2015年03月30日

ドルイド少女ワンカナ(32)稲妻兎

ドルイド少女ワンカナ(32)稲妻兎

 魔王が首の一人、普通の人間の三倍はある巨漢ビッドグリフはブラックドラゴンの力を持つ。その吐息攻撃であるブレスは強力な酸であり、口から黒い酸を広範囲に放射した。

 それはラズリの全身を襲う。近距離で広範囲に広がり放射されるブレスは回避不能。ラズリは黒い酸をまともに浴びてしまった。

「がっはっは。こりゃ全部溶かしちまったかあ? ま、この程度でくたばるような弱い女じゃ俺が抱く前に死んじまうから用はねえが」

 ビッドグリフは酸がしたたる口を太い腕で拭う。いかつい顔でにたにた笑い、ラズリがこの程度でくたばるようなやわな女ではない事を期待している。

 放射されたブレスはとても広範囲に及び、雪山の木々や雪だけでなく地面すらも溶解させていた。蒸気がもうもうと立ちこめ、それが冷たい風に払われる。

 溶けて抉れた地面にうずくまり、黒いローブを着たラズリがいた。無事だ。着ているローブすら溶けてはいなかった。

「がっはっは。そうこなくちゃな。それでこそわざわざ犯しに来たかいがあるってもんだ」

 ラズリはさっきから何度も自分を犯すと言う男をひどく嫌悪し、睨みつけながら横に唾を吐く。

「はっ。私はベイド以外の男には指一本触れさせないって言ったでしょ。魔物の中で最強の一種であるドラゴンのブレスは強力無比。でもその首だけが変化したあんたはそこまでの力は無いようね」

「俺たち魔王が首は魔王様が食らい取り込んだドラゴンの力を体現出来る。身体を完全なドラゴンに変化させる事は出来ねえ。一部だけを人間の使う魔術武装のようにドラゴンの力で武装するんだ。ドラゴンほどの巨体には変化出来ねえからそのブレスも小さい。でなけりゃてめえは防ぎきれなかったぜラズリ」

「気安く名前を呼ばないで。あんたに親しげに名前を呼ばれると寒気がするわ」

「けっ。炎の衛兵とやらが消えちまったから寒いってかあ? もう吹雪も止んでいるじゃねえか。これぐらいで寒いなんて魔術師って奴は貧弱だなあ?」

 ラズリは離れて対峙しているビッドグリフを警戒しながらも、ちらりと頂上を見る。

 吹雪が止んでいる。頂上にいるイエティが吹雪を生み出すのをやめたという事は、敵との戦闘に全力を向けた証拠だ。

 山の頂上はまだ離れている。しかし遠目でもはっきりわかる。雪崩の中から樹木が絡まりながら生えてきている。

「ワンカナの樹木の巨人。ベイドたちはどうやら無事に頂上に着けたようね。イエティとの戦闘を始めたわ」

「てめえはもうあそこまではいけねえがな。俺に犯され血を吐きながらくたばりやがれ」

「はっ。あんたはいくらドラゴンの力を持っていても身体が小さい。人間にしか変化して活動出来ない魔王が首の欠点よ。ドラゴンが最強の魔物の一種であるのは成熟した巨体があるからよ。人間サイズ、あんたは三倍はあるけど所詮成熟した魔物の山のような巨体とは比べ物にならない。規模が小さいから威力も範囲も物量も小さい。本当のドラゴンブレスなら、私の炎の衛兵残り五体を直列させ重なる盾にしても防ぎきれなかった。でもこの程度で止められるブレスしか吐けないなら、いかにドラゴンの力だとしても十分対抗出来る範囲だわ」

「やれやれ。なめられたもんだぜ。今のは手加減してやっただけなんだよ。それぐらいわかれよ馬鹿女が。女は馬鹿だから見ている分には面白いが話しているといらいらしてくるぜ」

「私も馬鹿な男と話しているとむかむかしてくるわ。話して楽しいのはベイドだけ。アキハイトは相変わらずつまらなくていらつく奴だけどまだ我慢出来る。でもあんたの話はへどが出るほど耐えられない。今すぐ黙らせてやるわ」

「やってみろよ。来いよほら。さっきは俺が攻撃したからな。今度はお前が攻撃してみろ」

 ビッドグリフはにやにやして手招きする。

「ふん。そんな余裕すぐに無くしてやるわ。男ってのはどうしてこう、根拠が無いくせに自分が女より強いってうぬぼれているのかしら。虫酸が走るわ」

 ラズリはまたべっと唾を横に吐いてから立ち上がり、ビッドグリフに手を向ける。

「メイジ魔術、稲妻兎」

 ラズリの掌の前にバチバチと火花が散る。それはすぐに青白くまぶしい雷の玉となり、それがバチッとほとばしると一直線に伸びる稲妻の帯となってビッドグリフに襲いかかる。

 ビッドグリフはにやついたまま目を瞑る。そして目をかっと見開くと、今いた場所のすぐ横に出現する。稲妻は一直線にさっきまで彼がいた場所を通り抜ける。

「おいおい。魔王が首は目にもとまらぬ早さが自慢だぜ。瞬きする間も無いほど早く動ける。てめえの稲妻はノロすぎるぜ。瞬きするどころか寝ちまうかと思ったぞ」

「そう? 電撃の魔術は閃光。刹那の速度で敵を討つ最速の魔術。それをかわすだけのスピードがあるってわけね」

「俺の動きが見えなかっただろ?」

「見えたわよ。私や仲間たちは鍛えられた。カーボーンに出会った時はまったく動きが見えなかったけど、今のあんたの動きはしっかり見えたわ」

 ラズリは瞬きして見せて、それどころかあくびをする真似までしてビッドグリフが眠くなるほどトロいと口にせずに言っていた。

「けっ。言ってろ。動きが見えようが追いつけなければ意味がねえ。てめえの攻撃は最速の電撃魔術でも俺を捉えられねえ」

「それはどうかしらね」

「あ?」

 ビッドグリフが片目を大きくひんむいてラズリを睨みつける。次の瞬間、その顔がぎくりと歪む。

「うおっ!」

 ビッドグリフがまたすぐ横に出現する。さっきまで彼がいた場所を、背後から稲妻が飛びかかり通り過ぎて行った。

 ラズリ以外の並の人間が見ればそれは転移したように見えるだろう。しかし魔術の作用で動態視力も上がっているラズリには、彼があわてて飛び退く無様さがはっきり見えていた。

「くすくす。そんなにあわててどうしたの」

「てめえ、何しやがった」

「メイジ魔術、稲妻兎。一直線に飛びかかるけど、敵を外したら湾曲して地面なり壁なりに着地し、そこから兎のように跳ねてまた敵に襲いかかる」

 ビッドグリフがかわしたので、そのままラズリの方へ向かってきていた青白い稲妻の帯が直線軌道から下向きに湾曲し、ラズリの横を通ってはるか後ろの雪面に降り立つと、そこから兎が跳ねるかのようにぴょんと反転した。跳ねて湾曲した軌道が空中で直線になり、また高速でビッドグリフに襲いかかる。

「うおおおおっ!」

 ビッドグリフはさっきまでのように、動く前と後で同じポーズを取って転移のように見せかけるのをやめ、地面に飛びつくように大げさな身振りで飛んでくる稲妻を必死に避けた。

「何だ、こいつ、早くなってやがる」

「稲妻兎は敵以外に反射する。そして反射するたび捉えられなかった敵を捉えられるようより早くなって飛びかかる。同じ速度のままだったらかわされ続けるでしょ。メイジ魔術は破壊に特化している。敵を破壊する術に長けている。稲妻兎は敵に避けられるたび反射を繰り返し、そのたび早く強く大きくなっていき、最後は必ず敵を粉砕するわ」

 たしかにこの稲妻は、最初のような細さではない。反射する度に太く激しくなっている。ビッドグリフにかわされ戻って来るときは、さっきまでより一回り大きく早くなっている。

 避けるほど強くなる攻撃。早めに食らった方がまだ威力が弱くて防げるかもしれない。しかし避け続け強大になった稲妻はもうビッドグリフの身体よりも太い奔流と化していた。

「くっ……!」

 かわすほど加速して戻ってくるためいつまでもかわし続ける事は出来ない。しかしどんどん強くなってきた稲妻はもう激しい雷撃と化している。今の威力で食らえばビッドグリフがいかに強靱な魔物でも大ダメージは避けられない。

 敵の罠にはまった。かわせるほどトロい攻撃なら、速度に自信を持つ魔王が首なら必ずかわして見せる。最速の魔術を避ける事が実力の差を見せつけるのに最も有効だからだ。

 それを読まれ裏をかかれた。避けるせいでどんどん強くなっていく稲妻はもう、ビッドグリフといえど無傷で受け止められるものではなくなってしまった。

「小賢しいぜ。女は馬鹿のくせにずる賢い。いやらしい女の典型だぜてめえはよ」

「それは褒め言葉として受け取ってあげるわ。いいえ、遺言ね。もうあんたの速度でも避けられないでしょ」

 ビッドグリフの正面に稲妻が迫る。最初は彼の腕より細かった稲妻はもう、彼の巨体よりも大きな川のように凄まじい大きさになってしまっていた。

「けっ。女あああ、俺をここまであせらせた奴はてめえが初めてだ。人間が、魔術師が、魔王が首を傷つけられるなんて信じたくねえが認めてやるぜ。腕一本くれてやる」

 敵を侮り驕っていたビッドグリフが初めて敵の力を認め本気の目つきになった。その険しさにラズリは思わず圧倒され、びくりとおののく。

(これが魔王が首の本気。ようやく対等の土俵にまでは上がれたって事ね。威圧をまったく発さない特殊な魔物なのに、その眼力だけでここまで気圧されるなんて)

