2015年05月29日

ドルイド少女ワンカナ(66)祝福

ドルイド少女ワンカナ(66)祝福

 アキハイトたちが魔王を討ち倒した。世界中に散り人間を殺し食らい暴れていた、神レベルの魔物の群は魔王の命令が解けて、思い思いに自分の元いた住処を目指して好き勝手に移動を始めた。

 人間をたらふく食らって満腹の魔物たちは、その移動の間ずっと人間に見向きもしなかった。だから魔術師たちも魔物を攻撃せずにやり過ごした。

 魔物が去り脅威は去った。魔物の軍勢が散った事で魔王が倒された事を知った人々は、生き残った事以上に人類の勝利を祝いパラディンたちの偉業を称えた。

 すぐに魔術師たちの救出隊が編成され出動した。魔術により大きく抉れた決戦の地は見るも無惨だった。あちこちに大量の肉片や血が落ちて凄まじい光景だった。殺されたドラゴンの首だけではない。わずかに人間の肉片も残っている。ブレスで跡形も無く死んだ者も多く、ドラゴンの牙で食い殺された者はわずかに落ちた腕などの切れ端を残すのみ。五体満足な死体はまったく無かった。

 生きていたのはわずかに三人。パラディンのアキハイト、そのパーティのドルイドのワンカナ。そしてパラディンのバンドールのパーティにいたメイジのレイズだけだった。

 他に生存者は発見出来ず、まともな死体すら見つからなかった。生死不明だがアキハイトたちの報告では魔王に殺されており、いくら待っても帰ってはこなかった。やがてその生存は諦められた。

 救出隊の魔術師たちに治癒魔術をかけられたアキハイトたちは、傷は癒えたが限界以上の魔術を行使したせいかしばらく動けなかった。彼らが回復するまで数日を待って、英雄たちの勝利を祝う祝典が開催された。

 現在世界一の大国であるヨードル国。アキハイトたちはその城のバルコニーで、城下に集まる世界中の重鎮やその外に群がる多くの人々の祝福を受け、手を振って応えていた。

「パラディン様ばんざーい! アキハイト様ばんざーい!」

「ワンカナ様ばんざーい! レイズ様ばんざーい!」

「ありがとう、世界を救ってくれてー!」

「あなたたちのおかげで世界は、みんな救われました。本当に、ありがとうございましたあああああっ」

 魔物の軍勢に襲われ世界中の人々の大半が殺された。魔物は鋭い嗅覚でどこに隠れている人間でも見つけ出し、魔王の命令に従い腹が膨れようとも食い殺し続けた。

 もう人間たちはかつての半分もいない。正確にはわかっていないがおそらく四分の一ほどしか生き残っていないと推測された。

 それでも残った人々は感謝した。大事な人たちを救ってくれなかった恨みではなく、自分たちだけでも助けてくれた事に心底感謝した。パラディンたちがもっと頑張ってくれれば被害はもっと少なかったのにとののしる輩はごく少数だった。

 いつもむすっとしているアキハイトも笑顔で手を振っている。とてもさわやかな笑顔だ。城下に群がる若い女たちが美しい顔立ちの彼に見とれきゃーきゃー騒いでいる。

 ワンカナはそれを聞いても動じない。今はもうアキハイトと相思相愛。好きだとはっきり言ってもらえた。もう恋人だ。

 でも、それも今日で終わり。今日アキハイトはこの大国の姫ウルマを授かる。ワンカナとはお別れだ。

(アキハイトは任せろとか言っていたけど、どうしようもないもんね。いいんだ。アキハイトが幸せになってくれればそれでいいもん)

 ワンカナは半ば諦め半ばすねていた。初恋は実らないってベイドが意地悪で言っていたけど本当だったとワンカナは思った。

(いいもん。アキハイトよりいい男を見つけて幸せになるもん。アキハイトの馬鹿。僕の事なんか忘れてお姫様と幸せになっちゃえばいいんだ)

