2013年10月20日

男女六人三行ゲーム(0)あらすじと人物紹介

男女六人三行ゲーム(0)あらすじと人物紹介

あらすじ

 高校の文化祭。巧たち六人の男女は仲良しの友達同士。いろいろな出し物を回って文化祭を楽しんでいた。

 何の出し物かわからない教室を見つけ、ちょっと見てみようと入る六人。しかしその好奇心が、破滅への第一歩だった。

 窓はカーテンや布で遮られた暗い部屋。明かりはテーブルに載る二本のろうそくのみ。

 テーブルの向こうには黒いローブをはおり、手と口元しか見えない大人の女性が座っている。

 黒いローブの女は無言でテーブルを指で示す。そこには紙が一枚置かれ、三行の文章だけが書かれていた。

 五人なら扉をくぐられる。

 三人殺せば出られる。

 一人だけなら助かる。

 わずか三行の文章を使ったゲーム。六人の男女は促されるままそれに挑む。

 しかし挑んではいけなかったのだ。六人は友達だが、互いに不満や嫌いな部分が無いわけではない。

 黒いローブの女はわずかな誘導で巧妙に六人の心の内にある悪意を引きずり出し、醜い争いに発展させる。

説明

 六人の高校生の男女が、謎の人物の用意したゲームをしたために争い傷つけ合う小説です。

 破滅を免れ勝利出来るのか。黒いローブの女の悪意に負けず戦おうとする者、誘導され悪意を振りまく者、怒りをぶつけ、強く挑む者、六人六様、悪意を引きずり出され醜く争い合うゲームの果てをぜひお楽しみください。

 いわゆる殺人ゲーム系のお話ですが、殺し合いをするわけではありません。敗者は勝者の奴隷となります。よって取引により勝利を譲るという選択肢は存在せず、助かるためには勝つしかありません。

 黒いローブの女、セスは魔力と称する不思議な力を使いますが、巧たち六人はそんなもの薬や催眠術、トリックでも出来ると考え魔力があるという事を信じていません。

 しかし、セスがそれを強制出来る手段を持つのは事実です。負ければ本当に何でも命令に従う奴隷にされてしまうでしょう。

 閉じ込められた教室で、悪意の塊であるセスにゲームを強制され、巧たちは今はとにかく勝利を目指す以外になすすべはありません。

 以下人物紹介です。ラフイメージがついています。小説を読む際にキャラクターのイメージを絵で見ても大丈夫な方のみごらんください。

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2013年10月22日

男女六人三行ゲーム(1)仲良し六人組

男女六人三行ゲーム(1)仲良し六人組

 五人なら扉をくぐられる。

 三人殺せば出られる。

 一人だけなら助かる。

 たった三行だけのゲーム。

 たかがゲーム。たかが遊び。

 しかし人の本性を暴き、悪意を押し出すには三行あれば事足りる。

 秋の風が涼しい季節。高校の文化祭が開催されている。仲良し六人組は校内を回って満喫していた。

「こっちの売店の方がおいしいね」

 背の高い清美(きよみ)はほくほくした顔でたこ焼きをほおばる。

「そう? 味付けが濃いわ」

 知的な菊子(きくこ)はめがねをくいっと上げながら口の中でじっくり味を確認する。

「これぐらいしっかり味付けしてある方がおいしいよ」

 背の低い学(まなぶ)もこっちの味の方が別の売店のより好きそうだ。

「うまけりゃ何でもいいだろ。がははは」

 身体が大きくたくましい巌(いわお)はたこ焼きの舟を持ち、みんなが一個ずつ取ったあとの残りをばくばく食べている。

「百合はどう? おいしい?」

 細身で髪がさらさら、美男子として女子の人気がすごく高い巧(たくみ)がにっこりほほえみかけると、背が低くおとなしい女子である百合(ゆり)は赤くなる。

「う、うん。おいしいよ。巧君」

「そう。よかった」

 巧に他意は無い。しかし女子の誰にでも見せる笑顔は女子なら誰でも特別な物だと意識してしまう。

 百合は巧が別に自分を好きなわけではないのがわかっているが、巧にほほえまれるとすごくドキドキしてしまう。

(あーうー。自意識過剰だあ。巧君は私なんか何とも思っていないのに)

 百合は必死に意識しないようにしているのに、巧にほほえみかけられるといつも真っ赤になってしまう。

「おーおー、今日も熱いねえ」

 清美は歯を見せうししと笑いながらいつものように真っ赤な百合をからかう。

「そ、そんなんじゃないってえ」

「そうだよ。百合に失礼だろ」

「あれあれー? 巧。百合はまんざらでもないよー? 何が失礼なのー?」

「そうやって、勝手に人の気持ちを決めつける事がだよ。誰を好きとかそうじゃないとか、からかうべきじゃないだろ」

 清美はにやにやしながら巧をにらむ。

「へー。恋愛感情むき出しで迫ってくる女の子が美人なら抱くくせに。百合は抱かない。それって百合を女と見ていないって事でしょ。その方が失礼だわ」

「俺は百合を大事な友達だと思っている。友達とはエッチしないよ。当然だろ。友情が壊れるじゃないか」

「ははー。モテる男は言う事が違うねえ。そんな言い訳で百合が納得いくと思ってんの? 人の恋心をそういう関係無い理由でないがしろにする。あんた本当ひどいわ」

「やめて清美ちゃん。お願い」

 百合はいたたまれない。涙ぐみながら清美の腕を掴む。

「わかったわよ。でもね百合。あんたも悪いのよ。好きならちゃんと告白しなさいよ」

「だからそんなんじゃないってばあ」

 百合は、自分自身では巧の事が本当に好きなのかどうかわかっていない。好きな気もするし、顔がいいから好きだと勘違いしているだけのような気もする。

 恋と言うにはあまりに浅く弱い感情。他の男の子にだって多少は持つ好意でしかなく、清美にこうやって煽られると正直困る。

 告白して振られたらもう友達でもいられない。このグループにいられなくなる。それはとても困る。

 それに付き合いたいかと言えば別にそうでもない。今の友達関係のままでいい。それ以上を望んでいるとは自分でも思えない。

 なのに清美はおせっかいに焚き付けるし、こうして巧を責めてはもめてしまう。

 百合はこんなの望んでいない。清美が勝手に空回りしてみんなに迷惑をかけているだけだった。

「僕たちはみんな友達。友情だけで恋愛感情は無い。あったらあったで、それは自分の恋として大事にすればいい。告白するも自分の心の内に秘めておくも自由じゃないか」

 学がぼそぼそ言うと、巌が学生服をはきちりそうな筋肉を揺らして笑う。

「がははは。恋愛経験も女経験も無い童貞が一丁前に言うじゃねえか」

 学は顔を真っ赤にして巌をにらみ上げる。

「そんなの関係無いじゃないか。気持ちの問題だ。僕を童貞だって馬鹿にするのやめてくれっていつも言っているだろ」

「あー? 俺はいつまでも女一人抱けないお前を励ましてやってるだけだろ。悪く取るなよ。女の一人や二人抱けないなんて男として情けない。頑張れよ少年」

 同じ歳のくせに何が少年だ。でも学は馬鹿の巌と言い合っても仕方ないのでいつものように口をつぐんで引き下がる。

 巌はたしかに恋愛経験も女性経験もそこそこあるが、それは決してほめられた物ではない。大きな身体と自分勝手な性格で女の子にしつこく迫り、強引に交際を了承させた上でほとんど無理矢理に抱く。

 しかも身体に飽きたらすぐに別れる。ようするに恋愛感情でなく性欲で女の子と付き合おうとする。身体が大きくしつこい性格の巌に何度も迫られ断りきれる女子は少ない。巌のせいで何人もの女の子が泣いている。

 でも、豪快で明るい性格の巌は、男子は元より多くの女子にも人気がある。巌の被害に遭って泣いている子やその子の友達以外の女子からは、たくましくて男らしい巌は好かれていた。

 今時巌みたいに古くさいガキ大将みたいな奴は珍しい。それが女子たちの興味を引くし、面白がられ頼られる。

 何より、巌はその腕力で困ったときには助けてくれる。実際に暴力で虐め被害に遭っている男子や女子を助けた事は数知れず。虐められたら巌に助けてもらえ。巌はすぐに助けてくれる。

 巌にかなう奴なんていない。巌は人を殴るのが大好きだ。虐めっ子をやっつけるのはいい事であり、殴っても悪くない。巌はそうやって人を助けられるヒーローとしていい気になっている。そしてみんなに頼られる。

 巌のおかげでこの学年は虐めが極端に少なく、その被害も程度が軽い。だから強引な巌に女子が何人手込めにされて泣かされてもみんな巌を嫌わなかった。

 巌に逆らって、虐められたときに助けてもらえないと大変だ。巌は自分勝手で不公平なので、気に入らない奴は絶対に助けない。だからみんな、内心巌をどう思おうと、表向き巌と仲良くするし、巌はいい奴だと言う。