 ビッドグリフは左手を上に振り上げる。

 その開いた掌が変化する。肌が真っ黒になり、ひび割れたかと思うと魚のような鱗をびっしり生やす。指は伸びごつごつした節を持ち、指先には指と同じだけ太い鉤爪が生える。

 腕に比べ大きく広がった手。長く太く湾曲した爪。多数の鱗。それはまさしくブラックドラゴンの手だった。

「俺たち魔王が首はドラゴンの力を体現する。全身をドラゴンに変化させる事は出来ねえ。魔術武装のようにこうして一部だけに力を発現し変化させる事が出来る」

 ビッドグリフはドラゴンの腕と化した左腕を、上からハンマーを叩きつけるように振り下ろす。目の前に迫る巨大な稲妻の奔流に広げた掌をぶつける。

 指の先にあるドラゴンの爪が稲妻を斬り裂く。稲妻は引き裂かれながらもその破壊力を敵にぶつけ、ビッドグリフの左腕を包み込む。

 電撃が爆発する。激しい電流のほとばしりに包み込まれビッドグリフの全身が見えなくなる。

 稲妻が散り煙が吹き飛び、大きく抉れた地面に立つビッドグリフは、稲妻を迎え討った左腕を失い肩の傷口から血をどぼどぼと垂らしていた。

 黒い血は地面に落ちると地面を焼いていく。その血もブレスと同じく強酸で出来ているようだ。

「はあ、はっ、くそったれが。最高だぜてめえ。ここまで俺をむかつかせるくそったれ女は初めてだ。口が生意気なだけじゃねえ。強さも生意気だぜ。本当にむかつきやがる最高最悪のくそったれがああああああ」

 ラズリは気圧されている事を悟られないように目を細め、目をひんむいて睨んでくるビッドグリフを冷たく見つめ返す。

「はっ。魔王が首って言っても大した事ないわね。もう魔術師として以前よりはるかに強くなった私にはその速度が見える。捉えられる。そして攻撃出来それは通用する。ドラゴンの力を持つならその鱗は鋼よりも強い盾となる。その爪は剣よりも鋭く敵を斬り裂く。ドラゴンの攻撃力と防御力を同時にぶつけてなお互角。私の魔術は通用するしドラゴンよりも強いわ。ドラゴンと戦った事は無いけど今の私ならきっとドラゴンだって倒せるわね。その首でしかないあんたなら楽勝だわ」

「言ってろくそ女が。くそがくそがくそったれが! 犯して殺すなんて悠長な事はもうしねえ。てめえは今すぐぶち殺す。それから身体がもし残っていたら犯してやるよ」

「それはどうも。犯されないで殺される方がましだわ。でも残念。あんたは私を犯せないし殺せない。私があんたを殺すからよ。安心しなさい。私はベイド以外の男とするつもりなんかまったく無いから。あんたは犯してなんかやらない。へどが出るわ」

 ラズリはべっと唾を吐くと、両手を前に突き出し構える。

「メイジ魔術、隕石落下。反射し強化した稲妻兎であんたの鱗ごと肉体を砕けるんだから、それよりはるかに破壊力のあるこの最大破壊力の攻撃魔術ならあんたの全身すら粉砕出来るわ」

 ビッドグリフが右手にドラゴンの鱗と爪を生やす。その巨大になった腕を横から大きく振るってラズリに襲いかかる。

 しかし魔王が首の速度よりも早く、はるか上空から召喚された巨大隕石が落下し、ラズリの目の前まで来ていたビッドグリフを押し潰した。

「じゃあね。ばいばい。あんたみたいな下品な男と話しているとへどが出るわ。下品さすら許せるのはベイドだけよ。他の男のは汚くて吐き気がする。隕石落下の魔術は敵に隕石が激突し、爆発した時に最大の衝撃波を発生させ敵を完璧に粉砕する。この至近距離では私を巻き込むから爆発出来ない。でも残念。隕石はこのままあんたを押し潰しながら地中深くまで埋没する。私を巻き込まない距離まで地面に潜ってから爆発するわ。隕石の激突に押されあんたは逃げられない。そのまま地中で隕石の爆発に巻き込まれ死になさい」

 天から降ってきた巨大隕石はビッドグリフを押し潰しながらそのまま雪と地面を吹き飛ばして埋まる。高速で地面を割りながら掘り進み埋まっていく。

 この隕石の激突からは逃げられない。圧倒的パワーに押され、ビッドグリフは横に逃げる事も出来ずそのまま隕石に押され地面深くに埋まる。

 地表にいるラズリから十分離れた位置まで深く沈んだ隕石は、そこでビッドグリフを捕らえたまま爆発する。隕石落下の魔術はその隕石が割れ爆発する時メイジ魔術の中で最大の攻撃力を誇る衝撃波を発生させる。

 すでに飛び退き離れていたラズリは、さっき隕石が埋まっていった巨大な穴を見つめる。地面が揺れ地震が起こる。さっきイエティが雪崩を起こすため山の頂上で跳躍し起こした地震よりはるかに揺れる。震源が近いからだ。

 地面がバキバキとひび割れ、大きな穴から大量の土砂が吹き出す。それはまるで火山の噴火。地中深くで起こった隕石の爆発で、隕石の破片や地中の土や岩が燃え、マグマさながらの灼熱弾となって噴き出し続けた。それは山頂ではなく山の中腹で起こる奇妙な噴火に見えた。

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2015年03月27日

ドルイド少女ワンカナ(31)自然の力

ドルイド少女ワンカナ(31)自然の力

 アキハイトたち三人は襲い来る魔物たちを次々退けついに頂上付近にまで接近した。

 ワンカナは、まだ離れているとはいえもう姿が見える雪男、イエティを見上げてため息をつく。

「近くで見るとさらにでかいや。本当大きい。前に戦ったリヴァイアサンより大きいなんて、どれだけ成熟すればここまで肥大するんだろう」

 ベイドが横を走りながら答える。

「こいつはとんでもない成熟だな。この山の主だけはある。この周辺の住民の話では少なくとも三百年前の文献ではもうこの山はイエティの棲む雪山になっていたらしいな」

「三百年かあ。魔物は強くなり続ける限り成熟しながら生き続けるからね。逆に強い敵を食い殺して力を得ないとどんどん衰え老衰する。進化と退化を繰り返すようなものだ。それがここまで進化し続けたなんて。まさに神の所業だね」

 アキハイトが抗議する。

「神の所業はこんな物ではない。魔物ごときが神の力を得る事も体現する事もあり得ん。神の力のごく一部だけでも借りて行使出来るのは、神の使徒として魔物を討つ使命を持つパラディンや、敬虔なる信徒である癒しと守りに特化したクレリックだけだ」

「そうだったね。ごめん」

 ワンカナは謝るが、彼女は神が本当にいるのかどうかわからない。どちらかと言えば信じていない。神がいるなら何の罪も無い両親があれほど惨い殺され方をするのを許すはずがない。

 でもアキハイトを不快にさせないため、神がいるかどうかなどの議論は誰もが避けていた。ちょっと前までのラズリはアキハイトを見下していたので神を冒涜する事を言いアキハイトを激怒させていたが、仲間として協力して戦い互いに歩み寄った結果、アキハイトもラズリに対する憤りは収めていた。

 もうちょっとこの雪が厚く積もった山を登れば頂上に立つイエティの所まで着く。あと少し。しかしまだ、この山に棲む魔物が住処を守るため住処の雪を生み出すイエティを守ろうと、ワンカナたちに襲いかかってきた。

 山の上から黒い塊が転がってくる。とても大きい。玉のように見えるがそれは高速で回転しているからだ。よく見るとそれはとても長い針をウニのように周囲全方向に伸ばしている魔物だった。

「うわ。大きい。針の玉だ」

「ローリングスティンガーだな。丸まって針の玉のようになって転がり襲ってくる、アルマジロにハリネズミの針を生やしたような奴だ。普通よりはるかにでかいな。かなり成熟している。この山のナンバーツーってとこか。イエティの一番側で奴を守ってやがる」

「ベイド。僕が戦うよ」

「お前は引っ込んでいろワンカナ。ここまで俺と交代で魔術を使ってきたが、お前の方が俺より消耗している。これからいよいよイエティと決戦なんだぜ。お前の出番はそれからだ。ここは俺に任せな」

 ベイドは身体の周囲を遊び回る子供のようにぴょんぴょん跳ねている小さな火の玉、鬼火の一つを指で弾くようにする。

 指が当たってはいないが、優しく温かく燃える炎である鬼火は弾かれたようにぴょんとベイドから離れ、山の上から猛烈な勢いで転がってくる黒い針の玉の前へ行く。

「ソーサラー魔術、鬼火小躍り。暖を取り敵を察知するために展開しているが、遊びの大好きなガキだ。鬼ごっこが一番得意。鬼のくせに追いかけられる方だがな」

 転がる針の山、ローリングスティンガーの前に来た鬼火は横へぴょんぴょん飛び跳ねていく。するとベイドたちめがけて一直線に転がり落ちてきていたローリングスティンガーは、くるっと方向を横に変え飛び跳ねる鬼火を追いかけていくではないか。

「ソーサラー魔術は幻惑だ。力で力をねじ伏せるんじゃなく力を幻で惑わす。対処出来るならどっちでも同じだが、相手がいくら強かろうとほんのちょっとの力でいなせる。ソーサラーの魔術師は魔術による消耗を抑え長期戦や多勢を相手に切り抜ける術に長けている」

 ローリングスティンガーはベイドたちを襲わず、横へ跳ねていった鬼火を追いかけて行ってしまった。吹雪の荒れ狂う山の向こうに行って見えなくなる。術者であるベイドから離れて鬼火が消えるまで数分もつ。十分遠くまで敵を誘ってくれるだろう。