 アキハイトはまだ二十代で、若く格好いい。他のパラディンは熟練していて年上だったので三十代はおろか四十代までいた。結婚するならアキハイトだ。ワンカナたちの後ろで控えている若く美しい王女ウルマはうっとりと頬を赤らめアキハイトを見つめていた。

 国王に促され、アキハイトが城のバルコニーの前に出る。世界を救った英雄として勇者の称号とメダル、そして姫を授かる儀式が始まる。まずはアキハイトが集まる観衆に演説をする。

 アキハイトは声を張り上げる。左右に控える魔術師の魔術によりその声は遠くまで届く。はるか向こうまで町を埋め尽くすほど大勢いる人々全員に届いた。

「俺たちは魔王を討ち滅ぼした。それは生き残った俺たち三人だけの力ではない。勇敢に戦い散った他のパラディンとそのパーティ、仲間全員の犠牲の上に成し遂げた勝利だ。俺たち三人だけではない。亡くなった仲間たちみんなを称えてくれ」

 人々は歓声を上げ、次々と戦い亡くなった魔術師たちの名前を叫ぶ。

 その称える声が終わるのを待ち、アキハイトは言葉を続ける。

「みんなありがとう。俺たちを、亡くなった仲間たちを称えてくれて。俺たちも、天国のみんなも喜んでいる」

 アキハイトは天を仰いで胸の前に拳を添え、目を瞑りしんみりとする。みんなもそれに倣って目を瞑り、亡くなった英雄たちに黙祷を捧げた。

「さて」

 アキハイトが目を開け口を開く。みんなも目を開いてアキハイトに注目する。

「魔王を倒すという偉業を果たしたパラディンの中から一人が、勇者の称号を授かり歴代の勇者に名を連ねる。勇者の称号とメダルを授かり、それと共に世界一の大国の姫を授かる」

 バルコニーの後ろで聞いているウルマ姫が顔を真っ赤にしてもじもじする。格好良く強い世界一の魔術師アキハイトは夫として申し分ない。国のため自由な恋を許されていないウルマは、パラディン五人の肖像画を見て以来ずっと、不謹慎だがアキハイトだけが生き残ればいいと願い恋をしていた。その願いがかなってとてもうれしそうだった。

「この式典にこれほど大勢集まってくれてありがとう。感謝に絶えない。俺はパラディンとしてその努めを果たさねばならない。みんなの期待に応えねばならない」

 やっぱりそうじゃないか。アキハイトの馬鹿。ワンカナは心のどこかでアキハイトがこの義務を放棄してくれると期待していた。でもアキハイトはパラディンだ。与えられた義務を自分勝手に放棄する事などあり得ない。

 みんな勇者の誕生と、大国の姫と勇者の結婚を祝い早くもお祝いの言葉を叫んで盛り上がる。

「だが」

 神妙な顔をしていたアキハイトが、突然いたずらっぽい笑顔を見せた。ワンカナは初めて見るその顔にドキリとした。

「みんなすまない。実は俺はもう、パラディンではないのだ。だからパラディンの義務を果たせないしその資格も無い」

 突然何を言っているのだ。みんな困惑しざわめく。ワンカナもわけがわからず目を丸くする。

 後ろにいて笑顔で演説を聞いていたこのヨードル国の国王が前に出ようとする。しかしそれより早く、その横にいたウルマ姫が駆け出しアキハイトの腕にしがみつく。

「アキハイト様。何をおっしゃられるのですか。あなたは魔王を倒した立派なパラディンです。世界一の英雄、勇者の称号にふさわしい偉業を果たしました。そして、そして、私の夫になるべきお方です」