 学はそんな巌に童貞だと馬鹿にされ見下される事がすごく嫌だった。でも他の友達はみんないい奴ばかりだ。だからこのグループにいたくて巌の暴言をいつも我慢していた。

 六人は、どの友達グループでもそうであるように、互いをよく思っていない部分はある。でもそれに目を瞑り、独りにならないように頑張って仲良くしていた。

 いい所だってある。あの巌にでさえ。悪い所を嫌って離れていたら誰とも一緒にいられない。嫌な部分は我慢する。それが人付き合いに必要な事で、少年たちは学生生活の中でそれを学ぶ。

「あれ、あっちにもお店あるのかな?」

 清美が指さす。廊下の奥に、文化祭の出店の看板が見える。

「あそこは使われていない物置だったはずだけど。中の大量のがらくたをどこかにやってまであんな所で店を出さないはずだよ。その手前の教室だって空いているんだし」

 巧は頭がいい。他の誰も気にしないような事でも気づいていぶかしがる性格だ。

「何なんだろうな。見に行ってみようぜ」

 巧と間逆の単純馬鹿な巌は不思議がるまでもなく興味だけで口走る。

「行ってもしょうがなくない? きっとつまらないよ」

 この文化祭をちっとも楽しんでいない風に見える菊子はめがねをくいっと上げて、手に持った文庫サイズの小説を読みながらつぶやく。

「まあまあ。見るだけだから」

 清美は興味を引かれた風で、うきうきしながらみんなの返事を待たずに歩き出す。

「やれやれ。ああやって何でも面白がれたら毎日幸せでしょうね」

 菊子はため息をつく。

「小説以外に面白い物は無いのかい?」

 巧が菊子の読んでいる小説をのぞき込むように顔を寄せて尋ねる。菊子は巧を嫌悪するように顔をしかめ首を少し離す。

「そうね。マンガとかは浅いわ。深い描写や心情を省いて読者にわかりやすく描いているもの。でないと馬鹿には読めない。映画とかも同じ。尺に縛られ省きすぎ。小説だけが、膨大な文章の分だけページを増やしてもかまわないから深く書ける。ま、もっともたいていの小説は浅い内容を無理矢理水増しして量を増やして値段を上げているから浅いんだけどね」

「そうじゃなくてさ、現実の、人間にもっと興味を持ちなよ。恋愛だってさあ、小説と現実は違うんだぞ?」

「そうよ。違うわ。現実の恋愛は浅くて汚い。私はもういらないわ。小説の方がよっぽど深くて純粋で、汚く醜い物も現実よりもはるかに面白いもの。味わうなら現実の恋愛より小説の恋愛だわ」

「なあ、そうやって決めつけるものじゃないって。菊子が恋愛で嫌な目に遭ったのって小学生の頃だろ? 幼稚な彼氏が友達に冷やかされて、恥ずかしさをごまかすためにお前を振っただけ。今の歳の恋愛は違うよ。ちゃんとみんな大人で、菊子を傷つけはしないよ」

 菊子は本から目を離し、巧の目をきっとにらみつける。

「あなたに何がわかるのよ。誰とも付き合わない。付き合う気はないけどエッチならしてもいい。そう言って、身体だけでもあなたに抱かれたいって女の子を何人も抱いて。恋愛してないじゃない。あなた偉そうに言う前に、きちんと一人の女の子と向き合って恋愛しなさいよ」

「好きでも無い子とつき合えるわけないだろ。告白されたからって付き合いたくない。でも抱くだけでもいいからって言うかわいい女の子がいれば、そりゃ抱くに決まっている。女の子とセックスする方がオナニーより百倍気持ちいいんだ。菊子にはわからないよ。小説のセックス読みながらオナニーしているだけなんだろ」

 菊子は顔を真っ赤にして歯を食いしばる。

「あなたね、女の子に向かってセックスだのオナニーだのよく言えるわね。そんなにデリカシー無いくせにどうしてモテるのかしら。顔だけしかいい所無いくせに」

「お前が女らしくしないからだろ。俺はちゃんと、女の子として努力している子には優しくしている。菊子。女扱いしてほしかったらめがねやめろよ。度が入ってないくせに、知的少女ぶるためにかけているんだろ。格好悪い」

 巧は菊子のめがねをひょいと取り上げる。

「何するのよ! 返して」

 巧は菊子のめがねを自分の顔にかける。度が入っていない。PCや携帯端末の有害波長をカットするための保護めがねだ。

「髪もおろせよ。それだけ美人なんだ。もったいない」

 巧はめがねを取り返そうと腕を伸ばす菊子を抱きしめ、二本のお下げを手のひらに載せて持ち上げる。

「離して。やめてよ」

「俺に抱きしめられてドキドキしない? そこまで女捨てているの?」

「馬鹿。いい加減にしなさい。女に不自由してないくせに私を抱きしめて楽しむなんておかしいわ」

「おかしくないだろ。菊子は美人で女だ。なあ、女でない振りすんのやめろよ。めがねやめて、ダサいお下げもやめて、ちゃんときれいにしろよ」

「本当、いい加減にしなさい……!」

 菊子は怒りっぽい。顔を真っ赤にして巧をにらみ上げる。巧はため息をつきながら菊子を離し、めがねも菊子の顔にかけてあげる。

「わかったよ。今日はここまで。でもいいか菊子。いつもみんなで遊びに行くとき、お前が清美や百合と違ってダサくて浮いているから通行人に笑われているんだぞ。お前はちゃんと美人なんだ。そんなお前が笑われるのは許せない。ちゃんと髪や服や化粧に気を遣えば他の男たちを見返せるんだ」

「見返す必要なんて無いわ。他の男の気を引く必要なんて無い。あなたいらないおせっかいが過ぎるわ。何様よ」

「俺はなあ、美人が女を磨かないと腹が立つんだよ。女は女を磨くのが当たり前だ。男が男を磨くのと同じだろ。菊子は大事な友達だ。他の何も知らない男にダサいだのブスだの言われると腹が立つ。友達を馬鹿にされて黙っていられるか」

「私がそれでいいって言っているんだからいいじゃない」

「よくない。小学生の頃にひどい振られ方したからって男を寄せ付けないようにするのやめろ」

 二人の口喧嘩はいつもの事だ。頭がいい二人はえんえん何時間でも議論出来る。普段冷静な巧も菊子と言い争うときだけはやけに熱くなる。放っておけばずっとこの調子で喧嘩し続ける。

「ストップ。二人とも。もう清美も巌も行っちゃったよ。僕らも早く行こう」

 学はいつものように仲裁に入る。その横で同じくらい小柄でおとなしい百合もこくこくうなずく。

「はーっ。わかったよ。ごめん学。百合」

「謝るなら私にでしょ」

「菊子も謝れよ。俺たちの喧嘩でいつも学たちに迷惑かけているんだからさ」

「あなたが私につっかかるからでしょ。私は悪くないし、謝る事なんか何もないわ」

「はいはい」

 こういうときはいつも巧の方が引き下がってくれる。菊子も自分が悪いのがわかっているが、素直に謝れない。だからうつむいてぶつぶつ巧の恨み言を言う振りをしてごまかしている。

 菊子は意固地で自分中心に振る舞う。だからたいていの子には嫌われる。このグループから放り出されたらきっと孤立する。百合は菊子の駄目な点を好きではないが、それでも菊子がみんなと一緒にいられるように努力する。

「行こう。菊子ちゃん。清美ちゃんたち中で待っているよ」

 菊子は百合に手を引かれる。ぶつぶつ言いながらもおとなしくついていった。

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2013年10月24日

男女六人三行ゲーム(2)三行問題

男女六人三行ゲーム(2)三行問題

 巧たちが廊下の奥にある教室に入ると、先に入っていた巌が振り返る。

「おーい何だお前等。遅いぞ。ったく。たかが廊下を歩くぐらいで何やってたんだ」

 巌がたくましい身体を大きく揺さぶりながらぶつぶつ言う。

「ごめんごめん」

 巧が笑顔で言う。もちろん菊子ともめていた事は言わない。でも憮然とした菊子の顔を見れば何があったか丸わかりだ。いつもの事だ。

「まあた夫婦喧嘩かあ? ったく似たもの同士だなあ?」

 巌がいやらしい顔で笑う。夫婦という言葉を下世話な意味で言っている。

「誰がこんな奴と」

 菊子は巧を指さしすぐに叫ぶ。でも巧は相手しない。それが余計菊子を苛立たせた。

「まあまあ」

 百合は困りながらも菊子をなだめる。本当は怒った菊子が怖いのだが、清美が何もしてくれないのでいつも菊子をなだめるのは百合の仕事だった。

 清美は菊子が怒っているときは相手にしない。

 頭がいい菊子と頭のよくない清美。学力の差が激しく、清美はいつも菊子に勉強を教えてもらいながらコンプレックスに思っていた。

 だから子供みたいにすぐ怒る菊子を幼稚だと無視する事で自分の方が大人だと思い、菊子に対するコンプレックスをわずかでも解消していた。

 おかげで百合はいつも怒って怖い菊子をなだめる役目だ。百合はその役目を暗に押しつける清美に不満を抱いていた。

 廊下の奥の、使われていない教室。いらない物を押し込んだ、がらくたの山があったはずの教室は、すっかり片づいていた。

 あれだけ大量の物を整理し運び出したのだろうか。それとも処分したのだろうか。まったく注意していなかったからよく覚えていないが、前日までにそんな大がかりな荷物の運び出しをしている様子を誰も見た事が無かった。

