2015年04月29日

ドルイド少女ワンカナ(49)ドラゴンの突進

ドルイド少女ワンカナ(49)ドラゴンの突進

 ラズリの魔術、鏡返しは敵の攻撃を反射する。しかしその威力はそのままのはず。電撃に耐性を持つカーボーンなら、自分の電撃のブレスを跳ね返されても効かないはずだった。

 それどころかそれを利用して、ベイドの魔術であるまとわりつく黒い霧を破壊し薙払える。ブレスは自分に向けては放てない。だからカーボーンはラズリの魔術を利用して電撃のブレスを自分で浴びて、黒い霧を薙払った。

 しかしラズリは魔術の深淵を暴き、その効果を高めていた。鏡返しの魔術の深淵、敵の攻撃をただ反射するのではなく倍の威力にして返す。カーボーンはそれを知らず、自分の耐性を上回る電撃を浴びて傷を負った。

「がっは」

 電撃で黒こげになり、上空から落下するカーボーンは地面にどさりと落ち、ごろごろと跳ねながら転がった。

 ベイドが倒れているカーボーンを見て笑う。

「へっ。だから言っただろう。俺たちは強い。俺たち二人ならどんな敵にも勝てるぜ。魔王が首の内、最強の十首の一人だあ? 十首だろうが何だろうがこっちは世界最強のコンビなんだぜ。勝てるわけねえだろうが」

 倒れて煙を噴いている黒こげのカーボーンがガバッと立ち上がる。

「ぐうううっ、がはっ、くそ。だが、俺はまだ戦える。この程度で俺は倒せんぞ」

「そうこなくっちゃな。こっちもこれっぽっちじゃあまだまだやり足りねえ。俺を泣かせたツケはきっちり払ってもらうぜ」

 ベイドは指をぽきぽき鳴らしながら肩を揺らして威嚇する。ラズリも凶悪に笑いながら手を構える。

「まだ魔術のまの字も出してないわよ。この程度じゃ私もやり足りないわ。私のベイドを泣かせた罪はどんな罪よりも重いもの。たっぷり償わせてやるわ」

 カーボーンは牙をむいて歯ぎしりする。

「鏡返しの魔術は単発式だ。もう使えん。俺のブレスは魔術でいえば散発式。時間をおいて消耗が回復すればまた放てるのだぞ」

「こっちだって、同じ魔術は使えなくても違う魔術でまたやり返せるのよ。メイジなめんじゃないわよ。あんたの知らない魔術や深淵でまたこっぴどくやり込めてやるわ」

「ほざくな。俺の力はブレスだけではない。この程度だと見くびるな」

 カーボーンは両手を左右に広げ構える。

「ラズリ。来るぞ。本気の全力だ。迎え討つぞ」

「わかっているわ。私たちは本当に強い。敵を侮る事も見くびる事も無い。的確に判断し、わずかな油断もせず確実に敵を倒すわ」

「だな。たった一回の油断で殺されあの世で後悔する奴は後を絶たねえ。俺たちは油断なんかする弱者とは違う」

「ええ。昔は驕り、戦闘中でも浮かれていたわ。それで敗北した。カーボーン。油断した私の手を握り潰した恨み、忘れてないわよねえ? ベイドと私の二人分の恨み。きっちりやり返してやるわよ」

「うるさい黙れ。ドラゴンの脚力で地を蹴り翼の飛翔で加速する。ドラゴンは空を飛ぶが地を蹴って飛び立つ突進こそが最速。ブレスよりも早い突進による両手の爪で二人とも引き裂いてやる」

「おいおい。俺を魔王が首として迎えに来たんだろうが。引き裂いてどうするんだよ」

「黙れ。魔王が首は強い魔物だ。脳を全壊せねば殺せん。胴を引き裂いたぐらいで貴様は死なん。安心しろ」

「俺は人間なんだよ。胴を裂かれりゃ死ぬんだよこんちくしょう」

 胴を裂いても死ななければそれは人間ではない証明。ベイドはそんな証明を永遠にされたくはなかった。

「行くぞ。避ける事も防ぐ事も迎撃する事も出来んドラゴン最大最強の攻撃を食らえ」

「また返り討ちにしてやるわ。ねえベイド」

「だな。へっへっへ。まるで負ける気がしねえ。俺たちは最強だ。ラズリ。お前に出会えて本当に俺は幸せだぜ」

「私もよベイド。あなたに会えて私は世界で一番幸せになれたわ」

 二人はちらりと笑顔で見つめ合った後、凶悪な笑みで前を向き、肩を寄り添うようにして手を構えた。

 しんとする。大気が震える。緊張が高まる。三人とも身体の内に力を溜めて激流と化し、それを放つ一瞬のタイミングを計る。

 今。三人とも直感する。緊迫が砕け三人が同時に動く。

「いい加減にしろこの雑魚共が」

 三人とも、今の今までたしかにいなかった第三者の声に驚く。知覚出来ない射程外からここまで一気に接近されるなど考えられない。

 そこまで力の隔たりがあるという事だ。ベイドとラズリだけではない。同じ十首の一人であるカーボーンですら隔絶のあまり知覚出来なかった。

 戦闘に集中し、知覚をよそに向ける余裕が無かった。それはたしかに理由の一つだろう。しかし雑魚共に付き合うのに苛立ったゴロラドの全力の割り込みは、ドラゴンの中で最速を誇るブルードラゴンの力を持つカーボーンすら上回る。

 最強無類。魔王が首の中で最強の十首。その中でもレッドドラゴンの力を持つゴロラドは、他の十首よりもはるかに隔絶した強さを誇る存在なのだ。

 上空から飛来したゴロラドは、突進した猛烈な速度のカーボーンに後ろから追いつきドラゴンの足で踏みつけた。カーボーンは地面にめり込みその場に縫い止められてしまった。

 ベイドとラズリがその光景に驚くより早く、ゴロラドは赤い翼を振るう。ドラゴンの翼のはためきは魔術を打ち消す。しかしそれは魔王が首の持つ全力には及ばない程度の魔術にしか通用しない。にもかかわらず全力を込めて放ったベイドとラズリの魔術は軽々と消し飛ばされた。それはベイドやラズリの全力よりも、ゴロラドがはるかに強い事を意味する。

「うっ?」

 全力を込めた必殺の魔術二つを同時にかき消した。ここまで力を持つ魔王が首がいるなど想定出来ない。カーボーンはたしかに強いのに、ここまで彼より隔絶した強さを持つはずがなく、魔王以外でこんな事が出来るとはとても思えなかった。

 だから驚く。しかし驚こうが驚くまいが、どの道対応出来ないほど圧倒的な速度だ。たとえ驚かなくてもどうにも出来なかったし結果は変わらなかっただろう。

 ゴロラドは踏み潰し地面にめりこませたカーボーンの右腕を掴むと、草をむしるように易々と肩から引きちぎった。

「ぐあっ!」

「やはり貴様には任せておけなかったなカーボーン。人間の魔術師ごときに一撃でも食らうなどなんたる様だ。この十首の面汚しが。貴様は魔王様の顔に泥を塗ったのだ。もう貴様には任せておけん」

 ゴロラドは引きちぎったカーボーンの右腕を持ち、ベイドの眼前に迫る。

 かろうじて動きは見える。しかし対処出来ない。反応出来ない速度だった。

 ゴロラドは手に持つカーボーンの右腕、ドラゴンの手に変化しているそれをベイドの顔に押し当てる。

「てめ……」

「茶番は終わりだ雑魚共が。カーボーンが魔王様に志願し魔王様はこの使命をお授けになられた。しかし何より大事なこの使命。失敗は許されんのだ。やはり人間の魔術師に苦戦するカーボーンごときには任せていられん。俺が使命を果たし終わらせてやる。このカーボーンの右手には貴様の封印を解く力が込められている。この手にこうして触れれば貴様の封印は解け、魔物の本性を取り戻すのだ」

 ベイドは絶望する。しかしそれでも最後に叫んだ。

「俺は人間だ。人間なんだよこんちくしょおおおおおおおおおおおっ!」

 悲痛な叫びは無力だった。カーボーンの右手が輝きその光がベイドに流れ込む。ベイドの身体は内側から光を放ち、その背から緑の翼が生えて大きく広げられた。

posted by 二角レンチ at 15:52| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月26日

ドルイド少女ワンカナ(48)ゴロラド

ドルイド少女ワンカナ(48)ゴロラド

 深い谷。両側を岸壁に囲まれた中、有利な上空を押さえられての戦闘は困難だった。

 その不利を覆せるほど強くなった。アキハイトは有利な上空から襲ってくる巨大すぎるキマイラを、その全身を包み込むほどの物量の電撃、神の雷の魔術により粉砕し消し炭にしてしまった。

 地から天に向かって落雷するかのような光景。離れて戦いを見守っていたワンカナはその神々しさに見とれる。

 神レベルの魔物、キマイラを倒したアキハイトにワンカナは駆け寄り抱きついた。

「すっごーい! アキハイト。凄く強かった。格好良かったよー!」

 無邪気に抱きつくワンカナの髪をアキハイトは優しく撫でる。優しく微笑みワンカナを慈しむ。

「ありがとうワンカナ。よく手を出さないで俺一人で戦わせてくれたな。おかげで存分に力を試せた」

「うん。アキハイトは強いもの。僕心配なんか全然してなかったよ」

「そうか」

 それは嘘だった。ワンカナはキマイラと戦うアキハイトがやばくなるたび心配して加勢しようとするが、その都度アキハイトに声で静止されていたのだから。

 好きな人の強さを信頼している。それでも心配はしてしまうものだ。女ならなおさら。ワンカナは振られてもなお好きなアキハイトの無事と勝利に心底安堵して喜びの笑顔を見せた。

