2013年03月31日

理の創世(0)あらすじと人物紹介

理の創世(0)あらすじと人物紹介

あらすじ

 この世には、神しかいなかった。

 虚無の中にただ一人いる神は退屈に飽きていた。

 神は己の持つ力、概念を切り離し、それを元に理(ことわり)を生み出した。

 万を数える理たちはみな神の子である。彼らは虚無の中に世界を生み出し、神を永遠に楽しませなければならない。そのため今までに百を数える世界が生み出され、神に飽きられ捨てられてきた。

 進化と宇宙の二つの概念を軸に生み出したこの世界もまた、神は飽きて破棄を命じた。

 終末と創世。今の世界を無に帰し、新しい世界を創造する。

 新たな世界を生み出すために、男女二人の理を選出する。それは理たちの中で、概念の中で最強でなければならない。

 男女の交わりを禁じ物理世界に干渉するために、理の器として用意されたのは人間の女。理たちはその身体を乗っ取り受肉する。

 受肉した理たちは残った人間を全て虐殺し、世界を砕き消滅させ、この世を虚無に戻す。

 理は死んでも死なない。殺されても復活する。

 概念は全て互角の力を持つ。ゆえに理の力は心の強さによる。

 世界を無に帰し、創世を担う最強の理二人を選出する儀式アポカリプス。

 その闘争において敵の理を倒すには、何度も殺し恐怖で心を削りへし折りリタイアに追い込むしかない。

 闘争に臨む勇気ある理たち八組十六名による戦いが、世界が消滅した虚無の中で始まる。

説明

 概念たる理は男女いますが、人間の女の身体を乗っ取り受肉するため、闘争では男の理も女の姿をしています。

 この「理の創世」も、現在ブログで連載中の「天使の試練」も執筆は完結しています。未完の心配は無いので安心してお読みください。

 以下軽く人物紹介です。何人かはイメージラフをつけています。全て受肉した人間の女の姿です。

 作中は自由なイメージで想像出来るように挿絵がありません。

 小説を読む際に、イメージラフを見ていても問題無いという方のみ以下の人物紹介をごらんください。

人物紹介を見る
posted by 二角レンチ at 22:33| 理の創世 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月02日

理の創世(1)理

理の創世(1)理

 荘厳なる神の神殿。山のようにそびえる柱は瞬き天は広大にして無限。風が重厚な曲を奏でながら吹きすさぶ。息を吸えば甘い蜜の香り。そこにただいるだけで力が満たされる。

 にも関わらず力が失われていき、恐怖に震える二人の男女が玉座の前にいた。柱のそばに立ち並ぶ大勢に見つめられながらひざをついていた。

 雄大なる神は玉座に座り二人を見下ろしていた。

「エヴォリューション、ユニバース、面を上げよ」

 二人はおそるおそる顔を上げる。神の一にらみで身体が四散しそうなほど震えるが、そのまなざしから目を逸らすことが出来ない。神の力に捕らわれている。

「貴様らには失望した」

 神の怒りに触れ、二人は震え上がる。

「申し訳ありません」

「申し訳ありません」

 言い訳など許されない。そんなことをすれば殺されてしまう。ただの一言も失言は許されないのだ。

 男は進化エヴォリューション。

 女は宇宙ユニバース。

 二人は理(ことわり)。神の子だ。

 神は自らの子として理を生み出した。神以外何も存在しなかったこの世に、己の力である概念を切り離してそれを司る存在を作り出した。それが神の子、理だ。

 理は死なない。殺されないわけではない。理は死んでも死なず、また復活する。理を死なせられるのは神だけだ。己の全てを否定され消滅する。死なない者にとって死ぬ恐怖は人間のそれとは比較にならない。

 万を数える理たちは今この神の神殿に集結していた。このようなことは今までに百を数えるほどしかない。神にとってはただの戯れ。しかし理たちにとってはこれ以上に重要なことは無いのだ。

 神の怒りは天を轟かせ雷鳴を響かせる。天井の無い神殿の天は荒れ狂っていた。しかしその猛威を受けるのは神殿の中央にいる二人のみ。他の理たちは断罪されていないので、神の怒りを受けることは無かった。

 天に渦巻く嵐により、神殿の中にいる二人だけがずぶ濡れ、幾度となく落雷を受け身を焦がす。周囲にいる理たちはそれを平然と見つめていた。

「貴様らのくだらぬ世界はもう見ていられぬ。神を満足させられぬ世界などいらぬ。よって今、この世界の幕を下ろす」

 世界の終わり。この世の終わり。それは神が創世された世界に飽き、見限ったときに起こる。今までに百を数える回数だけ世界は創世されそして消滅してきたのだ。

 今の世界は進化を司るエヴォリューションと宇宙を司るユニバースの二人が交わり生み出した。広大な宇宙に星が無数に散らばる。そのうちの一つ、地球では進化により生物が多様性を深め繁栄と絶滅を繰り返した。

 人間は進化により生まれたとされる。しかしそれは仕組まれた事実だ。真実ではない。

 真実は、人間だけは理が用意した特別な者であり、他の動物のように進化の果てに出来たものではない。猿が進化して生まれたかのように世界の事実として後から組み込まれた、進化と無関係な唯一の生物だった。

 人間だけはどの世界でも用意される。しなければならない。人間は理の器となる大事な身体だ。役目が来るまで数を増やし育てなければならない。

 地球は人間の苗床として用意された。来たるべき終末、アポカリプスのために必要なので、創世の条件として人間を用意し増やすことが義務づけられている。

 終末アポカリプス。

 創世ジェネシス。

 二人の理が管理する世界の終末と創世。この世に存在するあらゆる物を無に帰すアポカリプスにより世界は終わりを告げる。

 そして戦いが始まる。アポカリプスは終末を司り、終末そのものであり、その事象であり概念であり存在である。理であるアポカリプスが管理する世界の終末もまたアポカリプスと呼ぶ。

 アポカリプスは大きく二つの段階に分かれる。現在の世界を破滅させる。それが開戦のプレリュードとなる。その後に続く戦いこそがアポカリプスの主目的。次なる創世を担う理二人を選ぶために理同士を争わせ、勝者を決める。

 もっとも強い理が、もっとも強い概念となる。それを最上位として世界が創世される。現在は進化と宇宙に基づいた世界が構築され、他の理はそれより下位に甘んじていた。

「二人は今回の創世の間、幽閉の刑に処す」

「はっ」

 エヴォリューションとユニバースはうなだれる。理にとって幽閉は死ぬことの次に重い罰だ。この世に存在を許されない。次に創世される世界では、進化と宇宙という二つの概念は失われ存在しない。

 神は永遠に楽しめる世界を望む。理たちにその創世を任せる。男女の理二人を選び、交わらせ世界を生ませる。

 しかし未だかつて神を永遠に満足させる世界を創造した理たちはいない。神が飽きるたび世界は消滅し、新たに創造された。そのとき神に飽きられた世界を創世した理二人は罰として次の創世の間幽閉されるのがお決まりだ。

 もしも次の創世で、神が永遠に満足する世界が創造されたら。幽閉されている二人の理は永遠に幽閉され続け、世界は永遠にその概念を失う。エヴォリューションとユニバースの恐怖は計り知れなかった。

 落雷が二人を撃つ。そしてそのまま落雷が天に帰っていく。エヴォリューションとユニバースは落雷に連れられ嵐に飲み込まれる。離れ離れにされ一人で長い創世の間幽閉され続ける。概念である理にとって世界に存在出来ないことはとても辛いことだった。

「では、次の創世を担う意志のある理たちよ。前に出よ」

 神の声が轟く。その声に撃たれ理たちが震える。しかし誰も前に出なかった。

 今までに百を数える創世が為され失敗してきた。神の怒りを買えば次の創世の間幽閉される。とても恐ろしいことだった。だから誰も名乗り出なかった。

 しかし誰も出ないならそれはそれで神の怒りを買う。だから誰かが勇気を出して前に出るのをみんな待ち望んだ。

「ひひっ。誰も出ないなら俺が行くぜ」

 とうとう一人が前に出る。男だった。

 邪悪エビル。細身で凶悪な男だ。理は人間の概念で言えばとても美しく、人間と似た姿をしている。人間は理の器にするため理に似せて作ったからだ。しかしその美は人間には理解出来ないものである場合もある。すばらしい芸術が誰一人理解出来ない場合があるように。この男がまさにそうだった。

「来いよインサニティ。一緒に踊ろうぜ」

 エビルに手招きされた女はため息をつく。

「やれやれ。あんたが出たときやばいと思ったんだよね。他の女にしなよ。あんたと交わって世界を生むなんてごめんだよ」

「そういうなよ。俺とするときが一番気持ちいいくせに。最高の絶頂で生ませてやるぜ」

「あんたのは刺激的すぎるんだよ。はあ。まあいいか。一度世界ってのを生んでみたかったんだよね」

 理には男と女がいる。空気を吸うように快楽を貪る理たちは、たいていの男と女が相手を取っ替え引っ替え交わっている。四六時中精力が尽きること無く交わりまくる。概念である理たちはただ存在するだけでいい。他に何かする必要が無いので快楽を貪って長い時を過ごす。

