2015年05月24日

ドルイド少女ワンカナ(64)終戦

ドルイド少女ワンカナ(64)終戦

 レイズがレッドドラゴンの牙に噛み殺される寸前、アキハイトが神の雷の魔術でレッドドラゴンの頭を吹き飛ばした。レイズは間一髪、殺される前に宙へ放り出された。

 レイズは間近で浴びた電撃の余波で感電し気絶していた。高い位置から落下する。このままヒドラの背に落ちたらこの高さだ。死んでしまう。

「ドルイド魔術、蔦の触手」

 レイズより下を落下しているワンカナが魔術を行使する。もう樹木の巨人に全力を注いで消耗し切ったので魔術は使えない。その手からは蔦が出てこなかった。

「くそ。くそ。アキハイトだって消耗し切っていたのに奇蹟を起こしたじゃないか。僕だって。僕だってえええええっ」

 ワンカナは死力を振り絞る。出ろ。出ろ。蔦の触手!

 ワンカナの必死さに応えたのか。身体に残ったわずかな力を絞り出したのか。ワンカナの両手から緑の蔦が何本も、絡まりながら伸びていく。

「やった。やったあっ!」

 ワンカナは右手の触手を伸ばして上にいるレイズに巻き付け引き寄せる。気絶している彼女を蔦で自分の身体に巻き付け固定する。

 左手の触手を伸ばし、今頭を雷で吹き飛ばされたばかりのドラゴンの首に張り付ける。この触手は絡みついたように壁などに張り付く事が出来る。ドラゴンの首に張り付けた触手を滑らせ落下の勢いを殺しながらワンカナはなんとか着地する。

 勢いを殺し切れない。ゴロゴロと転がる。でも落下による死は免れた。ワンカナは止まると蔦を解き、あわてて上を見た。

「アキハイト!」

 アキハイトも消耗し過ぎて気絶していた。雷が解け宙を落下している。

「た、助けなきゃ」

 ワンカナは立ち上がろうとしたが、がくりと膝をついた。

「あれ、あれ、力が入らない」

 消耗し尽くしたのにさらに魔術を絞り出したのだ。もう身体に何の力も残されていない。気力でかろうじて気絶していないだけで、動く力は残っていなかった。

「動け。どうして。蔦の触手!」

 消耗して消失した蔦の触手はもう出せなかった。ワンカナは手をかざして必死に魔術を唱え続ける。

「蔦の触手。お願いだよ。もう一度だけ。自然よ。力を貸して。アキハイトが死んじゃう。誰か助けてええええっ」

 いくら泣いても誰もいない。助けてくれない。自然の力を借りるドルイド魔術でも、力を借りるための魔術を使えないなら自然の力を行使出来ない。

「ああああっ。アキハイトおおおおおおっ」

 ワンカナは、愛するアキハイトが高い場所から落下し頭からヒドラの身体に落ち、首を折って死んでしまう瞬間をただ見守るしか出来なかった。

 その瞬間を覚悟し、でも目を瞑る事は出来なかった。恐怖の一瞬。それをワンカナは目を見開いて見届けた。

 ワンカナが愛する人の死を覚悟したその時、しかしそれは訪れなかった。

「……え?」

 気が付くと、ワンカナは地面に膝と手をついていた。どうして。さっきまでヒドラの背にいたのに。

 島のように巨大なヒドラが消えていた。隕石落下の魔術で抉れた大地の傷跡に、ワンカナはうずくまっていた。

 きょろきょろと周りを見回す。レイズはさっきと同じく横に寝ていた。生きている。しかし広大で荒れた大地にアキハイトの姿は無かった。

「アキハイト。どこ行ったの。アキハイトおおおおっ」

「ここですよ」

 その声にワンカナはぎくりとする。忘れもしない男の声。神経を逆撫でする慇懃丁寧な口調。

 振り返るのが恐ろしい。しかし恐る恐る振り返る。

 そこには魔王がいた。魔王アソールド。人間の姿に化けている。彼は全身ぼろぼろの血塗れで所々肉が欠け骨すら露出している。殺したドラゴンの首の分だけ傷を負っていた。

 しかし生きている。ドラゴンの首を全て殺したわけではない。樹木の巨人で殴り倒し気絶しているだけの首はまだ生きており、ヒドラは首を全てはねない限り殺せない。

 魔王が意識を保っているという事は、気絶した首の内少なくとも一本は意識を取り戻していたのだろう。いや、気絶したままの振りをして攻撃をやり過ごしていたに違いない。

 完全な敗北だ。ワンカナたちが活動している首を全部殺して安堵した所で、気絶している振りをしていた首数本で襲うつもりだったのだ。ワンカナたちに勝ち目は無かった。死力を尽くしてなお、首を全部殺し切れなかった。力不足のどうしようもない敗北だった。

「魔王」

 魔王は人間に化けている時は魔物の威圧を発さない特殊な魔物だ。だから背後にいても気付かなかった。ワンカナを後ろからいつでも殺せたという事だ。もう戦う力が残されていないワンカナはどのみちもうどうしようもない。降参するしかなかった。

 魔王は腕でアキハイトを抱え上げていた。アキハイトはぐったりしている。もう戦えない。だからワンカナは無駄な抵抗をやめ、魔王に語りかけた。

「アキハイト……死んでいるの?」

「生きていますよ」

 魔王は優しくアキハイトを下ろして地面に横たえる。ワンカナは動かない身体を引きずりながらそばへ寄り、その顔に両手を添える。

「温かい。息をしている。生きている。アキハイト。よかったあ……」

 どうせ魔王にもう殺される。それでもワンカナは、今だけでも生きてアキハイトと一緒にいられる事を喜び、涙をこぼして彼に抱きついた。

posted by 二角レンチ at 20:03| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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