2015年05月23日

ドルイド少女ワンカナ(63)獅子奮迅

ドルイド少女ワンカナ(63)獅子奮迅

 もう元気は取り戻せない。しかし気力が無くてなお、今でも殺されて楽になりたいほど辛くてもなお、三人は立ち上がり戦う決意をした。

 レイズが二人を見て感謝する。

「ありがとうアキハイト。ワンカナ。ラズリはきっと私の娘ジイナだったんだわ。もう確かめようがないし、今でも辛い人生を送り最後には殺されてしまったラズリが私の娘だとは信じたくない。でもそうだとして、その罪を背負うわ。そして償う。魔王を倒すため戦うという罰。辛くて逃げ出したいけどそれでも私も一緒に戦うわ」

 ワンカナは喜んで笑う。

「うん。その意気だよレイズ」

「ふふっ。ワンカナってちょっぴり生意気ね。でもそこがまたかわいいわ」

「えへへっ」

「アキハイトもありがとう。私の罪を自覚させてくれて。私はちゃんと確認出来ない事をいい事に己のしでかした罪から逃げていたわ。それを突きつけ思い知らせてくれてありがとう。あなたも辛かったでしょう」

「辛かろうが残酷だろうが俺はパラディンだ。魔王を討つ使命を何が何でも果たす。必要ならあなたたちをどれだけひどく傷つけようともだ。こんなひどい俺とまだ一緒に戦ってくれるか?」

「もちろんよ。くじけて心が折れたままだもの。これ以上くじけようが無いわ。駄目になりようが無い。駄目なままの私で、それでも最後まで戦い続けるわ」

「よし。二人とも頼むぞ。最後の戦いだ。残ったドラゴンの首はまだ二十以上。倒れて気絶しているだけの首もまだ見たところ二十も三十もあるようだ。しかしそれが目を覚ますより早く俺たちの力は消耗し尽きるだろう。寝ている首が起きてきた後の事は考えるな。その前に生きている首を全部殺して魔王を討つ。それだけしか出来ないし他の事は考えなくていい」

「うん」

「ええ」

 女性二人は頼もしい笑顔を見せてくれる。それは同じくくじけているアキハイトを強く勇気づけてくれた。

「行くぞ二人とも。魔王を必ず倒すんだ」

 アキハイトとワンカナは力を注ぎ込み樹木の巨人を強化する。もう出し惜しみしない。全力を尽くして最速で、残りの首を全部殺さねばならない。

「サポートするわ。三人で隙を埋め合い戦う。きっと勝てるわ。私たちはみんな、今この世界で最強の魔術師なんだもの」

「そうだね。他に強い人たちはもうみんな……えへへっ。世界最強かあ。ラズリも世界最強を目指していたよ。始めはただうぬぼれていただけだったけど、終わりの方では本気で世界最強のメイジになるため頑張っていたよ」

「そう。あの子が……戦いが終わったら、あの子の話もっとたくさん聞かせてね」

「うん。約束する。だから絶対死なないでよ。生き残ってたくさんお話しよう」

「ええ」

 三人とも前を向き決意の強いまなざしをする。折れた心でなお、かなわない敵と戦うのに、こんなに強くあれる人間は他にいない。

 三人は心も力も最強。現存する最強の魔術師たち。最強のパーティ。魔王を倒せる最後の希望。人類存亡の要。

 その重責を、足りない力で果たさねばならない。しかし絶望し尽くした。これ以上絶望も、心が折れようもない。

 最低の精神状態。消耗して魔術ももう残りわずかしか使えない。とてもではないが残り二十以上もあるドラゴンの首を全部殺すなど出来るわけがない。しかし絶望の底でなお、戦う事が出来る。人間の心は魔術よりも深淵。底力は計り知れない。

 アキハイトとワンカナは樹木の巨人を全力で操る。もう余力を考えない。力尽きた後の事を考えず、ただ今を必死に戦うのみだ。

 力を注がれた樹木の巨人は防戦一方だったさっきまでと動きが違う。早く強くそして激しい。脚を操るアキハイトは駆けるだけでなく蹴りすら繰り出しドラゴンの首を折る。そして苦しむドラゴンの頭をワンカナは横から樹木の巨人の拳で思い切り殴り飛ばし血を吐かせ牙をへし折り気絶させる。

