2015年05月20日

ドルイド少女ワンカナ(61)レイズ

ドルイド少女ワンカナ(61)レイズ

「バンドール様! いやあああああああっ!」

 メイジのレイズが、仕える主であるパラディンのバンドールが魔王が首数人に襲われ爪で五体バラバラに引き裂かれたのを見て絶叫した。

「あっ、あああっ」

 ワンカナもあっけに取られ動けない。パラディン四人による神の雷の同時攻撃。その威力は凄まじく、ドラゴンの首を何本も粉砕した。その成果の凄さに感嘆し、見とれていた時にこれだ。誰も反応出来るはずがない。

「うっ、あっ、神の、息吹」

 アキハイトもあまりの事に動揺して動けない。しかしおろおろと、殺されたバンドールを救おうと拳を振るって魔術の光を放つ。

 即死する致命傷だろうがまだ生命の火が消えていない内なら一瞬で傷を完治させられる。治癒魔術の中の最高峰である神の息吹。アキハイトの右拳から放たれた光が遠くに見えるバラバラになったバンドールに向かっていく。

 しかしその光が到達するより早く、バンドールを引き裂いた魔王が首たちはバラバラの肉片を掴むと牙の生えた口に押し込みその場を飛び去る。飛びながらグシャグシャと骨ごと肉を食い尽くし飲み込んでしまった。

「ああっ」

 アキハイトが放った光は対象を失い霧散してしまった。とっておきの一発しか撃てない最高の治癒魔術をただ無駄に浪費してしまった。

 もう誰も致命傷から救えない。他の治癒魔術は効果が遅く、致命傷を助けるには間に合わない。

 アキハイトは呆然と立ち尽くす。振るった右拳を下ろす事も出来ずに固まる。

 四方に飛び去った魔王が首たちは元の場所に戻り、またヒドラの身体に繋がる。魔王が首に変化した時と同じく目にも留まらぬ一瞬でまたドラゴンの首に戻った。

「うわっ!」

 ドラゴンの首が襲いかかってくる。アキハイトは呆然として動けない。ワンカナはとっさに気を取り直し、樹木の巨人を動かしかろうじてその攻撃をかわす。

 神の騎馬で駆るほど素早く動けない。ワンカナが樹木の巨人を操ると、スピードよりはパワーに偏る。もたもたとドラゴンの首をかわし続けるワンカナはアキハイトに向かって叫ぶ。

「アキハイト! しっかりしてよ! 僕が操る速度じゃかわし切れない。早く神の騎馬で樹木の巨人を操って!」

「え?」

「アキハイトってばあ!」

「あ、ああっ」

 アキハイトはようやく状況を把握し、神の騎馬の魔術に集中する。

 樹木の巨人が光り輝きまた速度を取り戻す。素早く駆け、神の雷で焼き払って首が無い場所に飛び込み、多数の首に囲まれている状況を脱する。

 レイズは膝と手を樹木の巨人の頭について、長い髪を垂らしてがっくりうなだれている。

「ううううっ、うああああっ、バンドール様ああああっ」

「レイズ。レイズ。しっかりして」

 ワンカナは泣いているレイズを励ます。長年一緒にパーティを組んで、しかも仕えていた主が殺されたのだ。その悲しみや動揺は計り知れない。今すぐ立ち直れという方が無理な話だった。

 しかし今は戦闘中だ。いかに大事な人が殺されようとも動揺して悲しんでいる暇など無い。

「レイズ。お願い。頑張って。一緒に戦って。でないと僕たちみんな殺されちゃうよ」

 レイズは泣きながら首を左右に振る。

「無理よおおおおっ。もう。バンドール様が、パラディン四人がみんな殺された。最強の魔術師であるパラディンがいなくて、それを殺せるほど強い魔王とどう戦えって言うのよおおおっ」

「神の雷のおかげでドラゴンの首が大分減った。もう三十も無い。あと少しなんだ。頑張って」

 レイズがきっと顔を上げる。涙をこぼしながらワンカナに掴みかかる。

「あなたは主を殺されていないからわからないのよ! パラディンは絶対、至高の魔術師。誰よりも尊敬し信頼しそしてより所。親友が死のうが家族が死のうが戦える。でもあの方だけは特別なのよ。なくてはならない。失ったら自分の全てを失うよりも辛い。あの方が生きていれば最後まで強く戦える。でもあの方が死んだらもう、私は戦えない」

「まだアキハイトがいる。パラディンは、希望は残っているよ」

 レイズは怒りに顔を怖いほど歪め髪を振り乱しながらアキハイトを指さす。

「こんなガキに何が出来るのよ! こんな未熟なパラディンなんか役に立たないわ。私のバンドール様とは違う。尊敬出来ない頼りにならない。バンドール様の代わりにこいつが死ねばよかったのよおおおおおおっ」

 あの優しいレイズがこんなひどい事を言うなんて。ワンカナは泣きそうになる。

「さっきまでと言っている事が違うよレイズ。落ち着いて。今は戦闘中なんだ。冷静になってよ。お願いだから」

「うるさいわよおっ、返してっ、あの方を、バンドール様を返して。あなたたちに加勢なんかしなければよかった。あの方の側で最後まで一緒に戦えていれば本望だったのにいいいいっ」

