2014年06月28日

旋律のリフレイン(0)あらすじと人物紹介

旋律のリフレイン(0)あらすじと人物紹介

あらすじ

 サイボーグの開発と実用が現実となった科学の発展した世界。過去の凄惨な戦争を反省し、戦争はルールに則り国同士が競い合い楽しむゲームとして行われていた。

 戦争のマナーとして、戦争をしている各国は相手国に対し一定の虐殺を許す。失っても困らない小さな村や町を相手に献上し、兵士に虐殺をさせてストレス解消とする。

 兵士のストレス解消に差し出された村の虐殺。そんなくだらない理由で気弱でも優しかった少年リフレインは、両親と共に殺されてしまう。

 リフレインは殺される事に絶望した。しかし目覚めて自分が機械の身体にされた事に再度絶望する。

 虐殺した村の一般人の脳をいくつか回収し、サイボーグへの搭載実験に使う。サイボーグの機体を動かす脳の負荷はとても高く、たいていは実験に失敗し使った脳は壊死か破裂してしまい廃棄される。

 全身をサイボーグとして脳を搭載して操る。それが全身サイボーグ。身体の一部だけを機械化した部分サイボーグは元より、戦闘機や戦車すら圧倒する機動力と戦闘力を持つ。核兵器を始めとした大量殺戮兵器の使用は禁止された戦争において投入可能な最強の兵器である。

 機体への搭載実験に成功した脳は洗脳され、自分を虐殺した国の兵士として戦う事を強制される。実験に成功して生き返った事は幸か不幸か。誰もが目覚めて機械の身体にされた事を絶望し恨み、でも洗脳されているから復讐も出来ない。

 リフレインだけは違った。サイボーグの機体への搭載実験に成功しながらも洗脳されていなかった。

 リフレインは他の誰とも違う。脳のハイブリッド。他人の脳の一部を脳に混ぜ込み機械も埋め込んで強化した、一人の人間の脳の限界を超える実験。

 その実験の唯一の成功例。一人の脳では扱えない理論上最強の機体を与えられ、それを動かす事を可能とする脳のハイブリッド。その機体を動かす脳の負荷はあまりにも高く、洗脳する余地は残されていない。

 洗脳されていないリフレインは機械の身体にされた運命を呪う。自分と両親を殺したこの国を恨み復讐を誓う。

 目覚めた部屋には誰もおらず、扉は開いていた。わけがわからない。でも洗脳されていないから脱走出来る。気弱な少年は絶望と苦痛にまみれながらもとにかく逃げ出したかった。この部屋から。殺された事から。運命から。何もかもから。

 おそるおそる部屋を出て脱出を試みるリフレイン。途中の道は二つに分岐し、どちらへ進めばいいのかわからない。

 そのとき、脳の中に声がした。知らない老人の声。脳のハイブリッドにより自分の脳に混ぜられた知らない他人。

 脳が他人に浸食される。それは自分が他人に無理矢理犯されるような物。リフレインの絶望はますます深まる。

 しかし頭の中に聞こえる老人の声は、ときどきしかしゃべらないが敵のいない道を教えてくれる。他に頼る人のいないリフレインは気が狂いそうになりながらもその声に従う。

 分岐した道の片方には敵が、全身サイボーグが待ち構えている。もう一方には敵はいない。脳の声が教えてくれる道には敵がいなかった。この声は敵を察知する能力に優れている。

 脳の声が何も言ってくれず、自分で適当に選んだ道には敵の全身サイボーグがいる事もあった。そうなれば戦闘だ。リフレインは喧嘩も出来ない気弱な少年だったが、機械の身体で慣れない戦闘をする。

 途中三人の全身サイボーグと出会い戦闘した。いずれも外れの道を選んだから戦闘になると告げられ戦った。敵は明らかに手加減しており、リフレインは何とか退けながら道を進む。

 これは脳のハイブリッドのテストらしい。どうせ脱出なんて出来ない。でも他にどうしようもなく、リフレインは絶望に押し潰されないよう機械の脚で機械の施設の中をただひたすらに走り続ける。たどり着けない出口に、未来に向かって。

説明

 全身を機械化した戦闘兵器、全身サイボーグたちの戦いと生き様を描いたバトル小説です。脳以外に人間の部位は残っておらず、しかしだからこそより鮮烈に人間として生き苦悩し道を切り開く彼ら彼女らの戦いをぜひお楽しみください。

 以下人物紹介です。イメージラフがついていますので、小説を読む際キャラのイメージを絵で見ても大丈夫な方のみごらんください。

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posted by 二角レンチ at 23:03| 旋律のリフレイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月30日

旋律のリフレイン(1)サイボーグ

旋律のリフレイン(1)サイボーグ

 機械設備の広大な通路の中、リフレインは逃げ惑っていた。

「はあ、はあ、どっちに行ったらいいんだ」

 道が二手に分かれている。リフレインはこの設備についての知識が無い。ここが広大な地下施設だという事しか知らない。

 追っ手から逃げているのだ。何としても地上へ出て誰も追ってこられない所まで逃げきらなければならない。

「どっちだ。どっちに逃げればいいんだ」

 間違えるとまた敵が待ち構えているかもしれない。敵がいないのはどちらだろう。きっとどちらかは正解なのだ。今まで出会った敵たちはみな、遭遇すれば道を間違えたからだと言ったのだから。

「くそ。どっちなんだ。お願いだ。教えてくれ」

 ここにはリフレイン一人しかいない。誰に呼びかけても答えはしない。しかしリフレインは壁に手をつき額も押しつけ願うように目を瞑る。

 頭の中に声が響く。

「リフレイン……右だ……右へ行け……」

 かすかに聞こえる男の声。老人の声に聞こえる。幻聴だろうか。恐怖にせっぱ詰まった頭の中に造り出される妄想なのだろうか。

 この老人の声は呼びかけたからといって必ず答えてくれるわけではない。しかしたびたび危機に対し助言をしてくれた。そのおかげでまだ無事に逃げ続けている。

 この声が誰なのか、どうして頭の中に聞こえるのかまるでわからない。しかし時々聞こえるこの声に実際助けられている。リフレインは幻聴だろうが妄想だろうがすがりつくしかなかった。他に道標は無いのだ。

「右だね。わかった。ありがとう」

 本当に右が正解なのか、安全なのか。わからない。しかしこの声に従って助けられた事はあれど危機に陥れられた事は無い。それを何度も経験して、リフレインはもう疑う事無く頭に聞こえる謎の声を盲信していた。

 二手に分かれた通路の右を選ぶ。そっちを向いて駆け出す。

 ガチャンガチャンと金属の音が響く。複雑な模様に見える機械で出来た通路を、同じく模様に見える複雑かつ美しい機械の脚で駆ける。

 リフレインは、かわいらしい少年の顔とわずかな前髪以外は全て機械で出来ていた。漆黒で鈍く光る機体。壁や天井に明るい照明が埋め込まれている中で目立つ漆黒の流星のように高速で疾走していた。

 サイボーグ。それも全身を機械化し、人間の部分は脳しか残っていない。

 身体の一部だけを機械化したサイボーグは多くいる。脳波を伝達して機械の身体を動かす。それはとても難しく脳の負荷が高い。たいていの人間は身体の一部を機械化し、それをぎこちなく単純な動作で動かすのが精一杯だった。

 優れた脳なら機械の身体を上手く扱える。身体の一部を機械化したサイボーグの兵士は生身の人間よりはるかに強い。兵器を搭載しそれを素早く自在に扱うと、手に持って兵器を扱うよりはるかに早く強い。サイボーグ兵士は戦場で活躍する有能な戦士だった。

 機械の身体を自在に扱える人間はまれで、全身を機械化するなら脳はとても扱えない。それが出来る人間は本当にわずかしかおらず、とても貴重だった。

 身体の多くを機械化、兵器化するほど強い。全身を機械化し、どんな動きと負荷にも耐えられる鋼の肉体を持つ全身サイボーグの兵士はあまりにも強靱だった。戦車や戦闘機すら圧倒する戦力。戦艦や空母に乗り込んで内部の重要機関に潜入して破壊したりさまざまなミッションをこなしたり出来る機動力と応用性。

