌(23)試験

見えざる掌(23)試験

 ホロビッツがイヒャルテのチームに入れてもらうにはクランクランに戦力として認めてもらわねばならない。その上で、グンダーニもチームに役立つと訴える事でグンダーニを政府から買い取ってもらうのだ。

 まずはホロビッツが試験に合格しないと話にならない。ホロビッツはクランクランの言葉を待つ。

「安心しなよ。イヒャルテ君やゾナス君と戦えとは言わないさ。イヒャルテ君はチームのリーダーだから勝つわけにはいかないし、ゾナス君はまあ、君に肩入れしているから本気で勝とうとしないしね」

 ホロビッツはほっとする。二人相手には自分も本気で戦えない。二人より下の立場でチームに加えてもらうのだ。試験とはいえ勝つわけにはいかない。

「君の試験は本来、私の配下であるお姫様の内三階を守る子にさせるつもりだったんだけどね」

 クランクランは親指を立てて後ろに建つ白く輝く塔を指さす。

「あの塔は十階建てだ。一階は門とホールになっている。敵が攻めてきたらそこで敵をくい止めたり閉じこめたりする。その上の二階以上は私のかわいいお姫様たちの部屋だ。最上階にいる私を守っている」

 クランクランは後ろに控えているレントーゲを手招きすると肩を掴んで抱き寄せる。

「二階はこのレントーゲの部屋だ。でもレントーゲは他者治癒能力の掌能力者だ。戦闘力は身体能力しか無い。体術を鍛えてあるから大抵の奴は倒せるけどそれでも掌能力者相手には分が悪い。だから戦わせない」

 クランクランは抱き寄せたレントーゲのあごを指でくすぐる。レントーゲは頬を紅く染めて目を瞑り、猫がかわいがられるように頭を揺すって悶える。

「おお。かわいいかわいい。いやあ、女同士ってどうしてこうきれいなのにやらしいんだろうねゾナス」

「知るか」

 ゾナスは女同士のじゃれ合いに興味が無い。それを見て興奮するイヒャルテが理解出来ない。

「ホロビッツ君の試験には三階にいる子にさせる予定だったんだけど。君は私に、グンダーニ君を政府から買い取ってイヒャルテ君のチームに入れて欲しいんだよね? なら彼女の分も君が試験を受けて合格しないといけない」

「はい」

「だから三階の子でなく四階の子に相手をさせる。上の階にいる子ほど強い。全員掌能力者だ。四階の子は強いよ。三階の子よりはるかにね。それに勝てないなら君は不合格だ。君がチームに入る事も、グンダーニ君を政府から買い取り救い出す事も認めない」

「はい」

「あともう一つ」

 クランクランはレントーゲののどをこすっていた手を離して指を一本立てる。レントーゲはその指を物欲しそうにうっとり眺めている。

「試験をより厳しくするために、君が負けたら殺すよホロビッツ君。私にとってグンダーニ君は買い取るに値しない。損な買い物だ。それを買わせようと言うんだ。君に金を払えとは言わない。金ならあるんだ。それより命を払ってもらう。この私に頼み事をするからには、命ぐらい賭けてもらわないと話にならない。私はそんなに安い女じゃないんだよ」

 ホロビッツは青ざめるが、ぐっと口を引き締めて答える。

「覚悟の上です」

「覚悟だって! 聞いたかいイヒャルテ君」

「うん。聞いた聞いた」

 イヒャルテはへらへら笑う。

 クランクランが偉そうに手振りを交えながら説明する。

「愛の為なら命すら賭けられる? 違うね。自分の命の重さを理解していない馬鹿なだけだ。命を軽く考えているからそんなにあっさり賭けられるんだ。自分の命は何よりも重い。金や他人よりもね。自分の土台であり、それを失えばその上にある大事にしたい物全てを失う。これだから馬鹿は面白い。ねえイヒャルテ君」

「うん。面白い。自分の命を大事にしないなんて僕らには理解出来ない。自分と同じなら自分を観察して楽しめる。でも自分とは違う原理で動くおもちゃは側から観察しないと楽しめない」

「そう。そしてひどく苛つくね。命の重さを理解しない奴は屑だ。この世のどんな宝石よりもまばゆく美しい命。神から授けられた偉大な贈り物。それを守る天命を授けられておきながらそれを粗末に捨てる愚か者が。ゲーラング。おいで。この馬鹿を殺してしまえ!」