「へっ。軽い軽い。ここへ来るまで十発あった鬼火を大分使っちまったからな。もう残り一発しかねえ。ま、もうイエティの目の前だ。他の魔物は強すぎる山の主に畏れをなして近寄らねえからもう魔物はいねえだろ」

「ベイドのソーサラー魔術は便利だね。敵を倒す力じゃなくていなす力かあ。弱い魔術でも強い敵をいなせるから魔術による消耗をかなり抑えられる。ほとんど疲れてないでしょ?」

「まあな。お前が我先にって戦ってばっかだったからよ。一人でちょっとやりすぎだぞ。節約が大事だってメールボウのじいさんに習っただろうが」

「そうだけどね。みんなと一緒に、今までよりもはるかに強い敵と戦うんだって思ったらとてもわくわくしてさ。はちきれそうなんだ。だから我慢出来なかったんだよ。戦いたくてうずうずするんだ」

「わかるぜその気持ち。強くなったつもりじゃなく、本当に強くなった。この力を全力でぶつけたい。試したい。思い切り戦いたい。いいぜワンカナ。イエティとは全力で戦え。力を温存してさらなる敵に備える必要はねえ。俺たちはパーティだ。一人じゃねえ。だからさらなる敵に備えて余力を残すのは俺とアキハイトに任せろ。お前は力を思い切りぶつけてこい。念願の、自分よりはるかに強い強敵、イエティのおでましだぜ」

「うん!」

 ワンカナはとびきりの笑顔で答える。力に驕るのは良くないと反省した。しかし強い力に魅了され強い自分に酔いしれる彼女だ。節度をわきまえうぬぼれなければ、力を思い切り振るいたいという熱い興奮は悪い物ではない。

 イエティは全身が長く白い毛に覆われた巨大過ぎる猿のような姿だ。腕がとても長く、立っているのに地面に届きそうだ。脚が短い。顔だけは赤く皺が寄っている。

 自分の住処であるこの雪山に挑む愚かな人間たちを、山に住まわせている魔物たちに襲わせ退けようとした。それを突破しここまで登って来られるのは本当に強い者だけだ。

 それほど強い者たちこそ、強い自分が戦うにふさわしい。そして食らえばきっとその力を糧としてより強く成熟出来るだろう。

 配下のように扱える共生している魔物たちで腕試しをし、それを乗り越えた強い人間たち。最高の餌であり、より強く成熟するために役に立つ、なかなか得られないごちそうだった。

 険しい顔をしていたイエティが、自分が求める餌がのこのこやってきたのでその愚かさを馬鹿にするかのようににたっと笑った。

「うげっ、気持ち悪いぜ。エテ公のくせに笑ってやがる」

 イエティは皺々で笑った気持ち悪い顔のまま短い脚で真上に跳躍する。

 全身の長い毛の隙間から吹き出していた吹雪をぴたりと止める。もう頂上まで登ってきたベイドたちに対しこれ以上吹雪を浴びせても無駄だ。彼らは並の生物なら生きたまま凍らせてしまうほどの冷気を浴びても対処出来るほど強い力を持っている。

 イエティは、山の頂上を切り取ったかのような巨大過ぎる身体で上空へわずかに跳躍し、そこからふっと落ちてくる。

「おいおい。まさかだろ。吹雪は俺たちを凍えさせ山に棲む魔物たちを助けるためだけじゃなく、このためにせっせと雪を積もらせていたのかよ」

「ワンカナ!」

「うん!」

 アキハイトが命令するより早く、呼びかけられただけでワンカナは理解する。

 いよいよ目的の魔物、イエティとの決戦だ。今まで消耗しないよう温存しておいた大魔術はここで使うためにあるのだ。

「いっくよー、樹木の巨人!」

 ワンカナは叫ぶ。腕を前に伸ばして指を突き出しイエティに突きつける。

 上空に飛び上がっていたイエティは落下し、地面に降り立つ。大きな足が地面に深くめり込み、山全体を震わせる。

 凄まじい振動はまさに地震。山全体を揺るがす衝撃により、厚く積もった雪が崩れ出す。

 山頂から雪崩が起き、それはすぐに高い波のようになる。凄まじい雪の波が高く広く激しく勢いを増しながら下にいるワンカナたちを襲う。

 雪崩がワンカナたちを飲み込むように上から襲いかかる。しかし彼女たちが雪崩に飲み込まれたかと思った次の瞬間、その雪崩を突き破って巨大な手が出てきた。

 木の手。大木がよじれ絡まって出来た巨大な手が雪崩を突き破り押し寄せる雪崩の中から倒れず掲げられていた。

 その握った手を開き、掌を上に向ける。そこにはワンカナ、ベイド、アキハイトの三人が無事でいた。

 流れ続ける波のような雪崩の中から、腕だけでなく肩が、頭が、身体が突き出る。樹木が絡まって出来た巨人は驚くべき巨大さだ。巨大過ぎて畏れすら抱くイエティにも負けていない巨大で立派な体躯だった。

「うお、お、こいつはすげえ。つうかでかすぎねえかワンカナ」

 ベイドが足元の巨人を見下ろし感嘆する。ワンカナはその顔を見てにやりと笑う。

「これが今の僕の力だよ。ドルイド魔術は自然の力を借りて行使する。だから自然が強いほどその力も強くなる。神の一種と畏れられる魔物は自分の住処として強い自然を好みその加護を得る。強い自然との共生だね。リヴァイアサンも強い海に生息し、その力を借りる僕の力も強かった。強い魔物が住処とする自然はその魔物の力となるほど強い。だから僕の力もそれに匹敵するほど強くなるんだ」

「はっはっは。そいつは便利だな。敵の住処で戦えば、同じだけ強く巨大な巨人を召喚出来るってわけだ」

「そうだね。魔王の軍勢として住処を離れた魔物相手にはそこにある自然の力で対抗するしかない。自然の枯れた場所で戦えば僕に不利だ。でもこうして神レベルの魔物をその住処で狩る分には、僕の巨人は相手がいかに巨大で強くても、それと同じだけ強い巨人をその自然の力を借りて召喚出来る」

「神レベルの魔物狩りに最適ってわけだ。すげえぜワンカナ。相手が強いほどその住処の力を借りて同じだけ強い巨人を召喚出来るか。なるほど前のリヴァイアサンとも拮抗していたもんな。よくやった。ワンカナ」

 ベイドはうれしそうにワンカナの頭をぐりぐりと撫でてやる。ワンカナもうれしそうだ。

「あははは。くすぐったいよベイド。それに良くも悪くも力は同等。リヴァイアサンの時と同じだ。格闘で拮抗出来るけど同時に膠着する。相手が強くてもそれに匹敵出来る代わりに相手を上回る事も出来ない。決め手に欠けるんだ」

「それを身につけるのが課題ってわけだ。でも俺たちはパーティだからな。互いの欠点を補い合う。だから個々は自分の長所を伸ばせばいい。欠点を埋め合う事で、長所を伸ばして様々な長所を合わせ持つ一個の個体のようになる。それがパーティの強み。一人では至れない極地だ」

「うん。仲間って本当いいね」

 ワンカナは幸せだった。こんな素晴らしい仲間と出会えて。彼らと一緒に戦えるほど強くなれて。とてもとても幸せだった。

 不幸の上に築かれるのが幸せ。不幸という土台無くしては幸せにはなれない。築けない。これが、不幸を不幸のままで終わらせない、犠牲に意味を持たせ無駄にしない方法。

 イエティは、誰よりも巨大な自分と同じだけの大きさでしかも樹木がねじれ絡まった奇妙な怪物が突然雪崩の中から現れたので目を丸くして驚いた。あんぐりと口を開けて呆然とする。

「あはははは。驚いてる驚いてる。そりゃね、自分より大きな者を見た事がないんだもん。びっくりするよね。隙あり!」

 樹木の巨人はワンカナたち三人を手から頭に放る。三人とも軽々とした身のこなし、武術により危なげなく樹木の絡まった頭に飛び乗る。

 目と口には穴があるだけ。木のウロのようなそれからは表情が読み取れない。樹木の巨人はまったく無感情のような表情のまま、しかし猛々しく握った拳を繰り出す。

 その巨体からは想像出来ないほど素早いパンチに、驚き呆然としていたイエティは防御が遅れる。

 イエティの、毛に覆われていない赤い顔に樹木の拳がめりこむ。猿のような顔を醜くひしゃげさせ、イエティは地面に倒れ木々も雪も地面すらも砕きまき散らせながら山の斜面を転がり落ちて行った。

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2015年03月26日

ドルイド少女ワンカナ(30)ビッドグリフ

ドルイド少女ワンカナ(30)ビッドグリフ

 ラズリは燃え盛る兵士、炎の衛兵たちを周囲に展開し陣形を組みながら走る。頂上目指して途中の木々も襲い来る魔物も次々燃やしながら直進していた。

「直進するから私は他の連中より早く頂上へ着けるわ。もう見えてきた。本当あのイエティは大きいわねえ。山の頂上を切り取ったような巨体。でも勝てる。私の火力はあいつの凍結力より強い自信がある。私の火炎魔術はあいつに対し優位となる。相当堪えるはずよ」

 山の頂上にはイエティがいる。白く長い体毛を全身にびっしり生やした猿のような雪男。その体毛の隙間からどんどん吹雪を吹き出し山全体を凍てつかせている。山全体を覆うこの猛吹雪が全部たった一体の魔物が生み出した物とは信じられない。とんでもない力だ。ラズリとて単独で勝つのは難しいだろう。