 どんな兵器でもかなわない、人間の知性とサイズと自在性を兼ね備えた史上最高の兵器、それが全身を機械化したサイボーグなのだ。

 リフレインはそんな物になりたくなかった。兵士でもないただの少年だった。住んでいる村が敵の軍隊に襲われ皆殺しにされた。自分を守った両親も目の前で殺され、彼自身も殺されたはずだった。

 殺された恐怖から目が覚めたとき、彼は肉体を失っていた。身体の全てを機械化されて、顔すら生身の顔を再現した人工物だった。

 機械の身体を扱うのは脳への負荷が高く、身体の一部でも兵器として扱えるだけで重宝される。全身を機械にして扱える人間はとてもまれで、どの国のどの軍隊も欲しがる。

 だから軍は、侵略し虐殺した人間の脳を集める。もちろんその全てを精査するなど出来はしない。適当に、ランダムに、いい加減に、殺した人間の内無事な脳を集めて検査し実験に使う。

 脳は死んだら壊滅的な損傷を受けるが、全身サイボーグにする場合は問題ではない。脳の一部も機械化するので、死んだ事によりダメージを受けている部位は機械で置き換える。

 もちろん生身の脳が必要だ。機械化出来ない部位の損傷はどうにもならない。それはそれでかまわない。兵士として機械の身体を全部動かせ戦えれば、人間として大事な物が欠損しようが構わない。

 頭の中に響く謎の老人の声。死んだ事による脳へのダメージのせいだろうか。自分の直感や知覚が知らない老人の声になって聞こえるよう脳がおかしくなった。そういう事だろうと思えた。

 何でもいい。この声はたしかに自分を助けてくれる。この声に従えば今まで上手くいっていた。だから今回も大丈夫なはずだ。たまにしかアドバイスをくれないが、それでも十分過ぎるほど助けられてきた。

 リフレインは駆ける。身体はとても軽く自在に動く。人間だった頃の肉体とは大違いだ。生身の身体よりもはるかに思い通りに動くし、力も早さも比べ物にならないほど凄い。

 この躍動感。疾走感。人間を超えて生まれ変わった感覚。最高のマシンを得てそれを乗り回すこの手応え。大人も子供もきっと夢中になるだろう。

 そんなのうれしくない。こんな超人的な身体なんて欲しくない。生身の人間がいい。人間として生き人間として死にたかった。

「父さん、母さん……」

 もう悲しまないと決めたのに、また悲しくなる。目の前で両親が無惨に殺された光景が忘れられない。

 忘れてはいけない。でも悲しんでもいけない。怒れ。怒らねばならない。

 両親の復讐。自分の復讐。両親と、人間だった自分を殺した仇。村のみんなを殺した仇。

 怒り復讐に燃えねば悲しみに押し潰される。戦うどころか逃げる事すら出来なくなる。だから心優しい少年だったリフレインは、無理にでも復讐を誓いそれを原動力として生きる事にした。

 戦争で虐殺した人間の脳を集めて実験し、全身を機械化したサイボーグの兵士を造る。どの国もやっている事だ。リフレインの住む国だって敵の国民を殺しては脳を集めて実験に使っている。

 機械の身体を操るのは脳への負担が大きく、全身サイボーグの身体に脳を組み込めばたいてい脳は耐えられない。発狂したのち壊死する。あまりの負荷に脳が破裂する事もある。

 成功率があまりに低すぎる非人道極まる悪魔の実験。だからどの国も自国の国民ではなく殺した敵国の死体の脳を実験に使うようになった。自国の民でなく生きている人間でもない。それが戦争において倫理的に許されると主張出来るぎりぎりだった。

 脳の一部も機械化して完全に洗脳する。命令に従う奴隷に出来る。だから敵国の人間の脳だというのは問題ではない。殺された恨みがあっても殺した国の軍に属し、忠誠を誓い忠実に行動する事を余儀なくされる。反逆は不可能だった。

 なのにどうして、リフレインは洗脳されていないのだろうか。どうして自分を殺しサイボーグの実験に使ったこの国を恨んで脱走出来るのだろうか。

 わからない。何もわからない。リフレインはただ目覚めて自分や両親が殺された事、自分の身体が全身サイボーグにされていた事に愕然としただけだ。

 見張りも誰もおらず、部屋の扉は開いていた。リフレインはおそるおそる逃げ出した。

 そしてこの広大で迷路のような機械施設を逃げ惑った。当然リフレインの居場所や動向は把握されていると思うのに、機械施設は隔壁を閉じるとか搭載されている兵器で攻撃してくるといった事は無かった。

 代わりに、行く道で待ち構えていた他のサイボーグが襲ってきた。リフレインと同じく全身を機械化したサイボーグたち。顔は人工的に造られ、しかし生前の顔と表情をそのままに再現していた。

 美しい女たちだった。ここへ来るまですでに三人と出会い交戦していた。いずれも女のサイボーグだった。

 機械化した身体を操るのは男より女の脳の方が得意であり、全身をサイボーグ化出来るのはたいてい女だった。

 リフレインのように男で全身サイボーグは珍しい。脳は男女で違い、男の脳が全身サイボーグに適するのは女よりはるかにまれだった。

 適して生きられたのは幸運なのか。不幸なのか。

 おそらく不幸なのだろう。死の恐怖を味わったリフレインはサイボーグとして再び生を受けたせいで、また死の恐怖を味わうはめになっているのだ。

「はあ、はあ」

 息が荒い。外気を取り込むほど身体の動きが良くなる。酸素は脳の維持にも必要だが、機械の身体の出力を上げるのにも必要となる。

 リフレインは広大な機械の道を駆ける。機械の脚が踏みしめるたびガチャンガチャンと金属音が鳴る。肉体の感覚は失われたのにこのしっかりした足応えを脳は感覚として受け取る。

 頭の中に響く謎の声に従って選んだ道だ。今までそれで選んだ道に敵は待ち構えていなかった。今回だってきっとそうだ。たまにしか教えてくれない事だけが難点だった。

 しばらくは敵と遭遇しない。戦闘と死の恐怖を味わわずに済む。リフレインは走りながらしばしの安全に安堵した。

 たしかに敵はいなかった。

 敵がいるなら離れていても知覚する機能が備わっている。

 サイボーグは他の敵や危険を少なくとも百メートル先まで知覚出来る。もちろん全身サイボーグの機動力ならその距離を詰めるのは一瞬で事足りる。しかしその一瞬で身構え迎撃する体勢を作る事が出来る。

 サイボーグ同士の戦いに不意打ちは無い。あり得ない。サイボーグが百メートルの知覚射程に敵を捉えた後、迎撃出来ない速度で近づくなどいくらサイボーグでも不可能だ。

 しばらく敵がいないはずだし知覚もしていない。だからリフレインは安堵して、前を向いて走っていた。

 そして知る。敵は待ち構えているばかりではないと。知覚射程に入った後、迎撃が間に合わない速度で突進してくる機能があり得るのだと。

 リフレインは背後に敵の気配を感じ、驚く間すらなくあまりに高速で突撃してきた敵に胴を真っ二つに切断された。

posted by 二角レンチ at 21:52| 旋律のリフレイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月04日

旋律のリフレイン(2)ハイブリッド

旋律のリフレイン(2)ハイブリッド

「がはっ」

 何が起こったのかわからない。脳が激しく揺さぶられた。もちろん脳は機械の身体の中で最も厳重に保護されている。脳の一部を機械化し、どんな衝撃やショックでも脳がダメージを受けないようにされている。だから揺さぶられたのは混乱を生むが、生身のようにそれで脳が酔う事はなかった。