 インサニティはエビルの異常な犯し方を嫌っていながら実は刺激的すぎるそれをときどき味わわずにはいられなかった。

 邪悪エビルと狂気インサニティ。二人はこれ以上無いくらいお似合いだった。

「最高に汚くイかれた世界を生ませてやるぜ」

「ふふっ。期待しているよ」

 エビルはインサニティの豊満な乳房をもみしだき股に手を入れる。

「他には」

 神の轟きに応えて飛び出す理が二人いる。

「エビルとインサニティなら楽勝。ね、ユートピア」

「そうだね。ディストピア」

 楽園ユートピア。

 失楽ディストピア。

 理は全てが兄弟と言えるが、互いをそうは思っていない。しかしディストピアはユートピアを兄として慕うし、ユートピアはディストピアを妹として甘やかしていた。

「なんだなんだ。なよなよお子さまとお嬢ちゃん。子供の出る幕じゃないぜ。引っ込んでな」

 エビルがインサニティを愛撫しながら笑う。インサニティは指で穴を引き裂かれそうな激しい愛撫によがっていた。

 ユートピアが女の子のような美しい顔でエビルを見る。ディストピアにせがまれるままお揃いの女の格好をするので、もし知らない者が見れば彼は女の子にしか見えない。

「僕は子供じゃない。立派な大人だよ。君こそ老けすぎじゃないか。エビル」

「きゃは。インサニティもおばさんだし。お似合いの老夫婦ね」

 もちろんエビルやインサニティは老けていない。若い大人の外見をしている。ユートピアとディストピアが二人に比べ幼く見えるだけだ。

「次。もういないのか」

 神が促す。さらに二人が前に出る。

 がっしりした大男とすらりとして落ち着いた女性。

 永遠エターナル。

 刹那モメンタリ。

 対の概念である二人は夫婦のように落ち着き、よく愛し合っていた。

「またおばさん? やんなっちゃう」

 ディストピアはうんざりする。しかし彼女のように幼い容姿の理は少ないのだ。たいていは彼女に言わせればおばさんだ。

 アポカリプスの参加者は、組みしやすい相手と見ると立候補する。神の罰は恐ろしいが、世界の創造は何をおいてもしてみたい最高の快楽なのだ。交わりよりもはるかに楽しく気持ちいい。

 男と女の組なら誰とでもいい。しかし相性というものがある。たいていの者は、パートナーにするならこの理と決めていた。

 審判ジャッジメント。

 欲望デザイア。

 さらに続く。

 深淵アビス。

 探求クエスト。

 すぐに続く。

 栄光グローリー。

 究極アルティメット。

 また続く。

 仮想イマジン。

 夢幻ドリーム。

 これで合計七組。

「おしまいか」

 鳴り響く神の声におののきながらも、おずおずと前に出る二人がいた。

 いや、女の子が男の子に手を引かれていた。

「来いよ。ほら。世界を生みたいんだろ」

「でも、私なんか、無理だよ」

「俺に任せろ。絶対勝たせてやるから」

 周りがざわめく。

「おい見ろよ。ホープだぜ」

「あんな泣き虫女が勝てるわけないだろ」

「それにサブミットじゃねえか。何であの小僧がホープを引っ張ってんだ?」

「相方のデスペアが名乗りを拒否したんだと」

「はー、それでサブミットの野郎が名乗り出たってわけか」

「あいつホープを好きだからな。あんな弱虫を好きになってどうするのかねえ。うっとうしいだけじゃねえか」

 希望ホープは可憐な少女だった。その手を引く服従サブミットはぶっきらぼうな男の子だった。

 それを見つめる絶望デスペアは腕を組んでふんぞり返っていた。

「ふん。人の女に手を出しやがって」

 理は力が全てだ。力で殺し奪い犯す。理の交わりは犯し犯されるのが常だ。絶望デスペアはその圧倒的な力でホープを蹂躙していた。他の男に交わらせて楽しむこともあった。

 デスペアは服従サブミットを嫌っていた。自分の所有物であるホープを、他の男には交わらせてもサブミットには触らせなかった。

 デスペアがサブミットを嫌うのは、彼がホープを好きだからだ。好きでないなら抱かせてもいい。犯させてもいい。しかし自分以外をホープが好きになるのは許せない。ホープがサブミットにほだされ好きになると大変だから、デスペアはサブミットをホープに近づけなかった。

 対の概念たる絶望と希望。絶望デスペアは希望ホープが自分の物だと公言していた。快楽を貪るのに忙しい理たちはそれを邪魔することは無かった。交わる相手はいくらでもいるのだから。

 サブミットだけがちょっかいを出してきた。弱いくせに。いつもサブミットはデスペアに殺され追い返されていた。それでもサブミットはホープを求め愛を叫んだ。

 神はアポカリプスへの参加を妨げることを許さない。神は全知全能。全てを知覚する。裏でこっそり邪魔することも出来ず、デスペアはホープがサブミットにつれられるのを指をくわえて見ているしかなかった。

「希望に満ちた世界を創造したいんだろ。俺に任せろ。頑張ろうぜ」

「でも、でも」

「あー、もう。嫌なのか。参加をやめるか?」

 ホープはぶんぶんと首を左右に振る。

「よし。その意気だ。勝つぞ」

 ホープはこくりとうなずく。

 周囲からはそのおままごとみたいなやりとりにくすくすと笑いが漏れる。

「あんなのが勝てるかよ。馬鹿が」

「二人とも弱いくせに。どうやって勝つつもりかしら」

 サブミットは玉座の前に並ぶ他の参加者たちに並び、周囲をにらみつける。

「ふん。アポカリプスに参加もしない臆病者たちめ。お前たちより俺やホープの方が絶対強い」

 ジャッジメントがサブミットを見下ろしほほえみながら話しかける。

「静かにしなさい。言わせておけばいい。私はあなたの勇気に敬意を表しますよ」

 審判ジャッジメントは人間で言えば神父のように威厳があり神々しい男だ。しかしサブミットは彼が自分以外を見下している事を知っている。自分がもっとも神の意志を受け継いだ神の代行者だと公言している。彼は自分が他の理より強く偉大で神に近いと自負している。

 八組十六名の理が神の前に立ち並ぶ。

「他にはおらぬな」

 神の問いに誰も名乗り出ることはなかった。

「では、今回のアポカリプスはこの十六名で行え。より強き理、より絶対的で圧倒的な概念こそが世界を構築する根幹たるにふさわしい。よく争え。よく殺せ。よく勝て。そしてよく作れ。今度の創世こそ永遠に楽しめる世界であることを願っているぞ」

 神の願いをかなえるのは理の使命だ。なんとしてでもやり遂げなければならない絶対命令だ。理たちは深く頭を下げ、その命令を授かった。

「では行け。始めよ」

「はっ」

 理たち全員が応える。それは大轟音となり神殿を揺るがせる。

 そして崩壊する。神の神殿は神と共にある。神が姿を消すと、その神殿は崩れ霧散した。

 理たちは飛ぶ。人間の科学では計れぬ速度で飛び、アポカリプスを開始する。

 まず最初は受肉だ。高度な存在である理は概念であり物理的な肉体を持たない。人間は理の器として用意された。

 アポカリプス開始から終了までの間、物理世界に直接干渉するために人間の身体を乗っ取り受肉する。人間は理が触れて乗っ取れる唯一の物理物体だ。理が神の力を借りて作り出した特別な物だ。人間の身体を通してのみ理の持つ力を物理世界で振るうことが出来る。

 全ての理はアポカリプスが終了するまでその肉の身体に拘束される。

 物理世界に直接干渉するためだけではない。儀式ジェネシス、創世の最初にアポカリプスで勝利した男女の理二人が世界を生むため交わる。それが最初の交わりでなくてはならない。

 それまでの間男女の交わりを禁じられる。そのために理は全て人間の女を器として受肉しなければならない。

 宇宙ユニバースが人間を増やし育てる苗床として用意した地球。理たちはそこで人間の女を物色し、次々乗っ取り受肉した。

 理に乗っ取られる際その人間の魂は食われ消滅する。人の姿をした理となる。もはや人間ではない。

 万を数える理が全員受肉した。それだけの数の人間の女がその魂を食われ死んだ。

 受肉した理たちは物理世界に干渉出来る。その力でもってまず残りの人間を皆殺しにする。それが宴の始まり。世界の終わりの始まり。

 理たちは人間を皆殺しにして血の祝杯を上げたあと、星を壊し宇宙を壊し創世されたこの世界全てを破壊し無に帰す。そうしてようやく次の創世を担う二人を選ぶための戦いが始まるのだ。

 世界の終末、アポカリプスが始まった。人間の、世界の、長い歴史がまた一つ終わる。

posted by 二角レンチ at 13:12| 理の創世 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月04日

理の創世(2)受肉

理の創世(2)受肉

 瑠璃子は緊張していた。琴美はそれ以上に緊張していた。

 瑠璃子の部屋でベッドに並んで座り、もう三十分が経過していた。二人ともガチガチで動けなかった。

「こ、琴美」

「はい、瑠璃子先輩」

 琴美はぎくりとする。それを見てようやく動こうとした瑠璃子の動きが止まる。

 さっきからこの繰り返しだ。いざとなると怖がる琴美とそれを見て躊躇する瑠璃子。二人とも恋愛経験すら無く、いざ事に及ぼうとするとここまで緊張して動けなくなるものとは思わなかった。