 巧ぐらいしかその違和感に気づかない。いぶかしまない。たいていの人は気づかないし、気づいても気にしない。

 物置にされていた教室は広く、薄暗かった。窓にはカーテンがひかれ、廊下側の窓にも布がかぶせてある。教室の真ん中に明かりが灯っていてそこだけ明るい。明かりの前に清美と巌がいる。

 清美は頭のいい菊子が来た事で、今気づいたという感じを装って振り返る。

「あー、菊子。おっそーい! ねえねえ、これどういう事かな。あんたならわかるでしょ」

 清美は笑顔で菊子にまくしたてる。頭のいい菊子に頼る気持ちが半分。そして頭のいい菊子が難しくてわからない難問に負けて悔しがる様を見たい気持ちが半分あった。

 菊子はそういう清美の浅いずるさをよくわかっている。でも、知恵で敗北する菊子を見たがる清美に、知恵で勝利し悔しがらせるのが好きだった。

「何なの? クイズみたいに何か問題を解くタイプの出し物なのかしら?」

「んー。わからない。問題なのかなあこれ」

 薄暗い教室に台が置かれ、その前に黒いローブをまとった人がイスに座っている。その人物はフードを目深にかぶって男か女かもわからない。

 そのローブの人物は何も言わず、座ったまま前にあるテーブルを指でとんとん叩く。ローブと同じく黒い布をかぶせたテーブルの上に、白い紙が一枚置かれている。それがテーブルの両端にある二本の細長いろうそくの光に照らされている。

(ろうそく? 変だな。文化祭の出し物で、ろうそくなんて火事の元になる明かりを使う許可は下りないはずだけど。調理に必要な火なら明るい教室でしかも複数の人間がその場にいる事が必要だ)

 巧は他の誰も気にしないようなささいな事でも気になる。でも細長いろうそくの小さな火だ。これぐらいなら特別に許可が下りたのだろう。

 不気味な黒魔術か予言者の館といった雰囲気を出すのに普通の照明では味気ない。ろうそくの揺れるやわらかい火が最適で、効果的に不気味さを演出していた。

「どれどれ」

 菊子は頭がよく、謎解きが好きだ。学校の勉強は知恵でなく知識で解く物なので面白くない。もっと知恵と工夫を凝らしたひねりの効いた問題を解きたい。

 どうせ文化祭の出し物だ。期待してはいけない。大した事が無いか、ひねくれすぎて解けない問題なのだろう。それでも菊子は新しい小説の一ページ目を開くときのようにちょっぴりわくわくしていた。

 紙には文章が書かれていた。菊子はそれを読む。巌と清美は先に来て読んでいるので後ろに下がり、巧、学、百合が菊子の左右からのぞき込む。

「何、これ?」

 菊子が不思議そうにつぶやく。

「問題、なのかな?」

 巧もよくわからないで首を傾げる。

 頭のいい二人にわからないのだ。もちろん学と百合にもわからない。学はゲームが好きだが謎解き系はさほど得意ではない。

「んー、ねえ、これ何なんですか?」

 菊子は目の前にいるローブを着た人物に尋ねる。その人物はまた手を伸ばし、テーブルの上の紙をつんつんと指でつつく。

「読めばわかるって事ですか?」

 ローブの人物は答えない。しかし手を引っ込める。うなずく代わりだろうか。

 細い手と指だ。女の手に見える。きれいな手だった。しかも大人の手だ。

 誰だろう。教師の誰かだろうか。しかしよくも悪くも普通の教師しかこの学校にはいない。ローブをはおって無言で紙を指し示す。こんな変な演技をする教師なんていそうでいないのだが。

 菊子はしょうがなく、紙に書かれた文章を読み上げる。

「五人なら扉をくぐられる」

 菊子が一行目を読んだので、巧が二行目を読む。

「三人殺せば出られる」

 その不気味な文章にちょっと嫌な気持ちになりながらも学が三行目を読む。

「一人だけなら助かる」

 紙にはその三行が書かれていた。それ以外何も書いていない。

「これって、なぞなぞなの?」

 百合は菊子におずおずと尋ねる。

「ん……そうだと思うけど」

 答える菊子の後ろから清美がくっついてきて両肩を抱く。のしかかり、大きな胸を背中に押しつけながら紙をのぞき込む。

「どう。菊子。賢いあんたなら解けるでしょ? もしかして解けない? 解けない?」

 清美は頭のいい菊子が馬鹿な自分と同じように知恵で破れてくやしがる様を見るのが大好きだ。期待でうれしそうな声で菊子をせき立てる。

「うるさいわね。考えているのよ。重いからのしかからないで」

「ねえねえ、解けないんでしょ。これなぞなぞよね? 頭のいい菊子にも解けないんだあ」

 清美はすごくうれしそうに笑う。菊子はいらいらして背を反らし清美を押し退ける。

「考えているって言っているでしょ。ちょっと黙ってなさいよ」

「おお怖」

 清美はおおげさに驚く風で菊子から離れる。清美が人を馬鹿にした態度を取るのはいつもの事で、菊子はそれでも毎回いらいらしてしまう。

 菊子の短気は重度の物だ。それはすぐに激しく怒ってみせる事で周りを追い払い身を守ってきたからだ。

 この学校に入り、このグループでつるむようになるまでは、孤立する菊子はこうして周りの虐めっ子たちを威嚇しはねのけてきた。だから今更やめるわけにはいかず、長年の習慣なのでもうやたら怒りっぽくなる自分を制御出来なかった。

 菊子は横にいる巧の顔を見る。いつも女らしくしろとか何とか言いがかりをつけて喧嘩をふっかけてくる巧の事が好きではないが、こういうときは頼りになる相棒として一目置いている。

(他の連中が馬鹿揃いだからしょうがないのよ)

 菊子一人で解ける問題なら解くが、解けない場合自分と同じくらい頭のいい巧と話しながらだと大概は解ける。菊子はプライドが異常に高いが、それでも自分の知恵が敗北するのが一番嫌いだ。だからプライドでは巧に頼りたくないが、どうしようもないときは巧に頼る。

 巧はそんなとき、菊子と対立したり馬鹿にしたりせず素直に協力してくれる。だから菊子も変に意固地にならず自然に頼る事が出来た。

「巧はどう思う?」

「なぞなぞ、にしては問題自体がよくわからないな。このローブのお姉さんは何も言わないし。なぞなぞか問題かすら教えてくれないなんて変だな」

「え? お姉さん?」

 学が巧に訊く。

「若い女だ。でも大人だな。さっき紙を示すとき手を見せただろ。きれいなお姉さんの手だった」

 紙を指で示されたらその紙ばかり見る。手なんてじっくり見ていなかった。

「先生の誰か?」

「んー、違うと思う。手がきれいすぎる。若い女の教師は何人かいるけど、あそこまで細くて美しい指の人なんていない」

「女の先生の手までそんなに見ているの?」

「え、普通だろ?」

 巧はあっけなく言うが、普通女教師なんてまじまじ見ない。手なんかそんなにじっくり見ているわけもなく、もし仮に全員同じ黒いローブを羽織ったら、手だけで誰が誰か正確に指摘するなんて無理だろう。

 学は訝しむ。

(巧はモテるけど、まさか、若い女の先生たちとまで寝ているわけないよな……?)