 パラディンに対する敬愛とはこれほどまでなのか。まるでパラディンが神を敬愛するようだ。自分の全てを捧げてもなお足りないほどの信仰。ワンカナには理解出来なかった。

 アキハイトは自分の不甲斐なさゆえ何も言えない。しかしそれでもレイズの力が必要なのだ。だから言うしかない。

「レイズ。お前と同じく、みんな仕える主であるパラディンが殺され動揺し過ぎている。命に代えても守ると誓った主を守れず先に死なせてしまったからな。おかげでみんな、その動揺の隙を突かれて攻撃に対処出来ない。殺されている」

「え?」

 レイズは泣き崩れて周りを見ない。ワンカナはアキハイトの言葉で周りを見る。

 遠くにいるパラディンのパーティたち。魔術師たちはある者はヒドラの背に降りて戦い、あるいはヒドラの首を渡り歩くように跳びながら戦っている。

 魔術の作用で空を飛ぶ者もいる。火炎地獄車の魔術の中心にいるメイジが、炎の輪をレッドドラゴンの首に食い破られ、他のドラゴンの首に襲われ食い殺される所を見てしまった。

「うっ」

 他の魔術師たちも次々殺されている。主であり最後のより所でもあるパラディンが殺され冷静になれない。動揺と悲しみは激しく、なにより最後まで戦う希望が失われ、絶望にくじけた心ではもうろくに戦えない。

 体術にも魔術にも精細を欠き、弱った魔術師たちはどんどんドラゴンの首に食い殺されたりブレスを浴びせられたりして死んでいった。

「ああっ」

 ワンカナは直接知らぬとはいえ一緒に戦っている仲間たちの死に涙をこぼす。さっきまでは誰も殺されず、神の雷により優勢を築いたばかりなのに。一気に逆転されてどんどん殺されていく。もはや連携出来ず心の弱った魔術師たちはさっきまでよりはるかに弱く、もう強力なドラゴンの首の多重攻撃に太刀打ち出来なかった。

「こんな、みんな、死んで」

 ワンカナはボロボロ泣く。どうしようもない。ただ見ているしか出来ない。離れすぎている。

「キザン!」

 ワンカナが叫ぶ。さっきまで誰が殺されようと見もしなかったレイズだが、仲間の名前をワンカナが叫んだので顔を上げた。

「ああっ」

 巨大な空飛ぶエイに乗るビーストライダーの魔術師、キザンはまだ生きていた。しかしそのエイの背にはもう彼しか乗っていない。他は全部落ちたのか。いや、すでに殺されたのだ。

「キザン、キザン、しっかり」

 さっきまで主の死に錯乱していたレイズは、おそらくただ一人生き残っているであろうパーティの仲間のピンチに正気を取り戻し、心配の悲鳴を上げる。

「アキハイト。助けに行って」

「わかっている。しかし」

 ドラゴンの首が次々襲ってくる。その猛攻をかいくぐり、向こうに見えるキザンを助けに行くのは困難だった。

「私が魔術で飛ぶわ。メイジ魔術ならその作用で攻撃に乗って飛べる。メイジ魔術……」

 レイズが手をかざす。しかし間に合わない。その前に、キザンは巨大エイごとゴールドドラゴンのブレスを浴びて光の塵となって消えてしまった。

「うわあああああっ」

 レイズは力無く手を下ろして、最後の仲間の死を嘆く。自分が主の死に動揺していなければ、もっと早く駆けつけ助けられたかもしれないのに。

 実際に助けに行った所で助けられなかっただろう。魔術で飛んであそこへ行っても、キザンと一緒に殺されていたに違いない。

 ワンカナは泣きながら周りを見回す。

 誰もいない。他の魔術師の姿がただの一人も見当たらない。

 きっと見えないだけ。ドラゴンの首に隠れて見えない場所にいるだけ。しかしいくらきょろきょろ探しても、生きている人間の姿は見つけられなかった。

「みんな、死んで……?」

「ひいいいいいいっ」

 レイズが頭を抱えてうずくまる。

「あああっ、キザンごめんなさい。私が動揺していたばかりにあなたを助けに行けなかった。みんな助けられなかった。みんな死んだ。死んじゃったのよおおおおっ」

「ううううっ。わあああああんっ」

 レイズもワンカナも戦意を喪失してしまっていた。さっきまでは難しくてもなお、まだ何とかなるかもしれなかった。しかし強力な魔術師のパーティが自分たち以外全滅してしまった。まだドラゴンの首は二十本以上残っている。みんな最後の抵抗で何本も倒していたが、残った数は余りに多すぎる。たった三人では殺し切れない。しかももたもたしていては気絶しているだけの首だって復活してくる。

 もうどうしようもない。やはり魔王に勝つなど不可能だったのだ。不可能に挑み、そして必然として敗れた。こうなる運命だったのだ。人間は運命より弱い。あらがえるはずがなかったのだ。

 ワンカナとレイズは泣きながら見つめ合い、そして抱きしめ合い慰め合った。あとは殺されるのを待つだけ。もう戦えない。心が完全に折れてしまった。

 アキハイトはただ一人頑張っていた。死んだみんなのおかげで残る首の数が少ない。倒すには多すぎるが、それでも同時に襲われる数は少し減っている。まばらに生えているドラゴンの首たちはそれぞれ距離があり、さっきまでほど多数の攻撃を同時には受けなかった。