 アキハイトはにっこり笑いながらウルマ姫の肩に空いている手をかけ、腕にしがみつく彼女をぐいっと引き離す。

「ウルマ姫。申し訳ありません。俺はあなたとは結婚出来ません。パラディンではなくなりました。勇者の称号も、あなたを授かる資格も失う大罪を犯しました」

「そのような事。あなたが為したのは偉業です。あなたに罪などありません」

 アキハイトはウルマをわきに押しやり城下の人々の方を向くと、大声で訴える。

「俺は神に仕えるパラディンにあるまじき不敬を働いた。魔王との戦いの最後の最後、俺は神に一度だけの奇蹟を願った。懇願した。しかし神は奇蹟を授けてはくださらなかった。神は俺を、パラディンを、人間を見放し見捨て死ぬに任せたのだ」

 アキハイトは怒りと共に握りしめた拳を振るう。誰もがその迫力に圧倒され何も言えなかった。

「俺は神が奇蹟を授けてくれないから、自分で奇蹟を起こした。消耗し切った身体でなお強力な魔術を放って魔王にとどめを刺したのだ」

 みんなどよめく。消耗し切ってなお魔術を放つなどあり得ない。魔王にとどめを刺すほどの一撃など、残る力を絞り出しても不可能な、まさに奇蹟だった。

 アキハイトは知らない。神は寛大にして慈悲深い。誰よりも神に仕え奉仕するパラディンの功に報いるだけの慈悲を持ち合わせている。

 パラディン魔術の深淵、神の奇跡。パラディンが神の加護を離れ一人の人間として旅立つ決意をした時、それまでの労に報いて奇跡を授ける。パラディンの力全てと引き換えにただ一度だけ、消耗し切っていようとすでに放った単発式の魔術であろうとどんなパラディン魔術でも行使出来るのだ。

 神は不敬すらお許しになられるほど寛大。アキハイトはそれを知らず、神に対する怒りを込めて続ける。

「神などいない! 神の奇蹟など無い! いるのは人間、そして魔物だ。奇蹟を起こすのは神ではない。人間だ。忘れるな。人間は奇蹟を起こせる。神にすがり祈らなくとも、自分たちの力だけで未来を切り開けるのだ!」

 そんな馬鹿な。何を言っているのだ。アキハイトは魔王との戦いで心が壊れおかしくなってしまったのだ。

 みんなざわめく。さっきまであんなに称えていたアキハイトを非難し責める声がだんだん大きくなる。

 アキハイトはそれを黙らせるほど大きな声を張り上げる。

「黙れ! 神など信じるな。頼るな。すがるな。求めるな。人間は強い。素晴らしい。奇蹟を起こせるほど強いのだ。神ではなく人間を信じろ。自分を信じろ。きっと何とか出来る。辛くとも絶望してもどうしようも無くても、それでも奇蹟を起こして幸せを勝ち取る力が人間には、みんなあるのだ!」

 言っている事は滅茶苦茶だ。特に神やパラディンを崇める人々の動揺や怒り、嘆きは凄まじい。怒る者、なじる者、泣く者、悲しむ者。幸せな式典が一転大混乱の阿鼻叫喚と化す。

「ああっ。アキハイト様。一体どうなされたのですか。き、きっと、魔王との戦いでお疲れなのです。心も疲れ錯乱しておられるのです。大丈夫です。魔術師たちに治療させましょう。身体の傷ではなく心の傷は魔術でも癒せない。それでも私がついています。きっと治します。ですからどうか、お鎮まりください」