 アキハイトも抱きつくワンカナを抱きしめ返し、その笑顔を見つめてにっこり微笑む。三ヶ月前より大分表情が柔らかくなっていた。

 端から見れば、それは恋人同士がうっとり見つめ合っているようにしか見えない。アキハイトは未だにワンカナに好きかどうか聞かれても決して答えないが、その優しい表情を見ればもう、言わなくても気持ちはわかるというものだ。

 アキハイトは魔王を倒した暁には、勇者の称号と共に大国の姫を授かるかもしれない。その立場上今はワンカナを好きだと言ったり付き合ったりといった事は出来ない。出来ないだけでもう気持ちは通じ合っている。ワンカナはアキハイトと抱き合い見つめ合いながら、何も言われなくてもそれを確信している。

 思い違いでなければいいが。こんなにも優しく愛情のこもった笑顔で抱きしめておきながらワンカナの事を好きじゃないなんて言ったらアキハイトはとんだ女たらしだ。もちろん不器用で頑ななアキハイトがそんな奴ではないとワンカナはわかっている。

 勝利を喜ぶ振りをしながらワンカナはうっとりとアキハイトの胸に顔をうずめて目を瞑る。アキハイトもワンカナの髪を撫でながらそのままでいた。

 みんな本当に強くなった。ベイドとラズリも大丈夫だろう。きっとこのキマイラのつがいであるもう一体を倒している。谷の岸壁で向こうは見えないが、アキハイトはそう確信している。

 だから安心して、しばし二人きりでワンカナと抱き合う至福を堪能していた。しかしベイドたちがいるはずの向こうの谷の上空に異変を見つけ身体をこわばらせた。

「アキハイト?」

 ワンカナがすぐにアキハイトから離れ彼の顔をうかがう。どんな時でも油断しない。危機には即座に対応する。それが出来るほどもう熟練している。身体をこわばらせたアキハイトの様子から何かの危機が訪れたのだと即座に悟り、戦闘の緊張を持つ。

 アキハイトは向こうの上空を見ている。ワンカナもすぐに振り返りその空を見る。

「あっ。あれは」

「カーボーンだ。ブルードラゴンの力を発現させている。青い手足に翼と尾。あれだけドラゴンの力を同時に発現させるとは。両手と翼だけだったセラピスをはるかに超えている」

 深い谷より上空を、長い翼をはためかせカーボーンが飛び回っている。その身体には黒い霧がしつこく追いかけまとわりついている。

 黒い霧から逃れられないカーボーンが谷に向かって急降下する。そして谷の岸壁に隠れて見えなくなった。

「魔王が首がまた来たんだね。この三ヶ月、また魔王が首を殺されそうになって魔王が阻止しに来なくて済むように、魔王が首はもう僕らの前に現れないと思ったのに」

「ああ。だが決戦を前に、強くなった俺たちに恐れをなしたのかもしれん。あの魔王に限ってそれは考えられんが、とにかくベイドたちとカーボーンが今戦っている」

「僕たちも早く行かなくちゃ」

「そうだな。ワンカナ。樹木の巨人を召喚して俺を投げろ。他の魔術よりも早く向こうまで行ける」

「そんな。アキハイトは今キマイラと戦ったばかりなのに」

「消耗しているし神の雷も使ってしまった。しかし俺はまだ余力を残している。お前が追いつくまで戦える。向こうの状況がここからでは遠すぎてわからん。ラズリも他の魔王が首と戦っているのかもしれん。とにかく俺が先に行く。早くしろ」

「う、うん」

 ワンカナは脚を広げ大地にしっかり立ち、拳を握って叫ぶ。

「樹木の巨人!」

 谷は草一本生えない枯れた土地だ。この自然の力に乏しい大地から召喚する樹木の巨人はそれだけ弱い。しかし今のワンカナは強く、枯れた大地のさらに奥深くにある自然のエネルギーを引きずり出して魔術として行使出来る。

 枯れた土地でも十分な力と大きさを持つ樹木の巨人を召喚する。狭い谷に収まり切れない巨大な樹木の巨人がワンカナとアキハイトを手に乗せて、深い谷から頭を出す。

 左右の岸壁を砕きながら押し広げ、肥大し形成されていく樹木の巨人。昔のように脆くない。強く太い樹木を多数巻き付けみっしり編み上げられた樹木の巨人は強度も十分だった。

 あまりに巨大。三ヶ月前の比ではない。さっき倒したキマイラは山より大きく成熟していた。しかしこの樹木の巨人はそれをはるかに上回る。まるで森一つをまるまる使ってその木々で編み上げたように恐ろしい大きさだった。

「この枯れた土地でもここまで巨大で強い巨人を召喚出来るか。ワンカナ。魔王との決戦は肥沃な平原だ。きっとこれよりはるかに大きく強い巨人を召喚出来るだろうな」

「魔王は巨大なヒドラだもんね。僕の巨人も魔王と戦えるほど強く大きく出来ると自信を持っているよ。僕たちみんな強くなった。ベイドたちはきっと大丈夫だよ」

「ああ。俺が先に行く。樹木の巨人はお前が乗って操るのが一番強い。この巨大さならすぐに駆けつけられるだろう」

「うん。僕もすぐに行く。先に行ってベイドたちを助けてあげて」

「ああ」

 樹木の巨人の掌から、ワンカナは巨人の頭に飛び乗る。掌の上に残されたアキハイトをベイドたちの所へ投げるため、巨人は腕を大きく振りかぶる。

「うっ?」

 アキハイトが動揺する。ワンカナもその原因をすぐに見つける。

「あれは」

「赤いドラゴンだ。魔王が首か」

 はるか向こうに、人間の身体の一部が赤いドラゴンに変質している奴が見える。その動きを捉えられるほど強くなっていなければ察知する事は出来なかった。

「尾まで生えている。セラピスの比ではない。あそこまでドラゴンの力を同時に発現出来るとは。かなり強い奴に違いない」

「どうするのアキハイト」

「奴を倒してベイドたちを助ける。ワンカナ。俺を奴に向かって投げろ」

「うん」

 魔王が首が現れこっちへ飛んでくる。それを撃退せずにはベイドたちの元へ行けない。ワンカナは樹木の巨人を操り、アキハイトを遠くに見える赤い敵に向かって投げようとする。

「遅い!」

 それは雄叫び。山より大きい樹木の巨人がびりびり震える。

「なっ」

 その雄叫びを浴びて、樹木の巨人が痺れて動きが止まる。

「な、何これえええええ」

「ドラゴンの雄叫びだ。俺たちに向かって放たれたこの攻撃はブレスよりも早く遠くまで届く。弱い者ならこの振動波で粉々に消し飛ぶだろうが俺たちなら耐えられる。しかしこの風圧。く、動けん」

「樹木の巨人も動けない。これだけ巨大で強い樹木の巨人を押さえつける雄叫びって何なのさああああ」

 ワンカナたちを巨人ごと押さえつけるほどの雄叫びの風圧。そうして止めた一瞬で敵が眼前にまで到達する。

 赤い手足と翼に尾。レッドドラゴンの力を持つ事は明白だ。赤く長い髪は乱れて猛々しい。ビッドグリフに似ているがあれほど巨大ではなくせいぜい人間の一回り半ぐらいの巨体だ。ごつくてりりしい顔つき。たくましく屈強な男で、赤い目がとても強い光を放っている。

「この程度で魔王様と戦おうというのか。身の程を知れ!」

 男は叫ぶ。その雄叫びをこれほど間近で浴びるとさらなる威力だ。しかしさっきと違いもう心構えは出来ている。それに対処出来る力を持っている。

 アキハイトは雄叫びによる痺れを上回る力をみなぎらせ剣を振るう。眼前に迫った赤い男は急激に方向を変えてその剣を避けると、素早く上空へ舞い上がった。

「俺様は魔王が首の一人、ゴロラド。見ての通りレッドドラゴンの力を持つ。カーボーンは魔王様より大事な使命を携わっている。邪魔はさせん」

「俺たちに恐れをなして、決戦の前に殺しに来たのか」

 ゴロラドと名乗った男は翼をはためかせながら腕を組み、怒りに牙をむく。

「魔王様への侮辱は許さん。あの方は人間との全面戦争を望んでおられる。パラディンとそのパーティなど恐れるわけもない。貴様等程度魔王が首の内、十首一人でも取るに足らんのだ」

「十首?」

 ワンカナの問にゴロラドは怒った顔のまま答える。

「魔王様は百のドラゴンの首を持つヒドラだ。十色のドラゴンの首が十本ずつある。同じ色の十本の内、最強の一本が十色で十首。魔王が首の中で最強の十人。俺様や向こうにいるカーボーンがそうだ」