 でもいつまでもこうしてはいられない。瑠璃子は多少勢いまかせでもいいから進めようと決意し、琴美の肩を抱き寄せた。

「あ、瑠璃子先輩」

「二人きりのときは、先輩ってつけないで。もっと恋人らしく呼んで」

 瑠璃子はあせって早口でしゃべる。

「瑠璃子……さん」

「うん」

 瑠璃子は同じ部活の後輩である琴美に恋をした。今まで男に興味が無いのは単に性欲が薄いからだと思っていた。美人なので多くの男に告白されてきた。しかしちっともときめかず、ことごとく断ってきた。

 自分が女を好きだとも思わなかった。他の女を見ても何も思わなかったからだ。なのに部活に入部してきた後輩の琴美を初めて見たときドキッとした。一目惚れや同性恋愛が実在することを初めて知った。

 こんな気持ち、きっと気持ち悪がられる。そう思ってずっと我慢してきた。でも生まれて初めての恋。欲情。自分を慰めたのも初めてだった。快感を知り、恋を知り、もう琴美のこと以外何も考えられなかった。

 部活で普通に接してきたつもりだった。でも当の本人にはばればれで、琴美に聞かれてしまった。自分と話すときだけ瑠璃子先輩は何だか顔が赤いけれどどうしたんですかって。

 瑠璃子はあわてて言い訳を並べたが、上手く言えずに結局琴美のことが好きだと口を滑らせてしまった。とても格好悪い告白をしてしまった。

 琴美に嫌われる。もし誰かに言われたらもうおしまいだ。学校にもいられなくなる。瑠璃子はとても怖かった。

 でも琴美の反応は悪いものではなかった。まだよくわからないけれど、嫌じゃないと言った。

 瑠璃子は嫌われず、それどころか受け入れてもらえたことに喜んだ。怖かった反動で大胆にも家に誘った。琴美は拒否しなかった。性の快感にすごく興味があり、自分で慰める以上のことをしてみたかった。

 試しに付き合ってみる? はい。

 試しにちょっとだけ、してみる? はい。

 そうしてベッドに並んでからが動けなかった。でももうしないといけない。

 瑠璃子は勇気を出して琴美の肩を抱き寄せ、制服のスカーフをするりと抜き取った。

「ま、待ってください」

「な、何?」

 瑠璃子は動揺した。やはり女同士が気持ち悪くて嫌なのだろうか。それともそもそも自分に気を使って告白を受け入れたフリしてくれていただけなのだろうか。

「こ、恋人、なんですから、その、ぬ、脱がすより先に……キス、してくれませんか」

 琴美は耳まで真っ赤だ。琴美はかわいいが、大人しすぎて学校でも友達が少なく、男たちからはまるで相手にされない。だから恋愛経験が無かった。とてもウブで、キスから始まる素敵な恋愛に興味があった。

「う、うん」

 瑠璃子は拒絶されたわけではないことに安堵した。琴美と同じくらい真っ赤になりながら、そっとキスをした。

 唇はとてもやわらかかった。とても温かかった。初めて味わうキスの味。初めての肉の感触。それはとても気持ちよく、二人の性欲は一気に燃え上がった。

「琴美!」

 瑠璃子は頭に血が上り、わけがわからなくなった。琴美を押し倒し、頭を両手で押さえつけ激しいキスをした。

「んあ、瑠璃子、さん、んむ、ふわあああ」

 琴美は舌を入れられるキスの蕩ろける快感に驚き、それに溺れた。二人は抱きしめ合い夢中でキスを貪った。

 キスだけでこんなに気持ちいい。初めての性の快感。自分でするのとはわけが違う。こんなに気持ちいいんだ。性への興味が爆発する。

「はあ、は、琴美」

「瑠璃子さん」

 二人は上手く出来ず乱暴に互いの服を脱がせる。震える手ではブラを外せず、じれったくて無理矢理めくり上げた。

「はあ、はあ、やわらかい。けっこうあるのね」

「すごく大きい。ああ。うらやましいです」

 二人は互いの乳房をもみ合った。なんてやわらかさだろう。気持ちいい。もむのももまれるのも気持ちいい。二人は夢中で乳房をもみしだいた。女の身体はこんなにやわらかくて気持ちいいんだ。自分と同じ女とは思えない。他人はとても気持ちいいものだ。

 瑠璃子はもうたまらなかった。琴美のパンツをするりとはぎ取った。

「先輩、そこはまだ、早い」

「見せて」

「いやあ」

 瑠璃子は琴美の足を開かせ顔を寄せる。琴美は恥ずかしすぎて顔を両手で覆う。

「す、すごくきれい」

 瑠璃子は生唾を飲み込む。こんな風になっているんだ。女は自分の性器をわざわざ鏡に映してまで見ようとしない。本物をちゃんと見るのは初めてだった。

「先輩、見ないで」

「二人のときに先輩は駄目って言ったでしょ。おしおきするね」

「ああああ!」

 キスするときにさんざん味わった肉の快感。ぬめる舌はとても気持ちがいいものだ。それが自分の汚いところをなめている。恥ずかしすぎる。しかし琴美は想像とまるで違うその強烈な快感に思わず仰け反る。

「ご、ごめん。痛かった?」

「ち、違います。瑠璃子さん。これ何。知らない。自分の指とまるで違う。すごい。はあん」

 琴美が女の顔を見せる。とろんと蕩ろけたその表情はあまりにも淫靡で、自分の舌でそんな顔をさせたことに瑠璃子は異常な興奮を覚えた。

「琴美。大好き。愛してる」

「ああん瑠璃子先輩、私も、先輩のこと、好き。いつも見られて意識して、何だかドキドキしてました」

「また先輩って言う」

「瑠璃子、さん、だって。なんだか、呼び方慣れなくて」

「慣れるまで呼んで」

「瑠璃子さん。瑠璃子さん」

「もっともっと聞かせて。もっともっとなめてあげるから」

「うああああ瑠璃子さん、それ駄目、感じすぎて、んああああふあああああ」

 琴美はベッドのシーツを両手で握り激しく悶える。何度も仰け反る。自分で慰めるのが下手な琴美は、こんな強烈な快感を味わったことが無かった。瑠璃子はその反応に気をよくし、さらに熱心にあちこちなめては反応を見て、より気持ちよくなめてあげた。

 止まらない。幸せすぎる。もう死んでもいい。

 瑠璃子がそう思ったとき、頭の中で声がした。

「そうか。もう思い残すことはないな。すまないが、死んでもらうぞ」

 瑠璃子は青ざめ顔を上げる。何だこの声は。頭の中に響いてくる。

「だ、誰?」

 そう言ったのは瑠璃子ではない。琴美だった。

「え、琴美。あなたにも聞こえたの?」

「瑠璃子さん。何ですかこれ。頭の中に声が聞こえたんです。死んでもらうって男の声が」

「わ、私も聞こえた。耳じゃなく、頭の中で聞こえたの」

「瑠璃子さん。怖い」

「だ、大丈夫。私がついているから」

 瑠璃子は泣きそうだった。でも同じように涙ぐみ、がたがた震える琴美を守らなければならない。瑠璃子は琴美を抱きしめ声を張り上げた。

「だ、誰? 誰かいるの?」

 部屋のカーテンは閉めている。親はまだ帰って来ない時間だ。玄関もしっかり鍵を閉めた。泥棒かのぞきか。いや、そんなものでは無いのはわかっている。でも超常現象なんか信じていない瑠璃子はお化けの仕業だと考えたくなかった。

「どのみち死ぬ。しかし最後に幸せだったんだ。それだけでよしとしてくれ。すまない。人間を殺したくはないがどうせ皆殺しだ。あとから苦しんで殺されるよりはましなんだ。許してくれ」

 また男の声が頭の中で響く。人間の言葉だが人間の声ではない。脳に意志が届けられ、それが自分の言語として理解されているのだ。

「何なのよあんた。来ないで。嫌。だってやっと、やっと琴美と結ばれたのに」

「すまない。俺も理には珍しく恋をしているからその気持ちはよくわかる。恋っていいよな。とても幸せで、そのためなら何でも出来る。死ぬことも、殺すことも」

「こ、ことわり?」

「理。神の子供たち。この世界にある概念そのものであり物理的な実体を持たない。人間は俺たち理の器として用意された。その役目を果たすときが来たのだ。魂を食らいその身体を乗っ取る。心配しなくていい。苦しくはない。痛くもない。好きな人を抱きしめろ。ぎゅっと抱き合え。共に死なせてやる。それ以上ましな死は用意してやれない。他の残虐かつ正常な理たちでなく、変に人間を哀れむ俺たちに見初められて、まだましだったと思ってくれ」

 瑠璃子は死ぬことを悟る。これは冗談でも夢でもない。現実だ。頭の中に響く声。こんなことが出来る存在がいることに驚くより早く、その存在に殺される確かな恐怖を実感する。