 寝たのなら、手までじっくり見て触れて、そして触れられているはずだ。でもまさか教師と生徒でそんな。

「いい着眼点だぞ学。この女性が何者か知らないが、学校の先生とは違うと思う。生徒の誰かの家族で、特別に文化祭に協力しているのか? それにしては雰囲気がある。暗い中ろうそくの火だけなせいか? とにかく何か、この人は普通じゃない」

 ローブの人物は巧の指摘に対し、ローブをかすかに揺らして笑う。

「ふふ……面白い子ね」

 その声はとても甘く深く、そしていやらしい。みんなぎょっとしてローブの人物を見た。

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2013年10月26日

男女六人三行ゲーム(3)黒いローブの女

男女六人三行ゲーム(3)黒いローブの女

 黒いローブを着た女はずっと無言だった。でも今はじめて口を開いて出た声はとても変だった。

 冷たい清水のようにきれいな声なのに、とてもドロドロと熱くて淫らないやらしさを帯びていた。全員その声に対しもじもじする。

「何? この人」

 百合が顔を赤くしながらつぶやく。

「え……お前等もか?」

 巌がみんなの顔を見る。女性たちはほほを赤くしてうつむく。

「何かこの人の声エロいよな。俺ちょっと反応しちまったぜ」

 巌はだははと笑いながら、少しだけ膨らんだ股間を突き出す。

「馬鹿。何してんのよ」

 清美はそれを見ないようにしながら目を逸らす。でもちらっと横目で見ておく。

「ごめんなさい。ちょっといたずらしちゃった。もうしないからね」

 ローブの女性はさっきと同じ艶のある声で話す。でもさっきと違い、みんな股間がうずくいやらしさは感じなかった。

「今の、わざとだって言うんですか?」

 巧が少し強めに言う。

 声だけで性的に興奮させるなんてあり得ない。別にエロい言い方をしたわけではなく普通の声だった。いやらしいあえぎ声ではないのにいやらしく感じるはずがない。それを男女六人全員が、股間が反応するほどうずかせるなんてあり得ない。

「くすくす。私の事とかはもっと後でね。ただちょっと片鱗を見せた方が真剣になれるでしょ? 今は目の前の問題に集中しなさい」

 女はローブを深くかぶったまま、また美しい指でとんとんとテーブルに置かれた紙をつつく。

 その指は、真っ赤な爪が長くついていた。爪の先は尖っている。まるで獣の爪のように。

(おかしいぞ。さっきまでこの女の爪は普通だった。長くもなければ赤く塗られてもいなかった)

 巧はよく覚えている。普段からちょっとした事をよく見て覚えて、変わっていくのを楽しんでいた。四季の微妙な変化を毎日楽しめる。女性が一日ごとに美しくなるのを楽しめる。誰にもそんな微妙な変化はわからないそうだが巧はよくわかる。

(落ち着け。トリックだ。マジシャンならもっと不思議な変化をさっとやってのける。爪をローブの下でつけるぐらいでいちいち驚くな。この女は不思議な雰囲気を作ろうとしている。それだけ。さっきは初めてあんなに美しい声を聞いたから、驚いて魅力を感じてしまっただけだ)

 考えるときりが無いからそれ以上は考えないようにした。でも、今までの人生で聞いた事が無かったほど美しい声。人間離れした声。あり得ない美しさ。そんな声に出会った特異さこそを疑わねばならなかったのに、巧はこの女に翻弄されるのが嫌でそこまで考える前に思考を停止してしまった。

 代わりに思考全てを問題に集中する。巧は女を見下す事は無い。しかし女に負けるつもりも無い。男は男を、女は女を磨く。より自分を高め、他人に負けてはいけない。競争心が人一倍強かった。

 子供の頃、弱かった頃、美しい少年は女の子のようで、そのせいで嫌な目に遭ってきた。もう負けない。男として強く立派になる。そのため自分を鍛えてきた。知恵比べでも女だろうが誰だろうが負けたくない。

 菊子だって知恵には自信がある。巧と違い、勝負出来る物は頭脳だけ。同じ女に負けたくない。

「この問題はあなたが作ったんですか?」

「問題に集中しなさい。話はこの問題を解けたあとでないと出来ないわ」

「この問題はあまりにも不完全です」

「問題が何かを考えるのまで含めて問題よ。わかっているでしょう」

「だからです。あなたが考えた問題か、それとも他の誰かが作った問題か。それが大事です」

「どうして?」

「問題の意図がそれにより変わるからです。意図が変われば解き方も変わる。答えが一定でなく、いくつもあるタイプの問題なんでしょう」

「くす。頭のいい子は好きよ。最近の子はすぐ諦めたり理不尽だと言ったりするからね。言わなくてもわかる事は言わないんだけど。あなたや巧君は面白いわね。いいわ。答えてあげる。その方が面白くなりそうだから」

 ローブの女は顔を上げる。とはいってもフードを深くかぶって顔が見えない。あごと唇だけがのぞく。その唇は爪と同じように真っ赤だった。

 口を動かす度ちらりと歯がのぞく。牙がのぞく。いや、犬歯が大きいだけか。それとも演出のためのつけ歯なのか。輝くように真っ白で、明らかに人間の犬歯より大きな牙だった。

「私はセス。問題を解いて、解いたらどうなるかを教えてからでないといろいろ説明しても信じてもらえない。だからまだ言わない。本当は何も言わないで問題を解かせるんだけど、あなたたちはとても面白くなりそうだから、少しお話してあげる」

 フードをかぶったまま顔を見せないなんて話す態度ではない。でも問題を解かないと顔を見る権利すら無いらしい。

「これは小手調べよ。十分満足いく思考と回答が出来るかどうかのテスト。合格しないならこれ以上の問題を与えない。たいていは問題を解けないでわけがわからないと吐き捨てて出ていくわ。そんな浅い子たちはいらない。テストに合格しないと使い物にならないからね」

「あ? 何だ? 俺たちを何かに利用しようってのか」

 巌は人を好き勝手に蹂躙する。他人に利用されるのは好きではない。頼まれれば人助けで暴力を振るうのは、利用されているのではなく暴力を振るうために利用しているのだ。

「ちゃんとあなたたちに十分な利益がある話よ。このテストは小手調べだから、利益もほんのちょっぴり。でもそれを知れば納得するしのめり込むわ。まあそれは後のお楽しみ。まずはこの問題を解いてちょうだい」

「何かお前、気に入らねえな」

「くすくす。その内気に入るようになるわよ巌君」

 巌の名前をこの女の前で誰か呼んだか? 呼んだかもしれない。巧たちが来る前に巌や清美が名前を話したかもしれない。

 そうでなくても巌がいるし、美人の清美もいる。頭がいいが怒りっぽい菊子もいるし、女にモテる巧もいる。このグループの事なんかちょっと調べればいろいろわかる。

 この女はどうもめぼしい生徒をあらかじめピックアップしていた事をほのめかしていたから、巧たちの事も調べて知っているのだろう。

 巧はこの女が誰の名前を呼んでもそれを不自然とは思わない事にした。他の連中はそれがおかしいかどうかすら気づいていない。

「ふふ。菊子ちゃんが気にしていた事。この問題を作ったのは誰かだったわね。私よ。問題は全部私が作る。自分で作った問題で人間たちを試す。そういう決まりなのよ」

「決まり? 何の?」

「それは後からね。いろいろ興味わいてきたでしょ? あなたたちは私に興味がわくほど本気になってくれそうだからこうやって話すのよ。このまますごすご逃げ帰ってもずっと悶々としちゃうわよ。私の問題を解いて、私からいろいろ聞けるようになった方がいいんじゃない?」

 全員顔を見合わせる。巧と菊子は問題を解く気まんまんだ。学と百合はこの女が何だか変なのでちょっと嫌そうだ。

 清美は頭のいい菊子が問題を解けずに音を上げる様を見たいので違う意味で乗り気だ。巌も意気込んでいる。

「俺は馬鹿にされるのは許せねえ。この女が俺たちをこけにしているのはわかるぜ。何だこいつ。おい菊子。やっちまえ」

「何であなたに命令されないといけないのよ」

「俺がこんなの解けるわけねえだろ。馬鹿かお前」

 菊子は巌の馬鹿さ加減に毎回うんざりしている。でもいちいち腹が立つ。清美は歯ぎしりして巌をにらむ菊子の顔を見て口に手を当てくっくと笑っている。

「解いてやるわよ。この女は私も気に食わないわ。自分の考えた問題を解けない私たちを馬鹿にして楽しんでいるもの」

「くすくす。こうしてお話してわかったでしょ? 菊子ちゃん。あなたがそうであって欲しいと考える通り、私も知恵と工夫で解ける問題が大好きよ。この問題はちゃんと、知恵と工夫で解けるわ。答えは知恵次第で変わる。そういう問題の常として、ちゃんと納得いく答えになるわ。もちろん理不尽ぎりぎりだから、浅い人なら怒るでしょうね」

 巧が口を挟む。

「それってつまり、理不尽な答えだけど怒るのは浅い思考の馬鹿だと言うわけですか」

「そうなるわね。賢い人ならきっと、その理不尽ぎりぎりさで納得する。でも納得しないのは馬鹿だから納得しなさいって言うわけじゃないわ。解いたらわかるわよ。納得するって意味が」

(解かれたあとで、理不尽だとか答えがおかしいとか言うのは馬鹿だとののしって、無理矢理ろくでもない答えをごり押しする。そういうタイプの出題者ではなく、賢ければちゃんと納得は出来る答えになると言っている)

 どこまでそうかわからないが、いずれにせよ解いたらわかる。それが納得いくか、理不尽で無理矢理な物かはそのときはっきりする。この女がどう言おうと巧が考える範囲で納得いくかどうかが問題だ。

「さ、これぐらいでいいでしょ。この問題は、菊子ちゃんが望む知恵と工夫を存分に使える物よ。答える者によってどんな問題かが決まる。だから問題文が書かれていない。この条件から問題を考え、さらに問題にふさわしい答えを回答する。問題構築能力によって回答が深いか浅いか決まる」