 代わりに、遠くからは他の首に浴びせる恐れなくブレスが放たれる。何方向からも襲い来る様々な色のブレスを、アキハイトは樹木の巨人を操りかわしながら疾走する。

「……いい加減にしろ」

「え?」

 アキハイトの重く怒りをはらんだ声に、ワンカナとレイズは弱々しく顔を上げる。

「いい加減にしろと言ったのだ。ワンカナ。レイズ。ラズリは殺される最後まで諦めなかった。無力で絶望的な状況でも、ラズリは目でベイドと意志の疎通を図り、俺たちを魔王が首ゴロラドから見逃してもらうためにその死の尊厳すら投げ出し最後まで演じて戦ってくれただろう」

 ワンカナは弱々しくうなずく。

「うん。そうだね。でももう無理だよ。まだドラゴンの首は二十以上も残っている。もう倒し切れない。何本か倒しても焼け石に水だもの。ラズリやベイドみたいに最後まで頑張り続ける事なんて出来ないよ」

「やるんだワンカナ。レイズ。俺たちは何があっても魔王を倒すと誓った。仲間がいくら死んでも、どれほどかなわないほど魔王が強くても、最後まで戦うのだ。仲間の仇を討ちたくないのか」

「討ちたいよ。でもかなわない。どうにも出来ないんだよ」

「レイズ。あなたはどうなのだ」

「……私も、バンドール様やキザンたちの仇を討ちたいわ。でも私たちじゃもう力が足りない。消耗が激しくて、残り二十本もの首を全部殺す事なんて出来ないわ」

「ドラゴンの首の数が減り、互いの間に隙間が大きく空いている。おかげで複数の首が同時に噛みついてくるのが難しくなっている。代わりにその隙間に向けてブレスを放てるようになっているがな。おかげで魔王は噛みつきでなくブレスの砲火で攻撃してきている。それぞれのブレスは属性が異なる。属性の異なるドラゴンの首にブレスを当てれば殺せる。俺たちの魔術で足りない分を、敵のブレスで補うんだ」

「無理よそんなの。魔王は狡猾過ぎる。擬態の知性のくせに私たちを上回った。魔王の作戦勝ちよ。パラディンを確実に殺し、その動揺の隙に残りの魔術師を全滅させた。首を多数殺させ私たちが優勢に見せかけたのもわざとなのよきっと。いくら首を失ってもこうして最後に優位を築ければ勝てるもの」

 アキハイトはぎろりと鬼のような目つきでレイズを見下ろす。そして重々しく口を開いた。

「……言いたくは無かった。だが俺は魔王を討つ使命を果たすためなら何でもする。だから言わねばならん。あなたを震い立たせワンカナも立ち上がらせる。そのために残酷な真実を告げねばならん」

「え?」

 ワンカナもレイズも何の事かわからず怪訝な顔をする。

「レイズ。あなたの娘の名前はジイナというのではないか?」

 レイズがあっけに取られる。

「え、ええ。そうだけど。それがどうしたの。他のパラディンのパーティの情報ぐらい、あなたは知っていて当然だわ」

「俺はあなたの娘について調べてなどいない。ラズリがベイドと話しているのを聞いてしまっただけだ」

「は?」

 レイズは意味がわからない。ワンカナも同じだった。

「宿で二人の部屋の前を通る時、聞こえてしまっただけだ。言いたくない、でも仲間には知って欲しい秘密。知っていても知らない振りをしてほしい。だからわざと、俺が二人の部屋の前を通る気配を感じた時にそういう話をしたのだろうな」

「何の話よ。あなたのパーティのメンバーと、私は何の関係も無いわ」

「ラズリは十年前親に捨てられた後、幼い少女であったにもかかわらず身体を売る娼婦として生きてきた。汚い男たちに飼われ強制され、やむをえなかったのだ」

「それが何なのよ。今の時代、貧しい子供が身体を売って食い扶持を稼ぐのはよくある事よ。親が口減らしのために子供を売る。子供の労働力なんて稼ぎにならないけれど、その身体は高く買われる。人買いたちはそうして子供を買っては売春を強制するわ」

「レイズ。認めたくないのはわかる。でももうわかっているはずだ。バンドール様に命じられ、俺たちに加勢した時あなたはすぐ自分が娘を捨てた話をした。他のパラディンのパーティの情報をあなたは聞いていた。自分に似た髪型で同じ黒髪、自分みたいにりりしい顔つきの女性で、自分と同じメイジがいるらしい。あり得ないと思いながらももしかしたらという疑念は晴れなかった。もう戦死してしまっていたが、俺たちの反応を見てラズリが自分の娘ではないか確認したかったのだ」

「そんな事していない。あれはただの自己紹介よ」

「ラズリは、あなたの娘ジイナはあなたに捨てられた後、彼女を預けたはずの弟夫婦が人買いに彼女を売った。その後彼女は娼婦として生きる事を強制され、辛い人生を歩んできたのだ」

 レイズは情けない顔でへらっと儚い笑顔を浮かべて、やれやれといった感じで首を左右に振る。

「嘘よそんなの。あり得ないわ。弟は信用出来る。小さい頃からとても優しい子だった。私が娘を預けたいとお願いした時だって任せろ、立派に育ててみせる、だから安心して行って来いと言ってくれたわ。あの子が私の娘を捨てるわけがない。子供が出来なかったから娘が出来てうれしいって夫婦揃ってとても喜んでいたもの」