 逃げていた樹木の巨人が獰猛に、むしろ無謀に突撃してくる。逃げるのをやめドラゴンの首に次々飛びかかり乱暴に殴り倒していく。残りのドラゴンの首はその獰猛さに怯んでいるように攻撃をためらう。

「本当に凄いわねえ。凄まじい大きさの樹木の巨人。それを全力の魔術で操るとこんなに強いなんて。魔王なんて目じゃないわ。私も負けていられない」

 レイズは両手を広げて魔術を唱える。

「メイジ魔術、火炎地獄車!」

 空中に火の玉がいくつも現れる。それは弧を描いて炎の軌跡がつながり輪となる。

「おおっ。さすがに凄いな」

 アキハイトが感心する。

 一つしか召喚出来ないはずの炎の輪。しかしレイズは魔術の深淵を暴き、他のメイジなら一つしか召喚出来ない魔術を複数同時に召喚出来る。

「凄いやレイズ。火炎地獄車を一つでなく三つも同時に出現させた。この魔術、ラズリが得意だったんだよ。よく使っていたなあ」

「あの子が、ジイナがこれを?」

「うん。きっとお母さんが使っていたのを昔見ていたから、それで好んで使っていたんだろうね」

「そう……」

「ねえレイズ。たしかにラズリは、君の娘ジイナは君に捨てられたせいでとても不幸な目に遭い最後は無念の内に殺された。さんざんな人生だったと思うよ。君をとても恨んでいたと思う。それでも愛していたと思うんだ。恨んでも憎んでもなお愛する。ずっと大好きなまま慕っていた。でなけりゃ別れる前に見ていた君と同じような髪型をしたり、同じメイジになったりしなかった。君の得意の魔術を好んで使ったりしなかった。もし生きて君に会えてもきっと自分が娘だとは認めなかっただろうね。自分の不幸な人生の責任を君に押しつけたくないから。でも気付いて欲しい。だから君の面影を追って、髪型も服も魔術も君を真似したんだ。君に知られたくないと同時に、君に気付いてほしかったんだ」

「……」

 アキハイトが口添えする。

「レイズ。ラズリは他のパラディンのパーティについて俺から聞こうとはしなかった。自分がいれば他の連中なんかいらないと強がってな。確かめたくなかったのだろう。でもわかっていた。自分の父親が十年前全滅したパラディンのパーティの一員で、あなたがその復讐のために自分を捨てて魔王と戦う決意をした事を。きっと今のパラディンのパーティの一員として世界最強のメイジとなっている。確かめなくてもそうに違いない。最強のメイジの座で待っていてくれる。だからラズリは世界最強のメイジにこだわっていたのだ。あなたの所へたどり着き再会を果たすために」

「ううっ」

 レイズは涙をこぼす。でもすぐにローブの袖で拭う。

「もう。湿っぽい話は後でね。勝って生き残ってからたっぷりしましょう。そのためにはまずこの戦いを終わらせなくちゃ。今はもうあの子の事は言わないで。また泣いちゃうじゃない」

「すまない」

「ごめん」

 アキハイトとワンカナは口をつぐみ、戦いに集中する。

 勝てない。生き残れない。もう話は出来ない。だから今したがった。しかしそんな弱さは許されない。全力で戦いに集中しないといけない。殺されるまでのわずかな時間を悲しみや切なさに酔う事すら彼らには許されないのだ。それが償いという罰だった。

 火炎地獄車の魔術はその中心に術者の魔術師を据え、魔術師は魔術と共に空を駆ける。しかしレイズは一つしか召喚出来ないはずの炎の輪を三つも同時に上空に出現させた。それを同時に操るのに全力を集中させねばならない。炎の輪と共に空を飛ぶ余裕は無い。

「これが最後の魔術よ。私の一番の得意魔術。これに全力を注ぐわ。これが砕かれたらもう打ち止め。これで残りの首を全部焼き尽くしてやるわ」

 三つの巨大な炎の輪は高速で回転し、炎をまき散らしながら飛翔する。そしてそれを噛み砕こうとするドラゴンの牙をへし折りその口を切り裂いて、燃やし尽くし消し炭にしてしまう。

