2014年07月31日

旋律のリフレイン(15)フルメンテナンス

旋律のリフレイン(15)フルメンテナンス

 ハッシュが愛情というご褒美の大切さを教えられ、それを取り戻して数日。その成果は顕著だった。

 ほめられ優しくされ甘やかしてもらえる。もちろんそれはごくわずか。でも人は砂漠でわずか数滴の水でも飲めたならとても元気が出るだろう。そのあまりのおいしさに心が潤いまた辛い砂漠の旅を続けられるだろう。しかし一滴の水も無く何日も砂漠をさまよえば気力が尽きてすぐ死ぬに違いない。

 危なかった。せっかくの貴重な実験体を駄目にしてしまいかねなかった。なにより大事な弟だ。再び愛情をかけるようになってからその気持ちはとても深くなった。

 ハッシュにとって弟を愛するというのはとても大事なアイデンティティだ。ハッシュはリフレインを本当の弟のように大事に愛おしく想っていたし、リフレインも素直ではないがハッシュの事を本当の姉のように慕うようになっていた。

 二人の絆はとても深くなった。そして二人とも訓練を通じてとても強くなった。

 人は教える事で自分も成長する。弟子が優秀で成長するほど教官もそれに比例して成長する。激しい鞭とそれに耐えられるだけの飴を与えられたリフレインの成長は目覚ましく、それは同時にハッシュをも著しく成長させた。

 ハッシュは自分の成長に驚く。

(私にまだこんなにも強くなる余地があったなんて。強さを極め停滞していた。上限も限界も無かったんだわ。自分で勝手に決めつけていただけ。リフレインは上限を突き破った別次元に私を連れて行ってくれるんだわ)

 こんなに素晴らしい存在は得難い。リフレインは触媒だ。他者だけでなく自らすら反応により劇的に変化させる特別な触媒だった。

 いつまでもこの成長と充実を味わっていたい。しかしそうもいかない。リフレインを出来るだけ速やかに成長させるために命すら危険に晒す。彼が死んでしまうかもしれない。それでもやるしかない。

「僕が戦場へ?」

 驚くリフレインに、ハッシュはにっこり笑いながらうなずく。

「ええ。訓練はこれでおしまい。後は実戦を経験して学ぶ。明日戦場へ行くわ。あなたをより鍛えるためにね。あなたが最大の速度で成長出来るよう私たちは全力でサポートする。その方針に従って、あなたに戦場を経験させる事が決まっていたのよ」

「だから訓練があんなに過剰で密度が濃かったのか。言ってくれればよかったのに」

「余計な事を考えたりあせったりしなくていいようにね、黙っていたの。ごめんなさい。でも訓練と実戦は違うわ。いかに実戦のつもりでもここでの全ては訓練にしか過ぎない。トランジスタとの戦闘も、私が止めに入る保険があらかじめ用意されていた。でも今度は違う。本当の敵と、本当の殺し合いをするのよ」

 リフレインはうつむいて考え込む。

「……僕を、外に出していいの?」

「逃げるつもりなんてないでしょ。少なくとも今の内は」

 見透かされている。リフレインはうなずいた。

「うん。目覚めたばかりの僕ならきっと機会があれば逃げ出した。でも今は違う。僕は強くなる喜びも必要もわかっている。僕はまだまだここにいて、成長しなければならないんだ」

「きっとそう言うと思っていたわ。あなたの脳の声は警告している。強くなれと。強くなるには他のどこにいても駄目。ここで私たちと共にいるのが一番いい」

「うん。少なくとももうしばらくは逃げ出さないよ。裏切らない。その必要が出来る時までね」

「ふふふ。裏切ってもかなわないぐらい、私たちも強くなる。いつまでもあなたの前にいて追わせるわ。あなたは弟だもの。姉の後をいつまでも追いかけて、でも追いつけない甘えん坊さん」

 ハッシュは指先でリフレインの額をつつく。以前なら子供扱いを嫌がってその手を振り払っていたが、今ではリフレインはハッシュのそういうちょっかいを受け入れはにかむようになっていた。

 甘やかして愛情を注いでもらえる機会は少ない。厳しい訓練ばかりだった。だから貴重な飴をリフレインはもう拒絶せずに味わう事にしていた。

「戦場では私とチームを組んでもらうわ。私が率先して戦いを見せる。あなたは様子を見ながらおいおいね。戦闘の指示は適宜出すわ。ちゃんと従うのよ。戦場での命令は絶対だからね。拒否も反抗も疑いすらも許されない」

「うん」

「私はこの部隊の中でもトップレベルの幹部よ。当然狙う敵も同じくらい強い奴となる。とても危険な戦闘になるわ。あなたを守る余裕は無い」

「うん。でも僕も強くなったよ。自分の身は自分で守れる」

「ええ。でも実戦の経験が無い。実戦は訓練とは違う。不測の事態や未知の敵がいて、何が起こるかわからない。私は敵との戦闘であなたを守る余裕が無いかもしれない。それどころか私が倒されたときにも備えないといけない。基本的に私たち全身サイボーグは単独で戦うけど、今回はあなたを守りサポートし、実戦の中で指導も行うために、私の他にもう一人チームに加えるわ」

「誰? トランジスタ? それともレイピッドかな」

「違うわ。あなたの訓練カリキュラムは緻密で、他のサイボーグと関わる暇は無かった。通路ですれ違う事はあっても会話は許可しなかったでしょ。あなたはとても貴重な実験体。興味は尽きないし、その高いスペックを妬む奴もいる。だから接触は禁止していたの」

「うん。それで、誰がチームに加わるの。どんな奴?」

「私と同じ幹部の一人。あなたには一流しか触れさせない。三流に染められ成長を鈍らせるわけにはいかないのよ。本来幹部は全員単独か、自分のチームの指揮を執るので二人が組む事は無いわ。でも今回は特別。あなたと組めるのは幹部だけよ」

 雑魚はお呼びじゃない。すでにそれだけ実力を認められたわけだ。リフレインは少年の心を失っておらず、ほめられるといい気になるし自惚れる。

 自惚れるたびその鼻っ柱をへし折られた。もう慣れっこだ。だから逆に、いい気になって浸れるときに浸っておく。酒を飲めない全身サイボーグにとって酒をあおるように酔える。

 どうせこのいい気分にもすぐ冷や水がぶっかけられる。訓練が上手くいくたび得意になり、それをすぐハッシュに叩きのめされた。有頂天とくじけ。上手くいき続けるなんてあり得ない。それに耐え前に進み続ける心の鍛錬だったのだ。

「彼女の紹介は明日してあげる。今日はもう休んで。いつもの短時間の休眠でなく、ほぼ完全に機能を停止しフルメンテナンスをしておいて」

 サイボーグの脳は機械により良い状態を維持している。ある程度なら治癒もする。もちろん損傷がひどい場合は手術を受けなければならない。

 脳を休め回復し、基本的なメンテナンスをするだけなら一時間の睡眠で足りる。しかし身体の機能を周囲への警戒機能すらカットし完全に休眠させ、細部までチェックとメンテナンス、そして最適化を施すには時間がかかる。

 人間のように、八時間の無防備完全休眠が必要となる。それがフルメンテナンス。最低限の維持機能以外をカットし全てをメンテナンスに当てる。最適化を施し普段の簡易メンテナンスでは直せないわずかな異常すら直す。それにより、サイボーグはリフレッシュし機能が向上する。

 もちろんインプットを大量に行った後でなければ、何度フルメンテナンスをして最適化しても変わりはない。リフレインは厳しい訓練により十分なインプットをした。それを最適化する事でさらなるパワーアップが期待出来る。

「うん。今夜は久しぶりに、生きていた頃のようにぐっすり眠る事にするよ」

「ええ。おやすみリフレイン」

 ハッシュはリフレインと抱き合い見つめ合った後、そのおでこにお休みのキスをする。リフレインは照れながらもうれしそうにはにかむ。

 翌朝の目覚めは快適だった。脳が実にすっきりして気分が朝日のようにすがすがしい。フルメンテナンスは実に快適になる。十分なインプットをしてからでないと効果がほとんどないので禁止されていたが、こんなにすっきりするなら毎日でもしたいものだ。

 もちろん一時間以上寝る必要の無いサイボーグが毎日惰眠を貪るわけにはいかない。その時間で訓練に勤しみ仕事をこなし、そして戦場へ行かねばならない。

 今日初めて戦場へ行く。戦いに行くのはこれが初めてだ。生きていた頃、平和な村が戦場と化し、怯え逃げまどったあげくに殺された。自分を守ろうとしてくれた両親が目の前で殺されるのを見てから結局殺された。

 戦場。サイボーグに血は通っていない。脳には通っているはずだが、血液ではなくシェルの中に満たされた血と培養液の混合物だ。

 身体に熱い血がたぎるのを感じる。それは脳がそう思いこんでいるだけだ。高ぶりが生前の感覚を思い出させ疑似体験しているにしか過ぎない。

 それでも、この血がたぎるような興奮と高揚。震える。そして楽しみ過ぎる。

 人間を殺す残酷さより、強い敵と戦い勝利する期待の方が強い。全身サイボーグばかりと出会い訓練を積んだせいで、敵を破壊し殺す事がどういう意味を持つかよくわかっていない。

 それでもいい。人を殺す罪悪感などで気分の高揚を冷ましてはいけない。どのみち全身サイボーグの敵は同じ全身サイボーグなのだ。一度死んで脳だけが機械の身体で復活させられた。ある意味人間ではないのだ。殺す事にためらう必要などない。