 いったい何が起こったのか。リフレインは頭に鳴り響く警告がうるさく感じながらも現状把握に努める。

 背後から襲われた。サイボーグの知覚射程は最低でも百メートル。敵のサイボーグがいれば百メートルの距離でも知覚出来る。

 背後に感じた敵の気配はたしかに百メートル離れていた。今までに三人の敵サイボーグと出会い交戦した。中には知覚射程に入ると即座に突撃して一瞬で距離を詰めた奴もいるが、その攻撃には十分対処出来た。

 サイボーグの戦闘では、知覚射程の百メートルは十分な間合いとなる。一瞬とはいえ知覚してから迎撃するには十分な時間だ。いかに背後から襲ってきたとはいえ振り返り迎撃する事は可能なはずだ。

 それが間に合わない高速。そんな高速で接近出来る機能を搭載したサイボーグがいるなんて考えもしなかった。

 リフレインは思った以上に、この忌むべき身体を楽しんでいた。まだ大人になりきれない少年だった。他の人には乗りこなせないモンスターマシンを手に入れそれを自在に操り走ったり戦ったりする。男の子なら血沸き肉踊る最高の興奮だ。

 こんな身体欲しくなかったと悲しみながら、どこかこの最高のマシンを乗りこなすのを楽しんでいた。喧嘩も出来ない気弱な少年だったのに、恐ろしく強いサイボーグたちと戦い退けここまで逃げ延びてきた。

 自惚れていた。いい気になっていた。その浮ついた心ごと身体を破壊された。

 こんな凄い身体を手に入れたのだ。どうしても楽しんでしまう部分はあるだろう。反省し、それを受け入れる。そしてこのモンスターマシンを乗る事を素直に楽しみながら、死の恐怖と戦おう。

 でないと生き延びられない。現状を認識し、即座に対応しろ。

 大丈夫だ。この身体は破壊されても大丈夫なのだから。

 身体を後ろから両断された。胸の下から横一直線に切り裂かれた。胸と胴がおさらばだ。身体が宙に舞い破片が飛び散っている。

 大丈夫だ。破壊されたが破壊されていない。この身体は破壊されてなお破壊されない。

 飛び散った破片がばらばらと、さらに砕け散る。いや、細かく分解される。

 それはリフレインの身体に備わった機能だった。

 この身体の最小単位は細胞ではない。小さな歯車だ。歯車同士が集まり噛み合い大きな歯車を形成する事も出来る。

 身体を破壊された場合、破壊されながら分解する。最小の歯車まで分解したり、歯車が凝集した大きな歯車を形成したり。とにかく破壊された破片は大小さまざまな歯車と化し、最小の歯車は傷ついていない。

 リフレインの身体は破壊されると歯車と化す。その歯車自体は傷ついていない。だから破壊されても破壊されていない。後で元通りの身体に形成し直す事が出来る。

 リフレインは無数の歯車と化した身体の破片全てを認識する。どれも傷はついていない。無事だ。身体は破壊されたが部品である歯車は傷ついていない。

 部品全ての無事を確認し、次は敵の確認だ。

 いったい誰がどうやってこんな破壊を成し遂げたのか。リフレインは自分の背後から襲い前方へ通り抜けた敵を認識する。

 後ろからだから顔は見えない。しかし今まで会った三人のサイボーグよりも小柄だ。髪をイメージする頭の飾りのような部品からしてやはり女のサイボーグだろう。

 サイボーグは人間の脳が操る。だから違和感無く把握し上手く操れるよう、全身サイボーグを造る場合は基本的にサイズを生前の肉体とほぼ同じくらいにする。

 リフレインもそうだ。あの小柄で女のサイボーグはきっとリフレインよりもっと年下の少女なのだろう。

 そんな子供すら殺し、殺しただけでなくその脳を実験に使う。実験に成功したからこうして敵国のサイボーグ兵士として使われる。

 なんて残酷なのだろう。リフレインは自分と重ね合わせ憤る。しかし今は敵だ。感傷に浸っている場合ではない。

 少女であると思われるサイボーグは飛んでいた。

 背中に一対の大きな翼がある。飛行機の翼と似た形状。左右の翼はそれぞれ二個のエンジンを備え、火を噴いて推進している。

 あれが直線軌道だけとはいえサイボーグの迎撃を許さない高速飛行による接近を可能としたのか。

 ただの飛行ではない。知覚射程外から加速し接近する事で、サイボーグの戦闘ではあり得ない不意打ちを可能とする。恐ろしい機能だ。

 こんな機能もあるのか。リフレインは生前、サイボーグの知識は人並みで乏しかった。サイボーグには様々な機能や兵器が搭載されている。知らない物が多数存在し、ここで出会った四人のサイボーグに搭載された機能はどれも驚きだった。

 全身サイボーグは人間の脳が操り、それはとても負荷がかかる。だから扱える機能の数には限度があり、主力となる強力な攻撃兵器ともなればたいてい一つしか搭載されていない。

 この敵の主力機能はあの翼だ。飛行機の翼とその推進。ただの飛行機能ではない。最高速度ならサイボーグの迎撃が間に合わない高速突撃を可能とする恐るべき攻撃力を誇る。

 しかしタネは割れた。二度は無い。敵を認識しその機能も把握した。もういくら高速で突撃してこようと迎撃あるいは回避が可能だ。

 避けきれない攻撃はこれっきりだ。まともに最大のダメージを受けた。しかし今後はこれよりひどいダメージは受けない。

 十分戦える。今までだって三人も恐ろしいサイボーグと出会い戦い退けてきた。今度だって大丈夫だ。

 高速で飛翔する少女のサイボーグは、広大な通路の向こうまで行くとそこで突然、水平だった身体を垂直に立てた。

 そして回転する。前進運動をその場で横に回転する運動に変える。フィギュアの選手が氷のリンクの上でくるくる華麗に舞うように、しかしあまりにも高速で豪快にギュルギュルと回転する様はまるで竜巻だ。

 膨大な前進運動を全てその場での回転運動に変え、やがて勢いを失うとぴたりと止まる。

 なるほど。どれだけ高速で飛行していても、こうしてその場でスピンして急停止出来るのか。突撃をかわしたらそのまま遠くへ吹っ飛んでいくとは限らない。その場でスピンし即座に攻撃してくる事が出来る。

 それをせずに向こうまで行って止まった。いつでも殺せるという余裕か。あるいは必殺の突撃で破壊したはずなのに破壊出来ていない事に驚き距離を取って体勢を整えるためか。

 おそらく後者だろう。リフレインの歯車と化した部品が回転しながら空を舞うのを見て少女のサイボーグは驚きに目を見開いているのだから。

 リフレインは少女のサイボーグを観察する。

 翼は回転を始める際に折り畳まれて背中に隠れている。

 顔はとてもかわいらしく可憐な少女だった。髪を模した大きな部品がいくつも重なり合った複雑な頭。大きな瞳とにんまりほくそ笑む笑顔。きっと生きていた頃は戦いなんて出来やしない無邪気で明るい少女だったのだろう。

 リフレインより大分年下だ。生きていた頃は十歳ぐらいだったと思われる。リフレインは生きていたときは十六歳だった。

 サイボーグは人間の脳を使っている。だから脳の負荷を減らし自分の肉体だと認識出来るよう、機械の身体に生きていた頃の顔そっくりの人工顔面をつけてある。

 だからあの少女の顔は紛れもなく、あの少女の物だった。人工的に造られたとはいえ間違いなく、少女はあんなに可憐で笑顔がかわいかったのだ。

 今の笑顔は戦闘の高揚に歪んでいる。無垢な子供がする笑顔ではない。戦闘と、そして敵を殺す事に慣れ楽しんでいる顔だ。

 戦闘は怖いが強敵と互角に渡り合い戦うのは楽しいものだ。最高のエンターテイメントだ。戦闘を楽しんでいる事を自覚したリフレインもきっと、強敵を前にほくそ笑んでいるだろう。