「僕たちが強くなり過ぎたから、決戦前に戦力を減らしに来た。そうでないなら何しに来たのさ」

「ベイドを迎えに来た。奴も俺たち魔王が首の一人だからだ。決戦を前に分離している魔王が首は全て魔王様の元へ戻り、あの方の首に戻らねばならん」

「は?」

 ワンカナは何を言われたのか理解出来ない。アキハイトも同じだった。

「え、えと? ああ、うん。あははは。何だ。そんな嘘ついて僕たちを仲間割れでもさせようって言うの? へへん。ベイドは人間で、僕たちの仲間だよ。そんな嘘で彼の事を信じられなくなるとか思っているの? 馬鹿馬鹿しいや」

「魔王様が嘘などつくものか。これは真実だ。ベイドは人間に擬態して、お前たちに魔王様と同じ信じる者に裏切られる苦痛を思い知らせるために潜伏させた毒なのだ。十首の一人ベイド。毒のブレスを持つグリーンドラゴンの奴には毒の役割が適任だった」

「信じるもんか。あはははは。君突然やって来て何なのさ。僕たちはそんな嘘に騙されないよ。ねえアキハイト」

「ああ。俺たちは本当の仲間だ。信頼し合っている。やわな絆ではない。どんな時も微塵も疑わず信じる。強い信頼で結ばれた本当の仲間。互いの強さと存在を信頼しているのだ。上辺だけの信頼ではない」

 ゴロラドは怒ったまま牙をむく。

「いい加減にしろこの雑魚共が。魔王様は貴様等との決戦を望んでおられる。百首のヒドラとして全力で、パラディンのパーティ五組と決戦するというのだ。ここで貴様等を倒すのも殺すのも簡単だが、敗北で心をへし折るわけにはいかん。だから俺様は手を出さんのだ。十首の中でも最強、魔王が首の中で最強のこの俺様が、貴様等雑魚とこうして話などするのがどれほどの屈辱かわかるまい。貴様等は毛虫と対等に話をするのか? しないだろう。この虫けら共め」

 ワンカナがむっとする。

「僕たちは強いんだ。お前たち魔王が首より強い自信がある。僕たちをそんなに見下して。後悔させてやるよ。樹木の巨人! やっちゃえ!」

 ワンカナが乗る樹木の巨人が巨大すぎる拳を振るう。狭い谷を押し広げるようにして立つ巨人が腕を振るうと、身体に触れている谷ががらがらと砕け崩壊していく。

「相手の力も計れん雑魚が! そんな非力で魔王様や俺様と戦おうなど笑うどころか怒りを覚えるわ!」

 ゴロラドが肥大した手を振るう。樹木の巨人の拳はゴロラドよりもはるかに大きい。しかし巨人に比べればドングリのように小さな彼の拳が巨人の拳に激突すると、砕けたのは巨人の拳の方だった。

「え?」

 まさか。いくらなんでも今のワンカナの強い力で召喚した巨人がここまで脆いはずがない。こんなにもまだ力の差があるわけがない。

 間髪入れず、アキハイトが跳びかかり剣を振るう。しかしゴロラドは右手を振るうと太い爪でアキハイトの魔術で編まれた剣を粉々にしてしまった。

「馬鹿な。今の俺の力で編まれたこの剣の刃で斬り裂けないなどあり得ん」

「魔王が首の中でも十首は別格なのだ。その十首の中でも俺様は別格なのだ。身の程を知れ雑魚共が。決戦を前にこの程度しか鍛えてこられなかったのか。魔王様を失望させるな」

 ゴロラドは頬を膨らませ、次いで息を吐き出すように炎のブレスを噴いた。

 その炎はとても豪快。血のように真っ赤だ。ただの炎ではない。溶岩が大気を燃やし火に包まれている。

 ブレスは膨大。アキハイトはセラピスのブレスを見ていたが、それとはまるで規模が違う。山より大きく雄大な樹木の巨人を丸ごと焼き払うほどとんでもない物量だった。

「うわあっ」

「ワンカナ!」

 アキハイトは剣を砕かれた反動を利用して反転し、樹木の巨人の頭に降りる。そしてブレスの強大さに驚くワンカナを抱きかかえると即座に跳び退く。

 間一髪。二人が跳び退いた次の瞬間、巨大すぎる樹木の巨人を丸ごと包み込む膨大な火と溶岩のブレスが巨人を包み込む。

「ああっ。僕の巨人が」

 樹木の巨人は木で編まれているゆえ火に弱い。それでも強い魔術で編む事により火にもかなり耐えられる強度を持つ。しかしゴロラドのブレスの火は強すぎる。樹木の巨人の防御力など無いに等しく一瞬で燃やし尽くし消し炭にしてしまった。

 谷の上に降りたったアキハイトはワンカナを下ろす。ワンカナは燃えて砕け消えていく樹木の巨人を呆然と見守る。

「嘘だ……こんな……だって、枯れた大地とはいえ深い地中から自然の生命力を引き出して召喚したんだよ? 十分強いんだ。なのにその樹木の巨人がこんなにあっさり倒されるなんてあり得ない。魔王ならともかく、その内の首一本にしか過ぎない魔王が首と、ここまで力の差があるわけないよ……」

 呆然とする二人の眼前にゴロラドが現れる。かろうじてその動きが見えた。魔王ほど強さが乖離しているわけではない。それでも今の二人を束ねたよりもはるかに強い。

「この雑魚共が。魔王様と戦おうというのにこの程度にしか鍛えられなかった軟弱者共が。魔王様は貴様等との決戦を望んでおられる。だから殺しはしない。本当は魔王様にお目通りする事すら許したくはない。しかし魔王様の命令は絶対。ベイドは魔王様の大事な首なのだ。必ず連れて帰る。貴様等にも見届けさせてやろう。貴様等に信頼する者の裏切りを味わわせる。魔王様が受けた裏切りの苦痛を味わい抱え乗り越えさせ、真に強く対等な立場の敵として決戦する。魔王様から授かった使命の総仕上げなのだ。だから生かしておいてやるだけだ。忘れるな。貴様等は弱いただの雑魚だ。魔王様の首の一本にしか過ぎん俺様にも及ばん」

 ゴロラドは両手の拳を振るう。ワンカナもアキハイトも対応出来ない。早すぎる。魔術を行使する刹那の時間すらない。

 ゴロラドは二人を殴り倒す。ワンカナとアキハイトは派手に吹っ飛び地面を何度も跳ねながら転がっていく。アキハイトの方はより強く殴られたのだろう。魔術で編まれた強固な鎧が砕け散った。

 殺さないほど手加減している。全力ではなく軽く撫でたに過ぎない。しかし二人は魔術による対処どころかかわす事も出来ず、ただの一撃で戦闘不能に陥った。

「げほっ、うげっ、あっ」

「ワンカナ、ぐっ、うっ」

 血塗れになり血を吐くワンカナ。腹を殴られ内臓が一部破裂している。しかし魔術師は魔術の作用で肉体の強度も増している。この程度なら死にはしない。治癒魔術をかければ助かる。

 アキハイトはワンカナよりもひどく内臓を痛めている。それでもワンカナを守るため地面を這いずり倒れている彼女に覆い被さる。

 ゴロラドは巨体を揺すってずしずしと地面をへこませながら歩いてくる。そしてアキハイトの頭を掴んで持ち上げぶら下げる。

「殺しはしないと言っただろう。人間は言葉を話せるくせに話が通じないから嫌いだ。人間に擬態するなど馬鹿馬鹿しい。しかし魔王様から分離しその使命を果たすためには人間に化けねば活動出来ん。この姿でいるのがどれほど虫酸が走るかわかるまい。貴様等が毛虫に化けるようなものだ。己の醜さにおぞましさを覚えるだろう」

「ぐっ、き、さま」

「俺様にかなわんのがわかっただろう。もう動けまい。頭の悪い貴様等人間にもわかるようにわざわざ人間などの汚らわしい言葉を話してやっているのだ。愚鈍な頭で理解しろ。殺しはせずともその女は人質だ。これ以上無駄な抵抗をして俺様の手を煩わせるならその女の手足を一本ずつ引きちぎり、本当に毛虫のようにもぞもぞ動く醜い胴だけにしてやるぞ」

 アキハイトはもう動けない。致命傷だ。魔術で治癒しないと時間が経てば死ぬ。しかし全てが終わるまで治癒魔術の行使すら許されない。動けないままおとなしくしていろと脅されている。

「ワン、カナ、に、手を、出す、な。ちぎるなら、俺にしろ」

「俺様に指図するな。この雑魚が」

 ゴロラドは少女が花びらを一枚ちぎるように軽やかにあっけなく、右手で頭を持って吊り上げているアキハイトの右腕を左手のドラゴンの爪で掴むと、肩からむしり取り苦痛の絶叫をもってそれ以上何か言うのを黙らせた。