「あなたが送ってくる養育費は莫大だった。神レベルの魔物を退治して得る報奨金だからな。その額に目がくらんだのだろう。あなたを裏切りジイナを売って、送られてくる金を夫婦で二人占めにしたのだ」

「あり得ないわ。私の弟はとても誠実よ。そんな事は絶対しない」

「貧しさは人を狂わせる。あなたから養育費と迷惑をかけるお礼を兼ねて、娘に何不自由させないだけの大金を送り続けられた。娘や弟夫婦のためを思って魔物退治で稼ぐ金を出来る限り送っていたのが仇となったのだ」

「ただの推測でしょ。馬鹿馬鹿しい。私は夫を魔王に殺された復讐のため、バンドール様のパーティに加えてもらったわ。それから十年、修行で世界を旅しながら神レベルの魔物を退治し続けてきた。あの子に会いに行っていないし、捨てた以上もう顔を合わせられない。でもきっと幸せに暮らしているはずよ。私の弟夫婦を本当の両親として。私みたいなひどい母親の事なんか忘れて」

「あなたが娘を捨てた事で、二度と顔を見に来ないとわかっていたあなたの弟夫婦は、それをいい事にジイナを売ったのだ」

「嘘よそんなの。嘘よおおおおおおっ!」

 レイズは主が殺された時以上に激しく取り乱し、顔を手で覆い泣いてうずくまった。

posted by 二角レンチ at 15:53| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月18日

ドルイド少女ワンカナ(60)作戦

ドルイド少女ワンカナ(60)作戦

 パラディンのパーティは五組ともとても強く、善戦した。

 それでも魔王は余りに強大。島のように巨大なヒドラの胴。その背に生える百本もの巨大なドラゴンの首。

 なんとか半数は倒しただろうか。しかし殺せず気絶させているだけの首もかなりある。それらが復活してまた襲ってきてはもう勝てない。全員消耗し尽くして殺されてしまう。

 その前に、まだ健在の首を全部倒して、気絶しているだけの首全てにとどめを刺さねばならない。時間は少なく残る力も少ない。まだ健在の首を全部倒せるかどうかも怪しいものだ。しかしやるしかない。

 ここがふんばりどころだ。残りの道のりのあまりの遠さにみんなの心がくじけ絶望が広がる。そんな時こそ無理をしてでもみんなを鼓舞するのがパラディンの役目だ。

 ワンカナたちの遠くで光が炸裂する。離れたそれぞれの場所から四つの膨大な電撃の光が見える。

「あれは、神の雷?」

「パラディン四人が最強の魔術、神の雷を放ったのだ。くそ。俺は樹木の巨人を駆るのに全力を使わねばならん。神の雷は撃てん」

 メイジのラズリを決戦前に失い、隕石落下の魔術の相乗作戦も果たせなかった。今また、パラディン全員での神の雷の同時攻撃にも加われない。アキハイトのパーティはつくづくみんなの足を引っ張っている。

「いいのよアキハイト。一撃しか撃てない神の雷より、この樹木の巨人を持続させ戦い続ける方があなたたちは多くのドラゴンの首を倒せる。より有効な手段を取ればいい。あなたは自分を恥じる事はないわ」

「ああ。わかっているさレイズ」

 アキハイトはうなずく。引け目を感じるがそれで弱気になっている場合ではない。

 遠くから放たれた神の雷はまるで巨大な落雷だ。それが天から地へ降るのではなく水平に走る。

 一直線に突き進む膨大な雷は、その中にいるパラディンの突き出す剣から放たれる。雷をまとい進路にいる全てを貫きなぎ倒す。それがパラディン最強の魔術、神の雷による突進だった。

 いかなる敵も粉砕する。水平にほとばしる四本の雷はそれぞれ違う方向へ突き進み、途上に立つドラゴンの首も倒れて気絶している首も、またすでに死んでいる首でさえ粉々に消し飛ばしていく。

 電撃の属性を持ち雷に耐性のあるブルードラゴンの首すら打ち砕く。耐性はより強い力に浸食されれば破壊される。神の雷の電撃はブルードラゴンの耐性よりも強く、まるで意に介さずに砕いてしまう。

 多数のドラゴンの首が四本の雷により消し飛んだ。雷が通った後のヒドラの胴は大きく抉れ焦げている。焦土と化した肉の焦げる臭気は凄まじい。しかし魔術の作用により毒にも強い耐性を持つ魔術師たちはみなそれで気絶する事はなかった。

 アキハイトが舌打ちする。

「くそ。本来ならば残った首を全て一度になぎ倒してとどめとするはずだったのに。もう神の雷を使わねばならんとは。それだけ追いつめられているという事だ」

 ワンカナがおろおろする。

「どうするのアキハイト」

「どうするもこうするもない。後は全力で、全速で残りの首を倒し尽くす。死力を尽くした総力戦だ。行くぞ!」

 アキハイトが叫ぶ。隕石落下の魔術の相乗。そして神の雷の同時攻撃。二つの最大威力の多重攻撃が作戦の要。もうこれ以上の決定打は無く、あとは時間切れか力尽きる前になんとかするしかない。

 あせりが全員に冷たい汗を流させる。絶望の冷たい氷が背中に迫る。しかしくじけてはいけない。決定打が無くなったからといって何だというのだ。他の魔術師は、魔術は、まだまだ負けない。残りの首を全部殺せるだけの力がある。