 殺さないと殺される。リフレインは殺す覚悟を決めるとベッドから下りて部屋を出る。

 もちろん頭の中でそう言っているだけだ。実際に人を殺したときにどう思いどう動揺するかはわからない。でも大丈夫だという確信があった。

 リフレインはもういい意味でも悪い意味でも人間ではない。別次元の存在。今はもう人間などに未練は無く、戻りたいとも思わない。そして人間ごときをそれほど大事だとも思わない。

 一度死んだからだろう。命なんてあっけなく散るし、そんなに重い物でもない。思っていたほど大事でも絶対でも無いし、死んで生き返ったせいで命の尊さがとても希薄になってしまった。

 リフレインは待ち合わせの部屋へ行き、最愛と慕うようになった姉の笑顔を見て自分も同じくらい満面の笑顔を向けた。

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2014年07月29日

旋律のリフレイン(14)甘えと愛情

旋律のリフレイン(14)甘えと愛情

 通路を歩くトランジスタを見かけて、ハッシュは急いで駆け寄る。

「待って。トランジスタ」

 トランジスタはその声に振り返る。黄色く煌めく装甲が通路のライトに照らされ黄金のように美しい。

 同じくらい美しく輝く青い装甲のハッシュは、トランジスタの前に来ると急いでまくしたてる。

「ねえ、少しでいいの。相談に乗ってくれないかしら」

「何だあ? 俺は忙しいんだ。相談なら他の奴に言えよ」

「そう言わないで。他の人じゃ駄目なの。こんなのあなたにしか相談出来ないのよ」

「愛しのスコルピオに相談しろよ。他の幹部連中より俺の方がましってかあ? けっ。安く見られたものだぜ」

「あなたは変わったわトランジスタ。他の幹部たちはまだ、以前のあなたのように悪い癖がありすぎる。今のあなたはとてもいいわ。こんな事を相談出来るのはあなたしかいないの」

「俺が丸くなったって? かーっ! むかつくぜ。俺は俺のままだぜ。何も変わっちゃいねえ。残虐さが薄れたって言うなら今すぐ思い出させてやってもいいんだぜ?」

 トランジスタは掌に鈍い重低音を響かせる。電磁力を操作し圧力を発生させている。

 以前のトランジスタならそれを躊躇無く振るっただろう。でも今のトランジスタならきっと、これは脅しであり半ば冗談ですらあるはずだ。

 だからハッシュは抵抗しない。鼻に掌が触れそうなぐらい近づけられても目を逸らさない。トランジスタはしばらくそのまま威嚇したが、やがて根負けして掌を引っ込める。

「ちっ。スコルピオに言えないって事はリフレインの事だろ? 今のお前の任務はリフレインを出来るだけ急いで鍛え上げる事。それだけだもんな。スコルピオに相談すると任された任務をこなせない無能だと思われるのが嫌なわけだ」

 ハッシュは否定しない。自分が任された任務を上手くこなせない事を報告など出来るわけがない。その前に何とかしたくて、でも一人ではどうしようもなくて誰かに相談したかったのだ。

 スコルピオの配下の内、飛び抜けた実力を持つ数人は幹部の地位についている。力により地位を決めるこの部隊において、最高指揮官直下の幹部というのは最強のメンバーである事を意味する。

 いずれも最高指揮官の地位を狙って戦いスコルピオに敗北した。スコルピオは誰の再挑戦も受け付けない。ハッシュのようにスコルピオの強さと美しさに魅了され、敗北により服従を誓う者ばかりではない。幹部の多くはトランジスタと同じように敗北を苦々しく思い、再挑戦を受けないスコルピオを臆病者だとののしる者すらいる。

 以前ならハッシュがこんな相談を出来る相手はいなかった。幹部連中は誰もが一癖も二癖もありその癖は凶悪極まり無い。でも今のトランジスタなら相談出来る。ハッシュは彼女が怒るので言わなかったが、今ではトランジスタを友人のように思っていた。

 トランジスタはため息をつき、頭のヘルムをがりがりかく。

「かーっ、わかったよ。お前が俺にこんな必死にお願いするなんて珍しいからな。でもこれからレイピッドの訓練をつけるんだ。だからそこまで歩く間だけだぜ」

 トランジスタはむすっとして前を向き、ガチャガチャと金属音を鳴らしながら金属の脚で足早に歩く。ハッシュは急いで後を追い横に並ぶ。

「ありがとうトランジスタ」

「いいから。代わりに俺が丸くなったなんて二度と思うんじゃねえぞ。俺は凶悪残虐怒りっぱなし。だろ?」

「最近はよく笑うようになったわ」

「そんな話しかしないんならもう聞かないぞ。俺は忙しいんだ」

「ごめんなさい。手短に話すわね。ええと、リフレインにね、座学で理論や知識をいろいろ教え、それをそのあと戦闘ルームで実戦形式で稽古をつけて教えるの。前はね、すごく早くどんどん吸収していった。進化していった。でもここ数日それが停滞している。成長速度が著しく鈍っているのよ。どうしてかしら」

「わかるわけねえだろ。記録を見せろよ」

「そうね。じゃあいいわ。見てちょうだい」

 ハッシュは見せる記録、アクセスを許すデータを限定して設定してからトランジスタにうなずく。

 トランジスタは手を伸ばし、横にいるハッシュの肩に載せる。アクセスが許可されたデータに限り参照出来る。

 調子が良かったという数日前と、調子の悪いここ数日の訓練の記録を見る。リフレインは学び成長してはいるが、明らかにその上達速度が鈍っている。

「ねえ、何かわかった?」

「まだ記録を見ただけだ。これから精査するから待てよ」

「私はスコルピオから出来るだけ早く彼を成長させる事を命令されているわ。だからより早く強くなれるよう最高に切り詰めた座学と訓練をカリキュラムとして組んだのに。もう残りの日にちがあまりないのにまだ予定の半分も行っていない。どうしようトランジスタ。このままだとスコルピオの命令を果たせない。任務に失敗する。それどころか次の任務でリフレインを死なせてしまう」

「落ち着けって。今精査しているからよ」

「ねえ私どうしたらいいの? ねえったら」

「うるせえ!」

 データの精査中はじっとして集中する方が早い。なのに両肩を掴んでがくがく揺さぶってくるハッシュに腹を立て、トランジスタは頭突きでハッシュを黙らせる。

「あぐっ、何するのよこの石頭」

「俺の装甲は圧力や電磁力で弾けないよう特別硬いからな。痛いだろ」

「痛いなんて感覚はもう忘れて久しいわ。でも酔ったかも。脳まで衝撃が浸透している。あなたまさか圧力をかけた?」

「かっかっか。そんな事しちゃいねえよ。俺がそれだけ強くなったって証さ」

「それで。どうなの」

「はっ」

 トランジスタは笑う。それを聞いてハッシュはむすっとする。

「何がおかしいのよ」

「こんな事もわからないなんてな。お前上手く結果が出せなくてあせっているだろう。それで視野が狭くなっているんだ。自分で記録を見比べればすぐわかるだろうに」

「何度見てもわからないからこうして恥をしのんで聞きに来たんじゃない。ねえ教えてよトランジスタ。お願いだから」

「んーっ。どうしようかなあー」

「意地悪しないで」

「くっくっく」

 トランジスタは目を瞑って笑う。屈託の無い笑顔。以前の彼女には見られなかった、邪悪な悪意でなくいたずらっぽい笑い。

「もう。いい加減にしないと怒るわよ」

「怒れるならまだいいな。怒れないならどれだけ辛いんだろうな」

「え?」

「今のお前、記録で見たリフレインとそっくりだ。いくら考えてもわからない。だから教えて。お願い。でもお前は怒るだけで教えなかった。お前に対し怒れないリフレインは黙り込んで一人で抱えるしかなかった」

「そんなの。あの子の脳はハイブリッドよ。私たちとは違う。一人では悩んでも出せない答えを導き出せる力があるのよ」

「あいつはただのガキだ」

「ただの少年なんかじゃない。この世のどんな頭脳もかなわない、天才を越えた次の次元の頭脳なのよ」

「お前なあ」

 トランジスタは呆れながらハッシュの頭を拳でごんごん叩く。

「やめてよトランジスタ。私子供じゃないのよ」

「リフレインは子供だよ。十六なんてまだガキなんだ。あいつの精神は、感情は、気持ちはまだただの少年、ただの人間からそれほど乖離していない。長年サイボーグやって人間とは違う人生を送ってきた俺たちとは違うんだ」

「だから何? 今すぐにでも人間だった頃の甘えは捨ててサイボーグとして成長し成熟しないといけないのよ」

「だーかーらー」

 トランジスタはハッシュの頭を鷲掴みにしてぐりぐりと回す。

「やめてってば。子供をあやしたり叱ったりするような扱いをしないでってば」

 ハッシュはいやいやするようにトランジスタの手を両腕で払いのける。

 トランジスタは真顔ですっと目を細め、ハッシュと見つめ合う。

「お前だってなあ、前はリフレインに対しこうして子供扱いしていただろうが。あいつは嫌がっている振りしていたが内心うれしかったろうさ。今のでお前もその気持ちちょっとはわかるだろう? 子供扱いされたくなくても、それはくすぐったくて甘えたくなる気持ちをもたらす。リフレインはまだガキなんだ。わかってやれよ。お前が以前のように甘やかしてくれず厳しいだけ。せっかく出来た姉がいきなり甘えさせてくれなくなってすねてんのさ」