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2015年04月25日

ドルイド少女ワンカナ(47)迷子の袋小路

ドルイド少女ワンカナ(47)迷子の袋小路

 ベイドとラズリは並んで魔術を放つ。黒い霧と赤い炎が放射され、それは一直線にカーボーンに向かっていく。

 カーボーンは瞑っていた目を開き、わずかに首を後ろに反らす。左右に下ろした手が肥大し、青い鱗に覆われたドラゴンの手となり太い爪が生える。

 足も同じく肥大し、青い鱗と太い爪を持つドラゴンの後ろ足と化す。背中からは長く広がる青い蝙蝠のような翼が広がる。

 その翼を曲げて身体を包むように前に振るう。青い突風が巻き起こり、向かってくる黒い霧と赤い炎を吹き飛ばして打ち消した。

 カーボーンはドラゴンの牙が生えた口を開いて語る。

「ドラゴンの翼は魔術を吹き飛ばす力を持つ。この程度の魔術は俺には通用せん」

 ベイドがふっと笑う。

「わかってるよ。今のは小手調べ、ほんの挨拶だぜ。俺たちの魔術はこんなもんじゃねえ。なあラズリ」

 ラズリもベイドと同じく凶悪に笑って答える。

「ええベイド。魔王が首の中で最強の、十首の一人がこの程度の魔術を打ち消せないほど弱いんじゃ話にならないわ。歯ごたえのある敵でよかったわ」

「まあ俺たち二人は最強のコンビだ。奴がどんなに強かろうが敵じゃねえがな。思い切り戦ってもよさそうなので安心したぜ。弱い者虐めはまあ楽しいけどよ。強いやつをぶちのめす方がもっと楽しいってもんだ」

「ええ。やっぱりベイドは最高の恋人よ。気が合うし身体の相性も最高。愛しているわ」

「俺も愛しているぜラズリ。何があっても俺たちは一緒だ」

「うれしい」

 たとえベイドが魔物であっても。二人はそれを乗り越えてなお愛し合い続ける強さを持つ。

 カーボーンはまた目を瞑って思案する。

「うらやましいなベイド。人間の愛を理解しそれを得られた。魔王様もきっとうらやましがるだろう。ヒエン様は魔王様が魔物である事を受け止め切れず、その愛を覆してしまわれた。お前たちはそれを乗り越えなお愛し合えるのだな」

 ラズリが答える。

「ヒエン姫は愛が弱かったのよ。私は違う。恋人の全てを、清濁全てを飲み込み愛せるわ。ベイドは渡さない。私の物よ。たとえベイドが魔物だとしてそれが何? あんたに触れられ封印が解けないなら今のまま、完璧な人間のままなんでしょ。今の彼は人間だわ。それでいい。ずっとそれでいいのよ。本性なんて愛の前には取るに足りない障害よ」

「素晴らしい。魔王様はきっとお前たちの愛を知りたがる。実に素晴らしいぞ。思わぬ成果だ。魔王様はお喜びくださる事だろう。ベイドを連れ帰り、魔王様が取り込めばその記憶も体験も吸収出来る。魔王様は魔物の本性を知ってなお愛してもらえる喜びを、かつて得られなかった至福を得られるのだ。ベイド。よくやった。魔王様はきっと褒めて下さる事だろう。アキハイトに裏切りの苦痛を味わわせるだけでなく、魔物の本性を知られてなお愛してもらえる喜びまでも持ち帰るとは。大した成果だぞベイド。よくやった」

 ベイドが歯を向いてあざ笑う。

「へっ。くそくらえだぜこんちくしょう。魔王のためなんかじゃねえ。俺は俺のためにラズリを愛したんだ。この気持ちをそんな風に手柄だの役目だのといった物にすんじゃねえよこの阿呆が。てめえに褒められると虫酸が走る。ぶっ殺してやるぜカーボーン。てめえは心底いらつくからよお」

「俺はお前を実に気に入ったぞベイド。魔王様のために最大の成果を果たしたお前を絶対に連れ帰る」

 カーボーンは背中に生えた長い翼をはためかせ上空へ舞い上がる。腰の後ろから長く太い尾を生やした。

「魔王が首は強いほどよりドラゴンの力を発現出来る。最強の十首だけがここまで同時にドラゴンの力を発現し身体を変質させられる。手足と牙、翼、そして尾。胴や腕と脚は人間の形のままだ。皮膚の一部に鱗が生えるにとどまる。俺たちは完全なドラゴンには変化出来ん。あくまで人間の姿の擬態に、ドラゴンの力が露出しているだけだからな」

「へっ。醜いぜカーボーン。本物のドラゴンはまだ見た事がねえけどよ。絵で見るドラゴンはそりゃあ美しく完璧な姿形をしているぜ。そんな人間と魔物が混じった醜い異形じゃねえぜ」

「美しいか醜いかなど関係無い。強いか弱いか。それだけが大事ではないのか?」

「違いねえぜ。へっへっへ。本気でかかって来いよカーボーン。でないと瞬殺だぜ」

「言っただろう。最強の十首は魔王が首の中でも別格。セラピス程度を基準に計れる物ではない。魔王様には及ばずとも人間の魔術師など、二人どころか十人揃おうと俺には及ばない」

「その言葉そっくり返すぜこの阿呆が。魔王が首なんざなあ、今の俺たち相手には十首全部揃えようと敵じゃねえよ。なあラズリ」

「ええ。人間の魔術師の中でも最強の私たち二人のコンビ相手に勝てる魔物なんていないわ。魔王だって倒して見せるわよ」

 無表情なカーボーンがまた口をかすかに歪めて笑う。それだけ楽しんでいるという事か。

「ふっ。うぬぼれでも強がりでも無い。根拠の無い自信。しかし強く揺るがない。人間は実に面白い。心の強さも多様で俺には擬態し切れない」

「へっ。人間に擬態するのも面白がるのもこれでおしまいにしてやるよ。人をおちょくりやがって。てめえみてえに人間を遠くから見下している奴が人間の完璧な擬態を出来るわけねえだろが」

「そうか……そうだな。俺は人間を下に見ているから人間に近付けないのかもしれんな」

「てめえのお遊びはこれでおしまいだぜカーボーン。ソーサラー魔術、迷子の袋小路」

 ベイドが左右に腕を伸ばす。その両の掌からぶわっと黒い霧が吹き出し、それは遠くから湾曲しながら上空に浮かぶカーボーンの背後に回る。

 カーボーンはドラゴンの翼をはためかせ吹き飛ばそうとする。しかし黒い霧は吹き飛んでも形を変え別の方向からまたカーボーンを包み込もうとする。

「迷子の袋小路。袋小路に閉じ込められ迷子になり続ける。どこにも行けねえよ。ドラゴンの翼のはためきは魔術を打ち消せる。しかしそれはある程度の魔術までだ。強度が強い俺たちの魔術は打ち消せねえ。さっき放った弱い魔術とは違うんだぜ」

 カーボーンは黒い霧の魔術を打ち消せないので、翼をはためかせさらに上空に飛び去り逃れようとする。

 しかし黒い霧は彼を追いかける。カーボーンはブルードラゴンの力を持つ。電撃の力を持つブルードラゴンはドラゴンの中でも最速。その飛翔も凄まじく早い。それでも黒い霧はゆったりに見えてその速度に追いつき彼を包み込もうとする。

「迷子の袋小路の魔術はどこへ逃げても逃げ切れない。止まった所が行き止まりだ。行き止まりの袋小路に包み込まれ迷子になり続ける。袋小路に追いつめるんじゃなくて、逃げるのをやめれば袋小路に追い込まれるんだ」

 カーボーンはまとわりつく黒い霧を翼の旋風で吹き飛ばす。しかし吹き飛んだ霧は消えない。拡散し、また舞い戻って包んでくる。

 彼は上空をあちこちに飛び回る。ベイドたちほどの強者でなければその速度は捉えられず、反転する時のわずかな減速時にのみそこに転移したように見えるだろう。しかし広い空をどう逃げても逃げ切れない。黒い霧もそこへ同じ速度で追いかけ追いつめる。

 袋小路に追い込むのではなく追いかけてくる袋小路。逃げるのに疲れ止まればそこが行き止まりとなってしまう。

 カーボーンは黒い霧を振り払うのを諦め、空からこの谷に舞い降りてくる。急降下で谷に入りそのままベイドたちめがけて突っ込んできた。

 カーボーンは頭を下にし落下より早く飛んでくる。そして牙の並んだ口を大きく開きブレスを放つ。

 彼の口から青い電撃が放射される。電撃は最速の攻撃、刹那の速度だ。カーボーンを追いつめるため魔術に力を注ぎ続けているベイドはそれに対処出来ない。

 しかし彼は一人ではない。最愛の恋人と一緒に戦っている。だからこそ無防備に、魔術に全精力を傾けていられるのだ。

「メイジ魔術、鏡返し」

 ラズリはベイドの前に立ち両手を上空に向ける。その前に厚みのまったく無い銀色の巨大な丸い鏡が出現する。

「メイジ魔術、鏡返し。メイジ魔術は破壊に特化している。敵の力すら使って破壊を行うのよ。肉体や武器による攻撃は跳ね返せない。しかし電撃のように放たれた力ならどんなに強くても反射し敵に返す」

 カーボーンの放った電撃は凄まじい落雷のようだ。魔術の鏡はその強大な力を全て反射し跳ね返す。

「俺はブルードラゴンの首だ。己の力、電撃に対し耐性がある。俺に電撃のブレスを弾き返した所で俺には通用せん」

 ラズリはニヤリと笑う。

「おあいにく様。この鏡はただの反射じゃないわ。倍返しよ。耐性はより強い力により凌駕され浸食される。力の原理からは魔術師だろうが魔物だろうが逃れられない。私たちが強いから、あんたは手加減出来ず全力のブレスを放たなくては通用しない。ベイドはあんたを捕らえるためでなく、追いつめ全力のブレスを放たせるために魔術を行使したのよ。私がこうして全力のブレスを倍の威力で返せば、電撃に耐性を持つあんたの耐性を突き破ってダメージを与えられるわ」