 笑っていたクランクランが怒りに顔を歪ませて手を大きく振る。塔の四階の窓が開き、そこから女が飛び出した。

 真っ白な服。長くてストレートの髪をなびかせ、少女が脚を抱えてくるくる回りながら飛び降りてくる。

「うはっ。見てみてゾナス。スカートすっごく短い。ああ。あのきれいな脚が今は邪魔だ。見えそうで見えない。ううんたまらないなあ」

 イヒャルテは女の子のパンツを見ようと顔をあちこち振る。しかし彼女は抱えた脚の先をぴんと延ばして隠しているので、見えそうで見えない。

 そうこうしている内に少女は着地する。塔の四階はかなりの高さなのだが、まるで風に舞う木の葉のようにふわりとかろやかに降り立った。

 両手を左右に広げ、体操選手の着地のようだ。しかし舞い上がった短いふわふわのスカートはぎりぎり下着が見えないままゆっくり舞い下りる。

「うわあ。すごい。最後まで見えそうで見えない。見えちゃうよりそそるね。クランクランはいい趣味している。どんなに動いてもパンツが見えない動きをたくさん練習させたんだろうね。その練習風景とか滑稽な真面目さとか見てみたかったなあ」

 そばにいるレントーゲはむすっとしてイヒャルテをにらむ。それに対し舞い降りた少女は無表情でぼーっとしている。

 ストレートの髪。おでこが広い。おっとりした穏やかな顔。ほほえんだらかわいいのにまったく笑わない。

 目が大きいが半分眠ったように瞼が少し下りている。きれいな顔なのにまるで寝起きのようにぼけっとしている。

 胸は大きめ。とても巨乳なクランクランとは勝負にならないが、ほとんど平らに近いレントーゲに対しては圧勝だった。

 真っ白の服に短くふわふわのスカートは、色がもしカラフルならどこかの飲食店のウェイトレスだと思えるだろう。デザインはかわいいのに色が白単色なのでなんだか違和感がある。

 そして、ウェイトレスならニーソックスでも着けていればとても似合うのに、その脚はむき出しだった。クランクランは少女の生脚を見るのが大好きなので、自分の恋人である少女たちには必ず素脚に靴と短すぎるスカートという格好をさせる。

「うはあ。期待以上に美人だ。脚がすっごくきれい。レントーゲより太いね。おっぱいも大きいし。僕むっちりしたのも好きだよ。細いのもむっちりもどっちもおいしいよね」

 イヒャルテはいやらしい目で露骨にレントーゲとゲーラングを交互に見比べる。

 レントーゲは顔をしかめるが、ゲーラングは男にいやらしい目で脚や胸を見られても平気そうだった。相変わらずぼーっとしている。

「クランクラン様」

 ゲーラングがたどたどしく話す。

「うはっ。何て甘くてかわいい声。小さな女の子みたいだ。大人になりかけの少女なのにこんな幼稚な声なんて。ギャップがたまらない。むちむちのやらしい身体との差が素晴らしいよ」

 イヒャルテは絶賛する。クランクランはそれを聞いてクスクス笑う。

「ははは。自慢のお姫様をほめてもらえて私も鼻が高いよ。ゾナス君も一つほめてやってくれないかな」

「俺はこんな少女に興味無い」

「またまたあ。我慢は毒だよゾナス。君だって、レントーゲみたいなまんま少女はともかくゲーラングはむちむちで色気が強いじゃないか。それに処女なんだよ。こんなやらしい身体なのはクランクランが処女の身体をたっぷり愛撫して育てたおかげだ。あれ、でもレントーゲは育ってないね。もむと大きくなるのにもみ足りないのかな。なら僕が」

 イヒャルテが手をわきわきさせると、ゾナスは素早くその指を握ってべきりとへし折った。

「あぎゃっ! ほ、ほげ、指が、指がああああ」

 イヒャルテは折れた指を抱えてうずくまる。でもそのどさくさでレントーゲのスカートを下からのぞき込もうとしたのでレントーゲはさっと後ずさる。

「クランクラン様。どうして私が? 試験は私じゃなくてあの子が」

「ゲーラング。君は寝起きがいつもぐずぐずだね。というか寝すぎだね。起きているときに寝るのはやめなさい」

「でもお。脳を半分ずつ眠らせて、周囲を警戒しておかないといざというとき対処出来ません」

「九割眠らせておけば大丈夫だよ。それで深い睡眠を取るんだ。君はいつも半分寝ている。それじゃあ駄目だって言っているだろう」

「でもお。危なくないときまで全部起きている必要は無いじゃないですかあ。寝ないと損ですよお」

 クランクランはため息をついてゾナスの方を見る。

「これだよ。首輪をかけていても、ゲーラングは口答えが多くてね。半分寝ているから支配が半分しか効かないのかもしれない。実に興味深い実験対象だ。まあ、彼女が全部起きたら勝負にならないからね。半分寝ているのがハンデだよ。いつも全部起きているならもっと上の階を任せられるんだが、半分寝ている彼女には四階程度がお似合いさ」