 ハッシュは顔をしかめる。

「すねる? 何言っているの。もう甘やかしている暇なんてないのよ。時間が足りない。もう期限が迫っている。まるで足りない時間で仕上げなくてはならない。死なないで無事生きて帰れるぐらいにはね」

 トランジスタは大きなため息をつく。

「お前ってこんなに馬鹿だったか? ったく、スコルピオの命令だと、期待に応えようとして張り切りすぎるのはお前の悪い癖だ。お前はやり過ぎなんだよ。厳しすぎ。リフレインは甘えん坊のガキなんだ。姉が出来て甘やかされる甘い喜びを知っちまった。両親も殺されて間も無いんだ。甘やかしってキャンディーが欲しくて欲しくてしょうがないのさ。それをいきなり取り上げられてまったくもらえないときた。ガキはそんなのすねるに決まっている。飴と鞭だよ。お前は鞭ばかりで飴が無い。ご褒美が無いんじゃやってられない。リフレインはすねて訓練に身が入らない。だから成長が鈍くなったんだ」

 ハッシュはうつむいてぶつぶつつぶやく。

「何よそれ。私は弟の代わりが欲しかった。だからリフレインを弟としてかわいがったのよ。でも今はそんな温い姉妹ごっこをしている場合じゃないのよ。どれだけ急いでも足りないぐらい早く成長させなくちゃならないの。ゆっくり甘やかしてあげている時間なんて無いのよ」

「わからねえか。頭のいいお前がなあ。本当に、スコルピオの期待に応えようとあせりすぎだぜ。視野が狭すぎる。騙されたと思って、前みたいに厳しい訓練の後でも前でも甘やかしてやれよ。ちょっぴりでいいんだ。時間は大して浪費しない。きっと前と同じく張り切って、ぐんぐん成長するようになるぜ」

「……そんなわけないじゃない。馬鹿馬鹿しい」

「かっかっか。本当馬鹿馬鹿しいな。俺には兄弟ってもんはいなかった。でも今記録をちょっと見ただけで、それぐらいわかるんだぜ。お前は実際に弟がいたんだ。わかるだろう。お前の弟はどうだった? 甘やかして駄目になったか? それともお前にほめられたくていつもいじましく頑張っていたか? 辛いときお前に甘やかされて堕落したか? それとも元気を取り戻して次の日からまた頑張れたか?」

 どうして。アクセス出来る記録は制限していた。実の弟についての記憶は見せていない。なのにどうして、まるで見ていたかのようにそこまでわかるのだ。

 本当に、トランジスタは変わった。以前はどうやってもこんな風に人間の愛情や温かさを理解出来る奴ではなかったのに。

 弟子を持ち愛着を、愛情を知ったからなのか。きっとそうだろう。トランジスタは自覚していないがレイピッドを妹や手のかかる子分のような、家族のような者だと思えるようになったのだろう。

 リフレインに関わるとみんな変わる。なのにハッシュは悪い方向へ変わっていた。愛情の大切さ、安らぎや甘やかしは過剰でなければ頑張るために必要な栄養なのだと誰よりもよく知っていたはずなのに。

 甘やかさずに鞭打つばかり。優しかった姉がそんな風に豹変したら、弟はどう思うだろう。

 姉を嫌い、辛いだけの毎日に耐えられない。姉に優しくして欲しいのに、甘やかしてほしいのにそれが与えられない。

 ちょっとでいいのだ。普段どれだけ厳しくても、少しでいいから優しくしてくれればそれだけで全部許せる。満たされる。信じられる。厳しさは愛情の裏返しだと。自分を憎んだり嫌ったりしているのではないと信じられるのに。

 ハッシュはリフレインを甘やかさない事で、彼の信頼を失っていたのだ。訓練の内容一つ取っても自分への意地悪や痛めつけにしか思えないだろう。

 それで頑張れるわけが無い。脳のハイブリッドだの別次元の存在だの、まるで人間とは違う神か何かのように扱っていた。

 違う。リフレインは人間なのだ。まだまだ姉の甘えが必要な弟であり子供なのだ。

 人間の脳ゆえに、人間扱いが必要なのに。ハッシュがリフレインの凄さをいくら語っても、嫌みや妬みにしか聞こえなかっただろう。素直にほめられたと喜び張り切るわけがない。

 リフレインのやる気を失わせていた。やる気がある場合と無い場合では、訓練の成果が著しく異なる事は多くの実験で証明されている。人間の実験だからサイボーグには関係無いだろうか。違う。サイボーグは人間であり、やる気は成果に直結する。

「……そうね。私は間違っていた。彼は甘えん坊で、甘やかしというキャンディーが必要な子供だったのよ」

「わかったかこの石頭が。じゃあな。俺は行くぜ」

 すでにレイピッドの待つ戦闘ルームの前まで来ていた。歩く間だけと言いながら、トランジスタはハッシュがわかってくれるまで待っていてくれたのだ。

 ハッシュは顔を上げる。さっきまでの厳しい表情ではない。久しく見せなかった、以前の誰にでも優しい姉であるように柔和な笑顔を見せていた。

「くっくっく。お前はその顔が一番似合うよ。いけすかねえ」

 トランジスタは手を振って閉まる扉の向こうへ消えた。ハッシュはその扉の向こうにいる彼女に向かって深々とお辞儀をした。

「ありがとうトランジスタ。私は大事な物を見失っていたわ。もう間違わない。愛情は余計な時間の無駄じゃないわ。最高の成果を出すために必要な飴だったのよ」

 飴が甘いほど鞭を強く振るっても耐えられる。頑張れる。ハッシュはとても優しく弟想いだ。弟のように想っているリフレインに厳しくするだけなのは正直辛かった。彼の苦悩した表情を見ると抱きしめてあげたくなるのを必死に我慢していた。

 もう我慢しなくていい。これは必要な事なのだ。姉弟の絆を取り戻しに、ハッシュは笑顔で歩み出し、すぐに我慢出来なくなって駆け出した。

posted by 二角レンチ at 20:41| 旋律のリフレイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月27日

旋律のリフレイン(13)分解封じ

旋律のリフレイン(13)分解封じ

 リフレインはハッシュと戦闘ルームで戦闘訓練を受けながら、話を聞いて笑う。

「僕が未知の世界への扉を開く存在? はははっ。言い過ぎ。僕はそこまで大した奴じゃないよ。他のみんなより与えられたスペックがほんの少し上だってだけさ」

 ハッシュは真面目に話を続ける。

「そのほんの少し上は、今まで誰も破れなかった壁なのよ。一人の脳では動かせない機体。それを動かせる脳のハイブリッド。進化に例えると猿が人間になったような物。生物学的にはわずかな差だけど越えられない壁を突破した人間は科学を発展させる事で、猿がいくら頑張っても成し遂げられない文明を生み出し世界を一変させたわ」

「それぐらい世界を変える、生物学的にはわずかな差。それが僕だって言うの?」

「そうよ。脳のハイブリッドは私たちが思っていたような人間の脳の増大ではない。別の次元に脳を進化させ、別の世界への扉をこじ開けたのよ」

「大げさだなあ。僕が別次元の存在ならもう誰もかなわないはずじゃないか。でも僕はまだ君に簡単に負けるよ」

 リフレインは腕を取られる。そしてぐるんと身体をひっくり返され床に背中から叩きつけられる。

「がはっ」

 ハッシュはリフレインの腕を掴んだままひょいと引っ張り上げ、再びリフレインと格闘する。

「あなたは別の次元にいる別格。でも熟練が足りず機能を使いこなせていない。鮫が陸に上がれば猫すら追えずに力尽き食べられてしまうように、あなたは自分の次元でなく相手の次元で戦うから負ける。相手を自分の次元に引きずり込む熟練をまだ持たない。だから負けるのよ」

 リフレインは足を払われ首を腕で打たれてひっくり返る。後頭部から機械仕掛けの床に激突し轟音を立てる。

「うっが」

 ハッシュは倒れたリフレインのわきに爪先を突っ込み蹴り上げて彼を立たせ、また組み付く。

「相手の次元にいながら自分の次元に引きずり込むのは困難よ。でもあなたはそれを出来ないと駄目」

「そんなの無理だよ。歯車への分解が僕の主力武装だ。それを封じられ君と格闘しか出来ないこの訓練で、どうやって僕の次元に引きずり込むって言うのさ」

「それを考えるのが知恵と工夫よ。熟練はそうして積み上げる。考えなさいリフレイン。この状況を打開して見せなさい」

「わからないよ。答えを教えてよハッシュ」

「駄目よ。あなたは全速で強くならないといけないのよ。危機予知能力を持つあなたの脳の声がそれを訴えている。私たちは全力でそれをサポートするようスコルピオから命じられているわ。これぐらい自分で考えつかなくちゃ駄目なのよ。ハイブリッドのあなたの脳ならそれが出来るわ」

「それってつまり、君にも打開策が思いつかないって事だろ」

「それがどうしたの? 他人は関係無い。あなたが主力武装を封じられた状態で、その状況を打開し生き延びるための訓練よ」

「ちぇっ。自分に出来ない事を人にやらせるなんてひどいや」

 リフレインは強くなると決意した。でも精神はまだまだ成熟していない。この間までただの十六歳の少年だったのだ。上手くいかないとすぐにすねる癖があった。

 格闘技術がすぐに上達するわけではない。今はこうして技をかけられながらそれを生きたデータとして蓄積していくしかない。実体験のデータはただよそからデータをインプットしたのとは違う。自分と相手の強さや状況は様々で、単純なデータとは異なるのだ。