「今の私には仲間がいるわ。ふふ。私に仲間なんて必要無いと思っていたけど、魔王の話を聞いて目が覚めたわ。私の視野が、世界が狭かっただけ。人間は単独では魔物の頂点たる魔王より強くはなれない。絶対に。だから仲間が居るんだわ。要るんだわ。魔物や獣が群れるのとは違う。力を合わせる。利用ではなく協力する」

 ラズリは自分の広げた掌を見る。

「他人なんていらない。私だけで強さは十分。他人は利用するだけ。必要無いけど自分がより得をするためだけに利用しおいしい汁を吸う。そう思っていた。でも違った」

 ラズリは広げた掌をぐっと握る。

「離れていても心強い。力がわいてくる。みんなも私と同じように今戦っている。そして同じように勝って突き進んでいる。また会える。頂上で会うのが待ち遠しい」

 くすっと笑ってラズリは優しい目をする。

「仲間っていいわね。私の心はこの吹雪よりも冷たく凍えていた。みんなの強さと信頼が私の凍った心を溶かしてくれた。おかげで私は今こんなに心の底から温かい気持ちになれる」

 ラズリはかぶりを振って、またいつもの鋭い目つきできつい表情に戻る。

「いけないわね。イエティと戦えば死ぬかもしれない。私だけでなく、仲間の誰かが死ぬかもしれないのが怖い。だからこんな感傷的になるんだわ。仲間にも言えない恥ずかしい事を口走るなんて。誰もいなくてよかったわ」

 誰もいないのに。ここまで多数蹴散らしてきた魔物すら一体もいないのに。返事をする声がした。

「おうおう。何だ何だあ? ラズリって女はとんでもなく自信過剰で性格が最悪にどぎつくてど汚ねえって聞いていたのによお。なんだか蜂蜜みてえに甘ったるい事言ってんじゃねえか。話が違うだろがおい。俺好みの最高に最悪なくそったれ女じゃねえじゃねえか」

 戦慄。ラズリは声のした方向を見る。

 真上だ。吹雪のせいで視界が効かない。しかしだからこそ敵の探知に優れた炎の衛兵を周囲に展開している。四方に散っているし、ここへ来るまで魔物たちとの戦いでかなりの数が破壊され、残りはあとわずか五体。しかしもうすぐ頂上のイエティの所へ着く。怖ろしいイエティのすぐそばに生息する魔物はいないからもう衛兵の数が少なくても問題は無いはずだった。

 炎の衛兵たちが声に反応してラズリのそばへ寄り囲んで守る。上空を見上げ炎の槍を掲げて威嚇する。

「炎の衛兵が探知出来ない? 声が聞こえるほど近いなら探知出来なくてはおかしいわ。どういう事? メールボウみたいに探知を阻害する魔術を使っているのかしら。でも今の私の力で召喚した衛兵なら知覚力も強い。探知出来ないならかなり熟練した魔術師の魔術って事だわ」

「魔術う? がっはっは。馬鹿かお前。魔術を行使しているならその炎の衛兵とやらで探知出来るんだろうが」

 ラズリは目を見開く。

 可能性は想定していた。対処出来る力も心構えももうあるという自信がある。だから思ったより動揺しなかったし、恐怖を感じるが屈して絶望するほど打ちのめされはしなかった。

 大丈夫。私は立ち向かえる。戦える。以前の自分ならきっと恐怖に屈していた。一度圧倒的に敗北した相手と同等の存在なのだから。自分の強さと仲間がいる事の頼もしさが心を裏打ちしていなければきっと恐怖に錯乱しまた大泣きしていただろう。

「ふん。こそこそ隠れていないで出てきなさいよ。それとも私が怖いから、そうやって吹雪に隠れて怯えているの?」

「おっ。調子が出てきたじゃねえか。がっはっは。いいぜいいぜ。楽しくなってきた。女はこうでなくちゃあな。生意気でくそったれな女の心と身体をズタボロに踏みにじるのが楽しいんだからよ」

 上空は白い吹雪でよく見えない。しかしそこへ黒い影が現れる。

 その影は降りてくるともうはっきりと見える。黒い翼をはためかせていた。蝙蝠のような翼を背に大きく広げたたくましい男がゆっくりと降りてきた。

 男はラズリから離れて前に降りると曲げていた膝を伸ばしてむっくと立ち上がる。ラズリは首を思い切り後ろに逸らして男を見上げる。

「でかいわねえ。あきらかに人間のサイズじゃないわ。普通の男の三倍はある。まるで熊ね。あんたたちは人間に擬態するんじゃなかったの? 一目で人間じゃないってばれるわよ」

「がっはっは。いいじゃねえか。俺はこうなんだよ。人間に化けるつもりなんざさらさらねえ。だがな、俺たち魔王が首は魔王様から分離するときは人間に化けないといけないんだ。ドラゴンの首のまま分離したら首を切り落とされた事になって死んじまうからよ」

 魔王が首。やはり。この山の頂上にいるイエティほど強大な魔物に平気で近付きしかも無事でいられるなど、並の魔物ではあり得ないのだから。

 炎の衛兵は魔術師自体も探知出来るが、魔術を使えばなおさら遠くからでも発見出来る。それがまったく感知しないとなると、魔術師ではない。

 魔物は強いほど力があふれており威圧される。よって魔術師よりはるかに遠くからでも探知出来る。

 探知出来ない例外は、探知の魔術よりも強力な隠密や擬態など存在を感知させない魔術を使っている場合。それともう一つ。

 魔王が首。彼らは特殊な魔物であり、強いのにまったくその力を感じさせない。強大な魔物が持つ威圧をまるで発さない。魔王が首は人間に化けている。それは擬態。一般人だろうが魔術師だろうが誰の前でも完璧なただの人間と見られるように、威圧をまったく発さない。魔術を使えないので魔術師としても感知されない。

 すなわち、こうして姿を見せて名乗らないと存在を遠くからでは感知出来ない。もちろん近くにいればその動作の気配により存在はわかるので、さすがに背後から不意打ちまではされない。

 魔王が首はもう一つの特徴として驚異的な速度を持つ。前に出会ったカーボーンは存在を察知出来ずその動きすら見えないほど早かった。一瞬もかからず目の前にいて、攻撃された途端攻撃は完了していた。

 しかし今のラズリは違う。魔王が首の速度にも対処出来るだけの速度も察知力もある。遠くからでは探知出来ない魔王が首であろうが、近くに来れば察知しその異常な速度にも対処し魔術で攻撃や防御が出来る。

 目の前であごをぼりぼりとかくごつい顔の大男は、身長があまりにも大きい。背中に広げた蝙蝠のような翼を見ずとも明らかに人間ではない。太くたくましい筋肉で、まるでビヤ樽を繋いで作ったような腕や胴。真っ黒の髪は尖るようにぴんぴんはねてギザギザ。その髪が足首の所まで長く広がりまるで頭から末広がりのマントをかけているようだ。

 この男は随分と余裕そうだが、カーボーンと違いラズリに急接近して攻撃してこなかった。ラズリが十分強くなり、魔王が首の速度にも対処出来るとわかっているのだろう。

 つまり、十分対処出来る相手だという事だ。威圧がまるで無いし魔術の探知でも計れないので判断出来ないが、こいつはラズリに不用意に仕掛けると手痛いしっぺ返しを食らうと判断し、強襲ではなくゆっくりと対峙する事を選んだのだ。

 男はあごをかきながらにやにやしている。

「がっはっは。見れば見るほどいい女だぜ。人間の女は実にいい。強くて生意気な魔術師が最高だぜ。一般人は脆くていけねえ。強い魔術師は魔術の作用で肉体も強いからな。俺の相手が務まる」

「ふん。私は強いわよ。もちろん一人でもあんたの相手が務まるわ」

「ああ、違う違う」

 男は額に手を当て大きくかぶりを振る。仕草がいちいちおおげさな奴だ。人間の擬態、真似ゆえか。

「人間の魔術師ごときが戦いで、俺たち魔王が首の相手が務まるわけねえだろ。格が違うんだよ格が。強さの格が違いすぎるのに、ちらっとでも俺たちの相手になるかよ。そうじゃねえ。俺は人間じゃねえが身体も感情も人間そっくりに擬態している。サイズは違うがな。ぐひひ。ただの女じゃ壊れちまうが、耐久力の高い魔術師の女なら、俺のを突っ込んでも俺がイくまで生きていられる」

 ラズリはぞっとする。

「あんた、そんなにでかいくせに、いえ、その前に、魔物のくせに人間の女を犯すの?」

「ったりめえだろ。俺たちは身体も心も感情も、もちろん性欲だって人間そっくりなんだぜ。力があってどの女でも力付くで犯せるのによ。男なら犯さないでいられるか。うずくんだよ。本来なら俺たち魔物にとって人間は欲情対象にならねえ。食い物に欲情する人間がいるか? いねえだろ。しかし人間に化けているせいで人間の女を見るとうずくんだよ。たまらねえ。強くて生意気な女の魔術師はな、犯され内臓を破裂されながらでもまだ俺を睨んで罵詈雑言の限りを尽くす。たまらねえぜ。死ぬまで俺を楽しませてくれる。お前は最高に生意気で最悪なくそ女だって聞いていたからよ。楽しみにしてきたんだぜ」

「最っ悪。女はベイドに手を出すから私の敵だけど、男でも女を犯す奴は全員私の敵だわ。許せない。へどが出るわ」

 ラズリは横目で男を睨みながらべっと唾を吐く。

「おうおう。それそれ。たまらねえなあ。女が男みてえに下品な真似してもダサいのによ。格好いいと思っていやがる。たまらねえぜ。女ってのは馬鹿過ぎてそそる」

「うっるさいわねえ。犯されるって聞いて私がびびるとでも思っているの? 私には指一本触れさせない。私に触れていい男はベイドだけよ。私は他の男が私に触れるのを絶対許さないわ」