 切り札を使い果たした事でいざというときの余裕が無くなる。それでも戦わねばならない。ここで絶望に負けるわけにはいかない。

 みんなまだなんとか頑張れる。気力を保てる。そのはずだった。

「あっ」

「なっ」

 誰もが驚いた。

 神の雷を放ち、その効果が消え電撃が消えた一瞬。体勢を整え敵の攻撃に備えるその前に生まれるわずか一刹那の隙。

 魔王はそれを待っていた。ただドラゴンの首で襲っているだけではパラディンほどの強者を殺せない。とてつもない強者である熟練したパラディンを確実に殺すためには、たった一回だけ必ず生まれる隙、最大攻撃魔術である神の雷を放ち終えたわずか一刹那の隙を狙うのが一番だ。

 神の雷は膨大な雷を身にまとい、進路にある全ての敵を粉砕する強力無比の攻撃だ。その威力は範囲が限られるとはいえ破壊力自体は隕石落下の魔術をも上回る。強力に熟練したパラディンの放つ神の雷は絶対的な威力を持つ。魔王の強力な首でもその効果を失わせるまで何本もの首を潰されてしまう。

 だからこそ、全力で放つ神の雷だからこそ、何本ドラゴンの首を砕きどこまで突き進むかわからない。だから誰も神の雷の中にいるパラディンがどこまで到達するか予想も出来ず、そこに待っていて守る事も出来ない。

 パーティで連携し互いに守り合う。だから隙が無くなかなか殺せない。奇跡的にまだ誰も死んでいない。しかしそれは、魔王がわざとわずかに手を緩めていたからに過ぎない。

 魔王は人間たちに優勢を演じさせるためにわざとわずかだけ力を緩めて戦っていた。多数の首を潰され犠牲にしながら、それは全部敵の油断を誘う仕込みだったのだ。

 全ては魔術師の中で最強のパラディンを殺すため。他の雑魚などどうでもいい。パラディンはパーティを鼓舞し全力以上を引き出させる要の存在。それを殺せばあとは心のより所を失った魔術師が何人いようが魔王の勝利は揺るがない。

 魔王は絶大な力を持ちながらなお全力で、油断無く作戦を計画し勝利を目指した。普通に戦っても勝てるほど絶大な力を持ちながらなお、狡猾で確実に勝てる作戦を採った。

 パラディンが全ての要。パラディンさえ殺せば後は恐れるに足らない。そしてパラディンが生きていれば、どれだけ他を殺そうとも全員くじけずなおも向かってくる。

 人間にあこがれ完璧な人間になろうとし、そして人間を深く愛した。人間を研究した魔王は人間以上に人間を深く理解し、その底力を人間の誰よりも信じていた。

 だから侮らない。力付くでも勝てるにもかかわらず、確実に勝利するためにパラディンを必ず殺せる作戦を計画実行した。

 強力過ぎる神の雷。どれほどのドラゴンの首を砕いてどこまで突き進むかパラディン自身にも予想出来なかった。全力を込めた神の雷は予想よりはるかに多くのドラゴンの首を粉砕して進んだ。

 その到達地点が予想出来ず、巻き込まれないために誰もそこに待っていられない。魔術が消失した後のわずか一刹那の隙を守る事は誰にも出来なかった。

 ドラゴンの首は強いが、巨体ゆえにそれが動くと空気の抵抗が大きい。凄まじい速度で動けてもなお、この戦いの中でわずか一刹那だけ生まれるパラディンの隙を突くには遅い。

 ドラゴンの翼の飛翔速度と脚で地を蹴る瞬発力。それを合わせたドラゴン最速の突進。ドラゴンの巨大な首ではそれに匹敵する速度が出せない。

 しかし、魔王が首ならその速度を出せる。

 誰も想定しなかった。百首のヒドラの首はどれも巨大で強く、それが四方八方から同時に襲う。その噛みつきの多重攻撃はとても強い。しかし上空を飛べばブレスの集中砲火を浴びるので、こうしてヒドラの背に乗り首の噛みつき攻撃を避けながら戦うのが一番有効だ。

 巨大で強いドラゴンの首による多重噛みつき攻撃。人間サイズの魔王が首は強くてもこの強大さにはかなわない。だから誰も、この首を人間とドラゴンが混じった魔王が首に変化させて戦うとは思ってもみなかった。

 魔王が首はドラゴンの首よりはるかに小さく力も劣る。ただし一つだけ優れている点がある。

 それが速度。ヒドラの背を脚で蹴り翼で飛翔するドラゴンの突進を繰り出せる魔王が首は、巨大ゆえに空気の抵抗が大きくほんのわずかに速度が劣るドラゴンの首よりも早く動ける。

 まだ健在のドラゴンの首が全て消える。一刹那よりもはるかに短い時間で変化を終え、魔王が首となる。人とドラゴンが混じった異形。その髪や瞳はドラゴンの色それぞれだが、その顔や身体は全て魔王が人に化けた姿、アソールドと同じだった。

 灰色でなくドラゴンの各色を髪やドラゴンの部位に持つアソールドと瓜二つの魔王が首が多数一斉に、ヒドラの背を蹴り翼を広げ飛翔し突進する。

 凄まじい速度だ。誰も反応出来ない。自分に向かってくればかろうじて迎撃出来るだろうが、自分から離れていく敵に追いつき攻撃する魔術を繰り出せるほどとっさには動けなかった。