 その後もリフレインは何度も投げ飛ばされ、状況を覆せないままその日の訓練が終わる時間になった。

「まったく駄目ね。いいわ。最後に主力武装である歯車への分解を許可してあげる」

「本当? やった」

 歯車へ分解出来るなら、敵に捕まっても分解して逃れられるのだ。そうすれば投げ飛ばされる事はないし、反撃だって出来る。

 リフレインはふてくされていたさっきまでと違い、嬉々としてハッシュに挑みかかった。

 すぐにハッシュはリフレインの腕を捕まえる。手をひねってリフレインをひっくり返そうとする。

 リフレインはねじられた手を歯車に分解する。ハッシュの手からボロボロと細かい歯車が飛び散り逃げ出す。

 これで投げられる事は無い。それどころかこの隙をついてもう一方の拳で殴りかかれる。

 リフレインは分解した右手と逆の左手で殴りかかる。ハッシュは投げようとして握った手が分解した事で体勢を崩している。

 しかしリフレインの拳がハッシュの顔面に届く前に、リフレインはひっくり返る。

「え?」

 リフレインは脚をハッシュのかかとで蹴られて身体が空中で回転していた。さっきまでのようにまた頭を床に叩きつけられる。

「はぐっ!」

 そのままバウンドして床を転がる。そしてがくりと仰向けに寝転んだ。

「はあ、はあ、何で? 分解機能を使ったのに倒された」

 ハッシュはしずしずとリフレインのそばへ歩み、頭の前に立つと腰に手を当て見下ろす。

「あなたの分解は単純過ぎるのよ。基本的に一度に一カ所しか分解しない。あとは自動対応プログラムに応じて敵の攻撃を受けたらその衝撃で分解する」

「それなら、はあ、何で、君のかかとで僕の脚が蹴られたとき分解しないんだ。たしかに能動的に分解するのは一カ所だけ。二カ所以上を同時に分解するほど速度がついていけていない。でも脚を蹴られたらその衝撃に対して自動的に分解して防御するはずだろ」

「今日何度脚払いを受けたの? まだわからない?」

「え? ええと……」

 考えて答えに行き着かないといけない。この間からハッシュの指導は妙に厳しく、わからなくても答えを教えてくれなくなっている。自分で考え答えを出さないといけない。でないと思考が鍛えられない。

「僕の分解防御は敵の攻撃の衝撃に対して発動するように組まれる。トランジスタの圧力だって一度受けただけで対応プログラムを構築出来た。なら同じ脚払いを何度も受けているんだから対応プログラムは構築出来ているはずだ」

「そうね。で?」

「でも今日は、分解機能を封じるという条件の訓練だった。だから分解機能を使わず、対応プログラムを構築出来ていなかった。もう一回食らえばきっと対応出来るはずさ」

「そう? それが答え? ならいいわ。さっきと同じように脚払いで倒してあげる」

 もう一度チャンスをもらえた。今度こそ攻撃を食らわせる。倒されないようにする。一度も勝てないまま終わるなんて我慢ならない。

 リフレインは勢いよく立ち上がり、猛然とハッシュに挑みかかる。さっきまでよりも全力。速度を早め今度こそ負けない。

 しかし結果は同じだった。捕まれた腕を分解して逃れた。脚払いには能動的な分解が追いつかない。受動的な対応プログラムによる分解に頼るしかなかった。

 さっきの脚払いで対応プログラムは構築出来ていた。なのになぜかそれは働かず、脚を薙払われひっくり返されてしまった。

 床に転がり呆然と天井をにらみながらリフレインは本気で動揺する。

「何で? 何だこれ? 僕は最強の機体なんだぞ。僕の分解機能が効かない攻撃なんてあり得ないのに」

 ハッシュは無様なリフレインをにらみ下ろしながら厳しい口調で告げる。

「ええ。あり得ないわ。あなたの対応プログラムはどんな攻撃にも対処出来るよう構築出来る。一度受けただけでね。それはとても驚異的な事なのよ。脳のハイブリッドによる人間離れした演算能力のたまものよ」

「なら何で」

「自分で考えなさい」

「ちくしょう。こんな馬鹿な。わからない。答えを教えてハッシュ。お願いだから」

「考えればわかるはずよ。今日の宿題ね」

 ハッシュはくるりと振り返り歩き去って行く。

「ちくしょう。ちくしょう。こんなのわかるもんか。何かずるしたんだ。ハッシュは何かの特殊機能を使ったんだ。そうだろ」

 左右にスライドする扉をくぐりながらハッシュは叫ぶ。

「違うわよ。攻撃を食らった記録を参照してみなさい。特殊な攻撃ではないただの脚払い。でも同じじゃないわ」

「同じじゃない?」

 ハッシュは出て行き扉が閉まった。一人取り残されたリフレインは大の字になって床に転がり荒い息をつく。

「はあ。はあ。くそくそくそくそ。僕が負けるはずがないんだ。分解機能を使える僕は無敵なんだ」

 ハッシュが厳しくなり、訓練で思うような結果を出せないリフレインはいらいらしていた。おかげで思考がぐちゃぐちゃで、深く考える事が出来なかった。

「落ち着け。答えはあるんだ。事実を受け入れ乗り越えろ」

 ハッシュの教えをつぶやいて気持ちを震い立たせる。そして必死に思考する。

 記録を調べる。何が違うんだ。最後の二回の脚払い。蹴られた場所も、かかとで蹴ったのも同じだった。

 一度目の脚払いの衝撃に対し対応プログラムを構築した。だから二回目ではそれが発動し、蹴られたときに脚を分解してかわせるはずだった。

「どうして対応プログラムが発動しなかったんだ。違いは。違いは」

 記録を精査してようやく気づく。

「あ……蹴りの力が違う。二回目の蹴りは力が弱められ、まるでなでるようだ」

 あまりに弱い力にまで対応するようにプログラムを構築すると、それこそ軽くなでられただけで分解してしまう。そうなれば敵にとっては有利になる。なにせ力を込めずに触れるだけで相手がバラバラに吹っ飛ぶのだ。力を込めないほど素早く攻撃を振るえるから、数回なでてリフレインを全身バラバラに粉砕してしまえる事になる。

 そのため敵の攻撃に対応して分解する対応プログラムはあまり弱い力には反応しないようにしてある。様々な敵の攻撃に対応するため、一度攻撃を食らえばその性質に対応してプログラムを新たに構築する。

 攻撃と認識する力の範囲を超えて力を弱めた攻撃。武術の達人はまるで力を使わず敵を投げ飛ばせる。敵の攻撃を衝撃として計り、それに応じて自動的に分解するリフレインの対応プログラムでは、力が弱すぎて衝撃と認識出来ない攻撃に対して反応出来ない。

 これが、主力武装を封じられた状況という物か。受動的な対応プログラムを封じられただけだが、能動的な分解だって同じように何らかの手段で封じられる可能性はあるのだ。

 だからこその訓練。分解機能を封じられたこの訓練はあり得ない状況で無駄だと思っていた。でも違った。あのハッシュがリフレインのためにならない無駄な訓練などするはずがなかったのだ。

「僕は弟子失格だ。教官の教えの意味も自分で考え思い至らないといけないのに」

 リフレインは腕で目を覆う。泣く機能は備わっていないが泣きたい気分だった。強くなっていい気になっていた。そのたびこうして天狗の鼻をへし折られる。

「優しくしてよハッシュ。僕の事弟みたいに思うって言ってくれたのに。僕もハッシュの事姉さんみたいに思っていたかったのに。どうして冷たい教官としてしか接してくれないのさ」

 リフレインは少年だった。いくら強くなる楽しさを知った所で今の境遇はとてもストレスがかかるひどい物だった。ハッシュに優しく抱きしめてもらえれば頑張れるのに。最近それがまったく無くなって、リフレインは自分の辛い境遇に耐え難くなっていた。

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2014年07月24日

旋律のリフレイン(12)次元の扉

旋律のリフレイン(12)次元の扉

 ハッシュとトランジスタは戦闘ルームで軽く手合わせしながら語り合っていた。

「いったいどういう風の吹き回し? あなたが痛めつけるための口実でなく、本当に教官として弟子を取るなんて」

「かっかっか。俺に殺されかけた奴ってよお、その後俺を避けるんだよな。俺もそんな卑屈な虫けらもう見たくもねえ。こそこそ物陰に逃げ込むゴキブリどもめ。殺す気も失せらあ。でもな、初めてだよ。俺にもう一度殺されに来た奴は。思わず大笑いしちまったよ」

「レイピッドはあなたの攻撃で脳にダメージを受けたのよ。手術は成功したけど、きっと後遺症でおかしくなっちゃったんだわ」

「ああ。ありゃあおかしくなっていたな。目をぎらぎらさせてよ。強さに飢えて強敵って餌を求める虎の目だ。あんなに卑屈で俺に怯えて命乞いした奴があんな目をするなんて。脳にけがしていかれちまったんだなありゃ」

 軽い手合わせだ。二人とも本気を出していない。互いの拳や蹴りはとても素早いがどちらも当たらない。体術や速度は違えど互角に渡り合っていた。

「てっきりあなたならうっとうしがってレイピッドを殺すと思ったけど。殺さず訓練をつけるなんてどうしたの」

「どうしたもこうしたもねえよ。俺はうっとうしいからあいつを殺すつもりで戦闘訓練をつけている。でもあいつ死なねえのな。どんなにみっともなくてもあがいてあがいて、訓練が終わるまでかろうじて殺されやしねえ」