「許さなきゃどうするってんだ?」

「ぶっ殺すに決まっているでしょ。いちいち聞かないとわからないなんて男って本当馬鹿」

「ぐひひひがっははは。こいつはたまらねえなあ。俺が魔王が首の一人だって知ってもびびらない泣かない漏らさない女なんて初めてだぜ。他の女魔術師は俺には絶対かなわないって戦う前からびーびー泣いてよ。お前はそそるぜ本当に。他の女とは一味違うな。どんな味だろうな。楽しみだぜえ。犯しながら内臓全部をしゃぶり尽くしてやる」

「ぐっだぐだ言ってないでかかってきなさいよ。私にびびってるんでしょ。これだから男は。口だけなんだから」

「がっはっは。俺とたった一人で戦おうってのか。笑わせるぜ。生意気な女は笑えるから一緒にいて楽しいぜ。俺はビッドグリフ。魔王が首の一人。ブラックドラゴンだ」

「ブラックドラゴン?」

「魔王様の本性、百首のヒドラは蛇の頭でなくドラゴンの頭を持つって知っているだろ。魔王様はまだ人間に化けられなかった頃、自分よりはるかに強いドラゴンに食われそうになっても逃げずに戦い逆に食い殺してきた。そうして食らい取り込んだ力により蛇の頭ではなくドラゴンの頭を生やせるようになった。食らったドラゴンの種類は様々だ。だから様々な色のドラゴンの首を生やし、俺たち魔王が首はその内の一本が変化したものだ。俺はブラックドラゴンの首が変化し人間に擬態したんだよ」

「そうなの。その黒い翼はブラックドラゴンの翼ってわけね。でもそれだけじゃないんでしょ?」

「よくわかっているじゃねえか。まあそれぐらいわかっていないと話にならねえ。俺たちはその首のドラゴンの力を持つ。ドラゴン最大の攻撃はもちろん知っているよなあ?」

 ビッドグリフと名乗った大男は頬を膨らませ大きく息を吸い込む。胸を突き出し肺に限界まで空気を取り込む。

「ドラゴンブレスね。ドラゴンの吐息は身体の色、つまりドラゴンの種類により様々な効果を持つ。ブラックドラゴンのブレスは酸。何でも溶かして破壊する非常に凶悪な攻撃」

「わかってるじゃねえか。死ぬんじゃねえぞ。だが死んだって身体の半分だけでも残っていりゃあ犯せる。上半身が溶けて無くなっても下半身さえありゃいい」

 ビッドグリフは口を大きく開く。さっきまでは人間に擬態しているから人間の歯だった。しかし今は戦闘状態。歯が全てドラゴンの長く太く鋭い牙に変化していた。

 大きく開いた口から大量の黒い液体が噴出する。まるで噴火のような猛威。口から放たれたブレスは煙を噴きながら大きく広がり、ラズリの全身を覆ってさらにはるか広範囲にまで拡散した。

posted by 二角レンチ at 15:30| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月25日

ドルイド少女ワンカナ(29)プリズムバット

ドルイド少女ワンカナ(29)プリズムバット

 ワンカナとベイドは左右に展開し、その後ろからアキハイトが追っていた。リーダーとして戦力を温存するだけでなく、後衛として背後からの敵を迎撃するしんがりを兼ねている。

 前衛の二人は襲い来る魔物たちを蹴散らしながら突き進む。戦いながらも疾走を緩めなかった。

 ワンカナは緑の蔦を全身に巻き付かせ鎧としている。蔦の触手の魔術を攻撃でなく防御に使っている。その蔦には緑の葉が生い茂り、硬い装甲となっている。

 その葉がざわめく。猛烈な吹雪の中、高速で走っても揺らがない防御である葉がざわめくように動くのは、風に吹かれたからではない。

「敵がいるよベイド。左の前方だ。木々の上に潜んでいる」

「便利だなそれ。魔術は応用。その極みってくらい多用だな。攻撃にしか使わなかった以前とは違う」

「うん。魔術の深淵はとても深く、僕の魔術は浅かった。メールボウおじいちゃんのおかげで深淵に一歩踏み込めた。まだまだだけどね。深淵が深いほど、強くなる余地があるって事なんだ。わくわくするね」

「そうだな。魔術を極めるのは楽しくてたまらねえ。魔術師じゃねえ人間は人生損しているぜ。ひっひっひ。左の前方ならお前が近いな。任せるぜ。一人でやれるな?」

「うん。この山に棲む魔物はみんな強い。神の一種と恐れられるイエティの巣に住む事を許されるほどの魔物だもの。強いに決まっている。でもこれぐらい倒せないと、頂上にいるイエティにはかなわないよ」

「そうだ。この山を登る間の魔物たちすら実戦訓練だ。殺されるかもしれない強敵ばかりだが、それでも倒して切り抜けろ」

「わかっているよ。ベイドこそへましないでよ」

「へっ。誰に物言ってやがるんだ。まったく成長しやがって。身体もそれぐらい生意気に成長しろよ」

「も、もう、こんなときまでそういう下品な事言うのやめてよ」

「いつならいいんだ? あー?」

「知らないっ。僕行くからね」

 ワンカナは右手を前に突き出す。

「ドルイド魔術、茨の鞭!」

 ワンカナの右手に巻き付くように、黄色い茨が一本伸びる。それはしゅるしゅると長く伸びて、はるか前方の木に巻き付く。

 太いロープのようなそれを握ると、ワンカナは茨に引っ張られ身体が宙に浮く。そのまま前方へ向かって弾丸のように飛んでいった。

 ベイドたちから離れた前方の木にワンカナは飛び移る。左手からも黄色い茨を伸ばすとさらに前の方にある木々に向かって伸ばす。

 木々に積もった雪に黄色の茨が巻き付く。するとその雪が落ちて、その下から雪と同じ真っ白の、巨大な蝙蝠が現れる。

 蝙蝠は白い体色への擬態がばれると本性を現す。身体が様々な色に次々変化し、それは輝くように美しかった。

「プリズムバットか。体色を虹のように様々な色に変化させる。模様は擬態出来ないが、雪の白など一色への変化で擬態出来るなら寒暖どこにでも生息していやがる」

 ベイドは遠くからその体色の変化する蝙蝠を見て敵を識別する。

 ワンカナは茨の鞭で捕らえた蝙蝠を逃がさない。蝙蝠が暴れると、それに合わせて茨の棘が伸びていく。そしてそれは捕らえた蝙蝠の肌にずぶずぶと突き刺さっていく。

「ぎいっ、ぎいいいっ!」

 茨に刺され蝙蝠は痛みに叫ぶ。しかしもがくほどどんどん茨の棘が伸び、さらに深く肉に食い込んでいってしまう。

「駄目駄目。この茨の鞭はね、縛った敵が暴れるほど棘が伸びて肌に食い込んでいくんだ。それ以上刺されたくないなら暴れない方がいいよ。でも魔物は知性があるように行動するけど実際には知性が無い。だから学習する間も無く暴れ続けて死んじゃうけどね」

 暴れる巨大蝙蝠は、暴れるほど伸びて食い込む茨に内臓や心臓まで貫かれて絶叫しながら息絶えた。

「ふふっ。ちょっと僕の魔術の中じゃ残酷だけど、魔術は応用。これは本当は捕らえた敵が抵抗しないようにするための、人間用の魔術だけどね。魔物相手に使うと学習せずに死ぬまで暴れるから攻撃に使える。敵の暴れる力を利用して棘を伸ばすから僕の消耗を減らせるんだ」

 捕らえた敵が絶命すると茨の棘は縮んで戻る。ワンカナは茨の鞭を解いてしゅっと腕に巻き付けると、全身血塗れの蝙蝠は木の上から雪の地面にどさりと落ちる。

 その雪が真っ赤に染まる。死んだ蝙蝠は美しい体色の変化をやめ、真っ黒になった。

「真っ黒の死体に真っ赤な血かあ。普通の蝙蝠みたいだね。生きているときはいろんな色に輝いてとってもきれいなのに。死は命だけでなく、美しさも何もかも奪うんだね」

 ワンカナはしんみりする。両親を殺された彼女は、死に関して様々な感情を抱く。

 しかし油断はしない。顔を上げるとさらに手を左右に広げる。

 すでに察知されている事を悟り、白い雪に擬態していた他のプリズムバットたちも擬態をやめ、翼を広げて雪を撒き散らして姿を現す。様々な色に変化しながら巨大な蝙蝠たちがワンカナに飛びかかる。

 ワンカナは黄色い茨の鞭の一本を離れた木に巻き付け、それを縮めて身体を引っ張って飛び退く。さっきまでワンカナがいた場所へ牙をむいて飛びかかってきた蝙蝠たちが互いに頭をぶつけてはね飛ばされ、地面にどさどさ落ちていく。

「へへん。仲間を殺され逆上しちゃったのかい? 違うね。自分たちも殺されるんじゃないかって怯えてあせっていた。だから僕がかわす事も考えられないで突進したんだ。魔物は知性があるように狡猾に行動するけど、こいつらは隠れて襲う狩りしかしないから見つかった後の敵には弱いんだ」

 ワンカナは木を茨で飛び移りながら飛びかかる蝙蝠たちをかわす。その合間にもう一本の茨で蝙蝠を巻き取り、それを蝙蝠が飛んできた勢いでそのまま回して投げ、他の蝙蝠にぶつけて二体同時に倒す。

「魔術は適量的確に。ケチったらやばいけど無駄遣いはいけない。消耗を抑えて連戦するためには、魔術に余分な力を込めずに敵を倒せるならその方がいい。僕ら四人がメールボウおじいちゃんに一斉に襲いかかった最終試験では、おじいちゃんは僕らの魔術すら利用して同士討ちさせようとした。その結果僕らは消耗し尽くしおじいちゃんは余力をまだまだ残していたんだ」