「瑠璃子さん。どうして。私たち、死んじゃうの?」

 瑠璃子は泣きながら、ぼろぼろ泣いている琴美を見つめる。

「あは。そうみたい、ね」

「怖いよ。嫌だよ。瑠璃子さん。助けて」

「琴美……」

 一緒に死のう。死を避けられない実感として味わっている瑠璃子はそう言おうとした。

 でも、愛する人が泣いている。おびえている。最後まで守りたかった。

「私が守る。きっと助ける。だから安心して。琴美」

「瑠璃子さん。ああ」

 琴美にも気休めだということはわかっている。でも、大好きな瑠璃子が精一杯勇気を振り絞り強がって見せてくれた。こんな状況でもまだ自分のことでなく琴美のことを想ってくれた。その気持ちだけでもう十分だった。

「瑠璃子さん」

「琴美」

 二人は泣きながら強く抱きしめ合った。離さない。最後まで絶対離さない。

「すまない」

 サブミットは謝りながら、ホープは泣きながら、それでも二人の魂を食らい身体を乗っ取った。

posted by 二角レンチ at 13:09| 理の創世 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月06日

理の創世(3)虐殺

理の創世(3)虐殺

 サブミットは魂を食らって乗っ取った人間の身体を見下ろす。

「人間の身体は久しぶりだな。女の身体も。くそ。アポカリプスの間は男も女の身体でいないといけない。何回目でも初めは違和感がひどいな」

 服を構築する。その容姿に似合う、しかし戦う者の格好を装う。

「ホープ。いつまでも泣くな」

「でも。悲しいよ。ごめんね。ごめんね」

 ホープは泣きながら乗っ取った身体に謝り続ける。魂を食らって殺したのだ。もうその謝罪は届かないのに。

「行こう。俺たちは見届けなければならない。人間たちの最後を。理による大虐殺を」

「いや」

「見るんだ。最後を見届ける。それが俺たちに出来る唯一のことだ」

「何言ってるのよ」

 別の声が突然響く。家が揺れ、隕石でも落ちたように潰れる。

 家が吹き飛び地面が抉れる衝撃。何かが飛来しもたらされた災害。その中でもサブミットとホープは無傷だった。服もほころびすらしない。物理的な肉体を受肉し理の力を物理的に行使出来るようになった。理にとってこの程度の衝撃では傷をつけるにはまるで足りない。

 二人の前に、可憐な少女が二人立っていた。抉れた地面の中心に立つ二人こそがこの大災害をもたらした飛来物だった。

 二人はそっくりだった。顔も背丈も瓜二つ。控えめな胸まで同じ大きさだった。

「双子かディストピア。お前たちはいつもそうだな」

「きゃは。そう。とってもかわいいでしょ。ユートピアとお揃い。この地球中探し回って見つけたの。最っ高にキュートな双子ちゃん」

 双子は両手を合わせ、片足上げてはしゃいで見せる。

 失楽ディストピアは楽園ユートピアを兄のように慕う。そしてユートピアはディストピアを妹のように溺愛する。大人しいユートピアがディストピアのハイテンションに合わせるほどかわいがっている。

 二人の区別は? ユートピアは目が笑っていないのでわかる。

 理は同じ神から生み出された。兄弟みたいなものだがみんな他人と思っている。兄弟姉妹として仲良くする理はごく一部だった。

「それより。あんたたちまた殺さない気? いい加減殺しなさいよ。人間を全員殺すまで次の段階に進めないんだからね」

 アポカリプスの序章は理の受肉と余った人間の皆殺しだ。理の器として用意された人間たちは、最初に理に殺される栄誉を与えられる。それが今まで生き増え育んできた人間たちに対する最大の報酬だった。

「俺たちは殺さない。見届けるだけだ」

「わっがままあ。おかげで私がここまで殺しに来ないといけないんじゃない。ねえユートピア」

「そうだねディストピア。面倒だよね」

 ユートピアはディストピアを抱きしめキスをする。ユートピアはとても賢いが、ディストピアの言うことなら何でもうなずく。

「見届けるってなあにい? そういう趣味い?」

「人間たちの最後を看取る者はいない。全員死ぬからな。俺たちだけが、人間たちの最後を見届け覚えておくんだ」

 サブミットはホープの肩を抱き寄せる。ホープは涙を拭いながらうなずく。

「はあん。そう。じゃあしっかり見届けてね。覚えておけばいいわ」

 ディストピアは両手を広げる。そして唱える。

「失楽、情婦、蛇」

 ディストピアの足下から黒い蛇がぬるりとわき出す。無数の小さな蛇は離れるほど太く長く成長し、ついには大木のようにたくましくなりその鎌首をもたげそそり立つ。

 巨大な蛇たちが四方に散る。このあたり一帯は先の飛来で吹き飛んだ。しかし離れたところにはまだたくさんの人がいて大災害に驚いていた。

「来なさいよ。見届けるんでしょ」

「ああ」

「私嫌だよ。ここにいる」

「ホープ。見るんだ。殺さない俺たちが出来る、してやれる、唯一のことだ。人間を好きなんだろう。殺したくないんだろう。二度と人間を殺さなくていい、希望に満ちて神が永久に愛でる世界を作るんだろう。これが最後だ。人間を看取るのはこれきりだ。だから見るんだ。目に焼き付けるんだ。無惨な最後がきっと、ぎりぎりのところで戦う気力を奮い立たせてくれる」

 ディストピアは鼻で笑う。

「人間の最後なんて今までたくさん見てきたじゃない。今さら見たってそれが気力につながるわけないじゃない。ねえユートピア。笑っちゃうよね」

「そうだね。ディストピア」

 ユートピアはディストピアが望むので、一緒になって大笑いする。

「あははははは。はっははははは。かはははははは。ぎゃっはははははははきゃっきゃっきゃ」

 うり二つの双子の姿なのに、ディストピアは可憐な少女で、ユートピアは壊れた人形のように笑う。

 理は人間を何とも思わない。人間に哀れみを持つのはごく少数だった。

 四人の理は空を飛び、巨大な黒い蛇が滝のように流れる先へ向かう。そこではすでに人々が蛇に飲まれていた。

「うあああ。助けてくれえええ」

「ああ、いやあああ」

「あ、ん、んあ、何、これ」

「ひいいいい、何だああああ。気持ちいいいいいいい」

 蛇にくわえられた人間たちはみな恍惚に顔をほころばせる。恐怖に歪んだ顔が快感に歪み、よだれと涙を垂れ流し、身をよじりながらちゅるりと飲み込まれていく。

「情婦。この蛇に飲まれると、全身で女の中に入ったように気持ちいい。最高の絶頂にむせび泣きながら腹上死する。あ、違った。腹中死だあ」

「面白いよディストピア。あはははうふふふくっくっくくくへへへへへうひひひひひ」

 何が面白いんだ。サブミットは毒づく。

「ホープ。見るんだ」

 サブミットはホープの両腕を顔から引きはがし、泣き顔を晒す。

「いやあ、サブミットなんて嫌い。どうしてこんなひどいことをするの」

「デスペアの野郎の方がよっぽどひどいことをお前にしているだろうが」

「デスペアは私を愛してくれているもの。あれが彼の愛し方なの」

 希望ホープの対の概念である絶望デスペアは、ホープにさんざんひどいことをし、それを愛だと教え込んだ。無垢なホープはすっかり洗脳されデスペアを愛していた。

 くそ。俺がきっと目を覚まさせてやる。このアポカリプスの間デスペアは参加者である俺たちに手を出せない。その間にホープの洗脳を解いてやる。そして勝利し、一緒に世界を生み育むんだ。

 サブミットはホープへの愛のためにアポカリプスに参戦した。

 ホープは希望に満ちた世界を作りたいと願いながら、デスペアが拒否するので今までアポカリプスに参戦出来なかった。泣き虫で嫌われているホープと組んでくれる者は他におらず、ホープは参加の意志がありながらも参加出来ずにいた。

 サブミットはホープの願いをかなえてあげたかった。それは同時に、自分の欲望をかなえることになる。愛するホープと交わる。世界を生ませる。そして永遠に一緒にいる。

 女の身体を受肉しないといけないのが恨めしい。せっかく愛するホープと一緒にいるのに男女の交わりを禁じられている。

 交わりたい。抱きたい。愛したい。

 今までただの一度も許されなかった。デスペアに阻まれた。しかしこのアポカリプスに勝利すればその願いは叶うのだ。

「サブミット。あんた私たちに勝てると思っているの?」

「勝つ」

「デスペアにもかなわないで何度挑んでも殺されるあんたが、私たちに勝てるわけないじゃない」

「やってみなければわからない」

「やらなくてもわかるわよ。ねーユートピア」

「まったくだね。ディストピア」

「今回の面子なら私たちが勝つわ。ジャッジメントとかやっかいなのが少しいるけど問題ない。私たちは強いもの。そうでしょユートピア」

「僕たちは最強だよ。ディストピア」

 たしかに二人は強い。サブミットはデスペアにもかなわないが、今回の参加者でデスペアより弱いのはサブミットとホープしかいなかった。

 いや、ホープは弱くない。心が弱く力を振るわないだけで、本当は強いはずだ。どの世界でも希望が弱く儚いのはホープの心が弱くて力を発揮しないからだ。希望はとてもすばらしい力だ。弱いはずがない。