 菊子は答えが決まりきっている物より、知恵と工夫により複数の答えを用意出来る物が好きだ。よりよい答えを考え出すのが大好きだ。

 でもそんな事を人に言った事が無い。いや、ちらほらとそれっぽい事は言ってきたかもしれない。問題を解いたときの表情とかを見ていれば推測出来る事かもしれない。

 菊子はなぜか心の中まで見透かされたような気がして不気味だったが、セスが事前に菊子たちの事を調べていたならその程度は見透かされて当然の情報だと割り切った。

(面白いじゃない。頭のいい生徒とその周りの人間の事を何人も調べておいて、手ぐすねひいて待っていたってわけね。私たちはこの女が目を付けていた連中の一部にしか過ぎない。たまたまここを目にして立ち寄った。蜘蛛を見つけて興味を持ち、ふらふらと不用心に近づいた蝶ってわけね)

 蜘蛛の巣にかかった蝶が蜘蛛を逆に食い殺す。それが出来れば痛快だろう。立派な巣を作ってそれにかかった蝶をあざ笑う蜘蛛を食い殺してやる。

 菊子や巧はこのローブの女、セスに敵意を燃やし、本気で問題に向き合う。その様子を見て、力になれないだろうけど学と百合も問題を見て真剣に考える。

 巌は頭のいい連中に任せて腕を組んでふんぞり返る。清美は真剣に悩む菊子の顔を見て早く泣きべそかくのを見たくてうずうずしていた。

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2013年10月28日

男女六人三行ゲーム(4)殺人ゲーム

男女六人三行ゲーム(4)殺人ゲーム

 問題を出した女、セスと少し話してその人となりが見えてきた。

 菊子に似ている。でもまったく怒りっぽくはない。知的で知恵を使う事を好む。知恵を使って作った問題でそれより知恵が劣る者をやり込めてあざ笑う事を喜びとする。

 問題で知恵比べをして負かしていい気になるには、理不尽な問題は作れない。しかし解けないよう理不尽ぎりぎりまでひねっておかねばならない。

 そのさじ加減一つで卑怯者のそしりを受ける。それでは問題で負かせてもいい気になれない。いい気になるには負けた方がくやしがりながらも納得する問題と回答でなければならない。

 セスと話して、この問題についていくつか教えてもらえた。巧は思考を整理するためにそれを復唱する。

「これは問題構築型の問題だ。書かれた条件から問題そのものを考え、さらにその答えを考える。どんな問題かという事も、その答えも、回答者によって決まる」

「それだと、問題を作った人の答えとは違う事になるんじゃないの?」

「いや、学。出題者は導き出される問題と答えをあらかじめ用意してある。でもそれと同じくらい納得がいき、面白く、素晴らしい物を回答者が作る事を期待している。こういう問題を解くっていうのはな、ようするに出題者も回答者も納得してうなるほど素晴らしい問題と答えを考え出すって事なんだ」

「うーん、つまり陳腐なのを考えても解いた事にならないって事?」

「そういう事だな。誰もがうなるような物を考えないと意味がない。幼稚な問題と答えをこじつけて解く事は出来るが、それだとこの女に勝った事にはならない」

 黒いローブで顔を隠した女、セスはくすくす笑う。

「そうね。納得いく問題と答えを期待しているわ。私だけでなく、この場にいる全員が納得いくものをね。でないと使い物にならないもの」

「何の?」

「さっき言ったでしょ。この問題のあとに用意してある本題によ。これは小手調べ。あなたたちが使い物になるかどうか試す。その結果で、私が話をし、あなたたちを使って本題に入るかどうか見極めるのよ」

 巧はまだ何か言いたそうだったが、菊子が手を振って遮る。

「今はこの問題に集中しましょ。話はそれからだわ」

「ああ」

 百合はちっともわからない。でも何か助けになりたくて、問題の文章を読み上げる。

「五人なら扉をくぐられる。三人殺せば出られる。一人だけなら助かる」

 テーブルに置かれた紙にはその三行しか書かれていない。

「えと、これから問題を推測しろって事だよね」

 百合は自信なさげに問う。

「そうだ。これが何を意味するか考えて問題を作り出す」

 巧が答える。

「五人って、僕たちの事?」

 学が不安げに言う。

「そう考えるのも自由だ」

「私たちが六人だから、この問題が書かれた紙を用意したって事?」

 菊子はそう言って、顔を上げる。

「清美。あなたと巌がこの部屋へ入ったとき、この問題の紙はどうだったの?」

「どうって?」

 清美は頭が良くない。言われている意味がわからなかった。

 菊子はいちいち一から十まで説明しないといけない事にいらいらする。

「この紙は、ええと、セスさんが、何枚もの中から用意したかどうかよ」

「は? そんなわけないでしょ。始めからテーブルに置かれていたわ。その女は指でとんとんと叩いて指し示すだけで何も言わないもの。それを見て、何のことやらって巌と首を傾げていただけよ」

 やはりか。でも五人以上のグループでないと自分たちの事とは考えない。たまたま問題の文より多くの人数がいるグループが来ただけなのか。

 セスはローブの下で唇だけ見せてくすくすと笑う。

「何よセスさん。言いたい事があるなら言って」

「セスでいいわよ。敬語使わないくせにさん付けだけしたってしょうがないでしょ。私は敵じゃないけど敵視するぐらいでちょうどいいわ。信用して欲しいけど警戒心は必要よ。知恵比べだって戦いだもの。自分以外は敵。あるいは利用する。味方じゃない。気を許してはいけない」

「何それ。ここにいるみんなは友達よ。信頼しているし味方よ」

「くすくす。まあそうね。人間の言う友達の定義は基本的に、心の中では軽視している相手に使う物だものね」

 菊子が顔を赤くする。

「私は、その、みんなの事を馬鹿になんかしていないわ」

 菊子が頭の良さを鼻にかけ、それだけが自慢なのをみんな知っている。みんなを頭脳で劣っていると見下しているのもみんな知っている。いちいち口に言わなくてもそれぐらいわかる。みんな本当の意味での馬鹿ではないのだから。

「ふふふ。それは今は置いといた方がいいんじゃない? お仲間で一緒に問題を解くんでしょ?」

 菊子はどうも、この女との口喧嘩に勝てる気がしない。いちいち怒らされて思考を阻害される。

 この女をやり込めるには問題を解くしかないのだ。怒りは思考を狂わせる。落ち着け。菊子は滅多にしない深呼吸で気を落ち着かせようとする。

「……どうもこの女は、私たちが五人以上いるからこの問題に当てはめたがっているみたいね。乗るのはしゃくだけど、今のところそれ以外の上手い方法が思いつかないわ」

「え、でも」

 百合は不安そうに言う。

 だって、問題の文章には殺すという言葉が含まれている。そんな物騒な物に自分たちを当てはめたくない。

「百合。別に本当の私たちにあてはめるわけじゃないわ。ただ想像しやすくするだけ。問題を解く手がかりとして、まず仮定してみるのよ。私たちと同じ六人の人間が、この三つの文章を条件として与えられた。その状況は何か。それが問題。そしてその状況を解くのが回答よ」

「仮定……」

 百合は嫌だったが、もし自分たちがこの文章を与えられたら、それはどんな状況かを考える。

「やっぱり、どこかに閉じこめられて、そして全員では出られないルールなんじゃないかな」

 ゲームやマンガが好きな学が身を乗り出す。

「うん。そういうのってよく話の題材に使われる。いわゆる殺人ゲームだね。男女が複数閉じこめられて、脱出出来る人数は一人だけとか、殺し合って生き延びた数人だけとかいう奴だ」

 頭を使うつもりのない清美が話に割り込んでくる。

「ちょっとちょっとー。なになにー。私たちに殺し合いをしろって言うの? やあよそんなの。馬鹿じゃないの」

 巧が清美に説明する。

「清美。あくまで仮定だよ。この条件を出される状況を考えて、それを問題とするんだ。学が言う殺人ゲーム系に必ずといっていいほどある、殺し合いのルールを書いたのがこの紙だと考えるのが一番問題として考えやすい」

 巌が笑う。

「おいおい。じゃあ殺し合わないとこの部屋の扉が開かないってかあ?」

 巌がずかずかと教室の扉に近づく。扉を開けようと手を伸ばす。

「開けちゃ駄目よ。開けたらもう問題を放棄したとみなすわ。テストは終了。あなたたちは何もわからず何も解けず、すごすごお帰り願うわよ」

 セスが鋭い声で言うと、扉を開けようと手を伸ばしていた巌が止まる。

「おいおい。ちょっと外の空気を吸うのも駄目かよ。ここは扉も窓も閉め切っているから蒸し暑くて息苦しいぜ」

「この雰囲気の中で思考するのが大事なんじゃない。ろうそくしか明かりの無い暗い部屋。人間の思考や感情は暗く圧迫された密室ではたやすく変化する。心と思考の変化が大事なのよ。それを破ってリセットするのは許されないわ」