 サイボーグの身体は機械と装甲が複雑に絡み合い模様のように美しい。それぞれ異なる造形で色も違う。

 リフレインは鈍くくすんで光る鉛みたいな漆黒の身体をしている。敵の少女は白くまぶしく輝くさわやかでつやつやの身体だった。

 頭は髪を装甲にしたような造形をしている。しかしそのヘルムからはみ出る前髪だけは人工的に造られた髪の毛で、額にかかるわずかな前髪は生前の面影を残すのに役立っている。

 少女は横にぱっつり切りそろえられた前髪をしている。とげとげしい房のような前髪が額の中央にわずかにのぞくリフレインとはまるで違う。

 かわいい少女だ。しかし敵だ。戦わねばならない。

 コカカカカ……

 断面から飛び散った破片が多数の歯車と化したリフレインの身体は舞っている。少女の高速飛行とは真逆の、煙がぷかぷか浮くようなのろくてまどろんだ浮遊だった。

 回転する歯車はかすかな音を立てる。骨を打ち鳴らすかのような軽快な音を立てて宙を舞っているリフレインの下半身はゆっくりと地面に降り立つ。

 切断された上半身がそれに追いすがるようにゆっくりと降りてくる。その断面に、空中をふわふわと雲のように浮いている歯車たちがゆっくりと集まってきて元の身体を形成していく。

「ぷぷっ。おっそ」

 少女はくすくすと笑う。手を握って口元に当て、目を瞑っている。愛嬌のある愛らしい笑い方だった。

「うるさいな。もっと早く動かす事だって出来るよ。でも必要な時以外は出力を抑えてエネルギーの浪費を抑えるのが基本だろう。君みたいにあんな爆発的な高速飛行をしていたんじゃいくらエネルギーがあっても足りやしない」

「おあいにくさま。私はこの翼による飛翔が自在に振るえるように設計されているもの。エネルギー切れなんか起こさないよ。べー」

 少女は片目を瞑りもう片方の目は指で広げて舌を出す。見た目以上に幼稚な仕草にリフレインは顔をしかめる。

「ふん。最高速度の突撃でエネルギーを使い果たしたから回復するまで時間を稼いでいるだけのくせに」

「それはお互い様でしょ。歯車に分解して部品は傷つかない。元通り構築し直せる。でも多数の歯車を同時に操るのはとても脳に負荷がかかりエネルギーを消耗する。そっちこそ話をして回復するまでの時間稼ぎをしているだけでしょ」

 お互いばればれだ。消耗したエネルギーを回復するためには呼吸により外気を取り込み体内のヒートした機関を冷却し、エンジンは燃焼させねばならない。サイボーグ同士の戦いでは出力を上げて攻撃したのちエネルギーを回復するために間を取るのは当たり前で、互いにそれをわかっていて会話に費やしもする。

 どちらもエネルギーを消費している。回復せずに攻撃したところで消耗戦になるだけで決着をつけられない。エネルギーを再チャージしてから全開出力でぶつかり合うつもりなのだ。

「僕はリフレイン。君は?」

「私はレイピッド。生きていた頃は十歳だったわ」

 少女は胸に手を当て自慢するようにふんぞり返る。

「え」

「えって何よ」

「いや、十歳だったにしては顔も言動も幼いから」

 少女はむくれる。

「何ですってえ。そういうあんたは何歳だったのよ」

「生きていたときは十六歳だったよ。死にたてほやほやさ」

「十六? にしちゃじじくさーい」

 今度はリフレインがむくれる。

「僕のどこがじじくさいんだよ。小さな子供みたいな言い返ししか出来ないなんて幼稚だぞ」

「私大人だもん。もう何年も戦って、生きていれば大人になっているもの」

 全身をサイボーグ化すると、脳の一部も機械化される。また肉体を持たない事と脳の維持に努める機能が搭載されている事で、人間のように年齢を重ねても脳は歳を取らないように変わらない。よって全身サイボーグは普通、死んだときからあとは歳を取らないとされている。戦死したときが寿命となる。

「後ろから不意打ちなんて卑怯じゃないか。あんなのサイボーグの戦闘じゃない」

「ふーんだ。私の高速飛翔機能を生かした必殺技だもん。知覚射程外からの突撃。機能をフルに活かすのは卑怯でも何でもないわ」

「必殺技って……マンガじゃあるまいし」

「なによー。強いとっておきの攻撃は必殺技じゃない。他に何て言えばいいのよ」

 リフレインは言葉に詰まる。たしかに、他に的確な言葉がとっさに思いつかない。

 子供の口喧嘩に付き合っていられない。リフレインだって少年だが、自分は大人だと背伸びする歳だ。彼は話題を変える。

「僕はここへ来るまでに三人のサイボーグと出会い戦ってきた。みんな道を選び間違えたから遭遇したと、外れを引いたと言っていた。どうして君は行く先で待ち構えずに後ろから襲ってきたんだ」

「だあってえー。あんたが私の待っている通路の反対側を選んで行っちゃうんだもん。私ずっと待っていたんだよ。なのに来ないなんてずるいわ。だから私から追ってきたのよ」

 リフレインは呆れる。

「僕は……この状況がよく把握出来ていない。でも今まで会った連中の口振りから、これは何かゲームじみたものだと感じている。僕が正しい道を選ぶかどうか。間違った道は外れで、罰として敵と戦うはめになる。でも正しい道を選んだら無事敵を避けて前に進める。そういうルールなんじゃないのかい」

「だあってえー。私ずっと待っていたんだよ? なのに来ないなんて駄目じゃない。待ちぼうけなんて嫌だもん。私が戦いたがっているんだから戦わないと駄目ー」

 なんてわがままなんだ。正解の道を選んだら敵と戦わずに済むのが正解したご褒美なのに。それを無視して追いかけ、あまつさえその腹いせを兼ねて不意打ちするなんて。

 頭が痛い。しかし幼稚なこの子は他の三人が話してくれなかった事までべらべら話してくれそうだ。辛抱強く話を続けなければならない。

「僕の目が覚めたとき、僕はベッドに寝ていて誰もいなかった。機械の身体にされた事に驚き、扉が開いていたので怖くなって逃げた。でもそれはわざとなんだね。こうして逃げながら通路を進み、正解の道を選べるかどうかテストする。そして不正解なら罰と戦闘力を見るテストを兼ねて敵と遭遇して戦闘する。そういう事だよね」

「そうだよ。これはあんたの性能テストだもん」

「僕は逃げているんじゃなくて泳がされているだけか」

「本気で逃げきれると思っていたの? 馬っ鹿じゃない」

 レイピッドはけらけらと大笑いする。

 何がそんなにおかしいんだ。人が必死に、両親と自分の死や全身をサイボーグにされた辛さに耐えてここまで来たのに。

「僕は絶対に逃げきるよ。僕にかなう奴なんかいやしない」

「これはテストだって言ったでしょー? 今まで会った三人は本気じゃなかった。ある程度戦闘テストをしてから逃げられた振りして見逃した。それぐらいわからないなんて馬っ鹿じゃないの?」

 レイピッドはまた大笑いする。幼稚な子供特有の、執拗に同じ事を馬鹿にし続ける意地悪さ。

 子供相手に怒ってはいけない。むきになってはいけない。どうやっても敵の手の内。リフレインは逃げきれはしないという絶望を考えないようにする。

「どうして僕を洗脳していないんだ。僕はこの国や君たちに対する憎しみで満ちあふれている。兵士として使えないぞ」

「あんたは特殊な機体だからね。多数の機能や兵器を扱うほど脳の負荷が高くなる。あんたみたいに細かい歯車に分解してその一つ一つを操るなんて相当な負荷よ。普通じゃない。だから洗脳する余地なんか無いの。脳をフルに使ってもまだ足りないんだから」

「フルに使っても足りない?」

 意味がわからない。レイピッドは意地悪くにんまりする。

「あんた頭の中に変な声が聞こえるんでしょ。別の男の声が」

 リフレインはぎくりとする。

「これは、僕の幻聴じゃないのか。僕の知覚機能が誰かの声として再現されているだけじゃないのか」

 レイピッドはしょうがないなといった感じで眉をひそめて手を振る。

「違う違う。あんたの身体はねえ、負荷が高すぎて一つの脳で操るのが無理なの。だから脳を二つ混合した。まあ丸ごと二つ搭載しても機能しないからあんたの脳に別の脳の一部だけを付け加えたんだけどね。あんたは別人の脳が混ざったハイブリッドよ。きゃー、やだやだ気持ち悪ーい」