「なっ……」

 カーボーンは驚く。ただの防御と侮っていた。電撃に耐性のある自分は電撃のブレスを浴びても無傷で済む。しかし全力のブレスならその攻撃力は強大。翼のはためきでは打ち消せない強度を持つ身体にまとわりつく黒い霧を全て破壊し消し去れる。だからあえて跳ね返されたブレスをその身に浴びたのだ。

 敵の攻撃や防御を利用して、してやったつもりだった。しかしラズリたちの方が一枚上手だったようだ。

「魔術の深淵は深く無限。私は鏡返しの魔術の深淵を暴き、ただの反射でなく倍の威力に増幅させての倍返しが出来るようになったのよ。あんたらは所詮魔術の知識があるだけ。まだほとんど誰も暴いていないであろう魔術の深淵までは知らず、予想すら出来ないでしょ」

 カーボーンは何か言い返す前に、自分のブレスを倍の威力に増幅された電撃を浴びる。自分と同じ力までは耐えられる電撃の耐性を突き破られ、初めて味わう電撃の激痛に苦悶の叫びを上げた。

posted by 二角レンチ at 19:59| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月24日

ドルイド少女ワンカナ(46)愛

ドルイド少女ワンカナ(46)愛

 ラズリは構えを解かない。カーボーンに向けた手を下ろさず、横にうずくまるベイドを横目で見下ろす。

「ベイド。しっかりして。あんたは魔物なんかじゃない。人間よ。そうでしょ」

「うっうっぐううううううっ」

 ベイドは目を掌で覆って泣き続けた。

 カーボーンはまるで動かない。まるで絵画のように微動だにせず、ベイドに右手を差し出したまま唇だけを動かしてしゃべる。

「ベイド。俺の右手を取れ。魔王様からお前の封印を解く力を授かってきた。この手に触れるだけでお前の封印は解け、魔物である記憶も魔物の力も取り戻せる。完全な人間として擬態するため魔物である記憶も力も魔王様が封印していたのだ。それを解いてやる」

 敵を前にしてうずくまり、めそめそ泣き続けるベイドの嗚咽がぴたりと止まる。

 ゆらりと立ち上がるベイドはまるで亡霊。生気を感じられない。虚ろで抜け殻のような表情。ラズリはこんなベイドを見た事が無く、ぞっとする恐怖を覚えた。

「……へっ。へっへっへ」

 ベイドが目を丸くしたまま口だけ歪めて力無く笑い出す。

「へっへっへ。ああくそ。お前みたいな奴はこんな嘘はつかない。だから騙されちまったぜ。思わず信じちまった。しかし俺は人間だ。人間以外の何者でもない。わかるんだよ。俺は魔物じゃねえ」

「それは魔王様が、お前を完璧な人間に擬態させるために魔物の記憶も力も封印しているからだ。お前や周りの人間にとってお前は人間としか思えないだろう」

「うるせえぞカーボーン。俺が魔物で魔王が首の一人だとしてだ。なぜ魔王はそんな回りくどい事をする? 俺を裏切り者として仕込むなら俺が魔物の記憶を持ったままいつでも裏切りを働けるようにした方がいいじゃねえか。矛盾している。だからお前の言う事は嘘なんだよ」

「裏切りには裏切りを」

「あー?」

「魔王様は人間に、一番愛し信頼したヒエン姫に裏切られた。魔王様は人間たちと全力の決戦を望んでおられる。対等の戦いをするためには、人間たちにも愛し信頼する者の裏切りを味わってもらわねばならん。アキハイトとそのパーティに白羽の矢が立ったのだ。なにせ十年前の作戦を立案指揮したのはアキハイトの父キルヘイムだからな。その息子と仲間たちに、魔王様と同じ裏切りの苦痛と悲しみを味わわせて同じ苦しみを知らしめたかったのだ。魔王様と同じ裏切られた苦しみを抱え乗り越えたアキハイトと戦う事を望んでおられる。それでようやく真に対等な立場だと言える」

 ベイドがあざ笑う。

「へっ。くだらねえ理由だぜ。俺が裏切ったとしてもアキハイトはそこまで堪えねえよ。別に恋人じゃねえんだからな」

「だがそこのラズリは魔王様と同じ、愛する恋人に裏切られる苦痛を知る。アキハイト本人ではなくとも仲間がそれほどの苦しみを味わえば、アキハイトもその苦しみを背負って苦しむだろう」

「へっ。ラズリだって苦しまねえよ。俺たちは愛し合っている。てめえの嘘なんかで崩れるほどやわな愛じゃねえんだ。なあラズリ?」

 ベイドは笑っているが、泣いたせいで目が赤い。そして今でも涙無しに泣いているようにしか見えない。ラズリに媚びて懇願するような哀れな目だ。こんな目をする弱いベイドは見た事が無い。それでもラズリは躊躇無くうなずいた。

「ええ。私たちの愛は誰にも何にもわずかも揺るがせない。ベイドは人間よ。でもたとえベイドが魔物だろうと裏切ろうと、それでも私たちの愛はひびすら入らない。カーボーン。あんたは世界一深い愛で結ばれた私たちを計れないわ」

 カーボーンはしばし考えるようにじっとした。そしてまた唇だけを動かして答える。

「たしかに俺は愛をそこまで深く理解はしていない。魔物は感情も知性も無く、それがあるかのように振る舞うだけだ。高度な擬態でもなお俺には理解出来ているとは言えない。裏切られてなお愛し続けられるなど俺の知識ではあり得ん。愛が深いほど裏切った相手を深く恨むものだろう」

「私たちみたいなのは特別。世界に類を見ないって奴よ。あんたにはわからないだろうけど、私はベイドが何者だろうと私を裏切ろうとも愛し続ける。そして力付くで私を愛させる。私たちの愛は消せない。潰せない。たとえ殺されようともね」

 ベイドは、ラズリが自分を励まし今でもなお愛してくれる事に深く感動し感謝した。

(こんな俺を、まだ……)

 ベイドはまた涙がこぼれた。しかしあわててそれを拭う。

「へっへっへ。ありがとよラズリ。俺たちの愛は世界の誰よりも深い。愛の深淵に至っている。へこたれる所だったが元気が出たぜ。お前が愛してくれるなら、俺は俺が何者だろうとお前を愛する俺でいられる」

「そうよベイド。いつもの調子が戻ってきたわね」

「おおよ。俺は俺だ。人間だ。でも人間だろうがそうでなかろうが俺は俺なんだな。ラズリを愛する俺は揺るがねえ。変わらねえんだ」

 二人は見つめ合い微笑み合う。

 カーボーンは差し出した右手を引っ込め、目を瞑りそのまま天を仰ぐ。

「……愛か。擬態によりそれがどういう物かちゃんと理解しているつもりだ。しかし完全にはわかっておらん。俺は魔王様を尊敬している。あの方のようになるためあの方を見倣う。人間にあこがれ人間の愛を理解し、それを得たいと思っている。それはとうとうかなわなかった。人間の女をいくら抱いても愛を理解出来なかった」

「犯すのは愛するのとは違うわ。愛の交わりと強姦は違うのよ」

「そうだなラズリ。俺にはまだよくわからん。魔物の交尾はただ自分の子孫を残すために雌を犯すだけの物だからな。人間の真似をして優しく抱いてやっても、それでたとえ女が俺を愛していると言ってくれても、俺は愛を感じられなかった」

「それはあんたを気分良くさせるためについたただの嘘だからよ。あるいは殺されたくなくて言わされていただけね」

「そうだろうな。もう時間切れだ。決戦の前に魔王様に取り込まれ、ただの一本の首に戻る。魔物の軍団を作るために神レベルの魔物を集めるという使命を終えて、もう俺たち魔王が首が魔王様から分離して活動する必要が無くなるからな。二度とこうして自律行動をさせてはもらえなくなる。俺は俺なりに人間を理解しより完璧に擬態出来るよう努力してきた。尊敬する魔王様のように完璧な擬態を果たしたかった。あの方に近付きたかった。俺はお前がうらやましいぞベイド。魔物なのにそこまで完璧に人間に擬態し、人間の愛を理解しそれを得られるとは。お前の代わりに俺がその役目を負いたかった」

「へっ。こんな役を欲しいならいくらでも譲ってやったのによ。ま、俺が本当に魔王が首だったらって話だがな」

「証明は出来る。俺の手を握れ。魔王様が施した封印を解いてお前を魔物に戻してやろう」

「その手に乗るか馬鹿が。俺は人間だ。だがその手に触れれば魔王から授けられた力により人間を魔物に変質させるんだろうが」

「そんな力は存在しない。いかに強大無比なる魔王様といえど、人間を魔物にしたり、魔物を人間にしたりする力は持たない。そんな力がもし存在するなら、魔王様は擬態ではなく本物の人間となっていた。そうすれば、十年前の悲劇は起こらなかったのだ」

「今の魔王は十年前よりはるかに強く成熟しているんだろうが。魔術の深淵を暴くように、魔物の力の深淵を暴いて人間を魔物にする力を手に入れたんだろうさ」

「往生際が悪いぞベイド。さっき泣いたのは俺の言葉が真実だとお前の心が、身体が理解しているからだろう。自分が魔物である事が真実だとお前はもうわかっているはずだ」

「うるせえんだよ! 俺は人間だ。魔物じゃねえしお前の言う事は信じねえ。その手に触れれば魔物に変質させられる。そうに違いねえ。だから触らねえ。触らずにお前をぶっ殺すぜ」