 サブミットはどうやって勝てばいいかわからない。しかし理たちはみなその力に溺れ驕っている。殺されても死なないため、喧嘩で殺したり殺されたりは日常茶飯事だ。今日は気分が乗らないというだけで勝てる相手にも殺されて、平気でへらへらしていられる。そこを上手く突けば勝ち目はあるはずだ。

 弱いからこそ相手の強さを認め、それに対応出来る。自分が最強と自負する他の理たちとは違う。それだけが服従サブミットの強みだった。

 服従ゆえに他より優れることを許されない。しかし本来、理は全て優劣が無い概念だ。服従といえど他と同等の力を持つ。心の強さが力の強さとなる。心を強く持てば他より勝るはずだ。サブミットは自分にそう言い聞かせてきた。しかし自分が強いと思えたことは無い。いつも虐げられ犯され殺されていた。

「楽園、禁断、果実」

 ユートピアが手をかざす。その手からぼろぼろとこぼれたリンゴが地面を転がるたびに大きくなる。家ほどの大きさにもなったリンゴがごろごろといくつも転がっていく。

 人は禁断の果実の甘い香りに惹かれ、そのリンゴに群がる。正面からかじりつこうとして潰される者。横から飛びつきリンゴをかじり、その甘さに至福の笑顔になりながら転がるリンゴに潰される者。

「ひいいいい、いやああああ」

「でも、でも、おいしそおおおおおおお」

 人は巨大なリンゴに踏み潰される恐怖に泣きながら、でもその誘惑に耐えきれず群がる。飴に群がる蟻のようにたかり、転がるリンゴに潰されていく。

「きゃっははははは。ユートピア。見て見て。人が蟻のようだ」

「人間の作品の真似だね。その口調、とっても似ている。上手いよディストピア」

 転がるリンゴは自在に軌道を変えて動き回る。人を群がらせ潰し続ける。

 かと思えばぴたりと止まるリンゴもある。人はここぞとばかりに飛びつきかじりついた。

「うんめええええええ」

「何これ。おいしいいいいいいいい」

「たまんねえ。とまらねええええええ」

 禁断の果実は人間には過ぎた毒。人はもっと食べたいと異常な力で己の腹を割いてまで垂れ流し、果実を食べ続けた。そして死んだ。

「うっ」

 ホープが目を逸らす。

「見るんだホープ」

「嫌。サブミットなんて嫌い。やっぱりやめればよかった。デスペアがいい。デスペアじゃなきゃ嫌あ」

「きゃははは。嫌われちゃったねサブミット。恋って何なの。わけわかんない。ホープを好きなのってどんな気持ち?」

「お前がユートピアを好きなのと同じ気持ちだよ」

「そんなわけないじゃない。あんたなんかにわからない。一緒にしないで。私がユートピアをどれほど愛しているか。あんたの好きと私の好きは次元が違うのよ。恋なんておままごとでしょ。馬鹿みたい。愛は偉大。愛が全て。愛し愛される。それが愛。恋ってなんなの。そんなに嫌われちゃって。わけわかんない。ねーユートピア」

「そうだね。わけわからないよねディストピア。サブミットは馬鹿だね。一緒に笑おうか」

「笑おう笑おう。きゃっはははは」

「あはははかはははくはははけははは」

 ユートピアは目が笑っていない。壊れた人形みたいにかたかたと、ディストピアのためにおかしくないのに笑う。実に不気味だった。

 サブミットは歯ぎしりする。こいつらの愛は人間みたいに純粋な物ではない。自分の望みをかなえ与えてくれることが愛だと思っている。相手を想う気持ちではなく自分が満たされることだけを要求している。利己的な欲望だった。

 相手の要求に応えることが愛。ホープはデスペアにそう調教されている。愛はもっと温かくて幸せな物だ。奴隷になることではない。

 服従の概念であるサブミットは、相手に服従し奉仕する己の宿命を愛とは認めたくなかった。自分が虐げられ強要されるのが愛だと思いたくなかった。そう教えられ、躾られ、強要され、犯された。あんな物が愛であるはずがない。サブミットは同じような境遇であるホープを救うことで自分も同じく救われ、そして本当の愛を育みたくて恋をした。

 サブミットは気付いていない。それこそが利己的な愛。他の理たちと変わらない。他人に要求し自分を満たそうとしている。愛はどこまでいっても詭弁に過ぎない。自分を満たすための手段でしかない。

「失楽、崩落、底無し」

 ディストピアが地に降り立つ。その足下から地面がへこみ、まるで蟻地獄のようにすり鉢状に陥没していく。

「ああああああああ」

「ひいいいいいいいい」

 ぼっかり開いた穴に人が落ちていく。穴はどんどん広がり、逃げまどう人や車を飲み込んでいく。

 底の無い穴にいつまでも落ちていく。おかしい。もう底につくはずだ。もし仮に、地球にずっと穴が開いていて落ちるとしたら、熱や蒸気で死ぬはずだ。

 でも何も無い。何も無い穴に人はいつまでも落ちていく。落ちて死ぬ恐怖にいつまでもさらされ、人の精神はついに耐えきれなくなる。

「落ちる落ちる、うはあはははは」

「ひいい落ちちゃう、ひっひひひ」

 恐怖に耐えきれなくなった人間は壊れる。その恐怖を快楽と感じることで逃避する。人は笑いながらいつまでも落ち続けた。そしてついに笑い死んだ。

「すごい。人間は幸せだね。絶頂しながら死ねる。人を殺すのが上手だよディストピア。ほめてあげる」

「わーい」

 ユートピアはディストピアの頭をたくさんなでる。ディストピアは子供が親にほめられたように無邪気な笑顔を見せる。

「ひどい」

 ホープがつぶやく。

「何?」

 ディストピアがにらむとホープは目を逸らす。

 サブミットがホープを抱き寄せ語る。

「人間を殺すのはむごいものだ。残酷な行為なんだ。だからもう殺したくない。殺すのはこれっきりだ。そうだろ。ホープ」

 ホープはこくりとうなずく。

「はっ。自分の頭で考えず欲望だけで動くお人形が。サブミットのこと嫌ったり素直にうなずいたり忙しいわね。ちょっとデスペアに調教されすぎ。私この子嫌い」

「そうだねディストピア。一緒に嫌おう」

 ユートピアはふんぞり返り、口を一文字にぎっと結び腕を組んでホープをにらむ。ディストピアは面白がって真似をする。

 ユートピアは頭がいいくせに頭がおかしい。これが溺愛か。こんな愛は間違っている。サブミットは強くそう思った。

 理たちは移動しながら人間を殺し続ける。

「楽園、豊穣、実り」

 ユートピアが地に立つ。その足下から豊かな作物が広がる。

 どんどん広がる豊穣は実る。人はその実りの香りにあらがえず口にする。

 実りは実り実らせる。人は実りを食べるごとに自分の身体を苗床に新たな実りを実らせる。痛い。でも幸せ。人は実りと苗床のサイクルに陥り循環の糧となる喜びに満ち、激痛の中笑いながら死んでいった。

「失楽、せせらぎ、溺水」

 ディストピアの足下から川が流れる。さらさらと穏やかできれいなせせらぎに人は惹かれ、靴を脱いでその流れに足を踏み入れる。

 とても浅い流れなのに人は溺れる。足しか浸かっていないのに泡を吹いてもがく。

 酸欠はその果てに快楽を生む。人間の脳はそう出来ている。苦痛から逃れるために快楽物質を分泌する。人はいつまでも溺れていたいと笑いながら倒れていく。

 楽園ユートピアと失楽ディストピアのもたらす死はとても甘美で人はあらがえない。抵抗するより先に魅了され群がっていく。人は笑いよがりながら絶頂死する。

「見るんだホープ」

 サブミットはその地獄の光景をホープに強要する。

「何で。嫌。許して」

「俺たちは殺さない。代わりに見届けるんだ。看取るんだ。何もしないのは卑怯だ」

「殺さないのも卑怯でしょ。早く殺しなさいよ。他の理はみんな大喜びで殺すのに。だって人間は殺したら死ぬのよ。殺しても死なない理と違って死んじゃうの。面白いったらありゃしない。笑っちゃう。死ぬってとっても滑稽で面白いよねユートピア」

「そうだね。面白いねディストピア。笑おうか。人間の死を」

「笑おう笑おう」

 二人の哄笑が天をつんざく。人間たちは破滅のトランペットに恐れおののく。でも待ちわびる。

「見るんだホープ。人間は役目を終えた。理は受肉し物理的な力を振るえるようになる。その最初に殺される栄誉を授かるんだ。とても名誉なことだ。誇りに思っていい。こいつらの殺し方はとても甘美でやさしい。これが辛いなら、エビルやインサニティの殺し方を見たら卒倒するぞ」