 レイピッドは両手で身体を抱きしめるようにして目を瞑り、いやいやと身体をよじる。少女の明るい仕草がその残酷な事実の陰をより鮮明に炙り出す。

「僕の脳に、別の誰かの脳が……?」

「そうよ。侵略して殺した人間の脳を集めていろいろ実験しているの知っているでしょ。あんたは脳を混合して肥大させる実験の唯一の成功例。今まで理論だけでどんな脳を埋め込んでも動かせなかったその身体を操れる初めての成功例なのよ」

 自分の脳に他人の脳が。

 身体を失った。それでも自分は自分だ。だからまだ生きられたのに。その唯一残った脳すら自分だけの物ではなかった。

(僕はいったい何なんだ。誰なんだ。僕は僕じゃない。他人と混ざった別人。他人が僕に住み着き浸食している)

 それはとても恐ろしい事だった。自分が他人に食われ乗っ取られている。今まで数々の助言で助けてくれたあの声をとても不気味に思い憎しみすら抱いた。

 気持ち悪い。汚らわしい。でも切り離せない。性経験が無いリフレインは、汚くて臭い老人に組み敷かれ犯され汚されるかのような苦痛を味わい絶望した。

「僕は僕じゃない。僕が僕じゃない。僕は汚されて、もう何もかも汚らわしい」

 リフレインはうつむきぶつぶつつぶやく。

「あっれー? どうしたのー? そんなにショックだった?」

 離れた距離にいる少女はまるで下から顔をのぞき込むような仕草をする。サイボーグの目は高性能の機械だ。この距離でもはっきりと、うつむいたリフレインの泣きそうに歪んだ顔が見える。

「きゃっははははは! やっだー。泣かしちゃった泣かしちゃった。やーんいっけなーい」

 少女は腕で身体を抱えて身をよじる。

「何がおかしいんだよ」

「え? 何て?」

 サイボーグの知覚機能は秀逸だ。離れてつぶやいた声でもはっきり聞こえているくせに、レイピッドは耳に手を当て身体を傾け幼稚な仕草で馬鹿にしてくる。

「何がおかしいんだって言っているんだ! 人の不幸を笑いやがって。お前なんかぶっ殺してやる!」

 身体が元通りになりエネルギーも回復した。もう全力で戦える。リフレインは怒りに顔を上げ拳を握って突進する。

 レイピッドは大笑いしながら畳んでいた翼を左右に勢いよく広げ、戦闘体勢を取った。

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2014年07月06日

旋律のリフレイン(3)高速飛翔

旋律のリフレイン(3)高速飛翔

 リフレインは突進する。早い。サイボーグの脚力は数十メートルの距離をわずか一瞬で詰める。

 リフレインの拳が振るわれる。しかし当たらない。レイピッドは広げた翼に備わる四基のエンジンを噴火させ、一瞬もかからず高速に達して広い通路の上空へ逃れる。

「ふっふーん。遅い遅い。私の飛行は一気にトップスピードに達する事が出来るのよ。もちろん距離を取って十分な加速をすればさっきみたいに、サイボーグが迎撃出来ないほどの速度にまで達する事が出来る。でもそこまで加速しなくてもこれで十分、私は誰よりも早いんだからー」

 少女は得意げな笑顔で上空を高速で旋回する。そして突然軌道を変え突進してくる。

「ぎゅっいーん!」

 幼稚なかけ声で拳を突き出し突撃してきた。リフレインは身をひねってその拳をぎりぎりかわす。

「あらま。避けちゃうの?」

「当たり前だろ。もう君の速度は見てインプットした。サイボーグは対応プログラムが優れているんだ。一度味わった速度にはもう対応出来る」

「それでも機体性能の限界まででしょ。私のスピードはこんなもんじゃないんだからー!」

 レイピッドは高速で飛翔しながら何度も襲いかかってくる。切り替えしが早い。カーブを描くというよりVの字で急な反転をして襲いかかってくる。リフレインは当たりそうなぎりぎりで身をよじってかわすのが精一杯だ。

「ほらほらー。まだまだ早くなるよ。どっぎゅーん!」

 たしかにどんどん早くなっている。切り返す度減速するどころか加速していく。空中なのにまるで水泳選手がターンするときのように、レイピッドは空中で身体を上下逆に反転させるたびエンジンを噴出し加速していく。

 高速飛行に特化した機能は伊達ではない。飛行するほど加速する。それは直線長距離でなく途中にいくら反転や旋回を加えても関係無い特性を持っている。

「うおおおあああああ!」

 とうとうかわしきれなくなったリフレインは、飛びかかるレイピッドの翼に腕を切断される。

「やったあ!」

 レイピッドがうれしそうな声を上げ飛びながら万歳する。

「ふん。僕は腕を切られたんじゃない。切り離したんだ」

「何?」

 切断されたリフレインの右腕は吹っ飛んではいなかった。傷口からバラバラと細かい歯車を飛び散らせながらもレイピッドの翼にしがみついていた。

「うわっ、何なのこれ。気持ち悪い」

「僕の身体は歯車で出来ている。最小単位の歯車でも、それが凝集して形を取った部位でも僕の脳波は届き遠隔操作出来る。切り離した腕だって自在に動かせるんだ」

 レイピッドは空中を滅茶苦茶に飛び回り振り落とそうとするが、リフレインの右腕はいくら乱暴な飛行と反転をしてもしっかりと翼を握りしめ振り離せなかった。

「無駄だよ。僕の身体は歯車で構成されている。その掌や指は細かい歯車で形成され、それは回転している。回転する歯車の歯が噛みつき張り付く。引きはがせないよ」

「そんな、気持ち悪い。やだあああああ」

 レイピッドはただ動く腕にしがみつかれているのが嫌なだけだ。リフレインはそれを見て笑う。

「そんな場合じゃないだろ。それは攻撃なんだよ。君がいくら高速だろうとしがみつけば関係無い。君に攻撃を当てられる」

「え?」

 リフレインの腕は歯車が複雑に噛み合って構成されている。腕全体の表面が、小さな歯車を回転させる。その歯はしっかりと噛みつき高速飛翔の風圧をもってしてもはがす事は出来ない。

 そのまま、キャタピラのようにして翼を這い進む。じりじりと、リフレインの黒い腕が翼の表面を這い上ってくる。

「え、嘘。やだやだやだやだ」

 レイピッドはあわてる。自分の高速飛翔にしがみつける奴なんていなかった。その前にこの翼で真っ二つにしてやれる。そしてもししがみつかれたとしてもこの高速飛翔による風圧で吹き飛ばせる。こんな事態は想定していなかった。

 翼にしがみつかれても、その重量や風の抵抗を計算して飛行を修正出来る。だからバランスを失って墜落する事は無い。しかしどうにも出来ない。

「こ、こんなの、あんたを殺せば止められるんだからね」

 レイピッドは怒りに顔を歪ませながら距離を取り、反転して突進する。長距離による加速でまたかわせない突進を行う。

「かわせない。でも僕はかわす必要がないんだ」

 リフレインは胴を分解して切り離す。上下に分かれた身体のどちらにも翼を当てられず、レイピッドはそのまま通り過ぎる。

「く、くそっ、こんな、やだ、いやああああああああん」

 翼を這い上りとうとうレイピッドの顔にリフレインの手が迫る。漆黒に光るそれはまるで悪魔の手が迫るようで恐ろしい。レイピッドは恐怖で半狂乱になる。

 軌道を修正する事も忘れ壁に激突する。レイピッドは頭から機械仕掛けの壁に激突し大穴を開けてその衝撃の反動で吹っ飛ぶ。

 高速飛翔による激突。その衝撃は凄まじく、彼女にしがみついていたリフレインの腕も細かい歯車にまで木っ端微塵にされてしまった。

 もちろんレイピッドは無事では済まない。サイボーグの身体と同じく特殊な合金で出来ており衝撃などを吸収する機能を持つ壁が大破した。リフレインが殴ってもへこませる事すら出来ない壁をあんなに破壊するなんて凄まじい破壊力だ。多数の歯車に分解して衝撃を逃がす事が出来るリフレイン以外のサイボーグがあれを食らえばどんな強固な装甲でも破壊されるだろうと思えた。