「ちぇっ。わかったよ」

 巌はしぶしぶ扉から離れ、菊子たちの方へ来る。

「菊子。解けそうか」

「まあこの路線ならね。この女の思惑に乗るのはしゃくだけど、他にこの文章に当てはまる状況ってのも考え辛いわ。何かの比喩と見るより、直接的に捉えた方がはるかに問題も答えも考えやすい」

「つまり、僕たち六人が密室に閉じこめられて殺人ゲームを強要される。生き残る条件はこの文章のどれかを満たす事だね」

 学がうきうきして言うと、菊子はこくりとうなずく。

「そうよ。この女がさっき言った通りよ。人間は暗くて狭い密室に閉じこめられると冷静ではいられない。もし全員が生き残れず、殺し合わないと助からないと言われたら、たった数時間で本当の殺し合いが起きる事もある。何十時間も耐えられる人間なんていないわ。極限状況下での人間の変化や暴力性はいろいろな実験で証明されている」

「そうなの?」

「そうよ」

 菊子は口を挟んで邪魔する清美をにらむ。清美は何でにらまれたのかもわからず不機嫌に顔をしかめる。

「小説とかマンガでそういう殺人ゲームの話が多いけど、読者は犯罪を決してしない普通の一般人がすぐに殺し合うのをとても不自然に感じるわ。でも実際は小説より奇なりってのが正しいの。驚くほど簡単に人は思考がおかしくなる。殺人なんて大それた事を本当にあっけなくしでかしてしまうのよ」

 菊子は指を立てて清美をにらみながら話す。清美は馬鹿に言い聞かせる先生みたいな菊子のその仕草にむかつく。

「かっとなったはずみでも人を殺してしまえる。殺人をしないといけない状況を用意してちょっと追いつめたら実際に殺してしまうものよ。この手の話では複数人の人間を用意する。人数が多いとその中に、本当に殺してしまう人間が必ず一人はいる。誰かが殺人をしたらあとはみんなそれに従わざるを得ない。殺さないと殺される。もう殺人が行われ、その手段はタブーではなく許される法となってしまった。銃の携帯を許された社会では銃を使って身を守り、その殺人が許される。それと同じ。銃以外の手段であれ、自衛のために殺人が許され存在する世界なら、人は人を殺すわ。正気な人ほどね」

 清美はずっと自分を見ながら話す菊子をにらみ返す。

(何こいつ。いちいち私を見ながら言い聞かせて。かっとなって私が菊子を殺すって言うの? ふん。するわけがない。この女頭がいいくせに本当馬鹿。殺すわけないっつーの。あああ本当殺してやりたい。殺すのが当たり前って言うなら本当にぶっ殺してやりたいわ)

 説明にかこつけて清美を馬鹿にしている菊子に清美は怒りを募らせる。でも二人きりならともかくみんなの前で殺してやろうかとか言うのはまずい。清美は何も気づかない振りしておどけて見せる。

「何よ何よ菊子ー。怖がらせないでよー」

 清美は蒸し暑いぐらいの部屋の中で腕を抱えてぶるぶる震える。

 ろうそくの明かりの中テーブルを囲い、顔が下から照らされている。まるで怪談を話しているようで、明るい所なら怖くないのに菊子の話が本当に不気味に思えてくる。

「セスはね、この暗くて狭くて暑苦しい部屋で扉を開けさせない事で疑似的な密室を作り出している。その状況で、この条件の殺し合いを命じられたつもりになって思考しろって言っているのよ」

「そんなの言ってないじゃない! やめてよ菊子。私怖いの苦手なのよ。知っているでしょ。性格悪いわよ」

 菊子が性格がいいとは言わないが、性格が悪いのは清美の方だ。女の嫌な部分を集めたような清美は、事あるごとにちくちくと菊子や百合に嫌がらせをする。

「まあまあ清美。あくまでこの問題を解くための仮定だよ。別に本当に殺し合うわけじゃない。でも俺たちが閉じこめられて、殺し合いをしろと言われこの紙を提示された場合どう考えるか? こうして雰囲気を作ってくれているんだ。それに乗って、どう考えるかをこのセスって女は見たいんだよ」

 巧がセスに向かって手を振ると、セスはくすくす笑う。

「やあねえ。そんなの、もちろん見たいに決まっているじゃない。くすくす。でもね、他にそんな嫌なシチュエーションでないのを仮定して問題を解く事も出来るのに、わざわざ殺し合いなんてのを仮定するなんて。ひょっとして本当に殺したい? あなたたち、実は殺したいほど仲が悪いの?」

「そうやって煽るのは行き過ぎじゃないのか。俺たちが自発的に殺人ゲームを仮定するのが望みなんだろ」

「よくわかっているじゃない。だから賢い子は好きなの。相手の思惑を見抜いてしてやった振りをする。みんなの味方の振りをする。でも本当は、まんまと乗った振りしてそれを試してみたいのよねえ」

 巧は何も動じない。不自然なくらい反応しない。とっさに何も言い返さないのが逆に不自然なのだが、その違和感に気づいたのは菊子ぐらいだ。

 図星だったら、上手く隠しているつもりの本音をあっさり見抜かれたら、きっとこうして固まってしまうに違いない。

 セスは、気づかなかった連中にもわかるように説明する。

「みんなで殺し合い。仮定だからと言えばいくらでもひどい事を言える。あくまでお遊び。殺人ゲーム。現実じゃないし、マンガとかみたいに本当に殺し合うわけでもない。そうやって、誰が誰を殺したがるか暴きたいんでしょ。誰が誰を嫌っているかを本人の前でぶちまけさせたいんでしょ」

 巧は何も言わない。でも他のみんなは多少なりともたじろぐ。巧だけが浮いている。

「友情とか、今後の身の振り方とか考えたら出来ない。でもゲームと仮定すればその悪意を殺意として表明出来る。言ってやる事が出来る。楽しい。そして楽しみ。仲良しごっこをしているみんなの本音を知りたい。本当は自分を嫌っているくせにへらへら愛想笑いするあいつを殺すと言ってやりたい」

 巧は拳を握りしめる。みんな互いに顔を見合わせ困惑する。巧は何か言わないとまずいと考えたのか口を開く。

「そういう変な思いこみを植え付けるのをやめろよ。フェアじゃないぞ。行き過ぎだ。これはあくまで仮定だ。殺人ゲームを強要されたと仮定する。その上で思考し、導き出される結末が回答となる。浅はかな思考とか、上辺だけで想像や感情移入が浅いとろくな案が出ず結果に納得がいかない。そんなのは良い回答と認められない。リアルさが必要だ。本当の状況に置かれたと仮定して、思考し案を出し結果を導き出す。それが必要なのに、それを本気で考えたらそれが自分の本音みたいに言うのは悪質な誘導だ。本気で思考して言う事が出来なくなる」

「巧君。私は始め、何も言わずに紙を指で示すだけだったわ。でも私と話す事を望んだのはあなたたちよ。誰がそれを言葉にしたかは問題じゃない。それをやめさせず私との会話を望んだ全員のもたらした結果よ。私はあなたたちとは違うけど、あなたたちが望むから会話に参加する事になった。私が何を言おうとそれはもうこの問題の一部。私には言う権利があり、あなたたちには聞く義務がある。私との会話を求めるならそこまで考えておかなくちゃ。くすくす。自業自得でしょ」

 何も言い返せない。巧は口をつぐむしかなかった。

「巧……」

 菊子はバツが悪かった。セスとの会話を促したのは自分だ。巧はそれを責めない。

「たしかに、セスの発言を認めたのは俺たち全員のミスだ。でもセスが何を言っても誘導されちゃいけない。この女の悪意に左右されてはいけない」

 巧は顔を上げてみんなの目を順番に見る。

「この紙に書かれた文章は、殺人ゲームを想定させる。それ以外の状況を想定するのは難しい。何かまったく違う比喩かもしれないが、そう考えると問題自体を考えるだけで時間がかかりすぎる。こんな所早く出たい。でもこの女からすごすご逃げるのは嫌だ。さっさと解いてさっさと出よう。だからこれは俺たち六人が課せられた殺人ゲームだと仮定して解くのが一番早いしいいと思う。みんなはどう思う?」

 菊子は即答する。

「私は問題を解きたい。この女にガツンとやり返さないと気が済まないわ」

 学はちょっとそわそわしながら言う。

「僕も問題を解くのに賛成。僕、マンガとかでこういうの好きなんだ。ゲームでもいろいろあるんだけど、やっぱりネットの人間相手のプレイでもさ、みんな本気じゃないんだよね。ここは雰囲気満点。本気でそういう状況になったと考えてやってみようよ。きっとすごく面白くなるよ。楽しみだなあ」