 殺されるほどの苦痛を受けても気を失わない理にとって、卒倒するというのは最高に衝撃的な様を表す比喩だった。

「そんなに?」

「ああ。そんなに。だからしっかり見ろ。これからの戦いはもっと辛い。耐えるんだ。これは訓練なんだと思え」

「調教の方がいい」

「ああくそ。すっかりデスペアに洗脳されやがって。調教でも何でもいいから見ておけ」

「うん」

 ホープは壊れている。とても、とても哀れなほどに素直でわがままだ。くそ。デスペアの野郎。殺されても平気な理の精神を壊すなんて一体どれほどひどいことをしたんだ。許せない。

 サブミットは理の器としての使命を立派に果たした人間に敬意を抱いている。でもアポカリプスは人間全てを虐殺しないと次へ進めない。だからそれを見守るしか出来ない。

 逆らえない定めへの精一杯の抵抗は殺さないことだけだ。今までの百を数えるアポカリプスにおいて、サブミットは受肉するために魂を食らった人間しか殺していなかった。

 服従の概念たるサブミットは、運命に服従しその使命を全うした立派な人間を蔑んだりは出来なかった。

posted by 二角レンチ at 13:24| 理の創世 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月08日

理の創世(4)破滅

理の創世(4)破滅

 短髪で大柄な女性が両腕を広げる。

「審判、歯車、計罪」

 審判ジャッジメントの腕の下から歯車がぼろぼろこぼれていく。歯車は地面を転がり大きくなっていく。

 人間に二つの歯車が向かう。その人間は歯車に挟まれる。

「罪の重さに応じて歯車の隙間が狭くなります。罪が無ければ歯車に挟まれないでしょう」

 ジャッジメントがのたまう。歯車に捕らわれた人間は例外無く、紙一枚の隙間もない歯車に挟まれごりごりと回転に巻き込まれて引き裂かれる。

「欲望、憎悪、撲殺」

 豊満な身体を揺らせ、美しい夜の女がダンスを踊るように手足を振りくるくると回る。

 欲望デザイアが手を取り一緒に踊った人間は、みな憎悪に頭蓋骨が変形するほど顔を歪め、その怒りでもって他の人間を凄まじい力で殴り殺して回る。やがて怒りのあまり歪みすぎた顔は頭蓋骨を陥没させ、憎悪にまみれた人間も死んでいく。

「美しい踊りです。やはりあなたをパートナーに選んでよかった」

「ジャッジメント。あんたが嫌う欲望まみれの私をどうしてパートナーに選んだの」

「欲望は美しい。私にはそのような醜い感情が無い。あこがれなのです。私はあなたに恋をしています」

「はっ。恋? 嘘はあんたの嫌いな罪じゃないの?」

「そうですね。でも相手のための嘘は罪ではありません。本当は、あなたが私に恋をしているのです」

「はっ。馬鹿にして。審判様は勘違いがはなはだしいわね。女がみんな偉大な自分に惚れると思っている。恋なんておままごと、私がするわけないじゃない。サブミットのガキと一緒にしないで」

「私があなたを抱かないで他の女とばかり交わるのを、いつも陰から見ていたではありませんか」

「見物していただけさ。勘違いしないで」

「でも、私と交わり世界を生みたいのでしょう?」

「世界を生むのは女の理にとって最高の快楽。したくない奴なんか女じゃないね。私があんたと組んだのは、あんたとならアポカリプスで勝てると踏んだからさ」

「そういうことにしておきましょう」

「はっ」

「それより、そろそろ終わりですよ」

「あん? ああ。もうそんなに減ったの」

 見渡す限りの人間は全部死に絶えていた。理の知覚から逃げられる人間などいない。理は空を飛び地を掘り海に潜り宇宙すら駆ける。人間のどんな移動手段よりも早く追える理から逃げ延びた人間はいなかった。

 もちろん、理の力は人間の科学をはるかに超えている。人間がどんな恐ろしい兵器を使って抵抗しようとも理に傷一つつけることは出来なかった。

 破滅の序章。人間の全虐殺。それが完了した。生きている人間はもういない。しかし理が乗っ取った肉体は人間のものだ。万を数える人間の女の姿だけが地球で動いていた。それでも人間は絶滅したのだ。

「虐殺は完了した。ごくろう。アポカリプスはこれより次の段階へ移る」

 天を轟かせる轟音。荘厳なる終末アポカリプスの声が響く。彼が神より引継ぎ進行させる儀式の名もアポカリプス。創世された世界を終わらせ次の創世を担う理二人を選出する凄絶な儀式。

「この世界を、この失敗作を、神を失望させた罪を、無に帰す。これより破滅を開始する」

 受肉、虐殺、破滅。アポカリプスは順調に進行していく。順調以外あり得ない。世界を構成する概念、理たちは絶対的な真理であり揺るぎ無い真実。それをおびやかしたり妨げたり出来る者など神をおいて他にはいない。

 地上にいたアポカリプスは聖女、シスターの姿をしていた。終末アポカリプスはいつも地上で一番心が清らかで、身体も清らかな処女で、神への敬愛が一番深い聖女を己の器として選ぶ。

 神は一人しかいない。人間が想像で作り出したどの神を崇めていようがそれは唯一の実在する神を指す。

 聖女だった少女は世界で一番敬虔で謙虚で神への愛に溢れていた。アポカリプスが語りかけたとき、神と理の存在に触れたことに驚きながらも喜びの涙を流し、そのために己の身体と魂を捧げることを喜んで受け入れた。

 聖女は神のお望みならと、全ての人間の命と世界そのものを捧げることすら受け入れた。人間の意志など関係無いが、それでもアポカリプスは聖女に問い、その答えを人間の総意とみなす。

「終末、収縮、破滅」

 アポカリプスが腕を広げて唱えると、その足下から大地が裂ける。

 その裂け目はどこまでも長く深く広がっていく。海を割り空を破り地球の全てを引き裂いていく。

 そして集約する。アポカリプスに吸い取られるように集まる全ての破片が、全ての物が、死に絶えた人間以外の全ての生物が、どんどん縮みアポカリプスに触れる頃には消滅してしまう。

 宇宙が膨張をやめ縮小していく。宇宙の外は何も無い。これからどんどん宇宙を広げ、創造を続けるはずだった。

 しかし神に見限られたこの世界はこれ以上の繁栄を許されなかった。進化エヴォリューションと宇宙ユニバースが生んだこの世界は失敗作だった。神を永遠に喜ばせる世界以外は全て失敗。今まで生まれた百を数える世界全てが失敗作として破棄された。

 無の中で作り出された有を無に帰す。それが破滅。世界の終わり。

 人間の身体を乗っ取った理たちの身体はもはや人間とは違う。その姿形を維持しているだけにしかすぎない。割れながら縮みゆく地球から脱出した理たちはその様を楽しそうに眺める。

「ホープ。見ろよ。地球が、星が、人間の苗床が消えていく」

「うん」

「きれいだな」

「うん」

 サブミットは星の消滅と、生けとし生けるもの全てが死滅するその行為を残酷だと思う。しかし美しい。残酷さは美しさを妖しく鋭くなまめかしく彩る。魅了されずにはいられない。とても幻想的で魅入られる光景だった。

 アポカリプスの破滅は世界の全てを引き寄せ縮小し消滅させる。星々も引き寄せられては小さくなっていく。

「へへっ」

 邪悪エビルが笑う。彼はそれなりに美しい女を器としていた。なのに理としての彼は他には理解不能な美を追求した姿をしていた。彼に言わせれば人間の姿はどれも妥協するしかない醜いものだった。

「インサニティ。一緒に遊ぼうぜ」

「はいはい」

 狂気インサニティは面倒見のよい姉御といった感じの女性の姿をしていた。二人は一緒に宇宙を飛び、縮小されて飛んでくる星に向かい、それを壊して遊んだ。

 それを見て他の理たちも面白がり、飛来する星を壊して回った。

「私もする」

 ホープは目をきらきらさせて星に向かう。人間を殺すことを嫌いその死に様を見て涙を流すほど心の美しい女の子なのに、星を砕きそこにいるかもしれない生命をも殺すことになんの躊躇も無い。ただきれいな星を砕く遊びが楽しくて、きゃっきゃと星を砕いてはぶちまけた。

 サブミットは、心の清いホープの心を壊し支離滅裂にしてしまったデスペアを恨んだ。当のデスペアは禁止されているのでアポカリプスの間サブミットとホープに近づかないようにしていた。アポカリプスの参加者に他の理が関わることは許されない。

 星が砕かれ飲まれ、宇宙に存在する光も闇も飲まれ、そして最後に宇宙そのものが飲み込まれた。創造された世界の全てが壊され縮小され消滅した。

 アポカリプスは高らかに宣言する。

「破滅は終了。次の段階に移る」

 世界はあまりにあっけなくその長い歴史を終えた。悲しむ暇も無かった。悲しめる人間はもういない。サブミットは一人、運命に服従し消滅までの生を全うした世界に対しその死を悼んだ。

posted by 二角レンチ at 13:06| 理の創世 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月11日