 レイピッドは床に転がり気絶している。バチバチと火花を散らしてショートし所々壊れている。固い装甲に守られて大破はしていないが人間で言えば重傷だ。

 砕け散ったリフレインの右腕は細かい歯車となって宙を舞う。黒い煙を吸い込むようにその歯車たちはゆったりとリフレインの右腕の切り口に戻ってくる。

「死んでないか。サイボーグは容易に殺せない。生身の人間である唯一の部位、脳は髪を模した装甲であるヘルムと、頭蓋骨を模した分厚い入れ物であるシェルに守られている」

 リフレインは右腕を再構築しながらゆっくりとレイピッドに近づく。反応を分析し、たしかに気絶し攻撃機能が停止している事を確認する。

「防衛プログラムによる自動防御があるかな? でも脳で操る能動機能の方が強力だからこそサイボーグは人間の脳を使っているんだ。気絶している状態での自動防御なんてサイボーグの敵じゃない」

 どんな自動防御が搭載されていてもそれを打ち破る自信はある。それに搭載出来る機能には限りがあり、気絶した状況ならサイボーグ相手に生き延びられる可能性は極めて低い。自動防御なんてあまり役に立たない機能は搭載されていない場合の方が多い。

「さて、隙間も無く破壊が困難なシェルをどうやって破って脳を殺そうかな。出来るはずだ。サイボーグはサイボーグを殺せる。僕の歯車でじっくり削ればいかに固い装甲であるシェルだって削りきって脳を露出出来るはずだ」

 シェルは隙間のまったく無い装甲で、脳波や外部情報を伝達し外気を取り込む機能を持つ。外気に反応してシェルは触媒として脳の老廃物を分解して分子を組み替え、また脳の栄養にして再利用する。脳を完全に密封したまま永続的に維持する培養カプセルなのだ。

 レイピッドの身体を分解して脳を包むシェルを取り出そう。リフレインは倒れた少女にとどめを刺すべく手を伸ばす。

「そこまで」

 機械仕掛けの通路から女の声が響いた。

posted by 二角レンチ at 13:30| 旋律のリフレイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月08日

旋律のリフレイン(4)サソリの尾

旋律のリフレイン(4)サソリの尾

 リフレインは機械仕掛けの通路に搭載されたスピーカーからした女の声に驚く。こんな事は今まで一度も無かった。

「そこまで」

 女の声はもう一度同じ事を繰り返す。リフレインは倒れているレイピッドに伸ばした手を引っ込め立ち上がり、天井をにらみつける。

「そこまでだって? じゃあ僕はテストに合格したんだろう。ここから出してくれ」

 女の声はしばしの沈黙の後答える。

「これはお前の性能テストと訓練なのだ。出すわけがないだろう」

 リフレインは怒りに拳を突き上げる。

「ふざけるなよ。人の身体を勝手にサイボーグにしやがって。僕や両親を殺しやがって。村の友達もみんな殺した。許せるものか。僕はここを出てお前等に報復するんだ」

「そんな事は許さない。サイボーグを一人倒した。これにて本日の実験は終了。お前は部屋に戻って休め。来た道はちゃんと記録してあるな?」

「ふざけるなって言っているんだ。僕は言いなりにならない。お前等に復讐するんだ。僕は止められない。この身体は最強なんだ」

「お前は未熟だリフレイン。いかに身体の機能が最強だろうがお前は弱い」

「僕は強い。ここまで四人もサイボーグを倒した。初めての身体で、初めての戦闘で! 僕は誰よりも強いんだ」

「レイピッド以外の三人は、お前の戦闘テストをして情報を集めた後、わざと負ける振りしてお前を見逃し先へ行かせただけだ。わかっているだろう」

 わかっている。でもそんなのが戦場で言い訳になるのか。手加減だろうがなんだろうが負けは負け。勝ちは勝ちだ。

「僕がお前等のテストにおとなしく従うわけがないだろ。僕はこのまま進む。僕を止められる奴なんていやしないんだ」

「やれやれ」

 女の声はため息をつく。

「たしかにお前の身体は最強の兵器として開発された。使いこなせるならば最強だろう。しかしお前の脳も思考もまだまだ未発達だ。もっと戦闘訓練を重ね実戦を重ねなければ熟練のサイボーグにはかなわない。戦闘経験による熟練は身体の機能や性能の差などたやすく覆す」

「やってみろよ。やれもしないくせに。手加減された? ふん。今までの三人だって、本気でやったって僕にはかなわなかったさ」

「まったく。言ってもわからないなら証明してやろう。今までの三人が手加減していた事を。熟練は性能の差を覆す事を」

 女の声が途切れる。そして広大な通路のはるか向こうに人影が見えた。

 サイボーグだ。女のサイボーグ。赤いボディには見覚えがあった。

「お前は」

 女のサイボーグはゆっくり歩いているように見える。なのにはるか遠くからわずか数秒でもうリフレインの目の前にまで達した。

 忘れもしない。目覚めて部屋を出て、分岐する通路をさまよい歩いて最初に遭遇した敵だった。

「お前だったのか。スコルピオ」

「そうだ。この声に聞き覚えは無かっただろう。お前と会ったときは合成音声を変えていた。この声が私本来の、お前の実験を任されているこの場の指揮官の声なのだ」

 リフレインは女を見上げる。

 美しく凛とした顔。その顔は人工的に造られてはいるが生前そのままを再現している。目がとても細くてつり上がっている。眉も同じく糸のように細い。唇は真っ赤な口紅で彩られ、白い肌の上で異様に際だっている。

 長い一本の前髪がヘルムに覆われた額の中央から垂れ下がっている。全身は紅く輝く装甲に覆われており、手足はとても細くて長い。

 背も高い。少年の背丈であるリフレインは首を大きく上向けなければにらみ合えない。彼女の身長は二メートルを超えている。生前と同じ身長や体型にデザインされているはずだから、女としては凄く背が高かった。

 深紅のボディで特徴的なのは、サソリを思わせる尻尾だった。丸い玉がいくつも連なる尾の先に、ひときわ大きな楕円で一部が針のように尖っている部位がある。その尾は背中の腰の付け根から生えており、とても長くて大きい。

 レイピッドが一対の飛行機のような翼を持ちそれを主力武装とするように、スコルピオの主力武装はこのサソリの尾だ。

 しかし主力武装と言うにはあまりにも非力だった。ただ鞭のように振り回して薙払おうとしたり、その先端の針で突き刺そうとしたりしてきた。しかしその動きは遅く軌道は単純で、リフレインはこの女をとても弱いと感じ、実際簡単に退けられた。

 たしかにこっちの拳で殴っても大したダメージは与えられなかった。しかしリフレインの目的は逃げる事だったし、初めての戦闘でひどく怯えていた。だから乱暴に拳や蹴りで攻撃して敵がひるんだ隙に振り切って逃げ出した。彼女の動きも脚も遅かったしリフレインを追ってはこなかった。

 初めの戦闘ではパニックだった。でも今は何度も戦闘を重ねた経験がある。戦闘の恐怖に飲み込まれる事なく楽しめさえする。

 スコルピオはとても弱い。今戦えばきっと楽勝だ。

「お前みたいな弱い奴がまた僕と戦うの? あの時とはもう違う。今度は冷静に戦闘を行い君を倒せるよ」

「これはテストで、お前は初めての戦闘だった。だから手加減して勝ちも譲った。しかし今は違う。お前を止めて本日のテストを終了する。レイピッドにとどめを刺させない。少しだけ力を出して戦ってやろう」