 学がゲームとして面白がっているので、百合も同意する。

「わ、私も、やってみる。あくまでゲームだよゲーム。本気で誰かを殺したいとかじゃないもんね。うん。みんなでゲームするつもりで楽しもうよ。ゲームだから、ね」

 百合はゲームだという事を必死に強調する。本気の殺し合いを想像するなんて怖すぎる。

「俺は何でもいいけどよお。セスにやり返したいって気持ちは一緒だぜ。女のくせにむかつく奴だ。乗ってやるよ」

 巌はにやにやしている。

 巌は自分が暴力的で、実際にはみんなに好かれていないのがわかっている。暴力をちらつかせて仲良くしてもらっている。だから殺人ゲームの状況になれば誰が自分を殺すと言うのか興味があった。

 ゲームなんて関係ない。俺を殺すと言った奴はあとで思い知らせてやる。特に巧はきっと巌を殺したいと言うだろう。ゲームだからなんて建前を使おうが関係ない。一度ボコボコにしてやりたいと思っていた。いい口実が出来る。

 自分と違い、顔がきれいなためにモテる巧が巌は嫌いだった。自分は暴力をちらつかせしつこくつきまとわないと女とヤれない。女がきゃーきゃー言って群がる巧に対してあまりにもみじめすぎる。腹が立ってしょうがなかった。

「私も賛成」

 清美は怖いのが嫌いなので、この薄気味悪い部屋からも不気味なローブ姿のセスからももう逃げ出したかった。でもみんな賛成しているのに自分一人反対しても覆らない。それよりは賛成して、さっさと終わらせて欲しかった。

(みんな警戒心が足りないんじゃない? このセスって女、何かやばいってわかんないかなあ)

 恐がりなせいでそう思うのだろうか? でも女の陰湿さが人一倍強い清美は、同類に対して敏感だ。自分と同じ陰湿ないやらしさをセスに感じていた。

 自分より嫌な女なんてそうそういない。清美はセスに関わるのは本当にやばそうだと考えていた。

 でも清美が何を言っても恐がりなせいでこの暗い部屋から出たがっているだけだと思われる。そして笑われる。どうせ言っても無駄だ。だからセスをやばいと感じる事を清美は言わなかった。

「あとから言っても遅いのに」

 セスはフードの下で、誰にも聞こえないように小さな声でつぶやいた。

posted by 二角レンチ at 08:10| 男女六人三行ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月30日

男女六人三行ゲーム(5)勝者のご褒美

男女六人三行ゲーム(5)勝者のご褒美

 暗い教室。テーブルを囲んで男女六人が立っている。テーブルに置かれた二本のろうそくで下から顔を照らされみんな顔が怖い。それを笑える雰囲気ではなく不気味さだけが増していく。

 六人から離れてイスに座るセス。未だ黒いローブを目深にかぶり顔を見せない。この問題を解いて合格したら見せてくれるらしい。

 もう合格も何もどうでもいい。この女の企みに乗るのはうんざりだ。この問題を解いてやり返したらそれでおしまい。テストだとか小手調べとか言うが、そのあとの本題とやらを聞いてやる必要なんか無い。

 巧はぱんぱんと手を叩く。

「よし。じゃ、みんな合意の上だ。この紙に書かれた条件は殺人ゲームのルールだと仮定して話を進める。俺たちは今いるような暗くて狭い、何も無い密室に六人で閉じこめられた。殺人ゲームをみんなマンガや小説、映画で見た事があるはずだ。あんなように、誰かこの殺人ゲームの主催者がいて、理不尽な殺し合いを要求してきた」

「殺し合って誰かを犠牲にしないと出られないんだね」

「そうだ学。そこでこの紙を提示された。三行の文章。これをまずは、そのまま解釈してみよう」

 みんなテーブルに置かれた紙を見る。

「五人なら扉をくぐられる……」

 百合が一行目をつぶやく。

「これで考えられる事は?」

 巧が言う。みんなしばし考え込む。

 やっぱり馬鹿は、考える振りして何も考えていないのだろう。菊子はみんなが考える振りして菊子の意見を待っているのを見てから話し始める。

「扉をくぐられる。まあ順当に、扉をくぐって密室を出られれば助かるって事よね」

 巧はうなずく。

「そうだな。これは問題まで自分たちで考えていいという問題だ。だから余計な要素は省いて出来るだけシンプルに考えていい。どうせ複雑にしたところで結論は同じだ。これは、五人で扉をくぐれば外へ出て助かるというルールだと考えて差し支えない」

「つまり、僕たちの内誰か一人は助からない」

 学がつぶやいて、下からにらみ上げるようにじとりと巌を見る。

「お、何だ何だ学。一人残るなら俺ってかあ?」

 巌はにかにかと笑う。こういう笑い方をするときは、馬鹿のくせに悪巧みをしているときだ。

「い、いや、違うよ。そんな事思っていない。でも、あのセスって女は僕たちが誰を犠牲にするか、それを見たがっている。そうだよね巧?」

 学はあわてて巧に振る。巧はうなずく。

 巌は、学が巌を残すと言わなかったのでちょっと悔しそうに舌打ちする。

(ちっ。言わなかったか。言えばそれを理由にボコれたのによ)

 普段から、背が低くておどおどする学は見ているだけで苛つく。何かと理由をつけてはこづいているが、理由無くボコボコには殴れない。

(たまには思い切りぶん殴っておかないとストレスが溜まっちまうぜ)

 学も学習している。巌がどういう理由でどれだけ暴力を振るうのかをよく覚え、自分が攻撃されないように振る舞ってきた。今もこれを殴る理由にしようとしている気配を感じて上手く取り繕った。

(馬ー鹿。もうお前に殴る口実なんか与えないよ)

 学はへらへらと愛想笑いしながら内心毒づくぐらい余裕を持てるようになっていた。

「慢心しているときにこそミスをするものよ」

 セスがつぶやく。

「え? 何ですかセスさん」

「学君。敬語もさん付けもいらないって言ったわよね。私の事はみんなを攪乱する敵だと考えてくれていいわよ。そうねえ。殺人ゲームを仮定しているんだから、私はそのゲームをみんなに強いる開催者だと思えばいいわ」

 仮定も何もそのものじゃないか。普通に殺人ゲームの問題を提示するのではなく、それとしか考えようのないルールだけを提示し、自分たちで自分たちが殺し合うゲームだという仮定をさせた。直接殺人ゲームを強要するマンガの連中よりよほど性悪で悪質だった。

「う……でも、年上の女性だし、僕、こんなだし」

「ふうん。ま、いいわ。好きにしなさい。んー、学君ってかわいいわねえ。食べちゃいたいくらい」

「え?」

 学が顔を赤らめる。

「くす。学君童貞でしょ。この問題を解けたら良い事あるかも」

「え? え?」

 学がもじもじする。巧が割って入る。

「セス。そういう妨害はやめてくれ。俺たちはごくシンプルな殺人ゲームを仮定する。生き残る事だけをそれぞれ考える。他にご褒美みたいなのがあったら条件が複雑になるからよくない」

「そう? くすくす。んー、でも、思春期の男の子ならやっぱりエッチなご褒美欲しいでしょ? あるわよ。ご褒美」

「え、本当に?」

「ちょっと学君」

 普段真面目で恥ずかしがり屋の学が鼻の下を伸ばしているのを見て百合は嫌な気持ちになった。だから学の腕を掴んで揺する。

「あ、百合ちゃん。や、あの、違う。僕エッチな事なんて考えてないよ」

 考えていたのは丸わかりだ。清美や巌はくっくと笑う。

「がははは。学。セスに問題解いたご褒美に筆下ろししてもらうってかあ? あのフードの下がどんなのかわからないぞお? 唇だけならやたらセクシーだけど、とんでもないブスかもしんねえぞ?」

「だ、だから、そんなんじゃないってば」

 セスがくすくす笑う。

「そうよ。そんなのじゃないわ。学君の相手をするのは私じゃなくて、この中の誰かだもの」

「え?」

 全員がぎょっとしてセスを見る。

「何だそれは。これはただの問題だ。別に本当に罰とかあるわけじゃないだろ。そうだったら降りるぞ」

「巧君。先にちらっとご褒美について話したけれど。それについてはこの問題を解いてから説明するわ。ああ安心して。この問題は小手調べ。だからご褒美も罰もささいな物よ。心配しないで。本当にささいで取るに足りない物だから。さ、早く問題解いてちょうだい。早くここから出たいんでしょ?」

「でも」

「今は説明しない。そう言ったでしょ。知りたいなら問題を解いて私を満足させなさい」

 みんなそわそわしている。何か知らないが、この六人で、エッチなご褒美や罰があるだって? 誰も強制されるいわれは無いし従う義務も無い。でも意識する。

 女三人は、巌と学が自分たちをじろじろ見るので胸を手で隠してたじろぐ。

「ちょっとお。目がスケベなんですけどー」

 清美が口を尖らせて言うと、学はひどくあわてる。

「ご、ごめん。僕、違う」

「がははは。学。遠慮すんな。お前どの女が初めてがいいんだ? やっぱ清美か? 一番美人で巨乳だ」

「僕は、そんなの、するつもり無いよ」

「照れるな照れるな。お前だって清美や百合でオナニーしてんだろうが。もしかして菊子も使っているのかあ?」

 学は顔を真っ赤にして巌をにらみ上げる。

「ぼ、僕、友達で、そんな事しない。絶対しない」

「わははは。隠すなよ。童貞が、美人の友達と一緒にいてそばで匂いを嗅いで我慢出来るわけないだろ。俺や巧と違って女を抱いて解消出来ないもんなあ。一人でみじめにシコシコ……」