 みんな神の雷の威力に見とれ感嘆し、その成果を喜んでいた。パラディン以外は心に一刹那の隙があり、パラディンたちは魔術を放ち終えて生まれる熟練でも埋められない一刹那の動きの隙があった。

 三十人近くもいる様々な色の魔王が首。全てがドラゴンの手足と翼、そして尾を持つ。あり得ない。ここまで身体の各部を同時にドラゴンに変質させられるのは魔王が首の中で最強の十人、十首だけのはずなのに。

 カーボーンやゴロラドを始め、どの魔王が首も自分たちがそれぞれ強さのレベルが違い、最強の十首以外はそれより劣ると信じていた。それは魔王が仕込んだ嘘だった。魔王はこの時のために、十首以外はそれより劣ると魔王が首自体にも信じ込ませ、その情報を十首に遭遇したアキハイトからの伝令を通じてパラディンのパーティに共有させていた。

 全て仕込み。偽装。作戦。本当は魔王が首は全て十首の中で最強のゴロラド以上に強い。そして自律意志でなく魔王の意志で操る事が出来る。

 神の雷を放ったパラディン四人は、一人でも強敵である魔王が首数人に多方向から同時に襲われ、その爪で魔術武装の鎧や兜、盾すら粉砕されて五体をズタズタに引き裂かれた。

posted by 二角レンチ at 09:57| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月17日

ドルイド少女ワンカナ(59)鼓舞

ドルイド少女ワンカナ(59)鼓舞

 パラディンのバンドールのパーティから、メイジの熟女レイズを借り受けたアキハイトのパーティはこれで三人。人数的には最低限だがこれで戦える。

 樹木の巨人を二人で操るアキハイトとワンカナはこれ以上の魔術を使えない。どこを走ってもヒドラの背にはドラゴンの首があちこちに生えており、それが四方八方から襲ってくる。脚で駆けて避け腕で殴って迎撃してもドラゴンの首を倒す手数も攻撃力も足りない。防戦一方だった。

 そこへ、攻撃に特化したメイジのレイズが加わった。これで足りなかった攻撃が出来る。

「さあ、反撃開始だ。レイズ。頼むぞ」

 熟女のレイズはとても美しくりりしい。疾走する樹木の巨人の頭の上で黒く長い髪をなびかせながらにやりと笑う。

「任せて。存分に攻撃させてもらうわ。空を泳ぐエイよりもこっちの巨人の方がドラゴンの首に接近出来る。より攻撃しやすいわ」

「ワンカナ。レイズが攻撃する分ドラゴンの首が襲ってこられる数が減らせる。お前も防御でなく攻撃に巨人の腕を存分に振るえる。頼むぞ」

「うん。よーし。全力でぶん殴っちゃうぞー!」

「あははは。元気な子ね」

「えへへ。元気が僕の取り柄だからね」

 三人は互いを頼もしく思い、勇気がわいてくる。次々襲ってくる巨大なドラゴンの首はとても恐ろしい。しかし仲間と共に戦えるから、その恐怖を勇気で乗り越えられる。

 さっきまでは樹木の巨人を食い潰されないよう防御に専念していた。だから思い切り攻撃出来なかった。しかし今度は防御を考えず、ワンカナは樹木の巨人の腕を振るって全力で殴りかかった。

 樹木の巨人は大きく拳を後ろに引いて、腰をひねって思い切り振りかぶる。さっきまでドラゴンの首を多数さばくため小刻みに殴るしか出来なかったのとは違う、全力のパンチだ。

「どっかーん!」

 ワンカナが大口開けて指さす。樹木の巨人はその指さす先に迫るドラゴンの顔面に、握りしめた硬い樹木が絡まる強固な拳を打ち込んだ。

 殴られたブラックドラゴンの頭が吹っ飛ぶ。長い首がひきちぎれんばかりに後ろに吹っ飛び、その後ろある他のドラゴンの頭に激突して弾く。

「大当たりー!」

 ワンカナははしゃぐ。狙い通り二つのドラゴンの頭をぶつけ合わせた。どちらも目を回してぐったり首を折る。

 樹木の巨人が全力で拳を振りかぶったので、大きな隙が出来た。その隙をドラゴンの首たちは見逃さない。三本の首が同時に樹木の巨人に噛みつこうと迫ってくる。

「メイジ魔術、炎の断頭台」

 レイズが腕を左右に広げて唱える。すると空中に、燃え盛る長方形の枠に鋭くまぶしく燃える炎の刃を持つギロチン断頭台が三つも出現する。

「なっ」

 アキハイトがそれを見上げて驚く。メイジ魔術の炎の断頭台は一度に一つしか召喚出来ないはずだ。

「ふふっ。驚いているわねアキハイト。私は魔術の深淵を暴いたわ。一つしか召喚出来ない攻撃魔術も複数同時召喚出来る物もある。隕石落下の魔術ほど強度の強い物は無理だけど、中レベルぐらいまでの魔術なら一つでなく何個か召喚出来るのよ」

「これは、凄い」

 アキハイトは呆然とする。魔術の深淵は計り知れない。しかし複数召喚が前提の魔術と違い、単体召喚しか出来ないはずの攻撃魔術を複数召喚出来るなど聞いた事もない。

 単発式の魔術だから一度しか使えない。しかし一つでなく複数召喚出来るならその攻撃力は何倍にも跳ね上がり、多数のドラゴンの首と戦う大きな戦力となる。

 上空に出現した炎の断頭台は、迫り来る三本のドラゴンの首それぞれにすっぽりかけられる。ドラゴンの首はそれぞれが互いの首にかかった断頭台を噛み砕こうと迫るが、その前に断頭台の燃え盛るギロチンの刃がドラゴンの首を挟む。