「ウルマ姫。申し訳ありません。あなたとは結婚出来ません。俺には好きな人がいるのです。愛する人がいるのです。結婚したいのはただ一人だけ。心に決めた人がいるのです」

「え?」

 アキハイトはウルマを押し退け、笑顔で手を差し伸べる。

「ワンカナ、来い! お前が好きだ。結婚しよう。ずっと一緒だ。一緒に幸せになろう。お前を世界一幸せにする。約束する。だから俺を、世界一幸せにしてくれ」

 ワンカナは呆然とする。とっさに動けない。でも何を言われているのかようやく理解すると、うれしさではちきれそうな笑顔になる。

「うん!」

 もっといろいろ言いたかったけど、言葉に詰まってしまった。涙があふれて前が見えない。でも前に飛び込む。アキハイトはワンカナを抱き止めてくれた。

 そのままお姫様だっこでワンカナを抱き上げると、アキハイトは城の高いバルコニーから飛び降りた。

「アキハイト。うれしい。信じていてよかったよ」

「はははっ。任せろと言っただろう。パラディンだった時は厳格でなければならなかった。でもベイドみたいに気楽で自由に生きる事にずっとあこがれていた。これからは思い切り生きるぞ。したい事をし、我慢なんてやめだ。好きでもない女と結婚なんかするものか。ウルマ姫には悪いが、俺はお前以外と結婚なんてごめんだ」

「ああ。うれしい。アキハイト大好き」

 ワンカナはアキハイトの首に抱きつき頬にキスをした。

「ところでアキハイト。パラディンやめちゃって、魔術は使えるの?」

「あっ」

 もう着地する。高いバルコニーから飛び降りたのだ。下にいた人々はもう離れて逃げてしまっていたが、魔術無しにこの高さから落下したらけがをする。下手をすれば死ぬかもしれない。体術でいなせる高さではない。

「ちょ、ちょ、待って、僕の魔術で」

「もう間に合わん。すまんワンカナ」

 アキハイトはこんな、人の期待を裏切り大ドンデン返しをしてやる企みにわくわくしていた。こんないたずら子供の頃にもした事が無い。子供みたいにはしゃいでわくわくしていたせいで、格好良くワンカナをさらって飛び降りた後の事まで考えていなかった。

 パラディン魔術を使えないアキハイトはちょっと体術が優れているだけのただの一般人だった。

 失敗した。アキハイトは泣きそうになる。やはり慣れないいたずらなど、こんな大一番で生まれて初めてやるものではない。

 もう着地する。ワンカナが魔術でどうにかするのも間に合わない。アキハイトは脚から飛び降りているがよくて骨折。下手すれば死ぬほどの重傷となってしまう。そしてこんな事をしでかした罪は重い。神に唾し国王や姫、大衆を裏切るなど。捕らえられ、おそらく死刑にされてしまう。魔王を倒した功績でもこの罪は許されない。

 それでもワンカナだけは守る。ワンカナに好きだと、結婚したいと言って受けてもらえた。もう十分幸せだ。死んでも悔いは無い。アキハイトはワンカナをぎゅっと抱きしめ最後を覚悟した。

「ソーサラー魔術、綿菓子座布団」

 灰色の霧が素早くアキハイトたちの足下に滑り込み、彼らの下になる。ふわふわの綿菓子みたいなクッションは落下の衝撃を全部吸収し、ワンカナを抱えたアキハイトはその上で跳ねてすたっと地面に降り立った。

 どうでもいいが、この魔術は食べられる。本当に綿菓子みたいな甘い味がする。ただし腹の中で消えるので腹の足しにはならない。

 アキハイトとワンカナは目を丸くする。アキハイトのそんな顔を見てもワンカナも驚きの余り笑う事が出来ない。

「な、何? あっ」

 人混みの向こうに、懐かしい顔がいた。忘れたくても忘れられない。皮肉っぽくにやにやする大男は、手をひらひら振るとさっと人混みに紛れて消えてしまった。

「べ、ベイドだ。アキハイト。ベイドが生きて」

「違う。ベイドではない」

「見間違いじゃないよ。本当に」

「髪が黒でなく灰色だっただろう。今の魔術も黒い霧でなく灰色だった。あれはベイドの姿をしているがベイドではない。彼はもういない。あれは別人だ」

「何言っているの? あれはベイドで……あっ」

 ワンカナもようやく思い至る。

 アソールドだ。人間たちにばれないよう別の姿に変わり隠れて人間として生きるって言っていた。わざわざベイドの姿に化けて、その懐かしい顔を見せ今のピンチを魔術に偽装した魔物の力で救ってくれたのだ。