「おいおい。こんな寝ぼけた女が本当に戦えるのか」

「もちろん。ゾナス君。よく見ておいてね。四階を守る彼女が、半分眠って半分しか本気を出さないときの強さを。五階から九階まで、これ以上に強い少女があと五人もいるんだ。この塔も、私も、難攻不落だ。君にはよくわかってもらわないとね。君私をなめているだろう」

「そうかい。なら全員ここに出せよ。俺が手合わせしてやるよ」

「ははは。手の内全てを晒す間抜けがどこにいるんだい? 仲介人は賞金首と違ってデータベースに載らないし載せられない。情報を規制されている。直接会って情報を引き出すしかない」

 わかっている。公式には違うと主張されているが、仲介人は政府が裏社会への干渉に使う使者、政府の飼い犬だ。

 当然裏社会に武力行使が出来るよう強力な能力者であり、この塔と八人の少女たちのように、他の賞金首程度の能力者が挑んでも絶対勝てないほど強力だ。

 ゾナスはクランクランを信用していない。いざというときのために出来るだけ情報を得ておきたかった。この怪しい女は何をしてくるのか読めず危険なので、備えておきたかった。

 クランクランはそれがわかっていて、少し力を見せつけゾナスを逆らえない飼い犬に躾ようとしているのだ。ゾナスが情報を欲しがっているのでそれを小出しにし、餌として与えながら飼っているのだ。

(くそ。なめやがって。クランクランといいイヒャルテといい、俺が弱いからって見下しやがる。今は耐えてやる。この屈辱に耐え、強くなってから目に物見せてやる)

 クランクランがゾナスを最後にどう利用し捨てるのかわからない。ゾナスはいつそうなっても対処出来るように、強くなりさらにクランクランの情報を出来るだけ得ておかねばならない。

 これは絶好の機会だ。ゾナスは単なるお人好しではない。ゾナスはゾナスで、クランクランの戦力を暴くためにホロビッツを利用する。

 利用し利用される。裏社会では当たり前だ。これに文句を言うのは表社会の弱者だけだ。

 テイクアンドギブ。まず利用する。そして代わりに利用される。それでないと対等でいられない。一方的に食い物にされるような弱者はすぐにつけ込まれしゃぶり尽くされてしまう。

「じゃあ始めようか。本当はゲーラングの真骨頂は物の多い室内なんだけど、あの塔はあいにく男子禁制でね。あの中で戦わせるわけにはいかない。すごくハンデなんだよ。この状況で半分眠った彼女に勝てないんじゃ話にならない。この状況で殺されるほど弱い奴は足手まといだ」

 ホロビッツはうなずく。

「はい。わかっています」

「ゲーラングが勝てば君を殺す。それが条件だ。途中で逃げてもいいよ。それでも逃がさないけどね」

「逃げません。必ず勝って、試験に合格します」

「君も殺す気でいきなよ。もっとも彼女は殺せない。殺されるぐらいなら全部目を覚まして対処するからね。君は半分眠っている彼女を全部起こせば勝ちだ。全部覚醒した彼女にはどうやっても勝てないからね」

「……はい。わかりました」

 ものすごくなめられている。それでもこれが試験だと言うのだからそれを飲むしかない。

「じゃあ始める前に。ホロビッツ君の能力はデータベースで知っているけどゲーラングのはわからないだろう? 教えてあげるよ。彼女の掌能力は射撃だ。触れた物を高速で飛ばして弾丸とする。小石でも拳で迎撃すれば拳の方が砕かれるよ。防御は出来ない。それじゃあ始め」

「はあい」

 ゲーラングは寝ぼけた返事をすると、しゃがんで荒れた地面に転がる石を手に取る。イヒャルテは折れた指を抱えてうずくまりながら性懲りも無くパンツをのぞこうとしたが、やはり彼女の脚に隠れて見えなかった。

 ホロビッツが掌を広げて前に出して構える。掌能力者の基本の構えだ。両掌をどこにでも繰り出せ迎撃出来る。

 ゾナスたちは二人から離れて見守る。クランクランがくっくと笑うので、ゾナスは彼女を見る。

「何笑っているんだ」

「彼女の弾丸は防げない。警告したのにホロビッツ君は間抜けにも構えて迎撃するつもりだ。笑えるね」

「弾丸の能力がどれほどの物か見ておかないといけないだろう。距離は十分取っている」

「私なら彼女が石を拾う隙に飛び込んで攻撃するがね」

 ゾナスは戦う二人を見る。

 ゲーラングは拾った石を手の上に載せ、それをもう片方の拳で砕く。

「お、結構拳を鍛えてあるね」

 イヒャルテはうずくまったまま感心する。

「そりゃあね。彼女の能力は飛ばす物体のサイズが小さいほど速度が速くなる。大きな石を一つ飛ばすより、砕いて小石を多数飛ばす方が早くて効果的だ。だから拳で石ぐらい簡単に砕けるよう鍛えてある」