「いい加減にしろ。人間は知性が高くとも大人であろうともそうして時には子供のようにわがままで自分勝手に振る舞う。俺には理解出来ん。実に不合理だ」

「不合理で理不尽でわがままなのが人間なんだよ。そういう人間の性質のせいで人は人を不幸にする。しかしそれが人間として生きるって事だ。人は人を不幸にするが、幸福にもする。俺もラズリもたくさんの人間を不幸にしたし殺しもした。だがな、俺とラズリは互いを幸せにし合ったし、魔王をぶっ殺して世界中の人間を救い幸せにしてやれるんだぜ」

 カーボーンは目を瞑ったまま深いため息をつく。

「やれやれ。言ってもわからんか。お前は賢いし割り切れる。もっと素直に従うと思ったが」

「俺は素直じゃねえし敵に従う義理もねえ。てめえをぶっ殺して魔王もぶっ殺す。俺は人間のまま、ラズリと幸せに愛し合い続けるんだ」

「ふっ」

 無表情のカーボーンがかすかに笑う。ベイドもラズリも少し驚いた。

「人間は実に滑稽だ。あり得ない希望にずがって未来を夢見る。現実を直視せず逃避する。どうしてそこまで愚かなのか。理解出来ん」

「何があり得ない希望だ。現実なんだよ。てめえこそ現実を見ろよ。俺たちは今日まで鍛えに鍛えた。命がけの実戦でな。俺たち二人相手にてめえ一人でどうにかなるわけねえだろうが」

「セラピスをアキハイトが倒した三ヶ月前よりお前たちははるかに強くなっている。だが魔王様には遠く及ばない。俺にもな。ベイド。お前は俺に並ぶ実力を持つ魔王が首の中の精鋭、十首の一人だ。だが魔物の力を封じられ魔術に偽装した弱い力しか使えん今のお前は俺には及びもしない」

「阿呆かてめえ。俺たちはもう成熟を極めた神レベルの魔物だって一人で倒せるんだぜ。今日だって俺一人でキマイラを倒したし、それでもまだまだ余力を残しているぜ」

 ベイドは向こうに倒れているキマイラの死体を親指で示す。

「魔王が首の中でも十首は別格なのだ。セラピスは中堅レベル。そこから俺の実力を想定しようとも、俺は想定をはるかに超えている」

「やってみろ。まあてめえの力を見るまでもなく瞬殺だがな。おいラズリ。一気に仕留めるぞ。行くぜ!」

「ええ」

 ベイドはラズリと並び、肩を寄せ合っている。ベイドの構えた右手から黒い霧が吹き出す。その腕に添えるように並ぶラズリの左手から深紅の炎が噴き出した。

 黒い霧と赤い炎が並んで放射される。それは目を瞑ったまま微動だにしないカーボーンめがけて凄まじい速度で迫った。

posted by 二角レンチ at 17:17| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月22日

ドルイド少女ワンカナ(45)復讐

ドルイド少女ワンカナ(45)復讐

 ベイドが人間ではない。魔物であり、魔王が首の一人だと言う。魔王が首の一人カーボーンからその真実を告げられたベイドとラズリはもちろん、それを鵜呑みにはしなかった。

 ベイドはラズリと共に、カーボーンに向けて手をかざした構えを解かないまま笑う。

「へっへっへ。魔王も相当せっぱ詰まってやがるな。俺たちが予想以上に強くなったからって動揺させに来やがった。そんな姑息な手段を取らないといけないほど追いつめられてやがるんだ。わかるぜ。百本も首があってもなあ、ヒドラは首を全部切り落とされると死ぬという弱点を持つ。俺たちは五人のパラディンのパーティを合わせると二十人を超える。一人が五本も首を落とせれば魔王だって殺せるって寸法だ。もちろん俺たちは首の一本や二本に負けるほど弱くねえ。もう太刀打ち出来る。勝利出来る。だから決戦を前にあわててこうして攪乱しに来たってわけだ。情けねえ。魔王の底が知れるぜ」

「魔王様はお前たちに怯えはしない。二十人どころかお前たちほどの強者が百人いても魔王様にはかなわない。未だにそれほど隔絶している。俺の動きが見えその強さを計れるなら魔王様の強さとて想像で計れるようになっているはずだ」

「計れる程度の差なら何とか覆せるって事だぜ。届かねえ距離じゃねえって寸法だ。へっへっへ。たしかに俺たちが数人程度じゃ魔王にはかなわねえよ。しかし五つのパーティを合わせりゃ二十人以上もいる。ほとんど死ぬだろうがそれでもきっと魔王を倒して誰かは生き残れるさ。俺たちは、人間は、魔王に勝てる」

「お前は人間ではない」

「俺は人間だ!」

 ベイドが叫ぶ。構えている右手はそのままに、左手の拳でどんと自分の胸を叩く。

「俺が人間でなくて何だってんだ。俺にはわかる。俺は人間だ。魔物なんかじゃねえんだよこんちくしょう。なあラズリ。俺は人間だよな?」

 隣に並んで構えているラズリはベイドの目を見て強くうなずく。

「ええ。あんたは人間よベイド。それは間違いない。魔物の擬態なんかじゃない。どこもかしこも完璧に人間だもの」

「そうだぜ。さすがラズリ。肌を合わせても魔物だってわからないほど鈍感じゃねえもんな。へっへっへ」

 カーボーンが口を挟む。

「それだけ高度な擬態だという事だ」

「うるせえ。そんなわけねえだろ。俺は人間だ。自分でわかる。魔物の擬態はばればれなんだよ。人間そっくりでもやはり異質で違和感がある。完璧に真似し切れてねえ。俺の身体も心も正真正銘人間だ。ラズリを愛する気持ちは本物で、ラズリが俺を愛する気持ちと全く同じだと断言出来る。擬態ならそこまで人間と同じはずはねえ。なあラズリ?」

 いつもの自信満々なベイドなら、こんなにしつこくラズリに確認しない。やはり動揺は隠せない。しかしラズリは恋人を支えるために、動揺を押し殺して強くうなずいた。

「ええ。私たちは世界の誰よりも深く愛し合ったわ。だからわかる。ベイドの愛は私の愛と同じ。相手の全てを独り占めしたい。誰にも欠片も譲れない。強い独占欲に裏付けられたドロドロの熱い塊よ」

「そういうこったぜへっへっへ。俺たちの愛はドロドロで醜く、しかし何よりも熱い。この熱さは紛い物じゃ再現出来ねえ。だから本物の、人間の愛だってわかるんだよ。てめえにはわからねえだろうがな魔物さんよお」

「高度な擬態によりわかる。本物ではなくても計れるし再現出来る。お前の愛は本物そっくりの擬態にしか過ぎん。人間を完全に騙せるほどのな」

「うるせえ! 俺が人間じゃねえならこの記憶は何なんだ。俺は復讐に生きている。この復讐は何だってんだ」

「擬態、偽装、欺瞞にしか過ぎん。お前の記憶も復讐も魔王様が植え付けた偽物でしかない」

 ベイドが怒り狂う。

「んなわけあるか! これが嘘なわけがねえ。俺は覚えている。俺は知っている。この記憶は、思い出は本物だ。本物だから復讐せずにはいられない。愛する家族を殺された恨みは魔王を殺さねえと晴れねえんだよ」

 ベイドは泣きそうな顔でラズリを見る。

「お前にも言っていなかった。誰にも言えなかった。俺の復讐はな、家族を魔王に殺された復讐なんだ。俺は魔王を恨む。奴が元凶だ。奴が悪いんだ。他の誰も悪くない」

 ベイドは涙をぽろりとこぼす。あのベイドが人前で涙を見せる事にラズリは驚く。でもその気持ちが痛いほどよくわかる。

「言えるわけがねえ。この復讐は俺一人で抱えていなくちゃいけなかったんだ。だが言わせてくれ。聞いて欲しい。ずっと一人で抱えているのは苦しいんだよ。耐えられない。俺は十年前、魔術師の修行と言いながら世界を遊び歩いていた。自由な旅は楽しかった。浮かれていた。魔術で誰にだって勝てた。魔物退治で金を稼ぐ事も出来た。家族が殺された時も遠くの国で遊んでいた。俺の家族は魔王が勇者の称号と大国の姫を授かる儀式を見るためあの時あの国にいたんだ」

 ラズリもぐっと涙ぐむ。何て悲しく辛い事だろう。今までよく誰にも打ち明けず耐えられたものだ。弱音も怒りも我慢し続けた彼はなんと強いのだろう。

「俺の両親も、妹も、十年前ローガンズ国にいた。魔王が本性を現し五組のパラディンのパーティと戦ったあの時、あの国にいたんだ……」

 ベイドもラズリも敵の前で抱擁など出来ない。ラズリは構えを解かず、でも寄り添うために頭をベイドの肩に預けた。

「悪いのは魔王だ。他の誰も悪くねえ。実際に誰が俺の家族を殺したのかはわからねえ。魔王が暴れて激しい戦闘のせいで国ごとみんな巻き添えで死んだからな。でもな」

「言わなくていいわベイド。わかっているから」

「アキハイトの親父が他のパラディンと共に決行した夜討ち。隕石落下の魔術を五つ同時にぶつけて魔王を殺す作戦。その相乗効果の破壊力はあまりにも大規模で、魔王どころか周辺数十キロが一瞬で吹っ飛んだ。そこにいた人間たちは何も知らされずただ巻き添えになって殺された。俺の家族もその時にきっと死んだ。アキハイトの親父に殺されたんだ!」