 以前のワンカナなら蔦の触手に力を込めていちいち敵を巻き取り絞め殺していた。さらに前なら力に溺れ、いきなりこの程度の敵でも樹木の巨人という消耗の激しい大魔術を行使していただろう。

 それでは戦いを続けられない。強敵はこちらの魔術をいなして戦い続ける。こっちは消耗して負ける。それに強敵が一人とは限らない。強敵リヴァイアサンと戦い消耗し尽くした後で遭遇した、魔王が首の一人カーボーンの恐怖。もう同じ過ちは繰り返さない。魔術は出来るだけ消耗を抑え、たとえ強敵が連続して現れてもなお戦い続け打倒出来ねばならない。

 茨の鞭や蔦の触手は単発式の魔術だが、植物を操るドルイドならではの魔術武装だ。展開しても破壊されない限り引っ込めてまた出す事が出来る。ワンカナは両手に巻き付け出している黄色い茨の鞭を引っ込めた。

 何十匹といた蝙蝠たちを全部倒し、蔦の触手に生えた葉による探知でもそれ以上の敵を発見出来ない。探知出来ない敵がいる可能性もあるが、鋭い探知能力を前にその可能性は薄い。他の仲間も敵を探知していないのだから大丈夫だろう。

 ワンカナが木から飛び降り雪の地面にひょいと降り立つ。そこへベイドとアキハイトが駆けつけてきた。

「おいおい。これだけの数のプリズムバットを全部一人で倒したのか。すげえな」

「これぐらい一人で倒せないと頂上にいるイエティとは戦えないよ」

「だな。消耗もぎりぎりまで抑えたんだろう。大したもんだ。初めて村で会った時、いきなり大魔術で力を無駄に振り回して粋がっていたのを見て、あー、こいつは駄目だなって思ったもんだが」

「え? ベイド。僕の事そんな風に見ていたの?」

「そりゃそうだろ。あの頃のお前は弱かった。今強くなったお前ならわかるだろ。当時の今より弱い俺やラズリから見ても、ワンカナは仲間と呼ぶには力もその使い方も未熟過ぎた」

「……うん。わかっているよ。でもベイド。僕は今強いんだよ。ベイドに言われた事に怒ったら、強い君にやり返せるぐらいにね」

「はっはっは。言ってろ言ってろ。お前が強くなったってなあ、俺だって同じだけ努力して強くなってんだよ。お前は俺には永遠にかなわねえ」

「今の僕なら君にも勝てると思うんだけどなあ」

「あー? おいおい。その程度でまた粋がるのかあ? ったく成長してねえ。いいぜ。この戦いが終わったら久々に手合わせしてやるよ。ちーっとだけ本気を出してやる。いつもみたいに甘くねえぞ?」

「望む所だよ。ふふん。僕だって君と手合わするときは本気じゃなかったんだから。わからなかった? 僕が本気出したら君を泣かせちゃうからね」

「あー? 強がりだけは一丁前になりやがったなガキが」

「僕は強がりなんてしない。本当に強くなったんだよ。僕の実力を計れもしないおじさん」

「ああー?」

「なーに?」

 ベイドは目をひんむき、ワンカナは口を尖らせ睨み合う。

 そんな軽口を叩きながらでも、二人は木々の合間を疾走していた。地面に積もる雪を蹴散らしそんな物は障害にならない。アキハイトは二人の後を追いながらその背を見つめる。

 プリズムバットは強いのに、力をかなり温存しながら一人で軽々倒したワンカナ。本当に強くなった。初めて会った時、ワンカナが出した樹木の巨人に畏れを抱いたが、あれはまだアキハイトが弱すぎたせいだ。

 しかし今また、ワンカナが全力で召喚した樹木の巨人を見ればやはり畏れおののくだろう。以前と違い、本当に心も力も強くなったアキハイトをなお畏れさせ畏敬の念を抱かせる、本当に強く神々しい巨人を今のワンカナなら召喚出来るだろう。

 アキハイトは本当に強い仲間たちの頼もしい背中や、こんな状況でも喧嘩出来るほど余裕のある二人を見ながらうれしそうに微笑んだ。

posted by 二角レンチ at 16:36| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月23日

ドルイド少女ワンカナ(28)チルウルフ

ドルイド少女ワンカナ(28)チルウルフ

 大きな山全体が雪に覆われている。頂上にいるあまりにも巨大過ぎる魔物、イエティが長く白い全身の体毛から吹き出す雪が山全体を覆い、この山だけをその周辺とは隔離された寒冷地へと変貌させている。

 ワンカナたちが雪山に一歩踏み込み雪を踏みしめた途端、周囲の気温が急激に下がる。強力な魔物が作る巣はまるで魔術のように、外界とは隔絶した領域を作り出す。さっきまで温暖な気温だったのに、いきなり氷点下の極寒となる。

「うひゃあ、寒い寒い」

「なっさけないわねえワンカナ。この程度で寒いなんて。魔術の作用で外界の変化にはある程度の耐性があるでしょ」

 そう言いながら、黒いローブに身を包んだラズリもぶるっと震えた。

「あははっ。ラズリも寒いんじゃないか」

「うっるさい」

 雪の地面を爆発させるかのように蹴り散らしながら四人は疾走する。高い木々の間を縫ってひょいひょいと高速で駆け抜ける。

 ベイドはにやりと笑う。強敵に挑むのが楽しみでたまらないようだ。

「へっへ。長期戦ならこの寒さ、魔術で防御しないといけねえ。しかし時間はかけねえぜ。この山に住む魔物たちをどんどん蹴散らし一気に頂上にいるイエティの所まで行く。防御用の魔術をいちいち展開するんじゃねえぞワンカナ。攻撃魔術を応用して寒さにも同時に対処するんだ」

「わかっているよ」

 魔術を無駄遣いしている場合ではない。力の浪費も抑え、なおかつ同時展開による遅さも克服せねばならない。メイジは攻撃魔術を他に転用するが、今ではもう全員、メールボウの教えに従い一つの魔術でも複数の用途に応用出来るようになっていた。

「ソーサラー魔術、鬼火小躍り。複数の鬼火が周りを遊ぶように飛び交う。周囲の警戒や対処を兼ねる弱い魔術だが、今の俺たちの力なら弱い魔術でも十分強力なぐらい強度が増している」

 ベイドは掌からぽんぽんと、淡い橙色に燃える火の玉をいくつも出す。それはベイドの周りで飛び跳ねる子供のように、ぴょんぴょん飛び交いながらベイドを守る。

「あっ。いいなあ。暖かそう」

「へっへ。鬼火は青白く冷たい奴もあるが、ここは寒いからな。赤と黄の温かい鬼火にしたぜ。魔術にはバリエーションがある。魔術をより深く暴き深淵に近付けば、同じ魔術でも様々なバリエーションを発見し使い分けられる」

「うん。メールボウおじいちゃんに教えてもらわなければ誰も気付きもしなかった。僕だって」

 ワンカナは両手を合わせて魔術を行使する。

「ドルイド魔術、蔦の触手。普段は攻撃に使う。でも今は、僕に巻き付け鎧にする」

 ワンカナは両手から蔦の触手を出す。得意の攻撃魔術だが、全身に絡まるようにしてまとい、中にいるワンカナを守る鎧とする。

「僕の植物は魔術で作った模造品。本当の生命じゃない。でも本物の植物のように温かく出来る。これで僕の身体を守りながら暖めるんだ」

「蔦の触手は防御力が弱いだろう。鎧代わりにまとってどうするんだよ」

「ふふっ。メールボウおじいちゃんの教えは本当ありがたいよ。魔術は単純な使い方だけでなく、深淵を暴く事によりバリエーションや応用も見つかる。僕の蔦は本当に応用範囲が広いんだ。ほら」

 ワンカナは全身に巻き付かせた蔦から緑の葉をたくさん生やし生い茂らせる。

「僕の蔦は弾力で防ぎ衝撃を拡散させるから打撃にはそれなりに強い。でも切断や火炎には弱い。その弱点を補うのがこの葉だよ。この葉は見た目と違い硬い鱗となる。柔らかい蔦を硬い葉で覆い鎧とする。硬い葉は欠けてもすぐにまた生える。完全強固な防御じゃなくても、どんどん再生出来る鎧に出来るのさ」

「へえ。そいつは凄いな。弱点を違う魔術の併用でなく同じ魔術のバリエーションで補うのか。その方が消耗がはるかに少ないし早い。他の魔術を併用する余地も残せるってわけだ」

「へへー。凄いでしょ」

「ああ。凄い凄い」

 ベイドとワンカナが談笑しているのを見てラズリは面白くない。でももうワンカナを仲間と認め信頼している。ベイドにちょっかいを出す敵ではない。だからもう、ラズリはベイドとワンカナが一緒にいて仲良くしても、それに腹は立つが我慢出来る。

「はっ。魔術の応用なんてメイジなら当たり前にやってきた事。メールボウのスケベじじいに言われるまで気付かないなんて馬鹿な子。魔術の深淵は底が知れない。同じ魔術だってまだまだ暴かれているのは初歩の初歩だけよ」

 ラズリは大きく跳躍してベイドたちから離れる。

「私は単独で行動させてもらうわ。頂上で会いましょう」

「ラズリ。一人だと危険だよ。いざというとき仲間に助けてもらえない」

「ワンカナ。私は強いのよ。頂上までに出てくる程度の魔物なら一人でも倒して生き延びられるわ。うぬぼれじゃないわよ。ちゃんと自信がある。力に裏付けられたね。あんたこそ私の強さを信頼しなさい」