 能力者は身体能力が高い。たいていの者は全力で打ち込めばあの程度の石なら砕ける。しかし手の上に載せて軽く叩いて砕くとなれば、それに特化して鍛えておかねばならない。

 イヒャルテは握力を、ヘカトポリスは空中で自在に動ける体術を特化して鍛えている。ゾナスもそういった、身体能力を鍛えた武器を手に入れなければならない。

 あれもこれも鍛えようとしても身に付かない。何かに特化しそれだけに専念せねば。ゾナスはまだ何を鍛えればいいのか迷っていた。

 ゲーラングは砕いて小石にしたそれを両掌に載せる。そしてホロビッツをぼーっと見つめる。

「いくよー」

「どうぞ」

 ホロビッツは両掌を突き出し迎撃しようとする。

「あの数を防げるつもりかね」

 クランクランは笑う。

「それを防いで見せて、能力と体術の両方をあんたに見せつけたいんだろ」

「ゾナス君。これは試験だよ。そんな物を見せつける必要はない。私は彼女を全部目覚めさせる事が出来るかどうかを試しているんだ。ホロビッツ君はちょっと思い込みが激しいというか勘違いするタイプだね。自分を格好良く見せようと気負いすぎる。グンダーニ君にいつもそうしていた癖だろうね。そういう悪い癖はこれで矯正されなくちゃ。でないと死ぬよ」

 ゲーラングの掌に載る小石の山が、下から順に撃ち出される。掌に触れた小石は高速の弾丸として射出される。すると上の小石が落ちてきてまた掌に触れて弾丸として飛ばされるのだ。

 多数の小石がとても早く撃ち出される。小石のままだが回転するそれは能力で強化されている。だから本物の弾丸以上に触れた物を巻き込み抉り大穴を開けるだろう。

 死の雨が正面から降り注ぐ。ホロビッツは深く息を吐くと、構えた両手を素早く振るった。

posted by 二角レンチ at 20:55| 見えざる掌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月22日

見えざる掌(22)愛情

見えざる掌(22)愛情

 クランクランはグンダーニの身を案じているホロビッツに向かってにやにやしながら言い放つ。

「グンダーニ君はヘカトポリス君に言う事聞かせるための人質だ。だから殺されはしない。でも政府側の誰かの手錠で能力と反逆の意志を奪われている。無力な女だ。そんな女をただ閉じこめているだけだろうかねえ? そんなの金の無駄だよ。彼女の幽閉にかかる経費をどうやって賄うんだろうね」

 ホロビッツは青ざめる。

「まさか」

「彼女は政府で働く者たちのために、無料で奉仕しているかもしれないよ。それ以外に使い道は無いし、美人で巨乳。文句無しだ。むろんグンダーニ君はヘカトポリス君には何もされていないと言うだろうね。手錠で反逆の意志を奪えば、ヘカトポリス君が反乱するような事を言う事は出来なくなる。彼女は男たちにどんな目に遭わされていようとヘカトポリス君には何も言わない。乱暴されてあざが出来ても、手錠で抑制された自己治癒能力でも十分回復するし、他者治癒能力者に癒されているかもしれない。彼女の身体を見て乱暴の痕跡を見つけるのは無理で、ヘカトポリス君はいくら疑っても妹が何もされていないと信用するしかない」

「政府は、人質に、そんな手荒な真似をしません。捕虜を虐待なんてするわけありません」

「おいおい。政府が捕らえた能力者を人体実験に使う事があるのを知っているだろう。慰み者にするなんてそれよりはるかにましな事だ。しない保証なんてないよ。わかっているだろ」

 クランクランは目を細めて、キスしそうなぐらい顔を寄せてホロビッツと見つめ合う。

「憶測だよ。政府は本当に、グンダーニ君に何も危害を加えていないかもしれない。彼女たちは誇り高く、犯されるぐらいなら死を選ぶ。グンダーニ君は手錠で自害の意志すら奪われるから出来ないにしても、ヘカトポリス君は能力を使うために能力を封じる手錠ではなく首輪をかけられている。首輪の方が意志が自由に働く。制御力が弱いんだ。首輪も主への反逆や自害の意志を封じるが、手錠よりは弱い。ヘカトポリス君の怒りは異常な強さだからね。妹が犯されていると知ったら首輪をかけられていても妹を助けるために暴れ、共に殺されようとするかもしれない」