「うわあっ。熱い熱い」

 回る炎の輪は高速で空を駆け巡る。時折樹木の巨人にも接近する。距離は十分離れているがもの凄い火力で、離れていても熱が届く。ワンカナはその熱さにたじろぐ。

「樹木の巨人まで燃やさないでよ。樹木だから炎には特に弱いんだから」

「ごめんなさいね。魔王の首はどれも強いわ。私の最大火力でも炎に耐性のあるレッドドラゴンの首は焼けない。炎に弱い樹木の巨人だけど、それでもレッドドラゴンの首は任せたわよ」

「うん。炎のブレスに焼かれないように倒していくよ」

 アキハイトは樹木の巨人の脚を操りレッドドラゴンの首を狙って近付く。燃える溶岩のブレスを吐きかけられ、それをかろうじてかわす。

 敵も強者。樹木の巨人はブレスをまともには浴びないが、次々浴びせられるブレスで所々損傷している。炎のブレスで樹木の巨人のわき腹が焼かれ燃え出す。

「ワンカナ」

「わかってるって」

 さっきからブレスがかするたび、その効果が広がらないようにその部位の樹木を枯れさせ切り離してきた。ワンカナは燃えるわき腹の樹木を枯れさせ炎ごと切り落とした。

 もう樹木の巨人はボロボロだ。ブレスがかするたびこうして切り離し損傷を最小限にしてきた。しかしもう的は樹木の巨人一体のみ。多数のドラゴンの噛みつきもブレスも全部集中砲火を浴び、どんどん削られもう瓦解寸前だ。

「負けるもんかあ。行っけえー!」

 ワンカナは叫ぶ。樹木の巨人はレッドドラゴンの首に飛びかかり、空中で大きく振りかぶった拳で思い切り殴った。

 レッドドラゴンの頭が、折れた牙と吐いた血をまき散らしながら吹っ飛びどさりと倒れる。

「えへへっ。このレッドドラゴンの首がゴロラドだったらいいな。これでベイドとラズリの仇を討った事になるもん」

「そうだな。きっとそうだ」

 レイズは黙って聞いている。詳細は知らない。しかしゴロラドという魔王が首が娘の死因らしい。

 その話だって生き残ったら聞ける。娘の最後を聞かずに死ねるか。レイズはラズリにそっくりの、とても険しい顔つきで炎の輪を操り続ける。

 燃える巨大な炎の輪は車輪のように高速で回転し続ける。敵に当たり燃やすとその分だけ火力が衰える。しかし炎が弱まった部分も回転して戻ってくる頃には火力を取り戻している。火炎地獄車の魔術は回転を止めない限り、いくら弱まってもまた火力を取り戻し敵に地獄を見せ続ける。

 アキハイトたち三人は猛々しく吠える。全力で魔術を行使する。汗を吹き顔が険しい。必死だ。死力を尽くしてなお足りない。それでも止めない。

 ドラゴンの首を次々殴り倒す。燃やしはねる。その猛威は凄まじい。生きているドラゴンの首たちは怯えているようにすら見える。

 それでも襲いかかってくる。ブレスを吐きかけてくる。樹木の巨人と炎の輪はドラゴンの首に飛びかかってはなぎ倒す。

 気付けば残った首はあと一本。他の首は死んだか気絶しているか。生きて活動しているあの首を殺せばあとは倒れて気絶している首を殺して回るのみ。

 必死だった。死にもの狂いだった。後先考えなかった。消耗して力尽きる事を恐れ力を温存していればきっとここまで倒せなかった。時間がかかり時間切れとなり、気絶している首まで復活してアキハイトたちは敗北していたに違いない。

 後の事を考えない開き直り、やけっぱちが功を奏したのだ。気付けば勝利は目前。それでも必死過ぎるアキハイトたちの気が緩む事は無かった。

 もう削られまくり片腕すら失って、まるで骨だけになったようにすかすかの樹木の巨人は、その今にも崩れそうなほど哀れな姿でそれでも獰猛に勇ましく、残り一本となったレッドドラゴンの首に飛びかかった。

 レッドドラゴンの首は炎に耐性があるから火炎地獄車では殺せない。樹木の巨人だけが頼りだ。

「届け、届けっ」

「行っけえ、樹木の巨人ー!」

 アキハイトとワンカナは叫ぶ。樹木の巨人はボロボロの身体でなお力強く飛びかかり、残った腕で殴りかかった。

 レッドドラゴンが燃える溶岩のブレスを放つ。もう避けられない。樹木の巨人は拳ごとその巨体を吹き飛ばされ粉々に燃やされる。頭の上に乗っていたワンカナたち三人は宙へ放り出される。