 ラズリは驕っているわけではない。しかしこの戦いは今までに無いほど危険だ。全員生きてまた会える保証は無い。だから今まで決して口にしなかった事でも伝えておきたかった。

「……仲間でしょ、私たち」

 ワンカナはラズリが初めてちゃんと、自分に向かって仲間だと言ってくれた事がうれしくて胸が熱くなる。だから満面の笑顔で返事した。

「うん!」

「私のメイジ魔術は大規模破壊を得意とする。あんたたちが周りにいたら私は魔術を存分に使えないのよ。単独行動の方があんたたちを巻き込まず存分に魔術を振るえる。だから私は単独で別ルートから行くわ。いいわよねアキハイト?」

 ラズリは以前なら一人で突っ走っていたが、今はちゃんとアキハイトをリーダーとして認め、その許可を求めた。

「ああ。お前がその方がいいと判断したならそれでいい。今のお前は以前の無謀や傲慢とは違う。ちゃんと全員にとってより良い判断をし、的確な行動を選べる。行けラズリ。頂上で必ずまた会おう。死ぬんじゃないぞ」

「誰に言っているのよ。じゃあね。頂上で」

 ラズリは手を振り、どんどんベイドたちから離れる。そして身体を回転させながら腕を風車のように大きく振るって魔術を放った。

「メイジ魔術、炎の衛兵!」

 炎の衛兵。全身が燃え盛る炎で出来、細長い炎の槍を携えた衛兵を作り出す。並の魔術師ならたった一体しか召喚出来ない。だがラズリほどの強者ならもっと数が増える。メールボウと戦った時は八体も出せた。

 しかし今、ラズリの周囲に燃え上がった火の玉は八よりはるかに多い。数十もの炎が灯り激しい火柱となって燃え上がり、人の姿をし槍を持つ燃える兵士に変化した。

「うひゃあっ。前に見たときよりはるかに数が多いよ」

 ワンカナは遠くで見て驚嘆する。何十体もの炎の衛兵が槍を振るい雪山を駆ける。動きも前に見た時よりはるかに早い。雪を溶かして蒸気を吹き上げながら、槍を振るって太い木を貫いたり切り落としたりして燃やしながら進路を拓く。

「へっへ。ラズリは本当に強くなったぜ。あんなに炎の衛兵をたくさん出せるメイジなんて聞いた事もねえ。本当に、あいつは世界最強かもな」

 ベイドは我が事のように自慢げに鼻をこする。

 熱量が凄い。これだけ離れていても雪の寒さが熱帯の暑さに感じられるとは。なるほどラズリは単独で行動した方が強い。近くに仲間がいてはこんな存分に多数の炎の衛兵を召喚出来ない。

 ワンカナたちが見送る中、ラズリは炎の衛兵を周囲に従えまるで軍隊のように雪山を疾走する。木々も積もった雪も溶かし燃やし切り拓く。ワンカナたちから遠く離れもう姿が見えない。ラズリは仲間から十分離れた上でまっすぐ頂上を目指した。

「木々も雪も妨げにならない。直進する私は他の連中より早く頂上へ着けるわ。敵が襲ってこなければね」

 そんなはずも無い。仲間たちから離れ十分な広さを確保すると、ラズリは自分を中心に炎の衛兵たちを散会させる。

 炎の衛兵たちは互いに距離を取り、一体一体が広い周囲を警戒する。衛兵である彼らは敵の探知と迎撃に優れている。広い範囲に散って敵を探す方がより早く対応出来、ラズリに近付けさせない内に迎撃出来る。

 炎の衛兵たちの先頭の数体が異変に気付く。穂先を上に向けていた炎の槍を前方に構えて突撃する。

 先の雪の中に埋まり獲物を待っていた魔物たちが、察知された事を悟り被っていた雪を吹き飛ばしながら飛び上がり襲ってくる。

 氷で出来た狼。肌は白と青で彩られ毛すらつやつやと濡れた氷のように冷たく美しい。並の狼の何倍も大きく、人よりも大きい巨体だった。

 氷の牙をむいた狼たちが雪の中から現れ飛びかかってくる。炎の衛兵たちは燃え盛る槍を突き出し迎撃する。

 氷の狼は当然、炎に弱い。しかし逆もしかり。炎の衛兵は氷に弱い。どちらがより強いかで弱点にも長所にもなり得るのだ。

 炎の衛兵の槍が、氷の狼に噛みつかれると凍り付く。炎がそのまま青白い氷と化し、そのまま鋭い牙で噛み砕かれる。

 炎の衛兵の火力は、氷の狼の凍結力に劣っている。だから氷が火に対して優位となり、火は氷に対してより脆くなる。

「チルウルフ。氷のように凍てつく狼。噛みついた相手を凍らせそのまま噛み砕く。凍らされるとどんな強い防御でも脆く砕ける薄氷と化すわ」

 ラズリは冷静に敵を見極める。炎の衛兵を広く散らせて周囲を守らせているおかげで、こうして分析して対処するわずかな時間が取れる。

「なめるんじゃないわよ。相反する属性は強い属性に対し弱い属性は弱点となる。しかしそれは力の強さにより逆転する。魔術の深淵、応用は計り知れない。単発式で一度しか召喚出来ない炎の衛兵。しかし持続する魔術は魔術師がさらに力を注ぐ事で強化出来る」

 ラズリは両腕を大きく振るい、炎の衛兵たちにさらなる力を注ぎ込む。

 氷の狼たちに炎の槍を凍らされ噛み砕かれた衛兵たちは、そのまま襲い来る氷の狼たちをかろうじて避ける。彼らは横に退きその後ろにいた数体の衛兵たちに敵を譲る。

 新たな炎の衛兵たちが炎の槍を構え突き出してくる。氷の狼たちはまた同じ事だと安易に牙をむいて炎の槍を噛み砕こうとした。

 しかし砕けない。ラズリにさらなる力を注ぎ込まれ強化された衛兵の持つ槍はさっきのとは違う。火力が上がり、それはチルウルフの凍結力を上回る。

 力の差が逆転し、炎の槍は今度は逆に、氷の狼たちの牙を燃やし溶かした。

 狼たちが驚きに目をむくが、そのまま炎の槍にのどを貫かれる。炎の槍に貫かれるとその炎に焼かれる。全身が火だるまとなり、氷が溶けるようにどろどろと狼たちが溶けて燃え、砕け散っていった。

「炎の衛兵を強化したわ。力は温存しないと消耗してしまう。でもこうして敵に応じて力を適度に注げば無駄遣いせずに強化出来る。しかも注いだ力は持続するからこれ以上強い敵がいない内はこのままこの魔術だけで戦える」

 始めにあまりたくさん力を注いでおくと、その分だけ消耗が早くなる。どうせ力を注ぐのだから始めから力を注いでおけばいいのか? 違う。もし他の敵に襲われ他の魔術を使わねばならない場合には力を出来るだけ残しておく方がいい。こうして展開している魔術を消されたり砕かれたりする場合だってあるのだ。力を始めに多く注いでおくのはメリットよりもデメリットの方がはるかに多い悪手だ。

 ラズリが力を注ぎ込んだ作用で、槍を食われた衛兵の槍も再生していた。炎の衛兵たちはチルウルフを上回る火力を得て、恐れる物は何も無いとばかりに勇猛に狼たちに突撃していく。

 前方だけでなく、側面や後方からも隙をうかがっていたチルウルフたちが一斉に雪をはねのけ飛びかかってくる。炎の衛兵よりはるかに数が多い。百匹以上がどんどん襲ってくる。木の上に昇って潜んでいた奴らも雨のように降ってくる。

「凍結力だけではかなわないと見て、数で圧倒するつもりね。たしかに私の衛兵たちより数が多い。でも私の力を注いだ今の衛兵たちは強いわよ。一体であんたら狼なんか何体来ようと蹴散らせる」

 ラズリを中心に展開した炎の衛兵の部隊はそれぞれが互いの間合いを詰めたり離れたりしながら広い布陣の隙を常に埋める。一瞬の隙も出来ないほど間合いを詰めると密集しすぎて守れる範囲が狭いし槍も存分に振るえなくなる。守備範囲が狭いとラズリにチルウルフが飛びかかりかねない。それは危険だし、迎撃のためにラズリは魔術を行使し無駄に消耗してしまう。

 ラズリは自分の周囲に炎の衛兵を展開させながらも歩を緩めない。炎の衛兵たちは敵の迎撃に追われ進路の木を燃やしてはいられないため、ラズリは木々の間を縫うように走る。衛兵たちも同じように駆け、さらにチルウルフたちと戦いながらも陣形を崩さずラズリについていく。

「戦うたびに止まっていては遅いわ。次の敵が来る前に全部撃退する。でも立ち止まって戦っていればその分遅れ、さらに他の敵も集まって来やすい。移動しながら戦い、次の敵が来る前に全部迎撃し尽くす。そのぎりぎりを見極めこなせなければさらなる強敵との戦いをこなせる実力が磨けない」

 敵は強い。火力で上回っても、狼たちの動きは素早く的確。炎の衛兵たちの槍をかいくぐり、槍よりは火力の劣る衛兵の喉笛を噛み砕いて殺そうと襲ってくる。

 まだ一体も倒されていないが接戦だ。立ち止まって戦闘だけに集中すればもう少し余裕で倒せるのだろうが、ラズリはこんな時でも負荷をかけてより強くなるための訓練とする。

「今までの実戦訓練だけじゃ足りない。この山を登りきるまでに襲ってくる魔物たちすら実戦訓練に使う。そうでないと頂上にいるイエティには勝てないかもしれない。麓から見たあの巨大と雄叫び。あれは強いわ。強すぎる。ほんの少しでも、こんな時でも、強くなる努力を重ねておかないとぎりぎりで負けてしまうに違いないわ」