 ホロビッツは泣きそうな顔だが、それでも間近で見つめるクランクランの目をにらみ続ける。

「まだ二人が殺されたという知らせは受けていない。おとなしく実験に従事しているそうだよ。でもね、もしグンダーニ君が政府の施設で働く男たちに毎日犯されていたとして、君、彼女をそれでも愛せるの? 私が彼女を政府から買い取って君に会わせたあと、彼女を抱けるのかい?」

 ホロビッツはぐっと唇をかむ。糸のような細目がわずかに開き、真剣な目でクランクランを見つめる。

「私はグンダーニを愛しています。彼女が犯されてなどいなくて、助けを待っていると信じます。でももし彼女が政府の男たちの慰み者になっているとしたら、なおさら一刻も早く彼女を救い出さねばなりません。そして彼女の傷ついた心を癒します。そばにいて支えます。彼女は強い。心も身体も汚されて、一人では生きていられないとしても、私が支えればきっと彼女は生きていけます」

 クランクランは間近でじっとホロビッツと見つめ合い続けたが、やがて顔を離して大笑いする。

「あっははは。純愛だねえ。犯され傷ついた彼女を見てもそう言えるのか見物だねえ」

「じゃあ」

「勘違いしないでほしいね。君が本当に純愛を貫けるのか試してあげよう。でもそれだけじゃないよ。君が本当に彼女を純粋に愛しているのか試してあげる」

「何が。私は彼女を本当に愛しています。この気持ちに嘘はありません」

「愛には二種類あるよ。純愛か、歪んだ愛か。君がどっちか見分けがつかないな。目を間近で見てもね。面白い。たとえばね、仲間に惚れた女をレイプさせて、それを助けに入ったり慰めたりして依存させる。自殺で逃避する代わりに犯された自分でも受け入れてくれる男に逃げ込もうとする。そうやって女を手に入れる極悪人がいるんだ。君は純情そうに見えて、グンダーニが犯されていたとしたらそうやって傷心の彼女に付け入ろうとしているんだ。惚れた女を手に入れるためなら手段を選ばないんだね」

 いつも穏やかなホロビッツが怒りを叫ぶ。

「馬鹿な! そんな卑怯な考えは持っていません。彼女が犯されていたらそれにつけこもうとなんて考えません。ただ彼女を助けたいだけです」

「あはははは。どっちだろうね。どっちでも面白いね。好きな女が犯されていても愛せるのか。あるいは犯された事を利用してでも手に入れたいほど凶悪に執着しているのか。恋愛と執着は紙一重だ。本人でも区別がつかない事がある。君、振られても毎日グンダーニに会いに行っていたんだろう? 立派なストーカーだ。純愛だからって相手が迷惑しているのに付きまとって。私は君が、グンダーニ君を手に入れるためなら彼女がどれだけ犯されていてもそれを利用する人間だと思うね。賭けてもいいよ。イヒャルテ君はどう思う?」

 イヒャルテはにんまり笑う。

「僕も同じ方に賭けるよ。ホロビッツはグンダーニがたとえ他の男に犯されていても彼女が慰めを求めれば抱くだろうね。彼女の助けになるとか言ってるけどさあ。内心まんまとつけ込めた、馬鹿な女だぜってほくそ笑むさ。他の男に犯された女なんて僕ならごめんだね。他人の使い古しなんていらないや。そこまで不自由していない」

 ゾナスは耐えられなかった。クランクランに取り入らねばならないため震えながら耐えているホロビッツの代わりにイヒャルテを思い切り殴ろうとする。

 しかしイヒャルテは、いつもと違いゾナスの拳をひょいと避けた。

「あ?」

「ゾナスは怒るんだ? じゃあ、ホロビッツが歪んだ愛情でなく、純愛でグンダーニを慰め受け入れると思うんだね」

「当たり前だろ。お前もクランクランも最低だ。人の恋を、心を、愛情を、どうしてそこまで口汚くののしれ貶められるんだ」

「だってそれが真実だから。ゾナス。君に教えてあげているんだよ。今のホロビッツの本心がどっちか見分けがつかないだろう? それはね、どっちにでも転ぶ状態だからなんだ。ホロビッツは今は純愛だと信じているかもしれない。でもそれは酔っているだけ。本心に気付いていないだけ。汚されたグンダーニを抱いたときにはっきりわかる。汚物に自分のモノを突っ込んだ汚らしさに吐き気を催すからね」