理の創世(5)闘争

理の創世(5)闘争

 創世された世界が消滅し、この世は再び虚無に戻った。

 虚無。何も無い空間。この世は始め神しか有らず、他の何も存在しなかった。

 神が理を生み出し世界を創造させた。それが創世。創世を司るジェネシスは、やさしくおおらかな母親の姿を器に選んでいた。

 アポカリプスとジェネシスが並び立つ。色も無い虚無の空間で中心など無い。二人を囲む理たち。そうして初めて中心という概念が生まれる。

「次の段階、闘争に移る。参加者は前へ」

 荘厳なるアポカリプスの轟きに応え、八組十六名の理がアポカリプスとジェネシスの前へ出る。

「闘争は次の世界の根幹を担う二つの概念を選び出す儀式。それは他の理に屈せず屈させる絶対上位の強い理でなくてはならない。絶対不可侵の概念、最強の理を二人選び出すのだ。理は全て己が最強と謡う。概念自体に優劣は無い。どれもが最強たる力を持ち資格を持つ。あとは己の心がどれだけ強いか、相手に勝るか、それだけが理の優劣を決める」

「いえ、アポカリプス。それは違います」

「ジェネシス。どういうことか」

「幽閉されたエヴォリューションとユニバースは他の理に劣ります。次の世界において二つの概念は失われております。存在しない概念は存在する概念に劣ります」

「そうだったな。笑え。あざ笑え。かつて最強を勝ち得た二人といえど、今はどの理よりも弱く存在すら許されぬのだ」

 理の中で最強を証明したからこそ世界の創世を任された。その二人を見下しあざ笑うのは理たちにとって極上の喜びだった。

 理たちが盛大に笑う。その圧倒的な猛威に何も無い空間がたしかに震える。

「そして苦しめ。先の闘争でそんな二人に敗北した全理よ。戦いの名乗りすら上げなかった臆病者の理たちよ。己がふがいなさに涙しろ」

 理たちはうつむく。歯ぎしりする。終末と創世を司る二人は進行役であり、決してアポカリプスの闘争に参加しない。臆病者はどちらだというのだ。みんなそう思いはしても口には出せなかった。

「このたびのアポカリプスも例外なく行う。例外などあり得ない完全な儀式だ。この闘争もいつもと同じ。参加者は、他の参加者全てを敗北させよ。倒し、殺し、屈辱を与えよ。立ち向かってくる限り何度でも殺して屈辱にまみれさせろ。逆らう気が無くなるまで心をへし折ってやれ。理の力は心の強さに比例する。心を弱らせへし折ればもうその理は戦えない。力を示し、上下を示し、それをしらしめ屈服させろ」

 理は殺しても死なない。殺されたぐらいで概念が失われては大変だからだ。だから理を敗北させるには、何度でも立ち向かってくる限り殺し、もう二度と戦いを挑めなくなるほどまでに心をへし折り踏みにじらなければならない。

「他の理全てを敗走させよ。リタイアさせこの戦いから除外するのだ。おびえてみじめに逃げ出すまで殺し苦しめ傷つけ踏みにじれ。心を、誇りを、信念を、意地を、勇気を、決意を、へし折り砕き踏みつけ潰せ。泣かせ辱めみじめにひれ伏させろ。誰が誰を敗走させたかは問題ではない。最後に残った一組が勝者であり最強の理だ」

 理は殺しても死なない。だから自分がどうやってもこの戦いの勝者となれないことをわからせるまで殺しまくる。ただ殺すのではなく逆らう気力を失うほどみじめな敗北の苦渋を味わわせねばならない。恐怖におびえて逃げ出すまで追いつめなければならない。

「個々の戦いは敗北を認めたらそこで終わりだ。それ以上の戦いをしてはならぬ。早々に敗北を認め心を弱らせぬのもまた一手。しかしすぐに敗北を認め逃げ続けるような者は戦いを長引かせるだけで邪魔となる。よって他の全ての理に連続で敗北した者はたとえ戦う意志があってもリタイアさせる」

 いくら殺しても死なない理は、その気になれば戦いのたびに敗北してもいつまでも残り続けることが出来る。それを防ぐ措置として、連続で他の理全てに対し敗北したらリタイアさせられてしまう。

 裏を返せば、連続で負け続けている理がいれば残りの理もその理を負かそうとする。そうして全員が特定の理を狙い撃ち排除していくのがこのアポカリプスの基本戦略だ。

「個々の戦いにおいていくら殺されても敗北を認めない場合、このアポカリプスとジェネシスが裁定し、勝利と敗北を認定する。他のどのようなケースでも同様に、必要があれば裁定する。決着がつかない場合こちらで勝敗及び引き分けを決める。異議は認めない」

 殺され続け明らかに敗北しているのに、意地でも負けを認めないことも出来る。そのためもしそういう見苦しい理がいればアポカリプスかジェネシスが裁定を下し、その戦いは決着する。

 もっとも、理はそんな見苦しいことはしない。あきらかに勝てない場合早々に負けを認める。単なる殺され損だからだ。殺され続けても負けを認めないことは、とても格好悪く笑われる行為だ。その戦いに負けたところで他の全ての理に負けを認めた状態にならない限りリタイアすることは無い。だからなおさら負けを認めやすい。

 殺したり殺されたりでどちらも優劣がつかない場合がある。戦いがいつまでも続く場合も裁定により勝敗が決まる。

「負けを認めた相手とは、再度戦い勝たない限り負けた状態のままである。その場合再戦において引き分けは無く、引き分けになれば負けたままとなる。全ての理を負けた状態に陥らせよ。いずれかの手により戦いから排除されたならその理に勝つまでもない。残った理の方が強いのは自明。残る全てを自分たちに負けた状態に陥らせた者が勝者となる」

 仮に、自分以外の理により自分が勝てない相手を排除されたとしても、残っている理に勝利していればよい。理の最強は必ずしも全てを打倒することではないのだ。

「相手は自由に選べ。ただし同じ相手と連続で戦うことは許されない。全ての理と戦ったあとでのみ同じ理と再び戦うことが出来る。戦いは拒否することも出来る。機をはかるのもまた戦略。しかし全ての理に挑まれそれを拒否したならそれもまた敗走とみなしリタイアさせる」

 当然だ。敗北しないために戦いを拒否し続ける卑怯者は戦いには不要なのだ。排除せねばならない。

「以上だ。まずは華々しき初戦をかざる相手を各々選べ。そして戦いを始めよ。全ての理が見ている。神の子として恥じることのない戦いをせよ。己のふがいなさを恥じて敗走するまでその誇りを汚し辱めろ」

 虚無を震わすほどの歓声が轟く。自らは戦わぬ理たちでさえ戦いの興奮に血湧き肉踊る。

 アポカリプスにおける戦いはただの喧嘩とは違う。殺すだけではない。心を蹂躙する。どうやって相手の心を砕くか。どうやって相手に心を砕かれないようにするか。心と心のぶつかり合い。力はその手段に過ぎない。より心の強い者が力も強く、相手を蹂躙し弱らせ壊滅させ得るのだ。

 邪悪エビルが美しい女の顔でにたにたと下品な笑いを浮かべ手招きする。

「来いよディストピア。ユートピアと一緒に歌わせてやる。許して許してもうやめて。ひっひっひ。最高の歌詞で歌わせてやるぜ」

 可憐な少女の姿をしたディストピアは薄く笑いながらエビルをにらむ。

「ふん。老けてるって言ったこと根に持ってるの? 小さい小さい。小さいわあ。下品で汚い男って嫌い。きれいな女の姿を受肉しても汚さって染み出すのね。はああ。臭い臭い。いいわ。まずは汚いゴミを片付けてあげる。初戦でいきなりリタイアさせてやるわ。ねえユートピア」

「そうだねディストピア。これ以上無いくらいみっともない後悔を歌わせてあげよう。はははあはははきはははけははは」

 けたけた笑うユートピアとディストピア。ひっひひ笑うエビル。それをため息つきながら見つめる狂気インサニティ。

「やれやれ。やってられない。これだから馬鹿たちの相手は疲れるわ」

「ひっひ。お前はたしかに頭がいい。でもその賢いオツムは最高にイかれてやがるくせに」

「そうじゃなきゃあんたに抱かれてよがれるものか。苦痛で泣き叫んで血を吐いちまうよ。邪悪で最悪。あんたに好かれたのが運の尽きね」

「ひっひ。愛しているぜインサニティ。俺に抱かれてよがれるのはお前だけだからな」

「ふん。いい迷惑さ」

 そう言いながらも、インサニティがエビルを見る目はやさしかった。

 四人の理は飛び去る。理は神以外の全てを知覚する。だからそばにいなくても戦いの様子を見て取れる。しかし近くで観戦するほうがより楽しい。四人の戦いを近くで見るため他の理たちがぞろぞろついて行く。

 審判ジャッジメントは短い髪をくしゃりとかき上げ前に出る。

「初戦ですから美しい相手と戦いたいものです。お相手願えますかな。お嬢さんたち」

 ジャッジメントは仮想イマジンと夢幻ドリームに向かって手を差し伸べる。

「みんな美しい女の姿だからね。まあ心が汚いのはエビルとインサニティと、あとユートピアとディストピアと、ええと、他の奴らもみんな汚い。私たちもね。きれいなのはあんたぐらいよ。ジャッジメント」

 ドリームはジャッジメントの手を取り握手する。

「おほめにあずかり光栄です」

「けなしてんのよ。あんただけは他の奴らと違う。異端。異質。気持ち悪い。自分だけは他の理と違うと驕っている。いつもにこにこ人を馬鹿にした笑みを浮かべやがって。一度あんたを泣かせたいと思っていたのよね」