「もういいからベイド」

「アキハイトの親父は悪くねえ。魔王が元凶で、仕方の無い作戦だった。実際に殺したのが誰かなんて関係ねえ。そう思わないと恨んでしまう。俺が家族を殺した仇としてアキハイトの親父を恨んだらどうなる? そのとき世界を旅しながら修行してそこにいなかったアキハイトなんてまったく無関係。まったく悪くねえ。でも割り切れねえよ。アキハイトの顔を見るたびムカついた。恨みが募った。でもあいつは悪くねえ」

 ベイドは昔をその目で見るように遠い目をした。

「魔王が暴れた噂を聞いてローガンズ国へ行った。隕石落下の相乗効果で吹き飛んだ抉れた大地が、魔王が暴れてさらに荒れていた。あれほどの規模の破壊魔術は他にねえ。町も人も巻き添えで吹き飛んだ。誰が俺の家族を殺した? 魔王に踏み潰されたのか? それともあんな大規模破壊魔術の巻き添えで町と一緒に消し飛んだのか? わからねえ。でももしかしてって疑問は拭えねえ。だからパラディンの息子アキハイトを探して旅をした。パラディンの息子たちの中で一番の若造で、口を割り易そうだったからな。そうせずにはいられなかった。きっとパラディンの息子なら真相を誰かから教えられている。そして出会った。でもあいつを恨むのは筋違いも甚だしい。だから聞くのを我慢した」

 ベイドは楽しかった思い出を振り返り、泣きながら笑う。

「アキハイトと一緒にいて笑った。それがどれだけ辛かったか。でもあいつだって辛かった。苦しんでいた。だからこそ一緒にいてやりたかった。何も言わず訊かず問い詰めず。俺たちは十年前家族を殺された同じ苦しみを抱えていた。恨むのは魔王だ。あいつは悪くねえ。あいつの親父は悪くねえ。割り切れねえけど飲み込む。アキハイトはいい奴なんだ。不器用で頑な過ぎるがとてもいい奴なんだよ。あいつの復讐を手伝う。それは俺の復讐を果たす事になる。恨むのは魔王だ。復讐は魔王を殺す事だけだ。魔王をぶっ殺す。魔物は全部ぶっ殺す。俺の怒りも復讐も魔物だけにぶつけるんだ。アキハイトの親父やアキハイトにはぶつけねえんだよおおおおおっ」

 ベイドはボロボロ泣きながら吐露する。支離滅裂で止まらない。ラズリも彼を想って泣いている。彼の苦しみ悲しみを少しでも引き受けてあげたかった。

 メールボウから十年前の真実、パラディンのパーティによる魔王への夜討ちを聞いた。魔王が暴れたのが先ではなく、隕石落下の魔術の相乗が最初の攻撃だった。それで町も人もみんな吹っ飛んだ。

 その時そこにいたベイドの家族を殺したのは魔王ではない。アキハイトの父親が他のパラディンと共に部下のメイジに命じて殺させたのだ。それが確定した。それを知ってなお、あの時のベイドは極めて普通を装い、アキハイトを責める事も殴る事も無かった。あれほど過酷な真実を知ってなお耐えた彼は何と強く立派なのだろう。誰にも真似出来ない。ラズリは彼の強さ優しさに深く感動した。

 カーボーンは冷たく告げる。

「魔王様は人間に擬態している。しかし人間をはるかに凌ぐ高度な知性を持つ。勇者の称号と姫を授かる式典で、居並ぶ観衆を城から見下ろした。その観衆の顔一人一人すら記憶に留めている。観衆の中に、幸せそうに笑う家族がいた。両親と美しい娘。隕石落下の魔術の相乗により町ごと消し飛んだであろうその家族の姿を元に、その生い立ちや今までの人生全てを今までに食らった様々な人間たちの記憶を混ぜて想像し創造した。ベイド。お前の両親や妹の姿はあのとき夜討ちの巻き添えになって死んだ家族の物だ。その人生も記憶全ても様々な人間たちの記憶を元に作った紛い物だ。作られた記憶、捏造にしか過ぎん。お前はその両親の息子ではない。妹の兄ではない。家族ではない。幸せな家族の記憶全ては作り物だ。お前が家族だと思っていた者たちの記憶にも思い出にも人生にもお前はいなかった。お前の記憶も人生もそしてその復讐も、全部どこにも存在しない偽物だったのだ」

「おおおおおおおおおっ!」

 信じない、信じたくない、信じられない。

 でもわかる。カーボーンも魔王もこんな嘘をつく奴ではない。そして頭でいくら否定しようとも自分の身体が、心が、カーボーンの言う事に震え反応し、これは真実だと痛いほど叫んでいる。

 ベイドは泣き崩れた。もう耐えられない。敵の前だというのに構えを解いて膝を折り、地面に手をついてうなだれ、まるで子供のようにおいおい泣きじゃくった。

posted by 二角レンチ at 15:58| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月19日

ドルイド少女ワンカナ(44)来訪

ドルイド少女ワンカナ(44)来訪

 結局、アキハイトは何度聞いてもワンカナを好きかそうでないかにはっきり答える事は無かった。

 一行は旅を続けた。魔王と遭遇してから三ヶ月。一日どころか一時間も無駄には出来ない。訓練も、実戦も、そして必要な休息もしっかりこなしていった。

 ワンカナはアキハイトを誘惑しては突っぱねられ、喧嘩しては相手にされず、でもアキハイトへのアタックを怠る事も諦める事もなかった。

 死にかけた時に後悔した。もう恋愛をせずに死ぬのは嫌だった。死の危険が迫っているからこそ恋愛が必要なのだ。死んでからでは出来ないのだから。

 一行は自分たちを鍛えるため、旅をしながら神レベルの魔物を次々倒していった。四人がかりで何とか倒せていたのが三ヶ月を経た今、独りでも一体の神レベルの魔物を倒せるぐらいにまで強くなっていた。

 ベイドが神レベルの魔物であるキマイラを独りで倒した。獅子の頭を持ち蛇の頭のある尾、蝙蝠の翼、カバの胴に鷲の後ろ足と豹の前足を持つという、様々な獣が混じった異形の魔物。成熟を極めたその巨体は山をも凌ぐ。

 ソーサラー魔術の幻惑で惑わし誘い魔術の罠に落として次々異形の身体を削り、とうとう倒してしまった。ラズリはもちろん危ない時は加勢するが、この旅の終わりの方ではこうしてまずは独りだけで戦い倒す実戦訓練をしていた。

「ほいっと。一丁上がり。へっへっへ。こいつもかなり強かったがもう俺の敵じゃねえぜ」

「私たちの敵じゃないでしょベイド」

「そうだったなラズリ。俺もお前たちもみんな本当に強くなった。ワンカナが仲間になる前なんて、神レベルの魔物にアキハイトと俺たち三人で挑んでも太刀打ち出来ず、いつも逃げるはめになっていたのによ。あの頃はこんなに強くなれるなんて想像も出来なかったなあ」

「人間の力は魔術の深淵と同じく底無し。いくらでも強くなれるわ。命がけで鍛え続ければね」

「そうだな。人間はいくらでも強くなれる。楽しいぜ。人間に生まれてしかも魔術師だ。強くなるのを楽しめる最高の人生だぜ」

 深い谷に棲むキマイラはつがいだ。一行は二手に分かれ、それぞれ雄と雌のキマイラと戦っていた。

 神レベルの魔物は成熟を極め、生物としての限界を超えて肥大している。それが二体も同種で出会い、つがいとなるなど極めて珍しい。子供でも生まれたらやっかいだ。そうなる前に倒せてよかった。

 ベイドが倒したキマイラは雌だ。ラズリはその死体の、少し大きくなっているお腹を見てしんみりする。

 身ごもっていたのだろう。腹を裂いて確かめる気にはなれない。昔ならそういう残酷な事を楽しめたが、今は仲間や恋人のおかげで人間としての温かい気持ちを取り戻した。もう昔ほど残酷な事が楽しいとは思えなくなってしまった。

「弱くなったのかしら。ううん。きっと強くなったのね。魔物に対しては容赦しない。でも残酷である必要は無いもの」

「何か言ったか?」

「何でもないわ。それより向こうはどうなったのかしら」

「大丈夫だろ。ワンカナも強くなったし、今日はアキハイトの番だ。おっと、噂をすれば」

 深い谷の向こうが明るく光る。アキハイトの必殺魔術、神の雷だろう。以前とは比べ物にならない、巨大な落雷を思わせる光量。巨大すぎる神レベルの魔物すらその巨体を丸ごと砕くほど膨大な雷だ。

「ありゃとどめだな。魔王との決戦に備えて全力の威力を試したって所か」

「あれを食らっちゃ神レベルの魔物でもおしまいね。そしてもちろんアキハイトは、それを外すような状況で一か八かをするはずがない」

「ああ。俺たちは本当に強くなった。強力な魔術ほど苦し紛れで放って外したらより窮地に陥ってしまう。やるなら確実に当てられるほど敵の隙を作るか敵を弱らせてからだ。キマイラは巨体のくせに俊敏だった。この谷の底で両側は岸壁、上を抑えられたらかなりやばい。俺も苦戦したぜ。上空ってのはやはり優位だぜ。翼のある奴はいいなあ」