「この……くそ野郎!」

 ゾナスが両の拳で殴りかかる。イヒャルテはしゃがんでそれをかわすと手を地面について透過し潜り込んで、離れた所まで地中を泳いでから浮上する。

「やめてくださいゾナスさん。私のために怒ってくれてありがとうございます。でもこれも試験の一種なんです。私は耐えてみせます」

「お前馬鹿か。これは試験の一種じゃねえ。この二人は心が腐っているんだよ。人の心を踏みにじり汚すのが大好きだからお前で遊んでいるだけだ」

「私で遊びたいならいくらでも遊ばせます。もし拒否すればもう、クランクランさんに認めてもらえません。私はクランクランさんの配下になり、イヒャルテさんのチームに入り、グンダーニもそのチームに迎え入れてもらわねばなりません」

 ホロビッツはこれ以上自分のために怒らなくていいと、そしてこれ以上クランクランの機嫌を損ねないでくれと、ゾナスに頭を下げる。

 ゾナスは舌打ちして拳を下げる。

「ちっ。わかったよ。お前が我慢しているんだ。俺が口出す事じゃねえ」

「ありがとうございます」

 クランクランはくっくと笑う。

「じゃあ、私とイヒャルテ君はホロビッツ君の愛が歪んだ愛で、もしグンダーニ君が政府の男たちに犯されていたらそれに嬉々としてつけこむ極悪な男だという方に賭ける。ゾナス君とホロビッツ君はホロビッツ君の気持ちが純粋な愛情で、傷ついたグンダーニ君を助けるためにそばにいて何でもしてあげるという方に賭けるんだね」

「人の恋で賭なんかするか。でも俺は、ホロビッツがお前等の言う歪んだ愛情なんかじゃなく純粋な愛情だって信じる」

「ゾナスさん……ありがとうございます。私も、自分の気持ちは本当にグンダーニを大事に想う気持ちだと言い切れます」

「ああ。こんな愛情どころか性根の歪んだ連中に何を言われても自分を曲げるな。お前の方が正しいんだ」

 ホロビッツはうなずく。細い目の端には感謝の涙が浮かんでいた。

 クランクランがぱんぱんと手を叩く。

「ああ面白かった。これだから真面目で頭の硬い連中をからかうのは面白いね。大丈夫だよ。そもそも政府は女なんていくらでも調達出来るんだ。わざわざ重要な能力を持つヘカトポリス君を怒らせるような愚を犯さないさ。グンダーニ君はきっと犯されていないよ。無事なはずさ」

「ええー。クランクラン。それ言っちゃうの? 面白くないじゃん」

「イヒャルテ君。まあ本当に彼女が犯されていない保証は無いがね。今はホロビッツ君の能力や戦闘力を見たい。余分な心配は取りあえず脇に置いておいて試験に入ろうか」

 ホロビッツはぐっと身構える。掌能力者の実力を見るなら戦闘が一番だ。誰とどんな戦闘をさせられるのだろうか。

posted by 二角レンチ at 19:09| 見えざる掌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月20日

見えざる掌(21)スカウト

見えざる掌(21)スカウト

 数日経ち、クランクランから次の任務の連絡が入った。直接会って話をするので、ゾナスたちは車をレンタルして荒野の待ち合わせ場所へ向かった。

 後部座席にはホロビッツとイヒャルテが並んで座っている。さすがのイヒャルテもホロビッツを一人で後ろに座らせ背を向けるほど信用しているわけではないらしい。

 狐のような顔の若者、ホロビッツは開いているのかどうかすら疑わしいほど細い目でイヒャルテと話をしている。

 イヒャルテのくだらない話によくつき合えるものだ。ゾナスは無言で後ろの会話を聞きながら半分感心し半分呆れる。

(相手に取り入ろうと思えばこういう我慢も必要か)

 ゾナスもこれぐらい我慢出来るようにならなければならない。今は無言で聞くのを耐えるぐらいしか出来ない。

 イヒャルテは嘘か本当かわからない女性遍歴をえんえん自慢し、自分のマゾ性癖をうっかり漏らすたびにこれオフレコねと口止めする。ホロビッツはそのたび苦笑いしてうなずく。