 そこを、レッドドラゴンの首が大きな牙をむいて襲ってくる。飲み込むなんて生優しい事はしない。牙で噛み砕き殺すつもりだ。

 レイズは炎の輪を三本とも操り、その輪の中心に自分たち三人をそれぞれ納める。この魔術は中心に据えた者を輪と共に宙に浮かして飛行を可能とする。

 しかし炎に耐性のあるレッドドラゴンは、その隙を突いて炎の輪を次々噛み砕いた。ドラゴンは翼のはためき以上に噛みつきにより魔術を砕き殺す力を持つ。一カ所噛まれただけで炎の輪全体が破壊され消滅する。

「うわあああっ」

 三人は炎の輪による飛翔を失い落下する。そこをレッドドラゴンの牙が再び襲いかかる。

「メイジ魔術、嵐の鎧!」

 レイズが唱える。風が巻き起こり嵐の渦となり彼女を包み込む。

 しかし火炎地獄車に全力を注ぎ消耗した彼女はもう魔術をろくに使えない。弱々しい風をまとうだけ。こんな物ではドラゴンの牙を防げるわけがない。

 レイズは嵐の鎧をまとい飛翔する。この魔術はその作用として包み込んだ術者を滑空させる事が出来る。

 それで逃げるかと思いきや、彼女はドラゴンの牙に向かって飛んで行った。

「二人とも、私が食われている間に逃げて!」

 どうせ殺されるなら守れなかった仲間の代わりに誰かを守って死にたい。自己犠牲ではなく自己満足にしか過ぎなかった。

「レイズ、駄目だ、戻って!」」

 ワンカナが悲痛に叫ぶ。しかし全力を使い果たしたワンカナはもう何も出来ない。ただ見守るしかない。

「死なせない。もう仲間を死なせない。パラディン魔術、神の雷!」

 アキハイトは魔術武装の剣を紡ぎ出す。そして突き出したその剣先から雷をほとばしらせる。

 アキハイトも樹木の巨人を操る神の騎馬の魔術で全力を使い果たした。もう魔術を行使する力が残っておらず、剣は火花をパチパチと発するだけで雷を作り出せない。

「ああっ。もう駄目だあっ」

 ワンカナが絶望の涙をこぼす。仲間が殺されるのをまた見ているしか出来ない。ラズリの時と同じだ。そしてそのすぐ後に、自分たちも殺される。

「諦めるな。諦めんぞ。神よ。おられるのでしょう。見守っているのでしょう。あなたは人間に試練を与え決して手を貸さない。しかしお願いです。奇蹟を。一度だけ奇蹟をお恵みください。そのためなら何をも捧げます。この命でも信仰心でも何でも捧げます。だからどうか一度だけ、一度だけ奇蹟のお恵みをおおおおおっ」

 神は応えない。剣先の火花が消える。神は人間に試練を与えるが、奇蹟は決して与えてくれない。

 神の無慈悲にアキハイトはぐしゃりと顔を歪め涙を浮かべる。しかしレイズがドラゴンの牙に挟まれまさに殺されるその時、アキハイトは怒りの形相となり怒号を叫んだ。

「もういい! 神などもう知らん、頼らん。俺は俺の、人間の力だけで人を救う。奇蹟を起こす!」

 神を信じ生涯全てを信仰に捧げたアキハイトが神を捨てた。それがどれほど凄まじい事なのか。己を真っ二つに裂かれるよりも辛い事に違いない。

 誰にも出来ない。しかしアキハイトは仲間を救うため、神頼みをやめて自分の力で何とかしようとした。

「うおおおおおおおおっ」

 火花が消えたはずのアキハイトの剣が再び輝き出す。火花より激しい電撃を放ち、膨大な雷と化す。

 剣の先からほとばしる雷がアキハイトを包み込む。巨大な雷と化したアキハイトが刹那の速度で突進し、その雷でレイズを噛み殺そうとしていたレッドドラゴンの頭を貫いた。

posted by 二角レンチ at 15:31| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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