「魔物に憧れているんじゃないわよ」

「そんなんじゃねえよ。ただソーサラー魔術は自在な飛行は出来ないからな。制限無しで自由に飛べる魔術が欲しかったぜ」

「魔術の深淵にはあるかもしれないわよ」

「いや、ソーサラー魔術は幻惑だ。制限がきついからこそ強い敵すら惑わせる強力な幻惑を使える。制限無しの飛行なんて魔術は性質からいってねえよ」

「そうね。はーあ。疲れた」

「お前何もしてないだろ」

「あんたが殺されないかはらはらしちゃったのよ。心配だけで疲れたわ」

「おいおい。今日のキマイラはここ最近の敵の中でも屈指の強さだった。旅の総仕上げにわざわざ選んだ標的だ。でも今の俺なら独りでも大丈夫だって言っただろ」

「だって」

「わかっているって。強くても何でも、恋人だもんな。心配してくれてありがとよ」

 ベイドはラズリを抱きしめる。ラズリはうっとりと目を瞑って抱き合う。疲れたなんてこうして甘えるための口実だ。ベイドもわかっている。

「いよいよ魔王との決戦ね」

「ああ。あとは決戦の地まで数日かけて行く。神レベルの魔物を狩って鍛えるのも今日で終わりだ」

「ベイド。愛している」

「俺もだぜ。へっへっへ。決戦を前に怖じ気付いたかあ?」

「……私たちはみんな本当に強くなった。それでも魔王に勝てるなんて思えない。でも誰も負ける所だって想像出来ないわ」

「それだけ強がれりゃ上等だ。決戦の地までの旅の間はもう骨休めだ。何ヶ月もきつい修行をしてきたからな。しっかり休んで疲れを抜かねえとな。でも戦わないなら体力があり余るぜ。夜はたっぷり愛してやるからよ」

「うれしい。たくさん愛してね」

 死ぬとき足りなかったと言わないぐらいに。でもラズリはそう言わず、ベイドもわかってはいたがいつものような軽口は叩かなかった。

 実際の所、魔王と戦って勝てるとも生き残れるとも思えない。でも強くなった。魔王に勝てるほど強くなったとは思えないが、魔王に怯えず立ち向かえるぐらいに心が強くなった。

 三ヶ月前に出会った魔王は動きがまるで見えず、その力の隔絶に絶望した。だがこの三ヶ月でその絶望を克服出来るぐらいには強くなった自信がある。

 たとえ死ぬとも戦える。最後まで勇気を持って戦い続けられる。二人はじっと抱き合い互いを無言で励まし合った。

 ベイドもラズリも目を瞑っている。しかし威圧を発さず動きを気取らせないよう空気すら震わせず動く性質を持つ特殊な魔物が近付くと、それを察知出来るほど強くなっていた。

「おいおい。恋人同士が最後の決戦を前に愛し合っているんだぜ。水を差すなよ。人間の心を擬態しているくせにその気持ちぐらいわからねえのか」

 ベイドが目を瞑ったまま背後にいる敵に文句をつけると、その者は静かに答えた。

「わかっている。俺は人間と寸分違わぬほど完璧に擬態している。お前の気持ちはわかるが、しかし俺がそれを重んじてやる義理は無い」

「そりゃそうだな。へっへっへ」

 ベイドはラズリを離して振り返る。そして二人並んで訪れた敵を睨みつける。

 若い男が立っていた。足音すら殺して近付いていたがもう、その隠された気配すら察知出来るほどベイドもラズリも強くなっていた。

 青く短い髪。青い瞳。精悍で淡泊な顔つき。身体は引き締まって鍛えられた筋肉が美しい。じっとしていると微動だにしないその姿は美しい彫像かと錯覚するほどだ。均整の取れた見事な体つきとりりしい顔つきの若者だ。

「一度会っただけだが忘れもしねえ。会いたかったぜカーボーン」

 ベイドは拳を反対の手で握り指をぽきぽき鳴らしながら敵を睨んで笑う。

 魔王が首の一人カーボーン。ワンカナを仲間に加えてから最初に挑んだ神レベルの魔物、リヴァイアサンと戦った時に遭遇した。あの時は動きが見えずまったく太刀打ち出来なかった。でも今は違う。もう戦える。

「三ヶ月前魔王が首の二人を俺たちが殺しかけ、魔王があわててしゃしゃり出てきて二人を助けた時以来、神レベルの魔物に挑んでもそこに魔王が首が待ち構えている事がまったく無かった。また魔王が首が殺されかけて魔王が出ばるはめになるもんなあ? 俺たちに殺されるのを恐れてもう誰も来なかった。俺たちにびびりやがって。魔王が首って言っても大した事ねえなあ」

 カーボーンはまったくの無表情だ。淡々と答える。

「同じ魔王が首とはいえ強さには個体差がある。お前たちが倒したビッドグリフは最底辺だし、セラピスとて所詮中堅レベルにしか過ぎん。しかし俺は違う。魔王が首の中でも最強の十人の一人だ」

「ほお?」

「魔王様の本性、百首のヒドラはドラゴンの首を百本持つ。ドラゴンは色により十種いる。赤、青、黄、緑、白、黒、紫、茶、そして金と銀。十色のドラゴンの首がそれぞれ十本。合わせて百本の首だ。ビッドグリフはブラックドラゴンの首の中で末席の十番目。セラピスはホワイトドラゴンの首の中で五番目。そして俺はブルードラゴンの首の中で一番目。十色それぞれの一番目の実力者である十首(じゅっしゅ)の内の一人だ」

「はっ。強さの順位がどうとかどうだってんだ。たしかにわかるぜ。昔は計れないほど弱かったからわからなかったが今のお前の強さはわかる。三ヶ月前出会った魔王の速度に肉薄している。でも俺たちはお前の速度を捉えられるほど強くなった。魔王にはまだ及ばねえが、きっともう戦えるほど強い。俺たちは一人じゃねえ。最強のパーティが五つも一度に挑むんだぜ。きっと魔王だって殺せるさ」

「そんな話をしに来たのではない。十首について説明したのは俺の強さを誇示するためではない」

「そうだったな。へっへっへ。のこのこ殺されに来やがって。この馬鹿が。俺たちはもうお前や魔王と戦えるほど強いって言っているんだぜ? なのにびびって逃げねえって事は、俺とラズリに殺されても文句は言えねえなあ?」

 ベイドは笑いながら、ラズリはきつく怒ったような表情のまま肩を寄せ背を合わせるように寄り添い、手をカーボーンに向ける。

「ドラゴンの力を見せてみろよ。身体の一部がドラゴンのそれに変化するんだろ? 魔王との戦いの前の腕試しだ。俺たちがどれほど強くなったかお前で試してやる。そしてお前を殺して魔王をびびらせてやるぜ」

 カーボーンは威嚇されても構えない。ただ静かに首を左右に振る。

「俺は前に出会った時、お前を気に入ったと言っただろうベイド。俺もお前と戦ってみたかった。俺は人間に擬態したただの紛い物かもしれん。しかし高度な擬態は本物と見分けがつかん。強くなり、強者と戦う喜びを俺も知っている。人間と同じようにな」

「だから戦いたくてうずうずしているんだろ。決戦となれば魔王に取り込まれ百首のヒドラとして戦う。自分の自我は無く意志も失われる。そうなる前に俺と戦いたかったってわけだ。わかるぜその気持ち。だが残念だな。一騎打ちでも勝つ自信はあるけどよ。決戦を前にもうそんなリスクは負えねえ。一人で来たてめえが間抜けなだけなんだよ。二人がかりで危なげなく殺させてもらうぜ。悪く思うなよ」

「そうではない。俺は魔術師のお前たち二人相手でも戦えるほど強い。しかし魔王様の首をただの一本でも損なう危険は犯せない。俺は戦いに来たのではないのだ」

「あー? 何だよ。せっかく楽しくなってきたのに煮えきらねえ奴だな。そっちにその気が無くてもこっちは魔王の首を一本でも減らしておけるこの機会を逃すつもりはねえよ。てめえはここで殺す。しかしその前に、戦いじゃないなら何しに来たのか聞くだけ聞いておいてやるぜ。遺言代わりにな」

 カーボーンは無表情だ。しかしなぜか憐れんでいるように見えた。

 彼は握手を求めるように手を差し出し、ベイドに向けた。

「魔王が首の十首について説明したのは、俺が最強の十首の一人である事を教えるためだ。そしてお前も同じだベイド。俺は戦いに来たのではない。迎えに来たのだ。魔王様の持つ十本のグリーンドラゴンの首、その内の最強であり十首の一人ベイド。お前は人間ではない。魔物なのだ。魔王が首の一人であり、偉大なる魔王様の一部なのだ」

 ベイドとラズリは動じない。敵の嘘にいちいち動じないぐらい精神が強くなった。しかし同時に動けなかった。

 だってカーボーンは、魔王は、信用出来ない敵とはいえ、このような嘘をついてまで動揺を誘うほど姑息な小物だとはとても思えなかったからだ。

posted by 二角レンチ at 17:12| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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