「じゃあグンダーニと寝てないんだ?」

「まさか。恋人でも何でも無いんですよ。好きだって言っても相手にされません」

「グンダーニって男嫌いそうだもんね。お姉ちゃんとデキちゃっているのかなあ」

「違いますよ。彼女たちは強い姉妹愛で結ばれているんです。それだけです。グンダーニは男を嫌っていますが、別に姉や女性が恋愛対象なわけではありません」

「んー。今から会うクランクランはね、三十八なのにまだ処女なんだよ。十代の少女を八人も囲って塔で睦み合っている。女しか愛せない、男子禁制の女なんだ」

「そうなんですか。まあ、人の性癖に何を言うものでもありませんが」

「うん。でも僕には配下として頑張ったらご褒美くれる約束なんだ。この間ヘカトポリスたちを捕獲したご褒美がまだおあずけなんだ。今日こそもらえる。楽しみだなあ。くふふ」

 イヒャルテはいやらしい笑みを浮かべ下品に笑う。ゾナスはそれを聞いて鳥肌が立った。

(こいつやっぱり気持ち悪いなあ)

「ご褒美って何ですか?」

 ホロビッツも我慢しながら笑顔で尋ねる。

「それは秘密。でも年増の美人熟女と年下の少女たち。みんな脚がきれいなんだよ。僕は少女の方はレントーゲって子しか会った事ないけど、きっと他もみんな美人でかわいくて脚が長くてきれいなんだ。その子たち全員に足で踏まれ……おっと。これ以上はトップシークレットだ」

 ゾナスは隣にイヒャルテが座っていたらきっと裏拳を顔面に叩き込んでいた。ホロビッツがそうしてくれないかと切に願った。

 イヒャルテと話すと誰でもいらいらして我慢出来ないほど腹が立つ。町から目的地まで数時間。ゾナスとホロビッツはよく耐えた。

 待ち合わせ場所に着いた。何も無い荒野。遠くからでも誰か近づいたら見える。町よりはるかに安全な場所だ。

 しばらく待つと地震が起こる。この辺りは地震がほとんど無い地域なので、これは能力によるものだとわかる。

「うわわわ。すごいですねこれ」

「ホロビッツは初めて? 僕も初めてのときはびっくりしたなあ」

 能力者は身体能力が優れている。激しい地震の中でも平然と立っていられた。

 揺れる地面からするりと、白く輝く塔の先端がのぞく。ぐんぐんと塔がそびえ建っていく様は壮観だ。しかし地面には何も変化が無い。塔は地面をすり抜けてそこに建てられる。

 純白で光を放つ塔の正面、城門を思わせる大きな扉が左右に開いていく。そして中から全部真っ白な服装で白髪、白衣を着た医者みたいなクランクランが姿を見せる。

「わ、きれいな人ですね」

「だろ? あの脚見てよ。ぎりぎりまで見せつけるためにあんなに短いスカートで。ヒールも真っ白。白い肌の肌色が淡くてやらしい。ああ。素敵な脚だ。早く踏まれたい」

 クランクランはカツカツとヒールを鳴らして歩いてくる。その後ろに付き人のように助手であり他者治癒能力者であるレントーゲがついてくる。

 レントーゲは看護婦の格好をしている。服も髪も真っ白で、スカートはとても短い。クランクランと同じく美しい脚を出来るだけぎりぎりまで見せつけている。十代の少女とは思えない色気があった。

「かわいいですね」

「ふふ。ホロビッツ。グンダーニを好きだって言うわりに他の女に見とれて。君結構好きだね」

「いえ、私はそんな。ただお二人ともすごく美しいので」

「わかるわかる。存分に見とれなよ。見るのはタダだよ。二人は見られるの大好きだしさ」

 それを聞いて正面まで来たクランクランは笑う。レントーゲはむすっとする。

 レントーゲはいやらしい格好が好きなわけではない。ただ主であり恋人であるクランクランに命令されてこういうセクシーな格好をしているだけなのだ。

「ははっ。久しぶりなのに相変わらずだねイヒャルテ君。ゾナス君もまあ、うん、前より男前になったかな。休暇を有効に使えたみたいだね」

「そりゃもちろん。僕がゾナスに徹底的に遊びを教えたからね。ゾナスみたいに硬くて面白くない奴は人生を楽しんでいない。余裕が無いといざというときまで硬くて、柔軟な対処が出来ない」

「ふふ。いい調子だよ。やっぱりイヒャルテ君と組ませて正解だったね。ゾナス君は強いけど他はからっきしだ。私が任務を依頼するにはイヒャルテ君と足して二で割るくらいが丁度いい」

 やっぱりイヒャルテとクランクランは始めからグルだったのか。ゾナスをはめたのか。

 いや、疑っても証明しようが無い。それにそういった事を気にするのはよくないとこの数日で教えられてきた。ゾナスはしぶしぶだがもう疑いを問い正す事はしない事にしていた。