 首の半分まで燃える刃がめり込む。しかし切断し切れない。強固な鱗と分厚い肉に守られた首は防御力が半端ない。

「あらら。切断出来なかった。しょうがないわねえ」

 燃えるギロチンの刃が炎を吹き出す。刃が燃えて融解し、食い込んだ切り口に流れ込む。

 ドラゴンの首は三本とも、切り口からのどの中に炎を流し込まれ内部から焼かれる。青、黄、紫の首がそれぞれ、まるでレッドドラゴンがブレスを吐くように口から炎を吹き出し絶叫しながら黒こげとなり長い首をぐったりと倒す。

「あーあ。これで終わり。メイジ魔術の多くは単発式だけど持続式。破壊されない限り次々攻撃出来る。炎の断頭台の魔術は敵の首を切断する限り持続し次々首をはね続けられるわ。最強の魔物の一種であるドラゴンの首だって何匹もはね続けた事もあるのよ。でもさすがに魔王の首ね。並のドラゴンとは強さが桁違い。一本も切断出来なかったわ」

 アキハイトが褒める。

「いや、凄いぞレイズ。凄すぎる。魔王の首は強すぎる。一本殺すのも難しいのに同時に三本も殺すとは」

「首を殺すのに特化した魔術だからね。魔術は単純な攻撃じゃないわ。敵に応じてより有効な使い方がある。首をはねる力を持つ炎の断頭台の魔術はドラゴンの首を殺すのにとても向いている。中レベルの魔術でありながら高レベルの魔術並の効果を発揮するわ。だからこその成果。でも本当残念。この魔術ははねられなかった首には刃が溶ける炎となって切り口に流れ込み内部から焼き尽くす。止められてもなお敵を殺す。でもそれでおしまい。消えてしまうわ」

 炎の断頭台は燃え尽きるように炎が弱まっていき消えてしまった。後には黒こげになって横たわる三本の消し炭が、まだドラゴンの形を保って死んでいた。

「あらやだ。本当強いわねえ魔王って。この魔術で燃やし尽くせず形が残るなんて」

「殺せただけで上出来だ。その調子でどんどん頼む」

「ええ。でも首を殺すのに一番向いた魔術でこれだもの。今後は簡単には殺せないかもしれないわ」

 ワンカナが心配するレイズに笑顔で返す。

「大丈夫だよレイズ。君がドラゴンの首を攻撃して大ダメージを与える。殺し切れなくても十分だよ。僕が巨人で殴ってとどめを刺してあげる。その連携で行こうよ」

 曇っていた顔のレイズがぱっと笑顔を取り戻す。

「そうね。頼もしいわワンカナ。それで行きましょう。メイジは強力な攻撃魔術を誇るから、それで敵を倒そうとしてしまう。でも今は私たちパーティだものね。一人では倒せないほど強い敵でもみんなでなら倒せるわ」

「うん」

 女二人はにこやかに笑い合う。女同士の友情という奴か。アキハイトはなんだか割り込めない雰囲気に思えて口を挟むのを躊躇した。

「さーて。次々。アキハイト。お願い」

「え? あ、ああ」

 アキハイトは神の騎馬の魔術で樹木の巨人の脚を操る。噛みつこうと迫り来るドラゴンの首をかわしながら、レイズたちが攻撃出来る最適の位置を探り移動する。

 なんだかワンカナを取られたような気分だ。そんな場合ではないが、アキハイトはワンカナと二人切りで戦っていた事に自分で思いもしないほど喜びを感じていたらしい。

 レイズが邪魔なわけではない。いなくてはならない仲間だ。ワンカナと二人切りでいる事なんて、戦いが終わってからいくらでもすればいい。

 そのためには生き残らねば。勝たねば。アキハイトはわずかに緩んでいた気を引き締めぐっと険しい顔つきになると戦闘に集中する。

「メイジ魔術、溶岩噴火!」

「おいレイズ。その魔術は大地の奥から溶岩を召喚して噴火させる魔術だろう。ここはヒドラの上だぞ。その魔術は使えない」

「並の魔術師ならね。でも私なら出来る。もちろんヒドラの身体から溶岩を召喚なんて出来ない。地中深くにある溶岩を引きずり出す魔術だもの。この島のように巨大なヒドラの胴の下にある大地から溶岩を引きずり出すわ」

「なんだと。大地に立たずにそんな事が出来るのか。その魔術はワンカナの樹木の巨人と同じく、大地に立ち自らが繋がっている場所でなければ使えないはずだぞ」

「出来るのよ。魔術の深淵。私は接地が条件の魔術でも、離れた位置から使えるわ」

「そんな馬鹿な」

 アキハイトは信じられない。レイズはどうやら魔術の深淵の内、絶対的な制限自体を暴いて制限を超えた使い方をする事を得意としているようだ。

 それがどれほどでたらめな事か。聞いた事もない。魔術の制限は絶対的で覆せない物だと考えられている。その限界を突破した魔術など、さっき単体のはずの魔術を複数召喚して見せたのにまだ信じられない。