「あ、あいつったら、もう人前には現れないって言っていたのに」

「俺たちがどうなるか心配してくれていたのだろう。悪意は無い。俺がちゃんと、ウルマ姫でなくワンカナを選んだのを見てもう満足したのだろう。今度こそ本当に人から離れ、一人きりで生きていくのだろうな」

「何だよ。お礼ぐらい言わせてくれたっていいのに。格好つけて何も言わずに立ち去るなんて。一人ぼっちなんてやっぱり寂しいよ。僕らのパーティに加わればいいのに」

「それ本当ですか?」

 二人ともびっくりして横を向く。たった今、ベイドの姿をしたアソールドが立ち去ったのと反対側のすぐ横に彼が笑顔で立っていた。

「あ、アソ……」

 アソールドが指を一本立てて押し付けワンカナの口を塞ぐ。

「しっ。その名前は言わないでください。ベイドでいいですよ。彼はもういませんが、彼が帰って来たみたいでうれしいでしょう」

 アキハイトのパーティの一人ベイド。しかし彼は魔王との決戦前に魔王が首に襲われラズリと共に戦死したと報じられている。よく似ているが肖像画の髪と色が違う。彼にそっくりの兄弟でもいたのだろうかと人々は騒ぎ出した。

「な、何だよ君。もうどっか行っちゃえよ。君が僕らの仲間をどれだけ殺したか忘れてないよね? 僕らはみんな、君を今でも恨んでいるんだよ」

「つれないですね。さっきはパーティに加えてくれると言ってくれたじゃないですか」

「あ、あれは、言葉の弾みじゃないか。一人きりでずっと生きるなんて寂しすぎるって、ちょっと心配してあげただけじゃないか」

「いーえ。前言撤回なんて許しません。やっぱり一人で生きていてもつまらないじゃないですか。だからあなたたちと一緒のパーティに加えて欲しくて来たんです。いやあ、よかったよかった。こんなに早く仲間に加えてくれるなんて。しつこくいつまでもつきまとうつもりだったのですが手間が省けました。いろいろあったけどお互い水に流して仲良くしましょうね」