「それでイヒャルテ君。紹介したいというのはこちらの少年かね」

「あはは。ホロビッツはもう二十二だよ」

「それにしてはかわいい顔だね。少年かと思ったよ。私は男は好みではないが、嫌いな顔ではないよ」

 クランクランは妖艶にほほえみながら手を伸ばす。ホロビッツは顎を指でなぞられびくりとする。

「あ、あの、私は、イヒャルテさんに紹介されて、あなたにお会いしに来ました。ホロビッツと言います。よろしくお願いします」

「よろしく。私はクランクランだ。イヒャルテ君のチームに入りたいんだったね。聞いているよ」

「はい。よろしくお願いします」

「うんうん。君の事はデータベースでしか知らない。でもイヒャルテ君がスカウトしたんだ。きっと相当なものだろうね」

「それはもちろん。ご期待に添えて見せます」

 クランクランはホロビッツの両肩を掴んで笑顔でうなずく。彼女は背が高いしヒールを履いているので、ホロビッツを見下ろす格好になっている。

「それで、君はグンダーニ君やヘカトポリス君と友達なんだってね」

「はい。二人とは仲良くさせてもらっています」

「仲良くねえ。くっくっく」

 クランクランは賞金首のデータベースでしかホロビッツの事を知らないと言ったが、それはもちろん嘘だろう。

 会う事を許可するぐらいだ。当然その相手について、調べられる限り調べてある。ホロビッツがグンダーニに惚れている事や、毎日会いに行っても相手にされなかった事も調べてわかっているから笑うのだ。

「二人がどうしているか知りたいかい?」

「知っているんですか?」

 ホロビッツはあくまでちょっと興味があるだけみたいな振りをする。

「んー。まあ私は軽い噂程度しか聞いてないがね。ヘカトポリス君は何でも溶かせる掌能力を持つ。だから破壊不能な物を破壊する実験に使われているらしいよ」

「破壊不能な物?」

「純白に輝く、能力で作られた物体とかもそうだね。手錠や携帯端末。後ろの塔もそうだ。能力で作られ傷つけるどころか汚す事すら出来ない。いつでも純白潔癖な汚れ知らずの処女さ。実際に何を破壊するのかは知らないが、彼女の掌能力なら硬度は関係無い。しかし他の能力で防御している物体は破壊出来るか怪しいね」

「その実験が終わればヘカトポリスたちは解放されるんですか?」

「うん? まさか。政府に捕らわれた能力者はもう一生自由になれないよ。他にもいろいろ使い道はあるしね」

「そうですか……グンダーニは、どんな実験に使われているんですか?」

「ははは。彼女の能力は役に立たない。ヘカトポリス君に言う事聞かせるために一番有効な人質だから一緒に捕獲されただけさ。彼女自身に用は無い」

「なら、彼女だけなら、解放されてもいいですよね」

「解放は無理だと言っただろう」

「でも、買い取りなら出来ます。捕らわれたら支配からは逃れられない。自由は二度と手に入らない。それでも、政府に飼われるか他の誰かに飼われるかの違いはあります。管理されている限り人質としては有効で、政府にとってはどちらでもいいはずです」

「まあね」

「グンダーニの能力は政府の元では役に立たないかもしれません。でも彼女の掌能力は戦闘では実に有効です。彼女はチームでの戦闘で力を発揮します。だからイヒャルテさんのチームに入れればきっと役に立つと思います」

「私に、グンダーニを政府から買い取れと?」

「彼女はきっと、このチームの役に立ちます。ヘカトポリスに言う事聞かせる人質なら、政府の元でただ捕らえているより首輪で支配しながら戦闘要員として活用する方がはるかに有効だと思います」

 クランクランは大口開けてからから笑う。

「提案だろうが何だろうがいきなり要求を突きつけるなんて無礼だね君は」

「す、すみません」

「いいよ。それだけ必死なんだものね。でも何か勘違いしていないかい。ねえイヒャルテ君?」

 ホロビッツは当惑してイヒャルテを見る。

 イヒャルテは頭をかく。

「あー……うん。ホロビッツ。君熱くなっている所悪いんだけどさ。まだ紹介しているだけだよ。君は僕のチームの一員として認められたわけじゃない」

「え?」

 クランクランが後を継ぐ。

「当然だろう? イヒャルテ君がスカウトしたからって、はいそうですかと雇うわけがない。君が役に立つ奴かどうか試さないとね」

 ホロビッツはあわてるが、すぐに真剣な顔つきになる。

「試験に合格しないといけないわけですか。当然ですね。覚悟は出来ています。存分にお試しください」

「覚悟ねえ」

 クランクランは意地悪く笑う。ゾナスはその表情をよく知っている。とても嫌な事を言うときの顔だった。

posted by 二角レンチ at 21:35| 見えざる掌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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