 ハッシュが驚く。

「あのレイピッドがあなたと戦って生き延びられるって言うの? あり得ないわ。戦闘訓練って五分や十分じゃないでしょ」

「たっぷり四時間つけるさ。俺も忙しいからな。全身サイボーグは脳を酷使してなけりゃ睡眠が短くて済むが、それでもいろいろ仕事があるからな。一日に多くても四時間しか取れねえ」

「そんなに時間取れないでしょ。あなたがレイピッドの訓練を他の仕事より優先しているなんて信じられない」

「ちゃんと他の仕事もこなしているよ。あいつを優先? ははっ。んなわけあるか。ただあいつ毎日来るからさ。振り払おうとしていたら四時間しかない余裕を使いきっちまうってだけさ。おかげで他の仕事を急いで片づけなきゃならねえ」

 トランジスタがうれしそうに笑いながら話す。

 どういう事だろう。彼女はこんな奴ではなかった。レイピッドが殺されかけたのにのこのこ弟子にしてくれと言ってくれば、殺し損ねた自分を馬鹿にしに来たと激怒して即座に殺してしまうはずなのに。

 トランジスタが本気を出せばレイピッドを殺せないわけがない。彼女はなんだかんだ言ってレイピッドを弟子として鍛えているのだ。貴重な自分の時間を毎日四時間も割いて。

 以前の彼女ではあり得ない。リフレインとの戦闘で何かが変わった。いったい何が。なぜ。

「ねえ、リフレインと戦って、何を思ったの」

「何が? あいつを殺す寸前まで痛めつけた。脱出テストでわざと手加減して負けた屈辱は晴らした。すっきりしたし、あいつはもうどうでもいい。それだけだ」

「あなたが殺してもいないのにどうでもよくなるはずないでしょ。まだくすぶっているはずよ」

「何だハッシュ。お前、俺がリフレインを未だに憎んでいて、ぶっ殺して欲しいって思っているのか」

「そんなわけないでしょ。ただ、あなたどうしちゃったのかなって」

「うるせえなあ。俺は最近機嫌がいいんだよ。カリカリしているとしんどいだろ。楽しいのって気楽でいいなあ」

 どう聞いてもトランジスタの言葉とは思えない。今までと間逆だ。

 リフレインを殺しかけた事が、トランジスタにとって何か転機になるような事だろうか。そうは思えない。しかしあれ以降彼女はこうして穏やかになったしよく笑うようになった。彼女が弟子を取るなんてこの地下施設に雨でも降るんじゃないかと思えるぐらい異常な事態だった。

 リフレインを殺しかけた勝利ではなく、その前なのか。ハッシュが感じたように、リフレインは機体と脳両方の高いスペックによりトランジスタの長年に渡る熟練に追いついた。あれはとても嫉妬を駆り立て憎しみすら抱かせる。でもそれ以上に衝撃的だった。

 サイボーグの機体は、脳は、あんなにも高いスペックを誇る事が出来るのだ。もちろん脳のハイブリッドでない自分には無理だ。しかしそんな次元の世界が存在する事を知った。今の次元だって果てしないが、その上に別の次元がある事を知り、その扉を開けたのだ。

 もしかしたら、どうにかして、自分もその次元によじ登る事が出来るかもしれない。リフレインは与えられた物によりその扉を開けた。自分たちは与えられず、知恵と努力で何とかしてこじ開けるしかない。

 それはとてもやりがいのある事だった。知らない世界を想像すら出来ない者はそれを目指せない。しかしその世界が存在する事を知った今、いかに無謀だろうがそれを目指す事は出来るのだ。

 レイピッドが、リフレインが、自分の届かない高みを無謀にがむしゃらに目指し始めたように、自分たちだって目指せる。いや、目指さなければならない。

 きっとトランジスタはそれに気づいたのだ。そしてもう走り出している。新しい目標を得てその旅路が楽しくてしょうがないのだ。

 もう戦う許可が下りず到達する事が出来ない目標であるスコルピオを眺めて毎日怒りを募らせる必要は無いのだ。彼女は目指して進み到達が許された新しい目標、別の次元の高みを目指して突き進む毎日に充実しているのだ。

 だから楽しい。些細な事が気に障ったり怒ったりしない。そんな場合ではないのだ。

 人に物を教えるときは、自分も学び高みへ進む。人に教える事で自分に足りない物を発見したり基礎や応用を念入りに復習したりして練り上げる事が出来る。

 人に教えるのは自分を鍛える事になる。トランジスタは今まで弟子を取らなかったからわかっていなかったが、レイピッドに教える事で自分も新たに成長しているのを知って喜んでいるのだ。

 そして弟子が成長するのもまたうれしい。教官と弟子。互いに毎日成長していく。高め合う事で至れる。それが師弟関係。

 ハッシュもリフレインの指導をしながら自分もそれにより成長しているのを実感している。そして今トランジスタと手合わせし彼女と会話する事で、気づいていなかった新しい次元を目指すという目標を得る事が出来た。

「リフレインのスペックに嫉妬していた私が馬鹿みたいじゃない」

 トランジスタは大笑いした。

「はははっ。嫉妬している暇なんかねえぞ。俺たちはまだまだだったんだ。この部隊で最強レベルの幹部だからってそこでくすぶっていた。もうそんなのはおしまいだ。スコルピオに挑戦出来なくても、それと別の道を通って高い次元に昇り、スコルピオの野郎を見下ろしてやるぜ」

「そうね。スコルピオを目標にしているのはリフレインだけでいいわ。彼は別の次元にいながらにして追いつけない彼女に追いつこうと必死だから」

「スコルピオもそれを待っている、か。かーっ。やっぱり妬けてくるなあ」

「スコルピオは部隊内の階級を決めるために誰の挑戦でも一度は受ける。でも二度は無い。あなたも私ももうスコルピオに挑戦出来ない。でもリフレインはその権利があるわ」

「そうだな。でももういい。あんなに固執し毎日怒っているだけだったのが馬鹿らしい。もったいなかった。こんな別の次元の強さなんていう目標を知っていりゃあなあ。毎日を無駄に過ごす事も無かったんだ」

「そうね。でもこれからはそう言っていられない。全力でもっと強くならないと。リフレインが強敵ばかりと無謀に戦うように。私たちも無茶をしてでも強くならないといけない」

「お? おとなしくて慎重なお前がえらく大胆な事を言うな。どうした?」

「リフレインに触発されてみんな変わっていく。脳のハイブリッド。その危機予知能力は恐ろしいわ。レイピッドを避けてわざと怒らせ追ってこさせたのすら計算で、必要だったのかも。強くする必要がある者だけを選んで接触し、触発して成長を促したのだとしたら」

「おい、何の話だよ」

「リフレインの脳はハイブリッド。その危機予知能力は私たちの推測を越えているのかもしれない。だとしたらそれは、将来起こるとても大きな危機に対処するため。彼だけでなく私たち全員を巻き込むようなね。スコルピオと検討し、そういう結論に至ったわ」

「は? 将来起こる大きな危機? 馬鹿かお前。何のSFだよそりゃ」

「サイボーグ技術だって昔は空想にしか過ぎないSFの物語の中の存在だった。でも今はこんな高機能の全身サイボーグが実用化され、その技術はますます発展していく。発展は止まらない。止められない。将来の危機を予知する超能力なんて今はまだSFの、空想にしかあり得ない世界。でも私たちはもうリフレインが別の、未知の次元の扉を開く力を持つ事を知っている」

 トランジスタはからから笑う。大笑いする。そしてぴたりと真顔になる。

「たしかにな。もう知らないからって存在しない世界とは限らない。SFの中にしかあり得ない事が現実となる。技術の進歩がその扉をこじ開けたのかもしれねえ」

「いったいどうなるのかしら。予測もつかない。何も無い杞憂ならそれでいいけど。リフレインは未知の存在。何をもたらすのかわからず、それは私たちの世界を突き破った次の次元の扉を開くわ」

「かっかっか。お前のその言い回し。まさにSFだなこりゃ」

「SFでしかあり得ない世界が到来するなら、きっと人はSFの中の人のように反応して驚くわ」

「違いねえ」

 トランジスタはくっくと笑う。未知の世界を恐れるハッシュと対照的に、トランジスタはその到来が楽しみでたまらないようだった。

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2014年07月22日

旋律のリフレイン(11)満足な死

旋律のリフレイン(11)満足な死

 リフレインは目を覚ました。

「う……また……?」

 事態がよくわからない。頭が重い。ズキズキする。

「母さん、僕風邪引いたみたい。今日は学校休む……」

 そうつぶやいてから、リフレインはとても深い真っ暗な穴に落ちていく喪失感を味わった。

 母さんが目の前で殺される。父さんが目の前で殺される。その光景を目の当たりにし、銃が自分に向けられたとき、リフレインは両親の死を悲しむより自分が死にたくないとだけ強く思った。

「母さんだって。きゃはははっ」

 両親が殺される光景のフラッシュバック。そして殺された後でしか聞いた事の無い声。

 頭痛が止んで思考がすっきりする。頭痛なんてするはずがない。全身サイボーグは脳が痛みによる機能停止に陥らないよう痛覚は取り除いてある。痛覚が残っていると機械の身体を操作する負荷に耐えられない。