「負け惜しみを。僕にかなうものか。僕の身体は最強なんだ。こんな強い身体を僕に与えたのがお前等の運の尽きだよ」

 リフレインは負ける気がしなかった。しかし全力で戦うつもりだった。もうこんな雑魚には構っていられない。強い自分を見下し偉そうな口を利くのもむかついた。

 レイピッドを倒した事でいい気になっていた。油断はあっただろう。しかしそれは致命的なほどではない。

 なのにどうしてこんな事になったのだろう。

「うあ?」

 何が起こったのだ。リフレインはまるで見えなかった。

 左肩から腰にかけて斜めに薙払われた。胸から胴にかけて粉砕された。もちろん細かい歯車に分解して衝撃を逃がす機能は健在だ。個々の歯車は傷ついてはいない。

 しかし殴りかかったはずなのに、その拳が届くどころか敵の攻撃が見えもしなかった。早すぎる。レイピッドの高速飛翔とは違う質の早さ。俊敏で、瞬発力が果てしなかった。

 リフレインはバラバラに歯車を飛び散らせながら、搭載されている記録機能で調べる。そのときは何が起こったかわからなくても、記録を分析しデータから解析する。スローで映像を再現する。

 かろうじて写っている映像では、赤い鞭が振るわれていた。サソリの尾だ。スコルピオの尾が上から斜め下へ振るわれそれで身体を両断され粉砕されていた。

 馬鹿な。スコルピオの尾はとても動きが遅く簡単に見切れた。あれが手加減していたとして、しかしここまで高速で動かせるものなのか。

 こんな速度で武装を操る。人間の脳がここまで出来るものなのか。脳波の伝達速度よりはるかに早いと記録は明示している。

「この……」

 リフレインは吹き飛びながら右腕を切り離す。全力で、最高速度でその腕を撃ち出す。

 それは銃やミサイルの速度。リフレインは身体の部位を自在に切り離し弾丸として放つ事が出来る。もちろんそれだけの速度で腕全体を撃ち出すのは脳への負荷が大きいが、一撃で敵を粉砕しようとする。

「大技の威力より小技の速度。それで敵を倒せるなら早い方が強い」

 スコルピオがつぶやく。

 この至近距離で、ぎりぎりかわすならともかく迎撃など不可能だ。その不可能な速度で振るわれるサソリの尾はたやすく弾丸と化した腕を撃ち落とし粉砕する。

 かなわない。届かない。こんな速度の世界があるなんて。今までの戦闘で味わった事のない別次元の速度だった。

 レイピッドは加速するほど軌道が単純になる。最大加速なら長距離の直線軌道となる。だから軌道を見切ってかわす事が可能なのだ。

 自由自在な軌道で鞭のように振るわれるサソリの尾は捉えられない。速度に加え読めない軌道を取る事で、サイボーグに対応出来ない速度に感じられるのだ。

 対応は出来るはずだ。やれるはずだ。リフレインの身体は最強の機体だと言っていたではないか。しかし熟練の差が、身体の機能をフルに引き出し操る経験が、脳の実力の差が機体性能の差を覆したのだ。

「思い知っただろう。お前は弱い。天狗になるには早すぎる」

 リフレインはサソリの尾の重い先端で頭を殴られ壁に撃ち込まれた。頑丈な装甲と衝撃吸収機能を持つ機械仕掛けの壁がひしゃげ、リフレインの頭は壁とサソリの尾の先端に挟まれ押し潰される。

 頭の装甲であるヘルムが大破し細かい歯車に分解された。衝撃を吸収しきれない。

 脳を包んで守る最も固く頑丈な装甲であるシェルは潰せない。しかしシェルの高い衝撃吸収機能でも防ぎきれないとてつもない衝撃をくらい、脳が揺さぶられ意識が刈り取られる。

 シェルを破壊して脳を潰すのは困難だ。だから全身サイボーグ同士の戦いの決着は、一方が気絶する事で決まる。

 リフレインは考える間も無く意識を失う。自分がいかに井の中の蛙であり、上には上がいるかを思い知るのは目が覚めてからだった。

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2014年07月10日

旋律のリフレイン(5)姉と弟

旋律のリフレイン(5)姉と弟

 リフレインは目が覚めた。高い天井が薄く開けた目に入る。

「わっ」

 驚いて飛び起きようとし、でもすぐにそれを思いとどまる。全身サイボーグは脳に機械が組み込まれており判断力なども並の人間よりはるかに優れている。だからすぐに現状を把握しそして諦めた。

 戦いに負け気絶した。今生きているのは生かされているに過ぎない。

 次元が違いすぎた。あんなに強い相手と戦って倒しここを出るなんて夢のまた夢。感情的にもデータによる判断的にももう、ここを出て自由を手にする事など出来ないと断念した。

 だから驚きやあせりすらする気力を失った。リフレインはうっすら開けた目をまた閉じた。

「あらあら。また寝ちゃうの? 駄目よ。もう目が覚めたんでしょ。お寝坊さん」

 女の手が、冷たく硬い機械の手がリフレインの顔をなでる。

 皮膚の感覚は無い。この顔は人工的に造られた偽物だし、肉体の感覚という物は無い。触れられている感覚はデータにしか過ぎない。触れている物の材質やパワーなどを細かに素早く分析する。

「ハッシュか。どうせ君も本当は、僕よりはるかに強いんだろ?」

「うふふ。すねちゃって。かわいい」

 ハッシュと呼ばれた女性は執拗にリフレインの顔を何度もなで続ける。いい加減そのしつこさにいらいらしてリフレインは目を開け身体を起こす。

「わかったから。起きるから。なでるのやめろよ。僕は子供じゃないんだ」

「うふふ。死んだとき十六だったんでしょ? 子供なのにかわいいの」

 起きたリフレインの頭をよしよしとなでてくる。リフレインは腕でその手を払いのける。

「やめろって。うざいなあ。僕が弱いからってペット扱いかよ」

「やあねえ。違うわよ。弟扱いよ」

「弟?」

「そう。私生きていたときはね、大の仲良しで大好きだった弟がいたの。私にべったりで甘えてきてね。まあ弟はそのとき十歳だったけど、あなたを見てると思い出すのよねえ」

 全身サイボーグの脳は、戦争で侵略され虐殺された国民だ。リフレインと同じく家族も村や町の住民全てが皆殺しだったのだろう。

 溺愛していた弟が殺された。それは同情に値する。でもだからといってその弟の身代わりとして敵にかわいがられてあげるいわれはない。

 リフレインはしつこく頭をなでようとしてくる女の手を振り払いながらその顔を見つめる。

 ハッシュ。全身サイボーグの女。美しく柔和な笑顔。大人の魅力的な女性の顔。

 ヘルムからはみ出る前髪はやわらかなウェーブがかかっている。それに対して髪を模したヘルムはストレートの長髪を思わせる、太い板状の装甲が長く後ろに垂れている。

 身体のカラーは青。淡く輝くさわやかな青空のような青の光沢がとても美しい。いつまでも眺めていたくなる絵画のような美を体現している。

 生前の姿に合わせてデザインされている胸は大きい。強い母性を思わせるがもちろんこの乳房状の装甲はやわらかくもなければ乳が出る事も無い。ただのデザインにしか過ぎない。

 サイボーグは特殊な合金で造られており、技術が進んで軽量化も計られている。それでも重い。見た目の数倍の体重があり、それを支えるため頑丈な金属性のイスに座っている。

 同じく頑丈で硬いベッドの上でリフレインは身体をずらし、脚をはみ出させてベッドに座り直してハッシュと向かい合う。

「うふふ。お久しぶりね。あなた半日も寝ていたのよ。お寝坊さんねえ」

「強い衝撃で気絶したんだ。それぐらい寝てしまうさ」

「起きたくなかっただけでしょ? 気絶してもせいぜい一時間もあれば脳をリセットして再起動するはずよ」

 敗北のショックが、実力差のあまりの大きさにもう逃げ出す事が不可能だと突きつけられた絶望が、脳の再起動を拒否していたのだろう。

 それは戦場で生きる兵士としては致命的。一時間のリセット時間ぐらいは隠れていられても、半日ものんびり隠れていられるわけがない。発見され硬いシェルを割って殺害されたり、脱出不可能な密閉された檻に閉じこめられ捕獲されたりしてしまう。