 ラズリはもう驕らない。自分が世界最強の魔術師だなどとあまりにも世間知らずで井の中の蛙だった。恥ずかしい。情けない。反省したラズリは貪欲に強さを求めた。

 もう最強だから強くなる努力なんてダサいとはわずかも思わない。ダサい努力をする事は、努力を避けて格好良くするよりよほど格好いいと思うようになった。

posted by 二角レンチ at 09:51| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月22日

ドルイド少女ワンカナ(27)イエティ

ドルイド少女ワンカナ(27)イエティ

 アキハイトたち四人は旅を続け、人々に神の一種と畏れられる魔物を目指しその生息場所にたどり着いた。

「うわっ。凄い。本当にここだけ雪山だ」

 ワンカナは雄大な山を見上げて驚く。

 この地域は比較的温暖で、少なくとも今の時期に雪は降らない。なのにワンカナたちが見上げるその山だけは、頂上から麓まで全て真っ白い雪で厚く覆われていた。

 アキハイトが山を見つめたまま説明する。

「この山全体が奴の住処だ。イエティは雪男。寒い地域に住むのではなく、自らの力で吹雪を身体から常に放出し、住む場所を雪に覆われた寒冷地へと変化させる」

「自分に合った環境に住むんじゃなくて、環境を自分に合わせるんだね」

「そうだ。普通のイエティはせいぜい熊のサイズ。人の身長の二倍もあればいい方だ。自分の住む周囲一キロ程度を雪で覆って巣とする。しかし俺たちがここへ来たのは神レベルの魔物を討伐するため。あのイエティは並ではない。あまりにも規格外。あの大きな山全体を自分の生み出す雪で覆い巣に作り替えている」

「うん。凄い。きっちり山の下まで雪で覆い、その一歩外は普通の温暖地域のままだ」

「あれが奴の巣、奴の領域。あの神レベルのイエティは自分の巣である雪山で、同じく雪や氷の世界に生きる強い魔物たちを住まわせ共生している。魔物に知性は無いが狡猾に行動する。まるで配下の軍勢のように、頂上に住むイエティへたどり着く前に、雪山に住む多数の魔物が主を守るべく襲ってくる」

「怖いね。一種類の魔物の群とは何度も戦ってきたけど、多数の魔物の群に守られた主かあ。そいつにたどり着くまでに、群れるとさらに強力な魔物たちと連戦しないといけないなんて」

「メールボウ様の教えに従い鍛えてきた俺たちだ。強敵だろうが群だろうが最小限の力で倒して力を温存しながら連戦だって出来るようになっている。それはこういう群が集まった軍勢を蹴散らしその頭である主を倒すため。魔王の軍勢に比べればまだまだ劣るが、今の俺たちには正直勝てる保証が無いほどだ」

「でも、負ける保証だって無いよ。五分五分ぐらいには勝率が見えるほど、僕たちはちゃんと強くなったよ」

 アキハイトは小柄なワンカナの肩をぽんと叩いて微笑みかける。

「そうだ。俺たちは強くなった。鍛えてきた。うぬぼれではなくちゃんと誇れるだけの力がある。その力でもかなうかわからない強敵と戦い続け、もっとさらに際限無く、俺たちは強くならねばならない」

「魔王を倒すんだもんね。これぐらいでびびってちゃ話にならないよ」

 ワンカナもアキハイトに笑顔を向ける。

「おい、あれ見ろよ。たまげたな。想像よりはるかにでかいぞ」

 ベイドの声にワンカナは振り返り山を見る。すると自信あふれた笑顔が凍り付いた。

 雪山の頂上がうごめいた。山のてっぺん辺りの白い雪が動き形を変える。積もっていた雪をぼろぼろ崩し落としながらその下からやはり雪と同じく真っ白な体毛が長く豊かに生えた巨人、イエティが姿を現し立ち上がる。

「何よあれ。大きすぎるわ。神と呼ばれるほど強大に成長した魔物は総じて生物としてはあり得ないほど巨大になる。でもそのサイズは元々の種が成長して肥大したもの。でもあれは大きすぎるわ。リヴァイアサンは元々大きい魔物が成熟して肥大したからあれほど大きかったのはわかるけど、人の二倍程度のサイズの魔物が山のてっぺんかと思えるほど大きく肥大するなんて」

 ラズリが驚いている。アキハイトが答える。

「それだけより成熟しているという事だ。元のサイズの何倍に肥大するかで魔物の成熟度合いは計れる。肥大率がリヴァイアサンの何倍もあるだろうという事は、あの魔物はリヴァイアサンの何倍も成熟した強力な個体だという事だ」

「あのリヴァイアサンより何倍も強いって事?」

 ワンカナは驚き目を見開きながら尋ねる。

「そうなるな。しかし恐れる事は無い。俺たちもリヴァイアサンと戦ったときより何倍どころか何十倍も強くなっている。今ならリヴァイアサン相手でもあれほど苦戦はすまい。ならその何倍も強く成熟した魔物とその配下までまとめて相手するぐらいでちょうどいい」

「へっへっへ。それぐらいでないと力試しにもならなけりゃ鍛える事にもならねえぜ」

 ベイドが笑いながら拳を掌に打ちつけわくわくする。

「ベイドは怖くないの?」

「そりゃ怖いさ。しかし怖いぐらい強い敵と戦わねえと強くなれねえ。もう俺たちは力を出来るだけ抑えて敵をいなす訓練は卒業だ。今度は力を適切に使いながら敵全部を打倒する、最初から最後まで強敵と戦い続けなお勝てるタフさと賢さと強さを手に入れなければならねえ」

「そういう事だ。ワンカナ、怖いか?」

 アキハイトがまたワンカナの肩を叩く。ワンカナは恐れに冷や汗をかきながらもにっこり笑って返す。

「怖いよ。でもわくわくする。格下相手の修行はもうおしまい。これからは格上相手に挑んで死にものぐるいで強くなる。たとえ死ぬ事になってもね」

「そうだ。死ぬ危険を避けては強くなれない。殺されるかもしれない敵と戦わねば強くなれん。魔物だってそうやって強い敵と戦い殺し、食らって成熟する。あのイエティのようにな。魔物に出来て俺たち人間に出来ない道理は無い。俺たちは知性がある分魔物よりも優れているのだ。力で劣っていてもそれを補う知恵があり、狡猾な魔物だって打倒出来る」

「うん」

 ワンカナがうなずく。みんなもうなずく。アキハイトは、全員が恐れながらもその恐怖すらねじ伏せ強敵と命がけの死闘に挑む決意を固めたのを見て取ると、魔術武装を展開する。

 光の帯が束となってねじ合わさり形を作る。白銀の鎧、白銀の剣、そして白銀の盾。

 兜は防御力を最高に高める時にだけ形成する。普段は視界や知覚が阻害される分戦闘に不利になるからだ。魔術武装は一長一短。必要な時に必要な物だけ形成し、使わない方がいい時は引っ込めておくものだ。

 アキハイトが魔術武装を展開したのをはるか遠くの山の頂で見たイエティはその力を感じ反応する。山の頂上部分かと思われるほど巨大な雪男が立ち上がり、毛むくじゃらの両腕を高々と上げ胸をドンドン打ちながら吠える。

「ぼおおおおおおおおおおお!」

 山の麓の前にいるアキハイトたちが凄まじい威圧に震える。なんて重く大きい雄叫びだ。山全体が震える。雪に覆われた木々が一斉にざわざわと揺れ葉や枝に積もっていた雪が崩れ落ちる。

「イエティが強敵である俺たちを察知したぞ。この山全体が奴の巣、雪山。山の主は頂上で待つ。共生し住処を提供する主のために、そこに住まわせてもらっている魔物たちは侵入者を殺すべく戦う。まるでリーダーに指揮された軍勢のように。イエティが雪を生むからこの山が雪山となって住めるのだ。雪と氷の世界で生きる魔物はそれを失っては生きられない。雪山に住む魔物たちは主を失う事は死を意味するため、命をかけてでも戦い守ろうとする」

 アキハイトが剣を高々と掲げる。三人の仲間たちも自分も、誰も怖ろしいイエティの雄叫びによる圧倒的な威圧にも怯んでいない事を確認する。

「俺たちは強くなった。恐れる物は何も無く、恐れてもなお立ち向かえる心の強さもある。以前とは違う。もう俺たちはどんなに恐ろしい敵にも立ち向かえる心の強さ、勇気がある。二度と恐れない、くじけない、諦めない、屈しない。どんなに強く恐ろしい敵にも勇気を持って立ち向かい、必ず打倒する」

 アキハイトが剣を真上から真正面にびっと振り下ろし、剣先を山の頂上で吠えるイエティに向ける。

「全員、突撃! 敵に俺たちの強さを知らしめ、立ち向かう愚かさを後悔させてやれ!」

「おう!」

「うん!」

「ふん」

 勇ましく応じるベイドとワンカナに対し、ラズリだけは鼻を鳴らす。しかし以前と違い、もうアキハイトの強さを認めリーダーとして尊重するようになっている。だからその号令に従い突撃する。

 ベイドたち三人が横に広がり雪山に向かって走る。アキハイトは頼もしい仲間たちの背中を見てとても誇らしかった。

 以前の仲間とは違う。パラディンの威光だけで偉ぶるのではなく、アキハイトをリーダーとしてその力も人格も認めてくれた上で部下として共に戦ってくれる。

 強さを認め合った本当の仲間たち。仲良しこよしのお仲間ごっことはまるで違う。アキハイトは彼らと共に戦えるほど強く気高くなれた自分が誇らしく、虚勢ではなく本当の自信に満ちて彼らの後に続いた。

posted by 二角レンチ at 17:35| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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