 大地が揺れる。その上に多数の太い脚で立つヒドラの巨体すら揺らす。

「まさか」

「まさかじゃないわ。魔術の深淵は想像の範囲外。魔術は想像で制限されているだけなのよ。あなただって他人の魔術に自分の魔術を加算するなんてありえない制限破りをして見せているじゃない」

「それは、そうだが」

 ヒドラの腹の下の大地が割れ、溶岩が噴出する。島のように巨大過ぎるヒドラの胴だが、その一部を焼くには十分な量の溶岩が噴火しヒドラの腹を下から突き上げる。

 ヒドラの巨体が一瞬浮いたような気がした。いや、揺れただけだろう。しかし樹木の巨人が重い体重をかけて走ろうが他の攻撃魔術が当たろうが不動の島のように動かなかったヒドラの胴がたしかに揺れた。

 魔王であるヒドラは腹を大量で高温の溶岩に焼かれ苦痛に震えた。その激痛で一瞬だが、背に生えている全てのドラゴンの首が苦悶し攻撃を止める。

「今よワンカナ、アキハイト!」

「うん」

「ああ」

 多数のドラゴンの首が四方八方から噛みついてくる状況ではなかなか攻撃出来ない。しかし一瞬でも動きが止まった今なら格好の的だ。

 アキハイトは巨人の脚を駆り躊躇無くドラゴンの首に接近する。そしてワンカナは防御を考えず思い切り巨人の腕を振るって殴りつける。

 殴ったドラゴンの頭が吹っ飛ぶ。樹木の巨人はさらに駆け、すぐに次の頭に接近する。

 樹木の巨人がまた拳を振るう。殴られたドラゴンの首は引きちぎれそうなほどぴんと伸びて吹っ飛び、泡を吹いて気絶する。

 駆ける駆ける殴る殴る! この一瞬の隙は逃せない。千載一遇のチャンス。アキハイトとワンカナは力を注ぎ全力で樹木の巨人を操り首を次々なぎ倒していく。

 他のパラディンのパーティもそれぞれこの隙を逃さない。さまざまな魔術でどんどん動きが止まったドラゴンの首を焼いたり凍らせたり破壊したり切り落としたりしていく。ワンカナはそれを遠くから見ながら驚嘆に息を飲む。

「うっひゃあ。みんな凄いや。さすが世界最強のパラディンのパーティだね」

「俺たちも負けていられないぞワンカナ」

「うん。おっと」

 ドラゴンの首の動きが止まったのはわずか一瞬。さすがにもう動きだし反撃してきた。時間切れ。樹木の巨人は回避に専念し、逆上するかのように襲ってくる多数の首を避けたり拳で払ったりしていなす。

「ありがとうレイズ。おかげでみんな、かなり多数の首を倒したり無力化したり出来た」

「ええ。でもこれっきり。もう同じ手は通じない。今のは首ばかり攻撃し続けた上での奇襲。もう魔王はヒドラの胴に大魔術を食らっても、その痛みに備えている。もう驚き不意の苦痛に苦悶し動きを止めるような愚は犯さないわ」

「わかっている。しかし隕石落下の魔術の相乗でもわずか三本の首しか落とせなかったが、その分をこれで取り返せたな」

「まだこれで、作戦の初歩の段階までこぎつけたに過ぎないわ。大幅に想定が狂っている。まだ首は半数以上も残っているし、こっちはみんなかなり消耗している。私たちが力尽きるか、ドラゴンの首を全部倒せるか。正念場ね」

「ああ。樹木の巨人で殴り倒すように、ただ気絶させ無力化しているだけの首も多数ある。鱗と肉の装甲でとどめを刺すのも一苦労の首にいちいちとどめを刺している余裕が無い。それが意識を取り戻して反撃してくる前にまだ健在の首を全部倒し、無力化している首を全部殺さねばならない」

「時間との勝負ね。今よりもっと急がないと。まったく。隕石落下の魔術で首の半数以上を殺しておくのが最低条件だったのに。圧倒的に不利な状況ね」

「それでもやるしかない。俺たちならやれる。希望が見えてきた。みんなとても強い。きっと勝てる。魔王になど負けるものか」

「……あなたはやはりパラディンねアキハイト。誰もが絶望に屈するような状況でもなお勇気を持ち決してくじけない。パラディン最高の力は魔術ではないわ。他の誰よりも強い勇気を持ち続け決してくじけない。どれほど絶望的な戦いでもパーティを奮い立たせ戦わせてくれる。バンドール様のような楽観による後押しとはタイプが違う、勝利を信じ突き進む勇敢。本当に強いわねアキハイト」

「俺は立派なパラディンになれたかな?」

「ええ。きっとお父上も天国であなたを誇りに思ってくれているわ」

「そうか」

 アキハイトはうっすらと涙を浮かべ、とてもさわやかな笑顔をしている。亡き父の後を継いで立派なパラディンになろうと必死に辛い努力を続けてきた。アキハイトは誰かに認めてもらう言葉を欲しがっていたのだ。

 ワンカナは人生経験が浅く、アキハイトが口に出さない気持ちを察してあげる事も、欲しい言葉を言ってあげる事も出来なかった。

 レイズに嫉妬する。でもそれ以上に感謝した。アキハイトだって無理をして強がっている。でもアキハイトがみんなを勇気付けてくれるように、レイズがアキハイトを勇気付けてくれたのだから。

posted by 二角レンチ at 19:20| ドルイド少女ワンカナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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