 痛みの記憶。それを思い出して痛いと思いこんだ錯覚にしか過ぎなかった。

 頭がクリアになり記憶をたどる。そして自分が殺される寸前でハッシュに助けられた事や、死んだと思ったけど死んではいなかった事を把握する。

 硬い鋼鉄のベッドから身体を起こす。身体は問題なく動く。頭に手をやると、破壊されたヘルムも元通りに修復されていた。

「起きた? 寝ぼすけねえ。あはっ。僕学校休むー」

 横を見るとレイピッドがけらけら笑っていた。寝ぼけたリフレインのセリフを真似てからかっている。

 最後に見た彼女は身体をばらばらにされ頭もボロボロだったのに、すっかり元通りに直されていた。

 サイボーグは身体をいくらでも量産出来るわけではない。個々の脳が有効に使える機体は異なるため全身サイボーグは普通量産されない。機体をまず造り、後は戦争で殺した敵国の民の脳をいくつか持ち帰り、機体に脳を入れて適合実験を行う。

 はじめに機体ありきだ。機体は開発にコストも期間もかかり、大破するたび丸ごと造り直すなどとんでもない。

 全身サイボーグは自己修復機能を搭載している。これにより損壊してもいちいち製造し直さなくてもよくなっている。もっとも脳が死ぬとこの機能は働かなくなる。脳が持つ生物の治癒機能を脳波として取り出し、機械の身体も治癒するかのような動作をさせるのだ。

 部品の損耗があまりにひどい場合はそれを補う材料が必要になる。レイピッドの身体は大破し過ぎて自己治癒だけでは直せず材料を大量に投入した。おかげで余計なコストがかかってしまった。

 自己修復機能はとてもゆっくりで、損傷の具合によるが半日から一日ぐらいで復元出来る。しかしリフレインは脳の損傷とその手術の影響でもう三日も昏睡していた。

「レイピッド。無事だったんだ」

「おかげさまでね」

 レイピッドは笑うのをやめる。リフレインは身体を起こしてイスに座る彼女と向き合う。

 レイピッドが頭を下げる。

「ありがとう。私を助けるためにトランジスタと戦ってくれたんだってね。おかげで私は殺されずに済んだって聞いたわ」

 全身サイボーグはよくも悪くも脳が全身の機能を操作する。記録機能は記憶するという生物の機能と連携しており、よって気絶中の記録は行えなくなってしまっている。レイピッドはリフレインに助けられた事をハッシュの記録を参照して知った。

 脳を利用して高機能を実現する代償だ。脳が停止しているときには自動プログラムが発動されるがそれは脳が起きている場合に比べ著しく制限される。自己修復機能だって気絶している場合より起きている場合の方が何倍も早くなる。全身サイボーグにとって気絶しない事は機能をフルに使うために必要なのだ。

 あの生意気なレイピッドに頭を下げられリフレインは照れる。とはいっても頬を染める機能は搭載されていない。

「いいよ。そんな大した事じゃないんだ。君を助けたい気持ちはあったけど、それだけが理由じゃない。僕はトランジスタと戦いたかったんだ」

「あんなに怖い相手と?」

「うん。どうしてだか自分でもわからない。でもハイブリッドである僕の脳に聞こえる声が戦えと言ったんだ。僕はそれに後押しされて戦う事が出来たんだ。この声は僕が強くなるために強敵と戦わせている。それがわかる。脱出テストでもわざと強敵と出会うときだけ声は何も言わずにそっちへ行かせた。僕の脳にある危機予知能力が、僕を急いで強くしなければならないと警告している」

 リフレインは自分で考え結論に至った。脳のハイブリッドは受け入れたくない。でも受け入れないといけない。気持ち悪いだの嫌だの言っている場合ではない。これからもこの声は危険を察知し自分を飛び込ませる。

 なぜ? 必要だからだ。今ならそれを理解出来る。

 嫌でも怖くてもやるしかない。トランジスタと戦う事を促された時はとんでもないとすら思った。でも今ならあれは必要な事だったとわかる。

 たくさんの事を学び、敗北した。しかし一番大事な事を学んだ。

 全力で戦った末の敗北はすがすがしい。他の何をも吹き飛ばし、死んでもこれでよかったと思える満足感を得られる。

 それはとても幸せな事だった。あの至福。まさに天国へ昇る気持ちだった。

 全力で戦いその末の敗北ならば、あんなに幸せな気持ちで死ねる。それを知った今、それがある意味待ち遠しくすらある。

 もちろん死ぬ気は無い。強敵と戦うのはとても怖くて楽しい。自分がそのレベルで戦える強さを持つ事がうれしくて誇らしい。

 戦いに生き、強くなり、強敵と戦う。生前は知らなかった闘争の世界。高い次元にある未知の世界。それを知り、その楽しさにはまった。もうやめられない。

 リフレインは早くもっと強くなり、もっと充実した戦いをしたかった。気持ちがはやる。拳をぐっと握りしめそれを見つめてにんまりした。

「ちょっとー。何いきなり一人で浸ってるのよ。にやにやして気持ち悪ーい」

「あ、ごめんレイピッド」

「ふんだ。どうしてそんなにわくわくした顔しているのか、教えてくれたら許してあげる」

 リフレインはこの熱い気持ちを誰かに話したかった。解説したかった。自慢したかった。だからレイピッドに向かってべらべらと、自分の気持ちや体験そして変化を熱く語った。

 レイピッドは途中で茶化す事なくじっと聞いていた。

 長々と語り想いを全部吐き出して、リフレインは満足そうにため息をついた。

「ふーっ、あ、ごめんレイピッド。ちょっと熱を入れて語り過ぎちゃったかな」

「まーね。ちょっと興奮しすぎ。肉体がもう無くて快感を得られないのに脳だけで興奮しちゃってさ」

「脳の感覚は手術でカットされている。なのにこんなに、まるで快感を得ているような気がする。すごいよこれは。戦いはまるで生身の人間のように、失った快感すら得られる気がするんだ」

「そんなわけないじゃない。でも、なんだかわかるかも」

「だろ? わかるよね。戦う人はみんなこんなに楽しいって思うんだ。だから怖くても、死ぬ事になっても戦いに向かえるんだ」

「あんたほど楽しんだり興奮したりする奴なんて他にいないと思うけどー?」

「ちぇっ。何だよ。わからないのかよ。きっとトランジスタならこの気持ちがわかっているよ」

「彼女は戦闘の喜びじゃなくて相手を殺して自分が勝つのが喜びだと思うけど」

「きっと戦闘自体も楽しんでいるよ。僕が男だから楽しめるってわけじゃないと思う」

「ふーん」

 レイピッドはまるで興味が無いかのようにそっけない。でもすっくと立ち上がる。

「さてと。助けてくれたお礼は言ったし、あんたの興奮した長話を聞いてあげた。これで借りはチャラね」

 命の恩人に対する借りがその程度で返せるものか。しかしそもそもリフレインは恩に着せるつもりは無かった。

「こっちがお礼を言いたいぐらいだよ。ありがとうレイピッド。君のおかげで僕はトランジスタと戦う機会を得られたんだ」

「感謝されたくないっつーの。私はあんたのせいでトランジスタの腹いせになぶられたんだから」

 レイピッドがはっとする。

「そうよ。元はといえばあんたのせいなのよ。私があんな目に遭ったのは。おかしいじゃない。あんたに感謝するなんて違うわ。私はあんたに貸しがあるのよ」

「代わりに助けてあげただろ。これで貸し借り無しのチャラだ」

「何かおかしいわ。私が損してる気がするじゃない」

「何もおかしくないよ。僕のせいで君は殺されかけた。僕のおかげで君は殺されずに済んだ。ほら、プラスマイナスゼロじゃないか」

 レイピッドは首を傾げる。

「あれー? でも、そうかも」

 本当にわかっていないのか、それとも照れ隠しなのか。照れても頬を染める機能が無いサイボーグだからわからない。

「ま、いいや。じゃあ私行くね。トランジスタに会いに行かなくちゃ」

 それを聞いてリフレインがベッドから降りて立つ。

「待てよ。もしかしてトランジスタに仕返しするつもり? 無理だよ。彼女は強すぎる。せっかく見逃してもらえたんだ。今度関わったらきっと殺される。行くのは駄目だよ」

「何勘違いしているの? 強くなって強敵と戦うのは楽しいんでしょ。さっき熱く語っていたじゃない。でもあんたにいくら聞いてもよくわかんなーい。だからそれがわかっているっていうトランジスタに教わりに行くの」

 リフレインはあっけに取られぽかんと口を開ける。

「トランジスタに弟子入りしに行くって言うの? 無理だよ。彼女は人に教える柄じゃない。君の教官になったのは、君を痛めつけるための方便だよ」

「その教官に、もっと教わりに行くの。私あんたを嫌いなんだから。負けたままなんて許せない。絶対強くなってあんたを倒してやるんだから」

 機体も脳もスペック差があり過ぎる。レイピッドがいくら努力した所でもう、それ以上に努力し成長するリフレインに勝てるわけがない。

 だからこその無茶なのだ。あのトランジスタが教官として素直に教えるわけがない。そんな事を頼みに行けば今度こそ逆鱗に触れ殺されるかもしれない。せっかく助かったのに死ぬつもりか。

 しかしレイピッドの目には熱がこもっていた。死にに行く者の目ではない。リフレインの話をわからない振りしていたが、その熱気に感化され自分もそうなりたいと切望しているのだ。