 巧がばんとテーブルを叩く。

「何だ巧。ろうそくが倒れたらどうするんだよ」

「巌。いい加減にしろ。このセスって女はな、俺たちを仲違いさせてその様を見るのが楽しいんだ。そのためにエッチなご褒美があるだの何だの攪乱してくる。あるわけないだろ。これはお遊びなんだ。結果がどうあれ俺たちはこの女に従う義務は無い。俺たち同士で何かする事はない。ただこのムカつく女にやり返してやるために問題を解くだけだ。惑わされて乗せられるんじゃない」

「ちぇっ。童貞の学がムキになると面白いだろうが。お前だってすましている振りして童貞野郎のみっともなさを笑っているんだろうが」

「学は親友だ。その様を笑ったりしない」

「はっ。お前ってさあ、どうしてそう外面良くしようとするわけ? 人間なんだ。滑稽な奴を見たらおかしくて笑う。それが当たり前。それが無いなんて言うお前は嘘をついている。バレバレだぜ」

「この」

 巧が巌の胸ぐらを掴む。百合はとっさに間に入る。

 みんなおとなしい百合がそんな事をしたのに驚く。

 百合は泣きそうになりながら震える。

「だ、駄目だよ。セスさんは、そうやってみんなを煽って喧嘩させたいんでしょ。乗っちゃ駄目って巧君が言ったんじゃない。喧嘩はやめて。早く問題を解いちゃおうよ」

 本心はどうあれ上辺は仲良し六人組だ。百合はこの関係が壊れるのがとても怖かった。だからとっさに動いてしまった。自分でも驚く。

(私、こんなにも、みんなで一緒にいるのが好きなんだ。自分で思っていたよりずっと、みんなの事が好きなんだ)

 セスはくすくす笑う。

「へえ、珍しい。どんどん他人を悪く思うのが普通なのに。良く思えるようになるなんて変わっているわね」

 セスが何の事を言っているのか誰にもわからない。セスはどうしてか、突然意味不明の事を言うのが多い。

 それも攪乱だろう。巧は巌の服から手を離す。巌は憮然としたまま巧をにらみ下ろす。

「おう巧。あとできっちり落とし前つけてやるからな。俺に食ってかかっておいて、何も無しに済ませようとか思うなよ」

「思っていないさ。それは後だ。ここまできてもう、この問題を解かずに部屋を出るなんてあり得ない。絶対解いてセスにやり返す。みんな。問題に集中しよう。セスなんか無視してろ」

 セスは口を挟む。

「私が会話に参加するのを認めたのはあなたたちよ。だから聞く義務があるわ。誰かの発言を妨げないで聞く事。それはルールよ。聞いて何も言わないのは勝手だけど、耳を手で塞いで聞かないとかは無しよ」

「わかっている。聞いても何もしなければいい。続けよう。学はこういうの好きなんだよな。殺人ゲーム」

「うん。マンガとか映画でよく見る。ゲームもするよ。ネットで対人プレイが一番面白い。やっぱり人間同士で議論しないとね。マンガは暴力で解決するのが多いからちょっと僕の好みと違うな。駆け引きや読み合い、騙し合いとかの心理戦が面白いんだ」

「頼りにしているぞ。もちろんネットのゲームでは勝っているんだよな」

「たいていはね。こういう駆け引きとか心理戦なら得意だよ。運動は苦手だけどね」

「はっ。相手が何言っても一発ぶん殴ってやりゃあおとなしくなるぜ。なあ?」

 巌はちびで弱い学がゲームの話のときは調子に乗るのが気に障る。だから拳をちらつかせて黙らせる。

「うん……そうだね……」

「巌。今は知的ゲームの話だ。暴力は介在しない」

「暴力無しでどうやって殺すんだよ」

「殺す方法は問わない。どうであれ殺せると仮定する。今は話し合いで、殺す人間を選ぶタイプのゲームをしているという仮定だ」

「はあ? 話し合いでおとなしく殺される奴がいるわけねえだろ。抵抗するに決まっている」

 巧はあごに手を当てる。

「ん……それは考慮しないといけないな。でないとセスの納得する回答にはならない、だろ?」

 セスは無言でうなずく。

「つまり、殺される相手を殺せる状況でないといけないって事?」

 百合が言うと、巧がうなずく。

「そうだ。まあこの場合……殺す人間の人数が多ければ、殺される人間は抵抗しても殺されるという事にしよう」

「はあ? 俺はお前等五人が束になってかかってきても返り討ちに出来るぜ」

 巌は制服の上着を脱ぐ。それを放り、シャツがぴったり張りつめたご自慢の筋肉を見せつける。

「このゲームでは、誰を殺すかは問わない。指定しない。個々の能力は考慮しない。ただどうやって殺す人間を殺せる状況にして殺してしまうかだけを考えればいい」

「なんだそりゃ。わけわかんねえ」

「わからなくていい。ちょっと黙っていてくれ」

「おい巧」

「黙ってろ!」

 普段冷静な巧が声を張り上げる。巌はムカついて怖い顔つきになる。

「まあまあ巌。ちょっとこっち」

 清美がなだめる。巌は今にも巧を殴りそうだったが、清美に押されて他の四人から離れる。

「何だよ清美。あいつが悪いんだぜ。俺に命令なんか出来る奴がいるか。殴られても文句は言えないだろ」

「今はさ、もうセスにムカついているから、この問題を解かずに出るなんてあり得ないじゃん。いいから巧や菊子に解かせよう。学もこういうの得意だって言うし。ね、放っておこうよ」

「しかしなあ」

「ここ出たら、あとでボコるんでしょ。巧も勝負を受けるって言ってたし。でもあいつ強いよ。男を磨くとかいって空手とか筋トレとかしているんだよ」

「はっ。筋トレしてあれかよ。ひょろひょろじゃねえか。俺に勝てるわけがねえ」

「だよねだよね。ね、そのボコるときさあ、私にも見物させてよ。立会人って事で」

「は? 何で?」

「私も巧ムカつくしさあ。あのきれいな顔がボコボコに殴られて腫れあがるの見たいの」

「ははーん」

 巌がにやにやする。

「何よ」

「あいつに振られた腹いせってか? どうせ友達とはエッチしないとか言って断られたんだろ」

 清美が顔を赤くする。

「ち、違うわよ、馬鹿、それは、その、ちょっと一回ヤってみようかって言ってみた事はあるけど……」

「冗談めかして言ったけど本気だったんだろ? で、振られてムカついたと」

「あんな奴好きでも何でも無いわよ。でもあいつとした女の子みんな、あいつすごく上手くて気持ちいいって言うからさあ、一度試してみたかっただけよ」

「がははは。照れる清美はかわいいなあ。そそるぜ。いいぜ。巧をお前の前でボコッてやるよ。代わりにちゃんとお礼しろよ?」

「どうせあいつと喧嘩するんでしょ。それを見物するだけなのにお礼なんていらないでしょ」

「お前が振られた分までたくさん殴ってやるよ。だからヤらせろよな」

「それぐらいでヤらせるわけないでしょ。私を安くみないでよ。誰があんたなんかと」

「そうかいそうかい。じゃ、口でいいからよ。それぐらいいいだろ? 女はデカいの好きだろ?」

「馬鹿じゃないの。誰があんたに興味なんか。うー……じゃ、口だけね。私がスカッとするほど巧を痛めつけたら、お礼に口でしてあげる」

「へへへ。決まりだな。じゃ、そういう事で」

(馬鹿な女だぜ。口だけで済ますわけねえだろ。でも自分からしゃぶるんだ。それで合意成立だ)

 巌は馬鹿だが愚かではない。喧嘩にせよセックスにせよ、ちゃんと相手も悪い状況にしておく。いざというときそれで助かる事を昔から繰り返しているのでよく知っている。

 女の子につきまとって暴力をちらつかせ、ちょっとだけ、口だけやおっぱいだけならいいだろというのは巌の常套手段だ。そこまでしたらもうおしまい。興奮した男が我を忘れて女にのしかかっても仕方ない。だから巌にヤられた女たちは自分たちも悪いので、泣き寝入りするしかなくなる。

(清美は馬鹿だ馬鹿だと思っていたが本当に馬鹿だな。女ってのは身体はいいのに頭が悪いから最高だぜ)

 清美はそんな巌の企みにも気づかず、すごく大きいと噂の巌のあれをしゃぶるのをちょっと楽しみにしていた。友達に自慢出来るからだ。

 二人はいそいそと巧たちの所へ戻り、話に加わった。巌はもう清美にありつけたので満足し、いちいち巧に食ってかかる事はしなかった。

posted by 二角レンチ at 09:39| 男女六人三行ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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