 リフレインが未熟な証。熟練しておらず、そのせいで負ける証。リフレインはまた敗北の苦渋を思い出してうつむく。

「あらあらすねちゃって。よっぽど堪えたのね。スコルピオはこの施設の中で最強で、最高の指揮官よ。一対一でかなうサイボーグなんていやしないわ。だからそんなにしょげないで」

「うるさいな。僕が逃げようとして二番目に出会った君だって、本当は強いんだろ。僕にたじたじで苦戦した振りして。あんなの馬鹿にしている」

「ごめんなさい。でもあなたに戦闘経験を積ませ慣れさせ、戦闘に前向きにさせないと話にならないもの。あっさり倒されちゃったら今みたいにしょげちゃうでしょ。それにデータも集める必要があったし」

「ふん」

 リフレインの身体は最強だ。何者も破壊出来ずバラバラにした部位を弾丸として撃つ事も出来る。攻守ともに強い。にもかかわらずあっさりと負けた。

 弱い振りして戦ったハッシュだってきっと強い。スコルピオほどでたらめな強さでなくとも今のリフレインでは手も足も出ないくらい強いに違いない。

「サイボーグはみんな、あんなに強いの?」

 ハッシュは優しい微笑みでくすりと笑う。

「強いわよ。この施設にいるスコルピオの部下は精鋭揃いだからね。並の全身サイボーグよりはるかに強いしその自負もあるわ」

「僕は永遠にかなわないのか」

「そうでも無いわ。あなたの身体は最強のスペックを誇るもの。高機能過ぎて他の脳には扱えない。あなたは何百も脳を試して失敗してきて初めての成功例なのよ。それは誇っていい事よ」

「誇ったら恥ずかしいだけだろ。弱いんだから」

「男の子だもんね。強くないと誇れないかあ。うんうん。そうでなくちゃ」

 ハッシュはほめるために頭をなでようとしてくる。リフレインはその手を腕で遮る。

「僕を子供扱いするなって言っているだろ」

「あなたの事、弟だと思う事にするわ。いいでしょ?」

「よくないよ。やめろよ」

「照れちゃって。かわいいの」

 口元に指を寄せくすくす笑うハッシュを見てリフレインはいらいらした。

 何がって、嫌じゃないのだ。一人っ子だったリフレインは姉にかわいがられるというのがこんなにふわふわしてうずくような甘さがあると初めて知った。それに流されたいと心がぐらつくが、相手は敵だ。気を許してはいけない。

「僕をどうするつもりなんだ」

「鍛えて最強の兵士にするわ。この国の兵士として戦場で活躍してもらうためにね」

「僕は洗脳されていない。僕と両親を殺したこの国のために兵士として働き人間を殺すなんてごめんだね」

「大丈夫よ。人間なんて生身の兵士や身体の一部だけを機械化した部分サイボーグに任せればいいの。あなたが倒すのはそんな弱い相手じゃない。人間や部分サイボーグ、あるいは戦車や戦闘機でもかなわない、敵の全身サイボーグなんだから」

 全身サイボーグと戦う。スコルピオに倒された恐怖が思い出される。思わず腕で身体を抱えるように縮みこみぶるぶる震える。

「大丈夫よ」

 ハッシュは怯えるリフレインを優しく腕で包み込んで抱きしめる。恐怖でおかしくなってしまいそうだ。だからリフレインはその抱擁を振り解かずに身を委ねた。

 安らぐ。敵なのに。ハッシュは本当に、リフレインを案じてくれているのが伝わる。

 まやかしだ。弱い振りして戦ったように、これも演技で嘘にしか過ぎない。弟が殺された話だって本当かどうかわかりはしない。それでもリフレインは、抱きしめられる安心感に救われ恐怖の震えが止まった。

 姉っていいものだな。家族っていいな。失われてもう手に入らない。父さん、母さん……

 リフレインが感傷に浸っている間、ハッシュは何も言わずに抱きしめたままじっと待っていてくれた。

「もう、大丈夫だから」

 リフレインは恥ずかしげにぼそぼそつぶやく。ハッシュはさっきまでみたいに茶化す事なく無言で離れてくれた。

 リフレインはわざとらしく咳払いしてから話をする。

「これから僕をどうするの? また逃げないかと監視するためにいたの?」

「違うわよ。敗北の恐怖でパニックになっていたら押さえる必要があったからね。でも強いのね。パニックにならず、敗北を受け入れている」

「諦めただけだよ。もうここからは逃げられない。僕はどうやってもスコルピオにも、君たちにもかなわない」

「そんな事ないわ。機体性能は最強だもの。あとは戦闘に熟練して技能を発展させその身体をフルに使いこなせれば、スコルピオにだって勝てるかもしれないわ」

「気休めを」

「私が鍛えてあげる」

「え?」

「昨日のテストで遭遇した縁で、私があなたの教官として任命されたの。私が志願したのもあるけどね。私が鍛えてあげる。強くしてあげる。スコルピオに勝てるぐらい、誰にも負けないぐらい、ここを脱出出来るぐらい強くしてあげるわ」

「何言っているんだよ。ここを脱出されたら困るだろ」

「それぐらい強くなるって目標よ。でも実際、あなたが最強になれば誰にも止められない。ここを脱出して自由になる事が可能になるんじゃない?」

 たしかに、物理的に最強ならば、この地下施設を突破し襲い来るサイボーグたちを蹴散らし逃げ延びられるだろう。それぐらい強くなればそれは可能だ。

「騙されないぞ。そんな事お前たちがするはずがない」

「私はあなたをとことん鍛え上げるよう命令されているわ。上限なんて無しにね。命令は命令。あなたがどれほど強くなろうとあなたの勝手。それでここを逃げられようがそれはこちらの落ち度にしか過ぎないわ」

「逃がさない自信があるってわけか」

「まあね。この地下施設は要塞よ。スコルピオの配下の全身サイボーグがたくさんいる。あなたを逃がさないよう本気で戦えば多勢に無勢。突破は不可能よ」

「それでも、全員を圧倒するほど強くなれば可能になる」

「そうそう。その意気よ。やる気出るでしょ? 今は不可能に思えるほど果てしない頂。でも機体性能的には可能だわ。それだけのスペックを備えている。それを操るのは人間の脳だからね。実現は不可能ではないと思える目標があれば頑張れるでしょ?」

 たしかに。機体性能がいかに優れていようがそれを操るのは人間の脳だ。敗北にくじけしょげていては始まらない。前向きに、勝つのが無理に思える敵よりも強くなろうと張り切らねばならない。

「僕が素直に敵の教えなんか受けると思うのか」

「強くなりたいでしょ? それに強くならないと、いくら逃亡を図っても逃げられない」

「ふん」

 にこにこしながら差し出されるハッシュの手を、リフレインは渋々といった振りして握る。

 敵を信用なんか出来ない。裏で何を企んでいるかわかったものじゃない。それでも強くしてくれるというのだ。利用させてもらう。強くなって目に物見せて後悔させてやる。自分と両親を殺した仇はきっと討つ。

「よろしくねリフレイン。さあ、張り切って教えちゃうわよ。私子供に教えるの大好き。生きていた頃は教師だったからね」

「僕は子供じゃないよ」

 リフレインはぼそぼそ言う。そして聞こえないぐらい小さな声でよろしくと言う。もちろんサイボーグの聴覚機能ならばどんな小さな声でも拾える。ハッシュはそれを聞いてにこーっと満面の笑顔になった。

posted by 二角レンチ at 15:26| 旋律のリフレイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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