 なら止めるべきではない。たとえ死んでも強くなる。その道半ばで死のうとそれはそれ。安全に強くなる道なんて無いのだ。

 全力で強くなろうとし戦い続ける。その果ての死は怖くても満足であり、幸せな最後を迎えられる。それを恐れる事は無い。怖いのは逃げてくすぶりながらいつか殺され、そのとき後悔と絶望と不幸にまみれる事なのだ。

 レイピッドはリフレインのライバルになろうとしている。はるかに劣っているにもかかわらず。それはまるでリフレインが、はるかに劣っているのにスコルピオを目指すのと同じだった。

 無謀な挑戦。しかし成し遂げる。やらない理由など無い。やらなければ悔いが残る。やれば最後に死ぬとき自分に満足しその一生を誇りに思える。

 どうせ一度死んだ身。サイボーグとして生まれ変わった今度こそ、死ぬときまで全力で生き満足な死を迎えたい。そのために生きている。そのためにこんな不幸な境遇に生まれ変わったのだ。

「そうか。うん。行っておいでレイピッド。君の熱意はきっと伝わるよ」

「ふーんだ。あんたに言われなくても行くよーだ。べー」

 レイピッドは以前のように幼稚な子供の仕草であっかんべーをしてみせる。でももうそれは子供っぽく見えない。外見はまるで変わっていないのに、彼女はとても大人びて見えた。

 彼女も成長したんだ。リフレインは我が事のようにうれしくて、レイピッドが部屋から出るのを見送った。

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2014年07月20日

旋律のリフレイン(10)カリスマ

旋律のリフレイン(10)カリスマ

 広大な実験場であり要塞である地下施設。国の戦闘用サイボーグ開発の実験を行い、重要性と機密レベルは最高。国の最も重要な施設の一つであるここの最高指揮官はスコルピオだ。

 深紅のボディが煌めきサソリの尾を持つ事と合わせてサソリそのものに思える。二メートルを超える長身と、やたら細くて長い手足。生前の体型をそのまま再現しているスコルピオは異様なアンバランスさが独特の魅力を醸し出す。

 生前はモデルの仕事をしていた。自分の体型や表情、身体の動き、指の一本一本までどう見られるのかを常に意識しそれを仕事に取り入れていた。だからその技術を戦闘に生かす事を思いつき、普段の動作の動きの幅を悟られないように変える戦術を考案して実現した。

 訓練だけでどうにかなるレベルではない。もちろん機械的な再現でも足りない。機械よりも精巧な職人芸を成し遂げる脳の才能があって初めて可能となる戦術だ。誰にも真似は出来ないし、どれだけサイボーグの技術が発展しようが再現出来ない。

 スコルピオはモデルだったときと同じように、人にどう見られるのかをよく理解した上で普段の動作を行う。並の人とは違う優雅で華麗、そして力強い動き。美しさは力強さに裏付けられる。しなやかな躍動感。一部の獣だけが持つ野生の美しさ。

 ハッシュは何度見てもその動きの美しさに魅了される。スコルピオは身体をサイボーグと化してなお、いやむしろ人間を超えた力強さを得た事により動きがより美しく頼もしく神々しく昇華したのだ。

 うっとりとため息をつくハッシュを見てスコルピオは細い目をさらに細める。彼女は人を魅了するのが好きだ。強く美しく頼もしく。人の見とれあこがれる表情がどんな飾った言葉よりも雄弁な賞賛であり拍手喝采なのだ。

 スコルピオは広い指令室でサイボーグの重い身体を支える頑丈なイスに座り手をテーブルの上で組んで、その前に直立するハッシュの報告を聞いていた。

「リフレインの頭の声はたしかに、トランジスタと戦えと言っていたのだな?」

「ええ。彼の記録をしっかり確認したわ。私たちの記録機能は改竄や捏造が出来ないように造られている。だからそれは間違いないわ」

 サイボーグは国の道具だ。国の都合のいいように造られた奴隷なのだ。脳すら洗脳され、自分を殺し自国に攻め入った侵略国に服従し従事する事を強いられている。逆らう事も任務を放棄する事も出来ない。

 記録はいかなる方法でも改竄出来ないように造られている。情報を集める端末として機能する。どの情報をどう歪め利用するかは国の権限であり、レコーダーにしか過ぎないサイボーグには情報を歪める権限など与えられてはいなかった。

「ふむ」

 スコルピオはイスにもたれかかり顎に指を当てて考え込む。いちいち絵になる美しさ。スコルピオは強さも美しさも言動も別格で、カリスマだった。ハッシュも多くの部下たちと同様スコルピオにあこがれ心酔する一人だった。

 スコルピオはしばらく思案し自分の推測を結論に至らせたあと、それを述べる前にハッシュの意見を求めた。

「ハッシュ。お前はどう思う?」

「リフレインの頭の中の声は、ハイブリッドした別人の脳の声。それは脳のハイブリッドにより劇的に飛躍した危機予知能力の表れ。危機を予知して回避する。危険に出会う前に避けて生き延びる術。それがあんな、絶対かなわない敵と戦えと言うなどおかしいわ。理論に基づいた実験だったけど、結果は失敗。危険の予知どころかそれに飛び込ませるなんて。とんだ失敗作だったわね」

「そうだ。危険を避けるという点では失敗だな」

「危うく殺される所だったわ。私が止めなければトランジスタはあのままリフレインのシェルを破壊して脳を潰していたわ。今後成功例がまた出る保証の無い奇跡の成功例。あの脳を失うわけにはいかないのよ。スコルピオ。どうしてトランジスタがあなたの許可を求めたときに戦闘を止めなかったの」

「実験は危険を伴うものだ。リスクの無い実験だけをしても成果は出ない。危険の無い弱者だけを選んで戦っていても強くなれないのと同じようにな」

「だからって限度があるわ。トランジスタと戦わせるのはリスクが高すぎた。それを避けるためにレイピッドを生贄にしてトランジスタの憤りを鎮め、リフレインと戦わせないはずだったでしょ」

「そうだ。だが状況に応じて判断を臨機応変に変えるべきだ。常に新しい状況に対して新しい対処に改善していかなくてはならない」

「あなたはリスクを取りすぎるわ。リフレインの脳はシェルの損壊により内部にまでダメージが浸透した。脳の一部が傷つき今手術中よ。もしこのまま助けられなければせっかくのハイブリッドが失われてしまうわ」

「だからお前を置いていただろう」

「私が止めに入るのが遅かったって言うの? トランジスタの圧力をかけて地面を蹴る加速突進は私の速度をはるかに上回るのよ。私では彼女を止めるのが間に合わない。わかっていたはずでしょ」

「死ぬ前に助けられるのはわかっていた。お前はそれだけ強く信頼がおける。だから任せたのだ」

 サイボーグの人工顔面には頬を染めるなんて余分な機能はない。でもハッシュは敬愛するスコルピオに信頼されている事に喜び、きっと生前なら真っ赤になっていただろう。

 スコルピオはこの話を続ける前に一旦話題を変える。

「レイピッドの方はどうだ?」

「彼女もトランジスタにシェルを損壊された。リフレインに比べればわずかな損傷だけど、それでも中の脳にまでダメージが及んだわ。彼女の手術は成功。でも脳が受けたダメージとその後遺症はまだわからないわ。目覚めてからテストしないと」

「そうか……まあいい。レイピッドは駄目なら駄目で廃棄する。もう十分目をかけてやったし廃棄処分になる所を救ってやったのだ。これ以上はあいつ次第だ。私はもうあいつを特別扱いしない」

 ハッシュはリフレインが来る前はレイピッドを亡くなった弟の代わりに妹としてかわいがっていた。でも今はリフレインが弟代わりなので前ほどレイピッドを大事に想わなくなっていた。

 なにより、スコルピオがレイピッドを見限ったのだ。なら尊敬する彼女に倣ってハッシュもレイピッドをもう特別扱いしないと決めた。

 心酔。陶酔。それは洗脳のように人の心を歪め導く。スコルピオの何気ない言動がハッシュに与える影響は大きく、それは心優しい彼女がその優しさよりもスコルピオの意志を尊重し、その優しい心までも歪めてしまうほどだった。

 これがカリスマ。どんなに間違った事だろうがそれに心酔する者はそれに左右され自分の思考や感情すら容易に歪めてしまう。他国から見れば明らかに残虐で異常な思考の暴君が自国の民に慕われ尊敬され、どんなに無茶な戦争を行おうとしても国民がついてきてしまうのはその強烈なカリスマゆえだった。

 スコルピオは自分がいかに他人にとってのカリスマであり、人々をどう誘導出来るかをよくわかっている。ハッシュを自分の右腕として信頼し、そして都合良く利用している。

 ハッシュだって利用されている事はわかっている。それでも利用されたい。それはとても光栄な事。スコルピオのためなら何でも出来る。愛情よりもはるかに上の信仰心を抱いている。

 もちろん疑いを持つなどしてはいけない。それどころか考えられない。スコルピオがどんなに間違っていようがそれに従う。それこそが喜びであり使命なのだ。彼女に従っていればそれだけでハッシュは幸せなのだった。

 弟を亡くした心の傷は深い穴で、何でも埋められない。埋めても埋めても穴は沈みまた深く抉れる。それを埋めるために弟の代わりを求める。

 リフレインは慰めであり愛玩対象にしか過ぎない。リフレインを大事に想い愛する気持ちはあるが、スコルピオの命令に従いリフレインの信頼を得るために優しくしてやっている義務感は半分もあるのだ。