「ば、馬鹿な事言うなよ。君なんか大嫌いだ。パーティには入れてあげないんだから」

「うふふ。それならメイジも必要じゃない?」

 ワンカナはびっくりして、アソールドと反対側を振り向いた。

 レイズが立っていた。いつの間に城のバルコニーから降りてきたのか。

「れ、レイズ」

「いいでしょ? パーティにはやっぱりメイジが必要でしょ。私もどこかのパーティに加えてもらわなくちゃならないし。どうせならあなたたちと一緒がいいわ」

「で、でも」

 アキハイトが笑う。

「ふふふっ。いいぞ。ちょうどメイジとソーサラーを募集していた所だ」

「あ、アキハイトお……レイズはいいよ。大歓迎。でもアソ、いやベイドは駄目だよ」

「いいじゃないですかワンカナ。私はあなたたちが大好きです。一緒にいるときっと楽しい、あんなに死闘を繰り広げた仲じゃないですか」

「無理だって。恨んでいる者同士、一緒にいたらきっと我慢出来なくなっちゃうよ」

「その時はまた戦いましょう。思い切り。いやあ、楽しみですよ。今度こそあの樹木の巨人を倒して私が勝ちます」

「ふん。俺も今度こそ貴様にとどめを刺してくれる」

「あららら。怖いですね。でもアキハイト。あなたは今魔術を使えないただの一般人でしょう? どうやって私と戦うんですか?」

「ぐっ……」

「うふふっ。また一から魔術師の修行を積めばいいじゃない。鍛えてあげるわ。アキハイトは何の魔術師がいいの?}

「そうだな」

 四人がのんきに話していると、遠巻きに見ている群衆をかき分け城の衛兵たちがやって来た。

 全員魔術師だ。手を構えたり魔術武装を掲げたりして威嚇してくる。取り囲まれた。

「あらら大変。囲まれちゃったわ」

「どうするのアキハイト」

「俺は魔術を使えんしな。ワンカナをいつまでも抱きしめていたい」

「も、もうアキハイトったら。うれしいけど、そんな場合じゃ」

「ふふふ。任せてくださいよ。パーティに加えてもらうお礼に、私が蹴散らしてあげます」

「僕は認めないったらあ」

「私も腕を振るうわよ。さあかかってらっしゃい。魔王を倒した最強のパーティ、世界最強のメイジ魔術を食らいたいのは誰かしら?」

 衛兵たちはたじろぐ。彼らは強力な魔術師ではあるが、それでもパラディンのパーティは別格過ぎる。とてもではないが戦えるレベルではない。

 みんな恐れ後ずさる。アキハイトはワンカナを抱き上げたまま、その後ろの左右にはアソールドとレイズがついている。

 一行は走る。衛兵も人々も恐れおののき道を開ける。人の群がどんどん割れて、大きな道を開く。

「うふふっ。まるで結婚式のパレードみたい。みんな道の端で祝福してくれているわ」

 レイズの言う通りだった。人々はアキハイトたちを恐れていたが、それは半数程度にしか過ぎない。残りはみんな、アキハイトほどの男前が好きな女に結婚を申し出て連れ去るこのシチュエーションを祝福し、若い女性たちなどきゃーきゃー喜んでいる。

「あ、あれ? もっとみんな怒っているかと思ったけど」

「本気では怒っていないさ。心配するな。大事な式典を滅茶苦茶にし、パラディンにあるまじき不敬を働いた。俺たちは大罪人だ。でもみんな本気で俺たちを責めてはいない。俺たちの結婚をこんなに大勢の人々が祝福してくれているぞワンカナ」

「け、結婚」

「今日は俺たちの結婚祝いだ。おおっぴらには出来んが、逃れて落ち着いた場所でささやかな祝言を上げよう。明日までとか待ち切れない。今日結婚式を挙げるぞ」

「あ、アキハイト、僕」

「嫌か?」

 ワンカナは必死に首を左右に振る。

「う、うれしいよアキハイト。でも恥ずかしいよ。下ろして」

「駄目だ。みんな道を開けて俺たちの結婚の門出を祝ってくれているんだぞ。女の子はこういうお姫様だっこに憧れるんだってな。ほら、若い女の子たちなんかみんな、お前をうらやましがっているぞ」

 ワンカナは左右を見る。人々はだんだん笑顔が増え手を振ってくれている。二人の結婚を祝ってくれている。怒っている人も難しい顔で黙ったり、しぶしぶ拍手をしたりしてくれている。

「わあ。みんな、こんな滅茶苦茶した僕らを、それでも祝ってくれているんだ」

「俺は世界一の花嫁を自慢したかったんだ。みんなに見せつけたかった。だからこの時こうする計画を企んでいたんだ」

「計画がずさんだったけどね。着地の事まで考えてよもう」

「はははっ。すまん。格好良くお嫁様を連れ去る事ばかり考えて、その後の事を考えていなかったよ」

「もう。アキハイトらしくないよ」

「それだけ浮かれてしまっていたんだよ。お前と結婚出来てとてもうれしい。はしゃいで羽目を外してしまうってものさ」

 ワンカナはアキハイトの首に手を回してうっとりする。左右に避けて道を開けてくれている大観衆はいつの間にか、彼らを責めるのではなく祝福ムード一色に染まり、花びらを盛大にまいて、走り抜ける彼らの幸せを願っていつまでも歓声を上げ続けた。


(完)

posted by 二角レンチ at 22:38| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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