「誤解ですよ。私のほほえみは友愛と慈愛と慈悲と哀れみにしか過ぎません。かわいそうなあなたたちにほほえみかける。それが私の仕事です」

「ただの理のくせに自分を神と理の間の存在と考える。あんたはインサニティ以上にイかれているよ」

 ジャッジメントとドリームは握手したままにらみ合う。ドリームはぎりぎりとジャッジメントの手を握り締めるが、ジャッジメントは平然として笑顔を少しも崩さなかった。

「まあまあドリーム。その辺にしておけ。口だけはどの理よりも達者な審判様に、口で勝負を挑むと敗走させられちゃうぞ」

 さっぱりした大人の女性の姿で、にこにことしながらイマジンはドリームをなだめる。

「私は口だけではありませんよ。それを今から証明して見せましょう。今まで何度私に殺されたか覚えていませんか?」

「数えていられるかそんなもの。お前だって殺されたことぐらいあるだろうに。どうして自分が別格だと思えるんだか」

「私は慈悲で勝ちを譲るだけです。私は弱き者に慈悲をかけずにはいられない。哀れな存在を慈しむのが私の仕事です」

「ふふっ。本当に言い訳だけは上手い奴だなあ。自分の弱みを直視するのを避けている奴はぎりぎりの戦いでは勝てない。アポカリプスで一度も勝ったことが無いのがいい例さ」

「イマジン。口では審判様に勝てないんじゃなかったの」

「おっといけねえ。そうだなドリーム。口喧嘩はもういいだろう。そろそろ力喧嘩と行こうぜ」

「喧嘩などという低俗な物とこのアポカリプスの闘争を同じにしないでほしいですね。ではそろそろ行きましょうか。デザイア」

「話終わった?」

 豊満な胸を持ち上げるように腕を組んでいた夜の女が振り返る。

 欲望デザイアはジャッジメントのああ言えばこう言うところがとても嫌いだった。だからジャッジメントが他人と話すときは口を挟まないことにしていた。

 四人の理たちは先の四人とは反対の方向へ飛ぶ。その戦いを間近で見物しようとまた大勢の理たちがぞろぞろついて飛ぶ。

「ねえアビス。私たちはどれにするう?」

 白衣を着た知的な女性といういでたちの探究クエスト。彼女はいつも研究をなりわいとする頭のいい人間の女の子を器に選ぶ。自らが研究者であるため、最高の知能と美貌を持つ天才少女を探しては器にしていた。

 深淵アビスはとても重苦しい雰囲気の大人の女性の姿をしていた。実に気むずかしそうに眉を寄せている。彼はアポカリプスの間やむを得ないとはいえ、女の姿になることに著しい不満を抱いていた。

 元々無口なのにそれでずっと怒っているので、むすっと目を瞑って口を開かなかった。

「アビスアビスアービースー」

 クエストがアビスのほっぺをぺちぺち叩く。むにーっと引っ張る。そこまでされてもアビスは腕を組んでむすっとしていた。殺されでもしないかぎり反応してくれそうになかった。

「ふーんだ。もういいよ。勝手に選んじゃうからね。うーんとねー。グローリーは暑苦しくてうっとうしいし、ホープは泣き虫でうっとうしいから、やっぱりあの二人ね」

 クエストは何も無い虚無の中をスキップでぴょんぴょん跳ねながらエターナルたちに近づく。

「エターナル。モメンタリ。一緒に殺しましょ」

 子供が遊びに誘うような軽いノリで殺し合いを申し込む。探究クエストにとって殺し合いは研究の合間の息抜きに過ぎない。ガツンと殺したりズガンと殺されたりすると頭の中がリフレッシュされすっきりする。すると研究がはかどるのだ。

 彼女は自分が解けない謎を自ら生み出し、その謎を解明し続けることが生き甲斐だ。アポカリプスに勝ち、謎にあふれた未知の世界を生み出したかった。神の力を授かり創世する世界では、きっと彼女が自分で生み出す謎よりはるかに難解で楽しい謎を生み出せるはずだった。

 永遠エターナルと刹那モメンタリはどちらも落ち着いて大人びた女性の姿だった。二人とも背が高く、格好よく、男装していた。

 二人は夫婦みたいに仲がいい。だから美しい女性同士のカップルをその器に選んでいた。そのカップルは肉体を乗っ取られる前、人工授精で授かり産んだ赤ん坊の身を案じていた。受肉した二人の初の共同作業として、その赤ん坊を二つに引き裂き半分ずつの身体をグラスにその血で乾杯した。

「いいわよクエスト。くすくす。お相手してあげる」

「あれあれ? モメンタリ。何ですかその笑い」

「子供を引き裂くのって楽しいもの。少女の姿をしたあなたを引き裂くのがとっても楽しみで笑っちゃったのよ」

「あははー。そうですかー。趣味悪いですねー。でも興味深い。私なら引き裂くより解剖ですね。解剖してあげますよ、モメンタリ」

「モメンタリは俺の妻だ。俺が守る」

「あは。エターナルってば格好いい。相変わらずお熱いですね。私愛って何だかわからないから、お二人にとっても興味あるんです。解剖して研究してあげますよ。お二人さん」

「くすくす。元気一杯研究熱心。そっちも相変わらずねクエスト。その頭を引き裂いたら何が詰まっているのかしら。単なる脳ってことは無いわよね」

「それは裂いてのお楽しみー。えへへー。ほら行くよアビス。アービースー」

 女の姿をするはめになったアビスは未だにむすっとして、てこでも動きそうにない。おかげで小柄なクエストは自分より大きなアビスを抱えて飛ばねばならなかった。

 途中、サーフィンのようにアビスの背に乗ってポーズを取るクエスト。そこまでしてもアビスは腕を組んで目を瞑ったまま反応しない。それを見てモメンタリはくすくす笑った。

 また大勢の理たちが勝負を見物について行った。残った理たちはサブミットやホープを見たいのではない。グローリーの勝利とパフォーマンスを見たかったのだ。

 栄光グローリーはとても快活な女の子の姿をしていた。大学生でスポーツ万能、たくましくも美しい戦う女を器にしていた。

 グローリーが手を高々と掲げる。そして大仰なそぶりでその腕をびっと下ろし、サブミットとその背にこそこそ隠れるホープを指さす。

「他の者は恐れをなした。この栄えある英雄、栄光グローリーと戦うことに恐れをなした。しかし踏みとどまったお前たち二人は勇気がある。この俺と戦う資格がある」

 周りの理たちが歓声を上げる。彼らはグローリーの強さと共にその馬鹿さ加減と過剰なパフォーマンスを見るのが楽しみだった。

 もちろんグローリーは馬鹿ではない。彼は観客を喜ばせるためにお調子者のヒーローを演じていた。しかしその演技も人間には数え切れない年月を経ると頭の中が冒され演技か本気かわからなくなってきていた。

「余り者のくせに」

 サブミットがつぶやく。アポカリプスの栄えある初戦だ。華々しくいきたいものだ。みんなクエストが言ったようにグローリーの暑苦しさを嫌って初戦を避けた。

 グローリーは後ろにいた華美なドレスを着た女性を振り向き、手を差し出す。

「ではお姫様。お手をどうぞ」

「うむ」

 究極アルティメットはいつも高貴なお姫様をその器として選ぶ。構築し身にまとうドレスはあまりに華美過剰で豪華すぎ、人間なら着られないような重量だった。

 プライド、いや、気位だけは異常に高い。高貴で上品。理に貴族も何も無いのだが、アルティメットは自分を貴族、他の理を平民と見なし、ジャッジメントとは違う意味で他の理たちを見下していた。

 グローリーはそんなお姫様気質のアルティメットを守るナイトを気取っていた。もちろんアルティメットに合わせた演技である。しかしその演技も人間には数え切れない年月を経ると頭の中が冒され演技か本気か区別がつかなくなってきていた。

 暑苦しいグローリーとうざすぎるアルティメットはお互いしか相手をせず相手にされなかった。もちろん他の理と交わることもあるが、二人はほとんどいつも一緒にいたし、離れたときはどちらともなく会いにいかずにはいられなかった。

 本人たちは今でも演技に浸っているだけのつもりだったが、長い年月を経ると互いがいなければいられなくなるほど本気になってしまっていた。

「来いよサブミット。ホープ。俺の栄光で照らしてやるぜ」

 決まった、といった表情の笑みとポーズをしてから、グローリーはアルティメットの手を引き一緒に飛んだ。

「行くぞ。ホープ」

「うん」

 サブミットはホープの手を取る。二人とも少女の姿だ。やっと結ばれるという二人の身体を乗っ取り仲を引き裂いた。だからこそ、せめて、このアポカリプスに勝利しサブミットとホープが結ばれなくては報われない。でなければ無駄な犠牲となってしまう。

 二人も飛ぶ。それぞれの戦いが四方で繰り広げられる。その中央にとどまり続けるアポカリプスとジェネシスは全ての戦いをただ知覚し見守った。

posted by 二角レンチ at 20:11| 理の創世 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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