 スコルピオは話を戻す。

「リフレインは頭に響く声に従いトランジスタと戦った。同じように、最初の逃亡テストでは敵のいる道といない道の二択を選ぶとき、頭の中の声に従い道を選びながらも敵と遭遇した」

「ええ。初めにあなたと、次に私と、そして三番目にトランジスタと出会い戦ったわ。四番目のレイピッドは、声に従い選んだ道にはいなかったけど、避けられた事を知ったレイピッドが追ってきて戦っただけだから声の警告は正しかったわ」

「そこまでの十五の分岐において、聞こえた声に従ったときは私たち三人以外との遭遇は避けられた。声が聞こえなかったときに選んだ道でも同じく敵を避けられた」

「ええ。彼の記録ではそうなっているわ。とんだ期待外れね。たしかに危機予知能力は高く、敵との遭遇をかなり避けられた。でも脳のハイブリッドによる危機予知能力は他の脳よりはるかに上のはずだった。理論上ではゴールまでの五十の分岐において敵のいる道を完全に避けて無戦闘で終える事すら期待されていたのに」

「そうだな。しかしおかしいと思わないか?」

「何が?」

「危機を予知する機能なのに、どうして最大の危険であるトランジスタとの戦闘を促したのだ?」

 ハッシュは腕を組んで考え込む。

「まあ、脳のハイブリッドの成功例は他に無いからね。理論と実際は違うわ。だから実験しないと結果がわからない。彼の脳は理論通りの完璧さはなかった。誤作動や狂いはあるって事でしょ」

「危険を避けるという点では誤作動による失敗に思える。しかしそれ自体が間違っているとしたら?」

「間違い?」

 ハッシュは考え込む。

 スコルピオは何かに気づいている。推測している。それをハッシュが思い至る事を期待している。

 彼女の期待に応えないといけない。思考回路をフルに機能させる。

 リフレインから得た記録を精査する。何か見落としている点は無いか。同じ記録を見たスコルピオはいったい何に気づいたというのか。

 危機を予知して回避する機能なのだから、その声の警告に従えば敵と遭遇しないはずだった。しかし分岐を選ぶテストでは、スコルピオ、ハッシュ、トランジスタの三人と遭遇してしまった。

 よりによってこの施設にいるサイボーグの中でも最強レベルの三人だ。他の分岐にいた雑魚たちとは違う。くじ運の悪さは天下一品だ。

 ……最強の三人と遭遇?

 他の雑魚とは一人も遭遇せずに避けられたのに?

 それはとても不自然だった。確率的にとても可能性が低い。あり得なくはないがそれにしても出来すぎだ。

 まさか。ハッシュは記録を調べ直す。

 思った通りだ。リフレインは分岐でどっちにしようか迷う。そして敵のいる方を選ぼうとしたときには頭の中の声が逆の道を促している。

 逆に、リフレインが取りあえず選んだ道に敵がいないときは声は何も言っていない。例外は三回。三人の強者のいる道をリフレインが自分で選んだときは、声の警告は聞こえなかった。

 だからリフレインの印象としては声が聞こえたり聞こえなかったりとランダムな感じに思えた。声が聞こえなかったときの内、たまに敵と遭遇してしまう。でも声が聞こえてそれに従ったときは必ず敵を避けられた。

 三人の敵と、リフレインが自分で選んだ道で出会った全ての敵と遭遇したときその全てで声の警告が無かった。

 そんな事があり得るのだろうか。可能性は低い。一人ぐらいは声の警告が聞こえて避けられそうなものなのに。

 推測通りなら、リフレインのくじ運の悪さは相当な物だった。もし三人の強者と出会わない道を一回でも選んでいたら、声はきっと逆の道を促していただろう。そして敵と出会い、この声は信頼に値しないランダムな物だと思いこんだに違いない。

 ハッシュは考えをまとめるとそれをスコルピオに述べる。

「リフレインがランダムに選んだ道で、雑魚がいる場合は声が警告して逆の道に行かせる。雑魚がいない場合は声は聞こえずそのまま行かせる。そして強者がいる道を選んだときも何も言わない。もし仮に、強者がいる道と逆の道を彼が選んだならきっと、声は逆を促し強者と遭遇させていたでしょうね」

 スコルピオがうなずく。

「そういう事だろうな。これでトランジスタとの戦闘を促したのも合点がいく。脳の中の声は危機をたしかに予知していた。正確にな。弱者を避けて強者だけを選りすぐりリフレインを戦わせようとした。たまたまリフレインがランダムに選んだ道で三人の強者と出会ったから、声はそのとき何も言わなかった。だから錯覚した。声は敵を必ず察知し、しかしそれを警告するのはランダムなのだと」

「本当は、敵を完璧に察知していた。でも強者と弱者をより分け強者とだけ戦わせた。リフレインを早く強く成長させるために。雑魚との戦闘では学ぶ物は少なく、レイピッドを倒したときのように自分の強さに自惚れ慢心してしまうから」

「危険予知の精度が低い失敗作などではない。逆だ。こちらの推測を上回る危険予知能力。ただ身近な危険を探知するだけではない。将来における大きな危機すら察知し避けようとする」

「リフレインを急激に成長させなければならない。将来迫る大きな危険に間に合わせるために」

「そういう事だな。雑魚との戦闘で温い成長を覚えさせる事を一切よしとしなかったのだ」

 二人は顔を見合わせる。ハッシュがおそるおそるつぶやく。

「……そんな予知があり得るの? 今存在する危険を感じ取る能力は生物なら誰もが持つ。地震が起こるはるか前に動物たちがこぞって逃げ出すように。私たちの脳は手術による改造と機械を組み込む事で増強し、そして一度死んだ事によるショックとダメージによる後遺症すら利用してその危険予知能力を野生本来のレベルにまで高める事に成功している。でもまさか、遠い将来の危険を予知するなんて。生物の危機察知能力の限界を超えているわ」

「生物にはそういう力、超能力のような第六感があると言われている。実際に科学では再現出来ないが、それは歴史の中で数多く目撃されている。たいていは錯覚や捏造だが、実際にあり得る物も混じっている可能性は否定出来ない」

「遠い未来の危険を予知するなんて、本当に超能力だわ。あり得ない。あんなの全部トリックにしか過ぎないのに」

「トランジスタとの戦闘はリフレインが死ぬ可能性が高かった。にもかかわらず脳の声はそれを促した。私はそれがどういう結果をもたらすのか実験したかった。だから止めずに許可した」

「本当に、どういう結果をもたらすのかしらね」

「彼が目覚めないとわからない。ただ一つ言えるのは、その実験は積極的に推進するべきだという事だ」

「どうして?」

「わかっているだろう。彼の将来に対する危険予知が本物だとしてだ。それはきっと彼一人ではなく私たち全員を巻き込む大規模な危機に違いない」

 ハッシュはため息をつく。

「私たちの課した脱出テストで、脱出でなくそれを利用して強者と戦わせリフレインを成長させようとした。たしかに手加減した手合わせだったけど、弱者と手合わせするよりはるかに有意義だったはずだわ。戦闘経験の無い彼にはハード過ぎるくらいなね」

「一流に触れねば一流にはなれない。三流に触れれば三流に染まる。ハイブリッドした脳はそれがよくわかっているようだな」

「何者なの? そのリフレインの脳に混ぜた別の脳は」

 スコルピオは目を瞑りテーブルに肘をついて手を組みあごを載せる。沈黙。それは知らないからか答えられないからか。おそらく後者だろう。知らなければ知らないと言って差し支え無いのだから。

「いいわ。今は聞かない。でもいつか聞かせてね」

 スコルピオはうなずかない。しかし目を開け語り出す。

「脳の声がリフレインの成長を急がせるなら、死ぬ危険があるレベルまでリスクを引き上げてでもそれを成そうというのなら、我々はその実験を最大限にサポートする。貴重な実験体を失うリスクを冒してでも彼に試練を与え鍛え上げる」

「そんな事をしたら国は黙っていないんじゃないの」

「黙らせる。このぐらいは押し通る。戦闘用サイボーグの開発は私に任されているのだ。私が必要と判断したならそれを必ず認めさせる」

 スコルピオは無表情だが目が熱い。何だか楽しそうに見える。

「スコルピオ。楽しんでいるの?」

「どうしてだ」

「自分よりも強い者を造り出せるかもしれないと期待しているんでしょ」

「そうだな。私がかなわないほど強い奴が造れるならぜひ造ってみたい。そして戦ってみたいものだ」

「ならトランジスタがいるじゃない。彼女いつもあなたと戦いたがっているわよ」

「彼女とは二度と戦わない。あれは野獣だ。この部隊の最高指揮官を決める際に手合わせしたとき牙をへし折った。二本の牙の一本を失った彼女が残りの一本を失えばもう野獣として生きていられない」

「大事な戦力ですものね。失うわけにはいかない?」

「そうだ。彼女の代わりはそうそういない。戦争でならともかく彼女のつまらないプライドを満たすために戦って、彼女を失うわけにはいかない」

「私だけじゃ、駄目なの……?」

 ハッシュはとても小さくつぶやく。もちろんどんな小声でもサイボーグの聴覚機能なら聞き取れる。スコルピオは無言でそれを聞こえなかった振りをした。

posted by 二角レンチ at 22:36| 旋律のリフレイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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